ポスト京都議定書を巡る最近の動向と今後の展望

開催日 2006年3月22日
スピーカー 工藤 拓毅 (財団法人日本エネルギー経済研究所地球環境ユニット ユニット総括 地球温暖化政策グループマネージャー)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)
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議事録

最近の国際動向

2005年は、将来枠組みの議論が表面的に動きだしたということと、それに関連して、将来を見据えたいろいろな取り組みが出始めた年として、非常に面白い年だったと思っています。その辺の概要と今後の展望をお話ししたいと思います。

現在は、UNFCCCと呼ばれている気候変動枠組み条約の1つの流れの中、昨年の京都議定書の発効に伴い2013年以降の将来枠組みも検討しようという流れにのっとって、いろいろな議論が進み始めています。その中心が、昨年の11月後半から12月にかけてカナダのモントリオールで開かれた、一般にCOPとかCOP/MOPと呼ばれる会議での議論ならびにその決定です。その決定内容について幾つか示していきます(資料2P)。

まず、「マラケシュ合意の採択」です。これは、京都議定書を運用するためのルールが正式に採択されたということになります。つまり第1約束期間の2008年から2012年に対しての環境整備がなされたことになります。ただ、先進国という枠組みでいえば、米国、オーストラリアは現状の議定書から離脱しているので、日本、EU、カナダ、ニュージーランドといった限られた先進国が取り組みを検討していくということになります。その中で、「遵守委員会やJI監督委員会の設立」といった運用に必要とされるファンクションも、ここで正式に決まりました。

次に「CDM効率化促進に関する合意」ですが、CDM(クリーン開発メカニズム)に関しては、早期のCDMプロジェクトを進めるという目的に基づいて、ここ数年でルールやプロジェクトがつくられてきています。ところが、本来、経済効率的に温室効果ガスの排出削減を進める目的のCDMも必ずしも円滑に進んでいないという評価がなされています。そこで、長期的な視点も含めてCDMをできるだけ円滑に進める取り組みを検討することが合意され、その具体化が検討されているという状況になります。

3番目が「将来枠組みに関連した議論」です。現在は2012年まで目標が設定されていますが、ではその先をどうするのかを、この議定書もしくはUNFCCCに基づいていろいろ議論、またはその議論の仕方をどうしようかというようなことが検討されました。COP/MOPは京都議定書を批准している国々の会議ですので、アメリカやオーストラリアは入っていない枠組みで、第1約束期間との間にギャップができないように、目標設定を行うための準備をしようというような話が決められました。それと、COP/MOP2が今年の11月にナイロビで開かれるわけですが、そこでも議定書の現状のレビューをしようということが決まっています。それからCOPにはアメリカやオーストラリアもしくは当然途上国も入っているわけですが、そういった中では、この将来枠組みに関連して、長期的協力のための行動の対話をしようということが決められました。

これらは総論的にいうと、現状の延長線上をどう考えますかということと、将来的な部分については、途上国・米国の具体的な参加という議論は取りあえず置いて、この温暖化問題をどうとらえていくかという議論が進んでいくといった、そのような意味があるのではないかという気がしています。

UNFCCCの議論のメーンストリームは、国連の会議での取り決めというのが中心に行われてきました。そういう中で議定書が発効し、将来の枠組みの検討が始まるといった機運の中で、2005年にいろいろなところで温暖化をめぐる検討の場がつくられたというのが1つの特徴だと思います(資料4P)。国連の枠組みに対していろいろな視点から温暖化に対する行動をサポートしていくような新たな動きが出てきているということです。

2005年5月の「SOGE(政府専門家セミナー)」は、国連の枠組みの中で将来の枠組みを検討するに当たって、それぞれ各国の考え方をディスカッションしたわけですが、それが11月のCOP11なりCOP/MOP1という流れになってきています。そのようなスケジュールの下で、G8のサミットが昨年開かれ、気候変動がアフリカ問題と併せて大きな柱として議論され、そこでの行動計画が出てきました。もう一方で、アメリカ主導のアジア太平洋パートナーシップも、大体このG8と同じ時期に立ち上がりまりました。また、EUと中国もしくはEUとインドの、気候変動に関するパートナーシップも構築されるなど、議論が国連以外のさまざまな場所で起こり始めた年が、2005年でした。

「補完的」取り組みの動きとその影響

それで、個別の中身を少しご説明しますが、まずは「G8のグレンイーグルス行動計画」(資料5P)です。これについては、気候変動に対する危機意識と長期的取り組みの必要性が共有されたという点があります。ただ、具体的な将来目標ではなくて、国際協議なりIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のような科学的な側面で全体として取り組むといった考え方と、「省エネ」や「新エネ」といった温暖化対策に貢献する技術の開発や導入促進などの、個別・具体的な取り組みに主眼を置いて、G8として見ていこうと示されたのが特徴かと思います。その中で、G8からの要請という形で、IEA(国際エネルギー機関)がこの気候変動に関連する作業をやるということが決められました。具体的には、1つは各国のエネルギー効率・指標をつくることです。それから、省エネ等を進めていくに際して、ベンチマーキング的なものの検討をすることがもう1点です。それから「ベストプラクティス」の抽出が挙げられています。これに付随して、炭素の固定化、クリーンエネルギー技術といった、長期間で見据えたシナリオのイメージや、それに対応した技術のイメージも併せて検討しようということです。

次に「行動計画によるアウトプット」(資料6P)ですが、1つにはセクター別の効率の実情が比較可能になります。つまり、各国の実情をIEAという1つの土俵のもとで比較評価ができるようになるということです。そして、たとえば技術の現時点における最高水準、もしくは将来的な水準が分かってきますと、各国の技術開発なり普及の目安についての相場観ができてくると思います。それに加えて、既存の政策や取り組みのレビューから、自分たちが活用することはできないか、もしくは全体として広く活用したらどうかといったような、さまざまなものが出来上がってきます。大事なのは、この結果がG8の首脳が集まった場で何らかの評価が加えられるということだと思います。この取り組みの結果としてどういうことがいえるのか、もしくはどのような発展が期待されるのか、そういう相場観が2008年のサミットで議論されることになるかと思っています。

もう1つ挙げたのが「クリーン開発と気候変動に関するアジア・太平洋パートナーシップ(APP)」です(資料7P)。これは米国が中心になってオーストラリア、韓国、中国、インド、日本の6カ国で、エネルギーの安全保障なども視野に入れたパートナーシップを立ち上げたものです。ここで議論されているのは、たとえば気候変動の視点でいうならば、国連の枠組み条約と整合的なエネルギー技術開発や普及・移転を促進する環境を整えることを意図しようということです。これは米国が立ち上げたということもあって、京都議定書のような「絶対量」という概念よりは、温室効果ガスの原単位的なものを改善していくような挑戦に対処するといった視点です。それと、中国・インドを巻き込むという前提として、エネルギー需要増等も含めた安全保障の視点も明確に組み込んでいます。それから、環境問題などそれぞれの国が抱えている課題等の解決にもスコープを広げた考え方として、自主的な枠組みとして出来上がったというのがこのパートナーシップの特徴になります。

APPの行動計画として、具体的に8つの産業分野を特定化して「官民一体となったタスクフォース」(資料8P)が立ち上がりました。要は政策的な役割もしくは民間等の技術なりビジネス的なことも含めて、エネルギー環境問題に対する貢献のため、一体となってタスクフォースを8つの分野において進め、それぞれの国で抱えている課題を解決できるような行動を検討しようということが示されています。大事なのは、この6カ国で世界全体のGDPやエネルギーの消費量、CO2の排出量等で見るとほぼ過半を占めるという、そういった国のパートナーシップであるということです。このタスクフォースの中でより実効性のあるものを進めていこうといった視点が、このAPPの行動計画の特徴になると思います。

そして、APP行動計画アウトプット(資料9P)に期待されるイメージですけれども、これはセクター別の効率の実情把握というところから出てくるわけですので、当然G8の行動計画とダブるところがあると思います。そして、セクターごとの取り組みの効果が、エネルギー政策上なり温暖化政策上明らかにでき、またエネルギー政策の課題解決の中での相乗効果として温暖化にも貢献できるような視点でもこのアウトプットの評価が可能であると思っています。それから、その具体的な取り組みが、中国・インドのような、エネルギー消費や温室効果ガスの排出の大きい国が将来的に参加していくときの、一種モデル的な取り組みとして考えられるという気がします。いずれにせよ、この行動計画を通して具体的なプロジェクトが進み、その効果が明示化されてきますと、気候変動枠組み条約もしくはG8も含めた温暖化を議論している場に対して、いろいろな意味での示唆になると思います。

一方で、EUの動向に若干触れておきます(資料10P)。EUは、いわゆるEUETSと呼ばれている、域内の排出量取引制度を昨年開始しました。EUETSは、ヨーロッパの中でおおよそ半分ぐらいを占めている産業部門からの排出量を1つの対象にして、排出量取引を活用して、この気候変動に対する取り組みをするということが決められ、実行されています。その一方で長期の枠組みについては、昨年、京都議定書の発効を視野に入れた議論が行われて、基本的には京都議定書タイプを意図しながら、将来的な温度上昇を2度ぐらいまでに抑えていく、それが世界全体の将来枠組みの目標イメージではないかと前提として掲げられています。具体的な国別目標については、国際的な場でやられていませんが、昨年3月の欧州理事会の段階では、2020年に先進国が1990年比で15~30%ぐらいの削減を、次期の目標イメージとする提案がなされました。ただし、先進国のみだけでは意味がないことは認識しており、途上国参加を呼びかけていくことの重要性も示されています。

その中で、EUもアジアへのアプローチを行っています(資料11P)。1つは「中国との気候変動に関するパートナーシップ」です。要は、技術開発を主眼に置きながら、そういった技術の開発、導入促進を協力し合いながら進めていきましょうということです。同じようにインドとの間でも、温暖化問題のみならずさまざまな環境問題や、エネルギーのセキュリティ的な視点の中での協力をしようとされています。

こういったさまざまな補完的取り組みがもたらす影響は(資料12P)、個別の効率なり基準等の実情を把握しながら、そこから来る削減や省エネのポテンシャルを明確にして、そしてそれをより具体的に進められるのかという、グッドプラクティスの共有化も含めた流れをつくるきっかけになるのと思います。これを、個別・具体的なプロジェクトの実施等を通してより具現化していくことが期待され、これをして「補完的」ととらえ、それが世界全体の取り組み、枠組みに対して影響を与え、直接・間接的に反映されてくるというのが将来像ではないかと思います。

途上国の問題意識

そこで、もう少し将来的な話ですが、今後、エネルギー消費由来で考えたCO2がどこで増えているのかというと、圧倒的にアジアを含めた途上国での増分が大きいといわれています。その中でもとりわけ中国・インドが、ここ十数年での増分寄与が非常に大きいので、今後こういった増加を世界全体で低減していく取り組みを考えると、この両国の取り組みという視点は当然考えていかなければいけません。

そういった中で、中国も省エネルギーという視点では同じ意識を持っており、第11次の5カ年規画で、2010年までにGDP当たりのエネルギー消費原単位を2005年比で20%削減するという目標が示されました(資料15P)。これは、中国が抱える今のエネルギーの供給問題、もしくは将来的な懸念も含めた安全保障の問題に大きな主眼があります。ただ、中国がこういった省エネルギー推進を考えるに当たって、非常にベーシックな省エネの重要性に対する認識の欠如であるとか、省エネ法の執行が不十分とか、もしくは技術開発や市場が省エネを促進するような形で機能するまでまだ成熟していない等々、さまざまな課題があります(資料16P)。これは恐らく先進国のサイドから見ても共有できる部分ですし、今後世界全体のエネルギーの安全保障等を考えても、非常に重要な課題として意識できるだろうと思います。

「途上国から見た枠組みへの考え方」(資料17P)をみると、京都議定書の交渉においては、あくまでも気候変動枠組み条約を基本として、当面は先進国と途上国の役割を明確に分けて、まずは先進国が排出削減等を率先してやり、これが結果として国家に対する温室効果ガスの排出割当量の遵守という形で制度化されているのだということです。一方で省エネルギーは、自国のエネルギー供給不足、経済成長への影響は非常に深刻な問題ですので、省エネ政策なり再生可能エネルギーの導入・促進、もしくは燃料転換というものは、エネルギー安全保障や地域環境問題という視点で見れば、彼らにとって非常にクリティカルな問題になります。しかし、この両方の問題をよくよく眺めてみますと、実は温室効果ガスの排出削減効果があるという点では共通なのです。ですから、どちらを主眼に議論する場であるかということによって、その立場が反対であったり、賛成であったりとなっているということだと思います。

これを同じような形で整理したものが「地球温暖化とエネルギー安全保障」(資料18P)で、結局、問題の視点が「温暖化」と「エネルギー安全保障」と分かれて存在していて、目的も「大気中の温室効果ガス濃度の安定化」と「エネルギー供給の確保や価格の安定化」ということで表面上は別々なのですけれども、それを行うための手段はいろいろあるものの、実はコアにあるのは省エネルギーと燃料代替なのです。結局のところ、効果はほぼ同じものですので、温暖化対策とエネルギー安全保障を見据えたフレームワークが今後検討できないかということが、補完的取り組み等の効果も含めて重要なポイントになってくるのではないかと思います。

途上国にとっての政策的なプライオリティは、経済発展を維持するためのエネルギー供給確保、もしくはそれに付随してくる地域環境問題をどう解決していくかということです。このためには、効率化の推進や燃料確保、多様化をやるという、従来からもいわれ続けていることをより実現するという話になります。これを実現することで、経済の効率性や活性化、そしてその結果として温室効果ガスの抑制につながってくるという、1つのサイクルが出来上がるということだと思います。同様に先進国は、より国際的な温暖化対策への協力を実行したときに、途上国に対する既存技術もしくは将来的な技術開発の協力等を介して、そのサイクルを回してあげます。そして、先進国にとっても、そういった技術がマーケットにインプットされて、経済の面でもいいサイクルが出来上がってきます。そういうサイクルが出来上がると、国際的な温暖化対策にもつながり、持続可能な社会にもつながっていくだろうと思います。そういった持続性を見いだしていけるようなサイクルをつくっていくことが重要で、そこには温暖化という1つの視点だけではなくエネルギー安全保障という、途上国が持っている問題意識をうまく整合させていけるような取り組みが、今後求められてくるのではないかという気がしています。

まとめ

こういう議論をするに当たって一番大事なのは、恐らく長期的に見て世界大で温室効果ガスの排出量削減を目指すということです。そういうことを主眼に置きながら、今は、国連の枠組み検討に加えて技術開発・導入、省エネルギー推進などのエネルギー安全保障も視野に入れた補完的取り組みが顕在化し始めたということです。今後、途上国をどのように取り込んでいくのかという視点の中で、エネルギー安全保障というキーワードも含めていかないと、途上国の参加動機付けも難しいかもしれません。逆にいえば、こういったものが推進されていかないと、温暖化のみならず世界全体でのエネルギー安全保障の問題もかなり深刻化する可能性があります。また、エネルギーと環境を整合的に解決していく方向付けの1つの視点として、大事な見方かなという気がしています。

問題は、たとえば先進国が保有する技術・ノウハウをどういう形で途上国に移転していくか、普及促進を図るか、協力の在り方をどうするかという話だと思います。CDM促進の話は、そういった1つのツールをより円滑・加速化するという考え方の中で、将来性を意図した考え方だと思います。特に技術やノウハウの移転に加えて、経済活動・事業活動がそのメリットを享受できるような形で進めないと、恐らく持続的なものはできません。ただ単なる支援をするというだけでなく、市場形成も視野に入れながら、将来的な枠組み、特に途上国を含めた世界大での参加を意図した議論が進んでくるのではないかと思っています。

質疑応答

モデレータ:

仕組みとしてはCDMが1つの鍵だと思うわけですが、非常に使いにくいというふうにいわれています。実際のところ、CDMを核にして省エネルギーあるいはエネルギー効率の高い生産システムを導入することが重要だと思うのですが、世界的な議論の動向はどうなってきているのでしょうか。

A:

CDMを活用するとするならば、省エネのようなものにまでどんどん広げていかなければいけないわけですが、省エネのようなプロジェクトは長期間見ていかなければならないものですし、何をしてベースとするかという追加性の議論が当然引っ掛かってくるわけです。ですから、政策サイドが中心になって、こういう分野で、こういうプロジェクトで、こういう方法論みたいなものを考えたらいいのではないかという検討がなされて、かつそれを世界的にもワークショップ等々を通して出されていっている段階だと認識しています。そういう中から、何がバリアになっているのか、どうすればそこをより良くできるのだろうかというディスカッションが、これから国際的にも進められていくという段階に来ていると私は思っています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。