コミュニケーション力を伸ばさないとアウトプットは増えない―転職調査、営業マン調査から

開催日 2008年2月7日
スピーカー 西山 昭彦 (東京ガス(株)西山経営研究所長/東京女学館大学国際教養学部教授)
モデレータ 山田 正人 (RIETI総務副ディレクター)
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議事録

はじめに―「傷付くから」で希薄化する若者のコミュニケーション

最近の学生は、「傷付くから」という理由で突っ込んだ議論を回避する傾向があります。「傷付く」、「傷付ける」ことを恐れるあまり、コミュニケーションが希薄化している印象があり、こうした視点は若者を理解する上で必須です。日本全体でコミュニケーション力の弱化が進んでいます。

コンテンツを「伝える力」=コミュニケーション力

企業における「人材」のスキルは通常、問題発見・解決能力(conceptual skill)、人を動かす力(human skill)、専門能力(technical skill)の3つに分けてとらえられますが、仕事の実現性の点からは「コンテンツ」とそれを「伝える力」=コミュニケーション力にわけられ後者が、重要な要素になってきていると考えます。

実際、企業602社に対する最近の経団連調査では、新卒採用時に重視する点として、コミュニケーション能力が5年連続で1位(2008年は79.5% 協調性 53.0% 主体性 51.6%)となっています。年収2000万円の所得者300人を対象としたPresident調査でも、自らの価値を高めるために学ぶべきものとしてコミュニケーションが最上位(39%)を占めました(哲学36%、歴史33%)。こうした調査結果のとおり、いわゆるhuman skill一般を超えたコミュニケーション力が最重要視されています。

リーダーに不可欠な要素とは

全米のできるマネジャーを対象としたコッター・ハーバード大名誉教授の調査では、「自分の目標のために他人を巻き込んで仕事をする」、すなわち人を動員する力が共通していました。一方、私の経営者調査でも、組織・部門間の壁を通す部門横断型プロデュース力の重要性が指摘されました。

また、雑誌の編集長12人を対象とした調査で、情報入手法について質問したところ、ほぼ全員が他社の雑誌・新聞からではなく「人」から得ると回答しました。その「人」というのも特定の情報を持った人でなく、サラリーマンなど一般人だそうです。彼らとの雑談の中で「落ちている宝石」を拾って特集に転換する力が非常に重要とのことでした。

コッター教授は他にリーダーに必要な要素として、失敗・ストレスに対するマネジメント力を挙げています。日本では、幹部はストレス耐性が強いからストレスマネジメントは関係ないと捉える向きがありますが、現在の若年層を見ると、今後エグゼクティブにとってもストレスマネジメントが戦略的に重要になると見られます。また、ハイフェッツ・ハーバード大学教授のいうリーダーの3つの役割(部下のセルフマネジメント、問題の調整、自身の存在感)も、すべて人との関係にかかわってきます。

スキルアップの要素

ビジネスマンのスキルアップ・成長は、仕事、教育、勉強、刺激的人物、異体験の5つで決まると考えていますが、そのうち仕事から学ぶ部分が9割以上を占めます。職場でさまざまな課題を解決するプロセスがかけがえのない学習機会になりますが、同時に、多種多様な人物とかかわることも非常に重要です。20代の間は組織内の先輩をモデルとして見れますが、30代以降は異業種勉強会に参加する等、組織外に目を向ける必要があります。そこで触媒的な人物に会うと、人生が大きく変わってきます。一般企業の社員の場合、個人の資産運用もそうした学習効果があると思われます。

時間術=主体的な仕事の進め方

先般、時間の使い方について、年収2000万円と600万円の収入層とで比較分析した記事「年収2000万の時間術」を執筆しました(『President』 2008年2.18号に掲載)。調査では、さまざまな面において顕著な違いが見られました。たとえば、通勤時間に居眠りをするのは600万円で7.3%、2000万円で3.0%、休日に遅寝をするのも600万円に多く、2000万円では皆無でした。年収600万円の人の43.6%が金曜夕方に残務処理をするのに対し、2000万円の人の58.0%は来週の準備をします。2000万円は、スポーツ、読書、新聞購読、会食に費やす時間も多く、仕事も趣味も充実したアクティブな生活をしていることが伺えます。また、2000万円の人の33.0%は、月曜日は早めに出社して直ちに仕事に着手できるようになっています。また52.0%が、いやな仕事こそ先に終わらせる等、前倒し派であるなどの違いが判明しました。

さらに顕著な違いが対人関係に表れています。「人と会って話を聞く時間」は600万円の人で平日平均30分ですが、2000万円の人ではその倍以上の72分となっています。

時間術とは結局、仕事でも趣味でも自分が没頭できて、それこそ時を忘れるぐらい忘我の境地になれる時間を増やすことに尽きると考えます。そのためには仕事に関しては、自ら企画・立案することと好きな仕事に就くことが忘我の度合を高めやすいと考えます。後者については、会社側で異動希望を実現する仕組みがあればベストですが、社員の方でも自らの異動に際して行きたい部署へ具体的な提案をする等、主体的に動く必要があります。それでも没頭できない時間はどうしてもありますが、そこは効率化の出番だと思います。

コミュニケーション力と転職

本題のコミュニケーションに話を戻します。
普段では饒舌なのにいざ面接や会議となるとうまく話せない人がいます。あるいは書類を棒読みにする等、言葉も単調で味気ない説明となってしまうケースがよく見られます。

そうしたコミュニケーション力不足は転職面接の実態調査からも読み取れます。「実力はあるのに面接で落ちる」候補者が全体の実に23.0%を占めているからです。実力(=コンテンツ)を「伝える力」がない故に失敗する人の数が「実力があって面接に受かる」候補者(22.1%)を上回っています。「実力がないのに面接に受かる」候補者が全体の15.6%、つまり実力がない候補者の28.5%を占めていますが、そうした人は、コンテンツが乏しくても「伝える力」が優れていると考えられます。なお、実施されているポイントとしては、ビジネスマナーに関する実施度が高い一方で、話し方と書類作成に関する部分、特に面接の核心部分である「経歴の整理」の実施度が非常に低いことがわかりました。そして徹底されていないのが送付物への「自筆挨拶状」の添付です。

転職面接では「自分の言葉で話す」ことも重要視されますが、たとえば専門の話の場合は一般人でもわかる話し方が必要とのことです。さらに、面接担当者の回答によると、「業界の将来展望と、その中で会社がどういう位置を占めるか、さらに自分がどう貢献できるか」を述べるのが最大のポイントとなるそうです。

プロに学ぶ「交渉術」

1.広告代理店
代理店の社内プレゼン研究会の方によると、他社とのコンペ方式でクライアントにプレゼンする際は、会議出席者と意志決定者(キーパーソン)を把握したり会場の下見をしたりする等、周到な準備をするそうです。会議当日は先に到着して、クライアントと世間話をして「ブレーク・ジ・アイス」を図るそうです。そうすると、タテマエの論理だけでなく、「気持ち」を通じあえる説明や会話ができるようになります。そして、キーパーソンの目を見て「成功した」と判断したら、時間前でも会話を切り上げます。そこでつい余計な話をしてしまうのは素人だとのことです。

2.営業パーソン
異業種50人のトップ営業パーソンに取材したところ、「第一印象」に全エネルギーを集中するとの回答が目立ちました。説得においては、「商品が優れているから」という論理的判断以上に、「この人なら信頼できる」、「この人から買いたい」という気持ち、感情をゆさぶる方が効果的だというのです。

住宅設備器具のトップ営業パーソンは、訪問販売前に家の周囲を見て、相手の車や植木の手入れ具合から買いそうな家庭であるかを判断し、勝算ありと見ればその時点で見積書を書いてしまうそうです(後で、その空白の時間が相手の思考を止めてしまうので)。そうして玄関に入ると、たとえ汚い家でもまずは褒めて、笑いをとることで「セールス」に対する警戒心を解かします。次に、話がある程度進んだら、玄関のあがりがまちに腰掛けて、カップルのように並んだ状態で話しかけます。さらに、購入を決めかねている場合はご主人に電話をしてもらったり、選択に迷っている場合は「交換できるので、一応これにしておきましょうか」と言って背中を押すそうです。

2000人中トップとなった大和ハウスの営業パーソンは、顧客を獲得する秘訣として、相手の好みに合わせて話し方を調整しているといいます。最初の5分間で声の高低・スピードを色々と変えてみて、相手の表情が一番明るくなった時点の声で話しを続けるというのです。そうすると10年来の親友のような雰囲気になれ、冗談も通じるようになり、「気に入っていただけたでしょうか」、「ええ」。「では契約書にサインを」、「ご冗談を」。「ではせめて、来週土曜日に30分、お時間いただけますか」、「それなら大丈夫よ」という具合にアポが取れるのだそうです。

デルコンピュータのアジア地区のトップ営業パーソンは、法人営業の場合でも必ず1対1で会っていただくよう顧客側にアポを取るそうです。複数だとどうしても組織の代弁タテマエに終始してしまうのですが、1人で会うことで初めて本音で話せ、営業や事業の話が開けてくるというのです。

その他、人気講演者や接客従事者からも学べる部分が数多くあります。講演の場合は、「一度は奈落の底を経験したが、そこから人一倍努力をして這い上がってきた」といった自分のストーリーがうける点が共通しています。また、壇上でもふだんのように話しています。ある人気ホストは、客を「落とす」秘訣は「宝探し」、つまり人は誰でも「宝」を持っていて、それをいち早く探して褒めることだといいます。

提案

コミュニケーション力はトレーニング次第で強化できると思います。国としては、コンクール等の発表の場やプレゼン検定のような制度を設けて、アウトプットが出せる機会を拡大することも重要です。定年退職後の元トップ営業パーソンを講師に招いての交渉やプレゼンのレッスンも有効です。

本来、子供の時に毎日屋外で遊ぶことが重要です。自然にコミュニケーション力とリーダーシップを培う上で格好の場ですが、昔のように遊ばなくなったことでコミュニケーションのファンダメンタルズを失った気がします。だから、人為的にでもその強化が必要だということです。

質疑応答

Q:

20代のモチベーションを上げるには、先述のような「刺激」を与えることが効果的でしょうか。それとも、まずは世代間のコミュニケーションギャップを解消すべきでしょうか。

A:

まず大学生のコミュニケーション力は、大学よりバイトやインターンシップで伸びる傾向があります。しかし、自分が教える大学では「クラス16人定員制」を実験的に導入して顕著な効果をあげています。クラスでは発表、質疑をくり返しています。そうすると、数年でぐんぐん伸びてきます。このように、授業をゼミ形式にして直接会話させることは、効果的です。

ご質問の件ですが、いまの20代の若者全員を50代並に強く鍛えるのは不可能だと思います。各自が無理をしない範囲で働ける方向に世の中の仕組みを変えていく方が、低コストで国家も本人も幸せになれるのではないでしょうか。タフな精神力を前提とした、かつての働き方は無理になってきていると思います。

Q:

留学などもしたのですが、どうすれば人脈を広げることができますか。

A:

留学の経験がある場合は、留学生のOB・OG会を開くのが最も効果的です。そうした者同士ですと、モチベーションやキャリア意識も似ているので、生産的な交流ができると考えます。人脈は300人まで輪を広げると、その後は自動的に増幅するようになります。なので、重要なのはいかに人生の早い段階で300人の人脈を作るかです。そうした努力を続けていけば、3年で300人は達成可能だと思います。

リーダー育成は権限委譲に尽きると思います。責任を持たせることで人は成長します。とはいえ、そうした荒治療に耐えない人もいるので、いかに人材を見分けどこまで任せるかが組織の長にとって大きな課題だと思います。

Q:

少人数授業やインタラクティブ教育を勧める意見もありますが、大学教育で工夫できる点はありますか。

また、国際的な環境で仕事ができ、競争できる人材を育てるモデルはありますか。

A:

少人数教育が有効なのは、さっき申しあげたとおり実証しています。私の授業ではその中で特にプレゼンを重視しています。3週間に1度、クラス内で発表をさせて生徒全員の評価をもとに成績を決めます。これこそ一番コミュニケーション力が伸びる方法だと実感しました。つまり、アウトプットがあればインプットもついてくるということですが、まさに、アウトプットの場がなさ過ぎるから学生は伸びず、それがあるが故に社会人は伸びるのだと思います。

国際的な人材については、幼児期から多種多様の国籍の人と一緒に育つ環境が有効だと思います。また、中高時代の海外ホームステイは、大きなインパクトを生徒にもたらします。大学では、個人旅行で世界を回ります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。