ワシントンから見た日米関係

開催日 2006年4月10日
スピーカー 多田 幸雄 (CEPEX理事長)
モデレータ 木村 秀美 (RIETI研究員)
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議事録

旧日商岩井出身で米国在住経験の長い多田幸雄氏は現在、ワシントンDCで自ら設置したNPOのセンター・フォー・プロフェッショナル・エクスチェンジ(CEPEX)理事長として活躍されている。多田氏は「このNPOは国際ハローワークのようなものだが、次世代の知日派リーダーとなる米国人の層が先細りする現状を憂え、知日派の有能な米国人の人材育成をめざしてアクションを起こしている。ご支援を」と訴えた。

日本に魅力ないのか知日派先細り

多田氏によると、民間非営利団体のCEPEXを2005年5月に創設するに至ったきっかけは米国で知日派といわれる米国人が極端に少なくなってきたことに危機感を持ったためだという。

多田氏は「その知日派の中には日本通で有名なケント・カルダー、エド・リンカーンやマイク・モチヅキなどの各氏がいる。彼らはいずれも米国のベビーブーマー世代で、1980年代から90年代まで、日米通商摩擦が大きな問題になった際、米政権やシンクタンクで対日政策立案などにかかわってきた人たちだ。ところがこの後の世代になると極端に知日派の層が薄くなり、どちらかといえば先細りという憂うべき状況になっている」と述べた。

多田氏は、知日派激減について、いくつかの理由を挙げた。日米経済関係が比較的良好だということもいえるが、実際には米中などに比べて日米間には知日派が関与する魅力あるイシューが少ない、このため将来性もなく日米関係案件にかかわってそれをビジネスにすることも難しいなどのためだ、という。

中国や韓国は活発にセミナー開催

一方で、中国や台湾、韓国はアジア関係を含めさまざまなセミナー開催に関して活発で、米国の関心をひきつけようとしている。とくに中国はセミナーの集客力や規模などに関しても日本の10倍ぐらいの差をつける。日本の地盤沈下はこういった面でも著しく、それがまた、知日派米国人を少なくさせる理由にもなっている、という。

そこで、多田氏は、日米関係の将来を考えた場合、次世代の知日派米国人を育成する方策を具体的かつ真剣に考える時期にきており、官民、NPOなどが共同で対応が出来ないものか、と関係者に働きかけた。日本から外務省など政府の高官や日米財界人会議で米国を訪れた北城経済同友会代表幹事らと話し合い、危機感も共有した結果、現在のCEPEXを立ち上げることにしたと述べた。

多田氏によると、CEPEXは、日本に関心があって大学や大学院、研究所で日本研究を行う米国人を対象に将来、米国政府機関や国際機関などで活躍が見込まれる「次世代知日派」の人材育成をめざす。このため官、民、大学、そしてCEPEXの4者が連携してそれら若い人材を日本の大学などで教育や研修に携わったり、また日本企業で就職できる機会を作り出すことにした、という。

JETプログラム卒業生が「予備軍」に

多田氏はその人材開拓の場の1つとしてJET(JAPAN EXCHANGE & TEACHING)プログラムを挙げ、知日派予備軍になると述べた。

これは外務省、文部科学省、総務省の3省が共同で所管する「語学指導等を行う外国青年招致事業」のことで、米国からは、毎年約3000人の若い米国人を日本の中学、高校などの英語教師として招請し1年もしくは2年間、教育の現場に立ってもらう。今年で18年目になるが、現在累計で約4万人超の米国人経験者がいる。

多田氏は、こうした日本の現場でさまざまな体験を経て日本を知っている人たちをCEPEXが支援し、いずれは米国政府機関や国際機関で対日政策に関与できるポジションについてもらえばと考え、パイロット計画として帝京大学を研究の受け皿にし、3人の研究者受け入れ枠をつくってもらった。そしてJETプログラムの卒業生の米国人にメールなどでチャレンジしないかと働きかけた。その際、10年間かけて支援することも明示した、という。ところが案に相違して最終的には1人だけしか採用することができなかった、という。

そして多田氏はセミナーで、加藤駐米大使が語ったという「日米関係は今はいい状況にある。しかし水をまき、種を蒔いていかないと日米関係が枯れてしまう。その時になってからでは遅いので、知日派を育成するプログラムが必要だ」との発言を引用し、協力を呼びかけた。

JET卒業生の中に米政界進出予定組も

セミナー後、会場から「なぜ知日派米国人が先細りになっているのか、もう少し具体的に聞かせてほしい」という質問に対して、多田氏は「率直に言って、いま日米間に大きな案件がないため研究者に対しても助成金が出ず、たとえば日米に中国、韓国をからめると出るという。いま日米関係の研究などで付加価値をどうつけるか難しいようだ」と答えた。

また、「米国や日本の若手政治家のうち知日派や知米派の政治家を育成した方が早道なのでないか」という質問に対して、多田氏は「政治家を排除する考えはない」としたうえで、「JETプログラムの卒業生でいまワシントンの政界をめざしている有望な若手がいる。民主党議員で米議会下院選でシカゴ10区から出る予定だが、埼玉県上尾の高校で英語教師の経験がある。こういった人たちが政界に進出すれば状況は大きく変わってくる」と述べた。

(2006年4月10日開催)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。