地方分権下における官(国と地方)と民の役割分担について

開催日 2006年4月14日
スピーカー 赤井 伸郎 (兵庫県立大経営学部助教授)
コメンテータ 片山 哲 (元内閣府地方分権改革推進会議事務局企画調査官)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)
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議事録

赤井伸郎氏は、大阪大学大学院経済研究科博士課程を修了後、日米の大学で客員研究員やRIETIファカルティーフェローを歴任。地方行財政も専門にしており、近年は第三セクター、地方公社、公営企業などを研究してきた。セミナーでは「いま効率的で効果的な政府組織への脱皮が要請されている。その実現のためには、まず官と民の役割分担を自分たちで考え、実行していくという社会制度を構築することからスタートする必要がある」と訴えていた。

公共サービスの「制度疲労」

赤井氏の現状分析によると、バブル崩壊後の国や地方政府は、景気対策と公共事業で不透明な借り入れを増加させた。また、説明責任のない公共サービスを提供する制度に立脚しているため「制度疲労」を起していると指摘。今後は厳しい財政状況によるコスト制約と成熟化社会における多様化したニーズに対応するため、「効率的で透明性のある政府が必要とされる」という。

国においては、小泉内閣が小さな政府に向けた改革に取り組んでいるが、地方においても地方版市場化テストが03年6月に導入されるなど取り組みが始まっている。市場の効率性を失う「市場の失敗」には適切な政府の介入が必要であるが、政府も政治システムや経済成長の低迷によって政府規模を拡大させるという「政府の失敗」もあると赤井氏はいう。

赤井氏によると、社会が成熟化し、住民ニーズは多様化している。また民間ノウハウが蓄積され、契約技術が発達してくれば、政府の「直接供給」の必要性は減少する。公共サービスの提供は「官」の責任だが、公共サービスの提供主体は「官」である必要はない。そこで「契約による間接供給の可能性を探ることが望ましいのではないか」という。

公営企業のガバナンスの問題点

赤井氏は、官と民の中間分野である公営企業の経営主体を、資産所有とサービス提供すべてを官が行う「完全公営」から、民が全部担当する「完全民営」までの間に「民間業務委託」「上下分離」「PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」とおおむね5つの分類に区分する。そして「完全公営ならリスクは低いが、インセンティブは働かない。完全民営ならインセンティブは高いが、リスクも高い。この「リスクとインセンティブのトレードオフ」の関係は業種によって異なるが、それを踏まえたガバナンスを設けることが重要だ」という。

そのうえで赤井氏は、官と民の中間に位置する、第三セクター、地方公社、公営企業の3分野について、そのガバナンスのあり方を具体的に検討した。まず官民共同出資の第三セクターは9947(04年3月)あり、わずか15.1%しか点検・ガバナンス体制が整っていないという。経営悪化の理由は「潜在的リスクの大きな観光分野が多いことに加えて、官と民の責任分担があいまいで双方の努力が低下し、リスクの審査能力も欠如していた」と分析。「契約があいまいだ」という。

土地、住宅、道路の地方3公社は、不良資産が問題化しているが「土地、住宅は地価が上昇し続けたバブル前は先行取得の意味はあったが、いまは負債を増大させるだけ。道路整備も進んだ」として、「情報公開により適切な処理、土地活用を早期に議論する。必要なら財政資金の投入をする。また、過ちを繰り返さないため適正な検査システムを整備するべきだ」と提案している。

上下水道、交通、病院などの公営企業については、公営交通が赤字なのは「国土交通省の規制、高額な給与水準、民営化に対応できない補助金制度、契約やガバナンス技術の欠如」と分析。水道については「料金引き上げで赤字にはなりにくいが、決定的に経営規模が小さすぎる」などと問題点を挙げた。

官と民の役割分担の適正化への提言

今後の組織改革のあり方について赤井氏は、官と民の関係について役割分担の適正化が必要と提言。あいまいな予算繰り入れなどを排し、初期評価と継続的なガバナンスを確立する必要があるとして、具体的には(1)法律にとらわれない市場化テスト(2)住民への説明責任と職員の意識・給与改革(3)民間のノウハウ・資金調達による規律付けによって、PFIから高度な契約技術とコンサルの活用――を進めていくべきだとした。

また、三位一体改革での議論に見られるように、国の過剰な関与、国からのトランスファーの問題など複雑な国と地方の財政関係が生み出す問題も、この官と民の役割分担の適正化を阻害しているとして、国家的法律の根拠の明確性と、地方の自己責任による資金ファイナンスの重要性を強調した。

最後に、(1)官は民のできないものを行うという精神の下で、(2)リスクとインセンティブのトレードオフ関係を理解し、(3)リスクを軽減する契約技術を獲得、(4)公務員制度を改め、(5)住民のガバナンスを重視する――ようになれば、成功に結びつくはずだ、と結んだ。

コメンテータの片山氏は、「景気が良くなり地方財政の借金が減り始めた中、次の地方財政のあり方を考えるという視点が必要だ。国と地方の財政の線引きを考える制度改革、自治体では連結経営の意識ももつべきだろう」と指摘。

さらに「電気料金のプライスキャップ制度のように、公営企業のトレードオフをどう考えるかも重要。そもそもコスト計算がなされているのか。品質基準をどう決めるのか。また、首長が交代したときの政策変化のリスクをどうとるのか、考慮するべき点は多い。しかし、成功事例を作るのは必要で、チャレンジしてもらいたい」と述べた。

(2006年4月14日開催)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。