PFIの現状と評価

開催日 2007年2月28日
スピーカー 井熊 均 ((株)日本総合研究所執行役員/創発戦略センター所長)
モデレータ 谷本 桐子 (RIETIウェブ・編集担当マネージャー)
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議事録

PFIの普及状況と課題

1999年にPFI法が成立して以降、PFIの認知度はかなり向上し、現在ではどんなに小規模な市町村であっても、施設建設案件ではPFIの採用が議会で議論されるようになっています。PFI法も2度の改正を経て柔軟性を増しました。PFIにより公共施設の簡素化が進み、こうした取り組みは他の公共事業にも普及しています。廃棄物処理分野ではかつてはゴミ1トンの処理に3万円程度の単価がかかっていたところ、現在ではベストプライスが1.5万円程度にまで下がっています。維持管理を長期間民間企業に任せることで潜在的リスクの民間移転も進んでいます。

一方、PFI実施方針を公表した事業主体(国・独立行政法人等・地方公共団体)の数は2002年度以降頭打ちになっています。実施方針分野では教育・文化施設や複合公共施設といったいわゆる箱物が上位を占めており、上水道や下水道といった分野にまではまだ十分に普及していないのが現状です。

PFIに関わる課題としては1つに先程も挙げた頭打ち状況があります。PFIに効果があるとして、マクロレベル、絶対値レベルでの財政効果を出すには大規模事業にPFIを投入する必要があります。しかし日本では兆単位のマーケット規模を持つ事業へのPFIの普及は十分ではありません。独立採算型事業や高付加価値事業の数もまだまだ限られています。運営型事業や運営のできる事業者の育成も遅れています。一方、PFIマーケットをきちんと育成するにはアウトソーシングのマーケット、つまり既存の施設を運営するマーケットをまずは整備しなければなりませんし、PFIを含めた公共事業での民間資金の位置付けも十分整理されていません。

PFI事業の受注企業ランキングの上位はスーパーゼネコンで占められています。これ自体は悪いことではありません。ただ、やはり企業の生業としては、長期運営というよりは、施設の建設に重きを置いている感じはします。アウトソーシングや運営を重視する企業の顔ぶれはまだまだ少ないようです。

廃棄物処理事業とPFI

「新エネルギー・リサイクル等PFI推進協議会」の貢献もあって廃棄物処理事業にはPFI、PPPはかなり浸透しています。

廃棄物分野が先行した理由の1つには、発電所をベースとしたBOT(Built-Operation-Transfer)との間で事業構造に共通性があったことがあります。また、業務範囲、仕様、管理基準が定めやすく、事業者の管理がしやすい点、財務、リスク管理のメリットが明確である点、設計、建設、更新、維持管理を1つの企業が担う素地があった点もPFIが廃棄物分野で先行した理由として挙げることができます。

以下の課題は廃棄物処理施設に限られたものではなく、技術が必要とされる事業・施設に共通した課題です。

第1に独自技術への対応です。プラント会社は自社技術を公共団体に売り込みます。さらに溶融技術等、技術は高度化しています。ですので、企業は他社の技術の運営には消極的になります。自社プラントを他社で効果的かつ安全に運営できるのかといった意見もあります。こうなると事業の継続性がプラント会社の信用に依存するようになります。また、そもそも公共団体が新技術を導入する必要性はあるのか、安くて確実な技術で十分なのではないかといった議論もあります。

第2に――これは廃棄物処理事業独自の課題となりますが――廃棄物政策との整合性をどう図るのかという課題です。廃棄物政策が究極的に目指すところは分別やリサイクルが進みゴミがゼロになることです。ところがゴミがゼロになれば廃棄物処理は事業として成立しなくなります。この不整合はどう回避できるのでしょうか。

第3に延命化への対応があります。今や廃棄物処理プラントは30年稼動時代に突入しています。ところが30年間の委託をリスクをとって受託する企業の数は限られています。30年のうち最初の20年は安くで運営できても残り10年を随契としてしまえば、結局はライフサイクルコストが跳ね上がってしまうという問題です。事業期間の最適化とライフサイクルの最適化をどう結びつけるのか、今後の課題です。

第4に公共事業分野では業界再編が大きな問題になっています。マーケットが縮小し、入札は厳しくなり、価格面でも圧力がかかっており、公共事業に参加することの意義を見直す企業の数も増加してきます。このように参入事業者が減少する中で特定の企業の独自技術を使用し、その企業が撤退したとき、以降のメンテナンスをどうするのかという問題が発生します。施設を建設した企業以外の第3者が運営することを前提とした事業形態を検討する必要があります。

延命化への対応

公共団体の中にはプラントの運営維持管理はプラント会社にしかできないと信じ込み、単年度での随契を繰り返してきたところもあります。しかし実際にプラント会社しか運営できないのかというと、必ずしもそうではありません。廃棄物処理施設であれば、プラント会社独自の部品を使用している部分はごく僅かで、大半は外部調達品の組み合わせで建設されています。特定部品についても利用者はあくまでも公共団体なので調達は可能です。また、廃棄物処理施設には一定の共通性がありますし、実際、いくつかの施設を横通しで運営している企業も存在します。延命化対策としてA社が建設したプラントをB社でも運営できるようにしなければ、ライフサイクルコスト高騰の問題は解決できません。PFIを取り入れた事業期間Aとそれ以降の事業期間Bを、公共団体の事情やプラントの状況と合わせてどのように柔軟に組み合わせていくかを考える必要があります。

事業期間Bを随契にするのは危険な話です。大規模な施設の更新には相場が無いため、こうした随契の割高さは新設随契の割高さを上回るというリスクが発生するからです。ですので、事業期間Aの契約締結時には事業期間Bも視野にいれるべきです。事前に技術的検討と法的解釈さえきちんとしておけば、事業期間Aと事業期間Bの最適化は可能です。

事業者選定

これまでの公共事業では鉄筋1本にいたるまで図面を作り、それらのコストを積み上げることで予定価格を設定していました。これは細かい仕様に基づく発注となるので仕様発注と呼ばれています。それに対しPFIでは規定するのは性能面に留め、中身は民間に任せる方式を採用しています。これを性能発注と呼んでいます。公共調達で性能発注は機能するのかという指摘もありますが、そもそも公共調達以外の分野では仕様発注自体がレアケースですし、海外工事では殆どが性能発注です。

これまでの仕様発注では公共団体が細かい仕様を規定することで事業の質が担保されてきました。ところがPFIでは民間企業が質の面でも大きな役割を果たすようになります。よって、事業者の選定基準をコストに絞り込んでしまうと「安物買いの銭失い」になる可能性がでてきます。だからこそ価格以外の面も評価しなければならないのです。

そこで注目を集めるようになったのが質と価格の双方を評価する総合評価です。PFI事業ではほぼすべての案件で総合評価方式での事業者選定が行なわれるようになり、公共事業の性能発注で成果を上げ始めています。

一方で、事業者選定については総合評価とはまったく違った観点で入札制度を見直さなくてはならないという議論もあります。公共団体は総合評価を採用するならば価格を譲るに足る非価格要素を選び、評価のプロセスをきちんと設計する必要があります。また、総合評価は、個別の事項で秀でている事業者でなく、全事項の平均点が高い事業者が落札する構図になっています。よって公共団体の側では価格要素と非価格要素の評価配分をいかに決定するのか、重点事項を埋没させないためには何が必要かを考える必要があります。評価事項は細分化すればする程、重点事項の埋没に陥りやすくなります。ここではどの程度の細目にするのかが鍵となります。経験的には、ある程度評価事項を大括りにした方が結果的には望ましい事業者が選定されるようです。

PFIや性能発注は民間事業者の優れたアイデアや創意工夫を取り入れるためのものです。その意味でも、現在の入札制度は一発勝負の傾向が強過ぎる点に問題があります。性能発注で良い買い物をしたいなら対話プロセスを織り込むべきです。また、PFIで企業から寄せられた質問に対する回答をすべてインターネットで公開するようでは、企業の本音を汲み上げることはできません。選定負担の軽減も考えるべき点です。数十年規模、数千億円規模の事業となると、企業の側に数億円規模のコストが発生します。公共団体の側とて、複雑な事業となると、10社、20社も評価することはできません。これではPFIのマーケットは縮小してします。過剰な入札負担を下げ、魅力あるマーケットの育成に取り組むべきです。

欧州連合(EU)では現在、競争的対話方式の入札制度が検討されています。競争的対話方式ではまず、対話を行なう事業者が数社にまで絞り込まれます。事業の条件は対話を通して決め、条件が決まった段階で入札資料の提出を求めるという方式です。一発勝負を回避するための対話は日本でも注目されています。EUの競争的対話方式と同様の制度として「公共工事の品質確保に関する法律」が制定されています。PFI関係省庁幹事会申し合わせでも、事業計画の概要による絞り込みを可とするとしています。同申し合わせでは発注者と応募者の十分な意思の疎通(=対話)の必要性も指摘されています。

調達体制

優れた調達に情報は不可欠です。民間には調達関連の専門組織がありますし、企業の担当者は調達関連情報の収集に多くの時間を割いています。それに比べ公共団体にはデータのストックがありません。これでは民間企業との情報戦で勝負になりません。公共団体の側で調達体制を強化しなければ優れた事業者の選定は難しいでしょう。体制が強化されれば、価格以外の面でも企業を評価する情報が公共団体に流れることになり、企業にとってもプラスとなります。

質疑応答

Q:

公共投資に占めるPFIの割合が1%程度と低迷しているのはなぜだとお考えですか。

A:

1つには公共団体の側の雇用の問題があると思います。ただしこの問題は団塊世代の退職に合わせ民間企業のスタッフを増していくというブリッジング契約で解消できる場合もあります。もう1つの理由として、市民の間で民間事業者に対する不信が根強い点が挙げられます。公共サービスは役所に任せた方が安心という意識がまだまだあるようです。3つ目に、これまで公共団体がもっぱら運営してきた事業を民間に任せてうまくいくのかという疑問があります。そのような事業では、一定の期間公共団体が指導・管理する必要があるようです。

Q:

重点評価事項の埋没を回避する具体策があれば教えてください。また、官はどういった視点でコンサルティング会社を選考すべきでしょうか。

A:

段階的審査は重点事項の埋没を防ぐ優れた方法です。たとえば経営力を重点事項とした東京都多摩の病院の事例では、資格審査として経営者にヒアリング等を行ない、そこで高い経営能力を示した事業者に総合評価を行なうという手法がとられました。
後半の質問に関しては、コンサルティング会社がPFIに精通しているというのはあくまで基礎条件であり、今後は各分野の業態状況、技術、事業スキーム、事業者選定方式の知見をどれ程持っているかが重要になってきます。

Q:

プラント会社と運営維持会社を分離した状況で事故が発生した場合、責任範囲はどこまで明確化できるのでしょうか。また、廃棄物処理施設は外部調達品の組み合わせとありましたが、メーカー設計のものがあった場合、知財の問題は発生しないでしょうか。

A:

事故が発生したが施設の設計や建設に起因する場合は基本的にプラント会社に責任があります。運営に原因がある場合は運営会社です。
後半の質問に関しては、運営維持会社に関わらず特定調達品は納入するようプラント会社と覚書を交わすことで問題は回避できます。また、知財は公共団体と運営者の間で守秘義務契約を結ぶことで管理できます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。