北朝鮮核問題

開催日 2007年1月17日
スピーカー 武貞 秀士 (防衛省防衛研究所図書館長)
モデレータ 小林 慶一郎 (RIETI研究員)
ダウンロード/関連リンク

議事録

武貞氏は、防衛研究所で長年、朝鮮半島の軍事、政治面などの動向分析にかかわってきた北朝鮮問題の専門家。氏はセミナーで、北朝鮮の核問題は、北主導による朝鮮半島の統一という統一政策と絡めた核戦略の観点から理解する必要がある、我が国も長期的視野で対策を練る必要があると述べた。

核兵器開発は継続

今年の北朝鮮の政策重点は、1月1日の共同社説から読み取れる、と武貞氏は言う。具体的には、(1) 他国に頼らず核抑止力を有したことを「民族史的出来事」と位置付け、核兵器開発を継続、「核保有国」待遇を求め対米強硬姿勢を維持、(2) 経済再建の推進を図る(モノ不足を認めている)、(3) 経済分野では、輸出による資金獲得のための軍事工業の生産増進を図る(中近東などへ輸出するミサイル増産をする)、(4) 韓国との和解を進める、(5) 「自主」「平和統一」「民族大団結」の3大原則に基づいた統一政策の強化、(6) 在韓米軍削減を加速させる闘いの強化、等と考察される。

北朝鮮は、半島統一政策のもとに核戦略を展開

武貞氏は、1994年の米朝枠組み合意以降の北支援の論議は、前提が間違っていると指摘。北朝鮮は援助が欲しくて核を武器に国際社会に譲歩を迫っているのでも、現在の金正日体制維持のためでも、金融制裁の解除のためでもない。建国以来の北朝鮮主導による半島の統一という国家のグランドデザインのもとに、米国東部にも達する核兵器の開発によって米国の軍事介入を断念させ、韓国を震え上がらせ、自らの主導で半島を統一に導く構想を持っている、と主張する。我が国も北の統一政策をにらんで長期対策を練る必要があると提言した。

武貞氏は、北朝鮮の統一戦略の3本柱は、(1)南北和解による連邦国家の樹立、(2) 在韓米軍の完全撤収、(3) 米国東部に届く大量破壊兵器の開発、であるとする。南北和解で韓国に戦う意志を喪失させ、米国の韓国防衛意思を捨てさせて、それでも、米国が朝鮮半島に軍事介入するときには、核兵器で米東部を脅かして米国の動きを阻止する戦略であるとの説明である。だから、米国と戦わなくても統一ができるシナリオ、すなわち、自主的平和統一政策の中心をなすのが核兵器であるという。従って、我が国もこの視点から、防衛と外交のあり方を検討することが必要である。半島情勢が緊張する事態を予想した外交努力、安全保障貿易管理の強化、情報収集能力の向上、ミサイル防衛の早期導入など、長期対策を練る必要がある、と武貞氏は言う。

中・朝経済の相互依存が強まる

一方、中国は、世界有数の埋蔵量を持つ北朝鮮の金、銀、マンガン、ニッケル、鉄鉱石などの地下資源獲得に強い関心を抱き、北朝鮮のアジア最大の露天掘り鉄鉱山への巨額な投資をはじめ、長期にわたって多額の資金を投じて資源を開発するとともに、中朝国境の道路など、輸送インフラの改善を行ってきた。北の地下資源のおかげで、既に北は中国にとってお荷物ではなくなっており、従って中国が北朝鮮を見放して米国と協調して制裁を行うことはあり得ないだろうと武貞氏は指摘する。中・朝の経済関係の相互依存は深まっており、中国から石油および消費物資が流れ込み、北が経済的な崩壊を免れる道が出来つつあるが、一方、北は「100%自分の技術で作った核兵器」で自信を深めるので、軍事分野で中国の影響が薄まっていくと武貞氏は分析する。

6カ国協議の複雑な構造と半島の今後のシナリオ

武貞氏は、6カ国協議は、開始のときから北朝鮮主導の外交パフォーマンスであったとした。同協議が複雑なのは、イシューごとに異なる友敵関係が形成されているからで、北朝鮮の核兵器開発には軍事目的が隠されているとする米・日・朝に対し、交渉手段だとする中・露・韓、経済支援を先行させてから核放棄というアプローチの中・韓・露・朝と、核放棄が先とする米・日、核保有国としての認定をすべきという北と、核保有国とは認めないという他の5カ国などの複数の構図が存在すると述べた。

また、半島情勢の今後について、紛争のシナリオとしては、核疑惑解決のため米国が単独軍事行動をおこし紛争となる場合と、北朝鮮の大量破壊兵器開発後に統一のための戦争がおこる2つの場合があるとする。和解のシナリオとして、(1)北朝鮮がリビアのように援助と引き換えに核を放棄する場合、(2) 日本、米国、中国が朝鮮半島問題を南北に任せ、南北協議のあと、統一される場合、(3) 米国の反対を押し切って、南北連邦宣言で連邦国家が出来、中国寄りで統一される場合などのケースが考えられるとした。

セミナー後の質疑では、経済制裁によって北朝鮮を自壊させるシナリオはあり得るのか、との質問に対し、武貞氏は「中国が石油のパイプラインを止め、人道、食糧援助も含めた支援を中止し、韓国も人道支援中止まで含めた経済制裁に同意すれば3年以内に北朝鮮は崩壊するだろう。しかし、仮にそうした制裁が発動される事態になれば、逆に中・韓は北朝鮮を追い詰めないように支援を拡大すると考えられる」と述べた。

また、北朝鮮のミサイルが日本に向けられる可能性については、「核を含めた北朝鮮の軍事力は日本統治を狙ったものではないが、朝鮮半島有事の際に在日米軍が動けば北朝鮮のミサイルが日本に向かう可能性はあり、その場合は、日米安保条約の発動を引き起こさないよう、ミサイル攻撃の対象が地方都市になる可能性はある」と答えた。

(2007年1月17日開催)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。