資源インフレと日本の対応

開催日 2006年5月24日
スピーカー 柴田 明夫 (丸紅経済研究所所長)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)
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議事録

原油価格を中心に金、銅、アルミニウムなどの国際商品が、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の急成長に伴う需要増を背景に上昇し、資源インフレ時代に入った。柴田氏は、丸紅経済研究所で、国際商品市況分析などを専門に研究している。柴田氏は焦点の原油価格動向についてOPECの生産余力の低下やイラクなど中東における地政学的リスクなど3つの歪みを理由に高値が続くとの見通しを述べた。その際、日本は資源高価格を前提にして成長モデル見直しが必要とし、その中で省エネ、省資源の優等生・日本に新たな出番が来たこと、新規投資にも期待が持てることを強調した。

国際商品市況は史上最高値圏に突入、上昇トレンド続く

国際商品全般の代表的な先物価格指数のロイター・ジェフリーズCRB指数は、2006年1月に1980年の史上最高値を突破し、なおも上昇トレンドを続けている。柴田氏によると、60年代は資源価格の低位安定時代だったが、70年代に入って石油ショック等で資源価格が急騰した。しかし80年代以降はその反動で世界的に省エネ・省資源化が進み長期低落傾向となった。それが最近の数年、中国などのBRICsの経済成長を背景にした石油はじめさまざまな資源に対する需要増で世界的に資源需給が一気にひっ迫し、価格上昇に弾みがついてしまった。資源の安い時代は終わり、今後は長い価格上昇トレンドが始まったと見るべきだろう、と柴田氏は述べた。

この背景には、需給がタイトになった面に加え、原油先物市場にヘッジファンドが入り投機的な動きをするようになったことで、原油価格の価格変動を大きくするようになっていることもある。これまではオイルマネーが価格を動かす役割を果たしていたが、新たな金融商品が開発され、原油など国際商品がマネー投資対象になったため、それらの価格は上昇しやすくなった、という。

原油市場をめぐる地政学的リスクなど「3つの歪み」

柴田氏は、原油価格動向を探るうえで、原油市場にある「3つの歪み」を認識しておくことが重要だ、と述べた。具体的には、1)OPECの生産余力の低下に加え、北海油田や中国の生産頭打ちなど非OPEC諸国の生産余力が落ちており、供給の「のりしろ」部分が少ない、2)イラクの治安悪化、サウジアラビア石油施設爆破未遂事件やナイジェリア武装テロなどのテロリスク、さらに南米の左派・反米政権の動きなどの地政学的なリスクの高まり、3)大消費国の米国での精製能力不足とガソリンなどの石油製品在庫が低い、という3つの問題である。投機マネーは、そういった間隙を縫って動き回り先物価格を押し上げてしまう、という。

アルミや銅の地金も供給不足から値上がり、穀物は需給から天候相場へ

金(ゴールド)も急騰しているが、その背景には金相場押し上げ要因が存在する。原油と同様、イラン核開発などの地政学的なリスクがあるのに加え、米国の財政、経常の双子赤字が続くことによるドル安懸念、インドや中国での金投資の自由化、金ETF(上場投資信託)の登場、それに原油高が働いている。

また、アルミや銅の地金も原油を取り巻く環境と似たような状況で、中国などの需要が強いところへ、供給不足要因があり、価格が上昇する傾向にある。

穀物相場に関しては、シカゴ穀物相場が最近2年の連続的な豊作により上値が重くなっているが、米国やカナダ、豪州での干ばつや世界的な異常高温など天候が相場を変動させる要因になっている、という。

原油・資源価格高騰でも世界経済への影響は限定的

ただ、柴田氏はセミナーで、「原油価格や資源価格が高騰しているにもかかわらず、世界経済への影響は限定的だ」とし、その理由を3つ指摘した。

それによると、1)原油価格は名目ベースで高いものの、実質ベースでは80年初めの1バレル40ドルよりも相対的にまだ安いこと、2)オイルマネーの還流が比較的スムーズであること、そして、3)原油価格の高騰が逆にかつての石油ショック時と同様、代替エネルギーの開発を誘発すること、省エネ社会構築に向けた新たな設備投資などを喚起することなどが挙げられる、という。

日本はLOHAS関連市場で新規需要創造を

柴田氏は、資源インフレ時代のもとでの日本の対応に関して、原油高を背景に成長モデルを見直すことは必要だ、とした。その中で、「日本は省エネや省資源で十分な実績と経験を持ち、原油高には基本的に抵抗力がある。エネルギー多消費型の中国やインドにとっては、日本はモデルになる」と述べた。

そして、柴田氏は、これからが日本の出番だと述べると同時に、起業家精神で新たな需要創出が可能だと述べた。とくに、LOHAS(Lifestyles of Health and Sustainability) 関連市場があるとし、環境配慮型の住宅、インテリア、家庭用品開発などでの需要創出もある、という。

原油供給不安要因なければ2008-10年ごろに60ドル前後で安定?

セミナー後の質疑で、高騰する原油価格が今後、安定する時期はいつごろか、という質問に対し、柴田氏は「断定的なことは言えないが、2008年から10年ごろにかけて市場メカニズムが働き1バレル60ドル前後ぐらいで安定するのでないか。ただ、地政学的な供給不安要因や資源ナショナリズムが高揚すると事態は変わる」と述べた。

また代替エネルギーの開発動向に関しては、エタノールのほか風力、天然ガス、さらにタールサンドなど石油に代わるエネルギーの開発投資は進むだろうが、カナダでのタールサンドは地下深く開発が進むとその分がコスト高になるなど難しい問題もある、と述べた。

(2006年5月24日開催)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。