オムロンの技術経営 ~グローバルR&D協創~

開催日 2006年10月27日
スピーカー 北尾 善一 (オムロン株式会社経営企画室知的財産部企画グループ長)
モデレータ 住田 孝之 (経済産業省産業技術環境局技術振興課長)
ダウンロード/関連リンク

議事録

いま企業の現場で、MOT(技術経営)が1つのキーワードとなっている。急速な技術革新や市場ニーズの変化に的確に対処するには、技術の本質と経営の両方を理解するMOTの強化が、企業にとって極めて重要な課題であるからだ。こうした中で、経営企画室すなわち経営ブレーンの中に知的財産部門があるという理想的な姿を実現している企業オムロンの北尾氏が、同社の目指す方向性、オープン・イノベーションとしての「協創」戦略、M&Aと知財部門の関わり方などを実例とともに紹介した。

選択と集中でSensing & Controlに特化、「三種の神器」で強みを明確化

北尾氏によると、オムロンでは、独自の未来予測理論に基づき、2005年から「情報化社会」の次の段階、機械に出来ることは機械にやってもらい人間はより高度な活動を行う「最適化社会」に入ったとしている。

同社は2010年のビジョンを描き、企業価値の倍増を目指して2005年のROE10%という高収益を今後も維持し、成長を続けることを経営目標として、コアコンピタンスをSensing & Controlと位置付け、この分野に特化して、成長構造にするための事業ドメインの構造改革を行っている。

Sensing & Controlとは、両者を組み合わせることで、多彩な現象のインプットから、価値ある情報を賢くアウトプットする技術である。たとえば、同社が上海の大学と開発している「顔センシング技術」は、ユーザーの顔を見て機械がPCの利用方法を知らないと判断すれば、スイッチの入れ方から音声で教える、という「最適化社会」の実現に向けた技術である。

オムロンには、自社の技術の強みを明確にするための「三種の神器」がある。それは、(1) 自社及び他社の技術の事業への展開の状況と市場の隙間を明確にする「商品-技術マトリクス」、(2) 将来の技術進化の方向性を明確にする「技術ロードマップ」、(3) パテントの網羅性を明確化する「パテントマップ」の三種で、経営が研究開発投資をしているコア技術の状況を半年毎に見直し、投資の継続などの意志決定をトップが行う際にも利用されている。

MOTのカギは、「協創(Collaborative Innovation)」とM&A

北尾氏は、「もはや1社で新しい商品を創る時代は終わった。企業や大学などとのコラボレーション、或いはM&Aが必要で、そのためには、携わる人はまず自社の事業ドメインを理解しなければならない」と説明した。経営が思い描く事業ドメインより、技術本部が自社の現在の技術の事業ドメインが遙かに小さいことを認識した時に、その面積を増やすために、アライアンスや産学連携の発想が出てきて、コラボレーション或いはM&Aを検討する。個人的にはこれをMOTと呼んでいる、という。

このため、同社は京阪奈を中心に積極的に産学官連携を推進するとともに、米国、中国、インドの大学等とも京阪奈を中心にしたネットワークを構築する「グローバルR&D協創」戦略によって将来のコア技術創出の布石を敷いている。また、2006年12月には、上海の大学と連携して新しい研究所を立ち上げる予定で、ここを中国でのSensing & Controlのメッカにするとのビジョンの下で、企画テーマ、場所、開発資金を同社が提供し、あとはすべて地元の学者、学生らに研究を委ねる予定でいる。

経営の下にある知財部門のミッション-M&A戦略の提案も

質疑で、知財部門が技術本部ではなく経営の中に置かれた理由と経緯について、北尾氏は「知財は経営そのものだという認識を持って2003年からは経営のミッションを担うことを条件に正式な住人となった。現在は関係者を含め8人で動かしており、技術動向、競合の状況、技術の先がそれで良いのか等を調べるとともに、M&A戦略の提案も行う。開発企画は競合相手の情報は豊富に持っているが、知財では特許情報から異業種との競合までわかる。知財と経営戦略との上手い結びつきが重要であり、オムロンではM&Aを行う時、相当以前から知財がからむ。M&Aの相手の有する知的財産から、その企業の特性を判断し、どのような対応をとるべきかを提言するなど、オムロンの知財部門の仕事量は広がっている」と説明した。

また、外の技術と自社の技術のどちらを選択するかという判断をどう行うのかについては、「事業部門が判断を行うが、経営企画はその際に提案を行い必要な事項は入れてもらう。最終的には執行役員会議、内容により取締役会で決定する」と答えた。

権限委譲とOJTで人材育成をスピードアップ

さらに、知財部門の人材をどういう形で確保しているのかという質問に対しては、「人材育成が最大の課題。知財部長クラスの後継となる40~45歳の人材が欠けている。オムロンでは、下のチームリーダーに大幅に権限委譲して責任を課し、実務を通じて判断力を磨くという方法をとっている。人材育成は10年も待てないのでOJTで対応している」と説明した。

また、国際標準と知財、技術開発の連携に関し、標準戦略はどこがやっているのかとの質問については、「通信や映像の分野と異なり、オムロンの関係で国際標準が問題になることはあまりないが、これは国際標準で動かさねばならないという案件が出てきた時には知財が手をあげることになっている」と答えた。

(2006年10月27日開催)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。