エルピーダの挑戦:日本の半導体産業の将来を考える

開催日 2006年2月1日
スピーカー 坂本 幸雄 (エルピーダメモリ株式会社代表取締役社長兼CEO)
コメンテータ 中馬 宏之 (RIETIファカルティフェロー/一橋大学イノベーション研究センター教授)
モデレータ 安永 裕幸 (RIETIコンサルティングフェロー/経済産業省産業技術環境局研究開発課長)

議事録

エルピーダの挑戦

私は2002年11月にエルピーダに入って、2003年1月に企業理念として「エルピーダメモリは、最先端、高機能、高性能DRAMを提供することによりデジタル情報化社会に貢献し、高い収益性を有する世界トップ3のDRAMソリューションカンパニーを目指す」というものをつくりました。このたかだか数行の文章を作るのに3カ月かかったのですけれども、今この通りに進んでいると思っています。間違いなく私たちは「最先端、高機能、高性能DRAM」を作っており、特に携帯電話用のDRAMはここに当てはまっていると思います。そして、今年のフィジカルイヤーで見て、セカンドクオーターには間違いなく世界のトップ3に入ってくる、出来れば世界トップ2まで行きたいと考えています。

エルピーダは1999年12月に設立しました。私がエルピーダに入ったのは2002年の11月です。そのときに、社員だけではなくメディアの人たちにも、3つのコミットメントをしました。1つは「12カ月以内の黒字化」です。これは14カ月で黒字化しています。それから「24カ月以内の株式上場」です。これは23カ月で株式上場しています。そして「46カ月以内のトップ3」です。これがまだ出来ていないのですけれども、私が入社初日のプレスコンファレンスで言ったとき、これを信じた方は多分誰もいなかったと思います。しかし、われわれは2004年11月に東証一部に上場しましたし、あと残ったところが46カ月以内の世界トップ3ということです。

会社というのはどういう成長を描くのかというと、「夢」で会社がスタートし、「情熱」で会社が大きくなっていって、「責任感」で会社がある程度安定して、「官僚化」で会社が衰退していくと思います。利益率を見ると、情熱のところが一番利益率が高くて、官僚化でマイナスに落ちていきます。

エルピーダの失敗はどこにあったのかといいますと、日立とNECの官僚主義をそのままエルピーダに持ってきたということです。日立とNECのどちらが官僚的なのかをお互いに議論していて、仕事をしていなかったのが実情ではないかと思います。これを、夢が持てるように持ってくるというところに、私は力を注ぎました。夢というのは夢を語っても駄目で、夢を達成するためには何が必要なのかということです。

一番具体的に分かることは、お金を集めてきて、その集めてきたお金を投資するということです。上場していない会社が1700億円のお金を集めてきて、工場を造って生産を始めたわけです。そうすると社員は、少しずつ夢が持てるように変わってきました。今ちょうどエルピーダは、夢から少し覚めて情熱のところに来始めているのかなと思っています。私たちがエルピーダに入ってまだ3年、株式上場して1年4カ月しかたっていないわけですから、これから大きくなってくると思っています。

私がエルピーダに入って最初に作った方針があります。まず「会議は1時間以内に終わらそう」ということです。頭が本当に動いている時間は1時間以内だということで、会議は1時間以内にやっています。そして「レポートはA4サイズ1枚以内」ということです。これも日本語で書いていると20数ページ書く人がいっぱいいたのですけれども、英語に変えたら即A4で1枚以内になっています。そして「返事は24時間以内」ということです。それと「国内出張は全部エコノミーで、海外はそのフライトが6時間以内はエコノミー、6時間以上はビジネスクラス」ということです。もちろん社長といえども何の例外もありません。あとは「全員が『さん』『君』づかいでタイトルは呼ばない」ということです。とにかく会社に来て、社長だとか何だとかということ自体が無駄だから、全部「さん」や「君」でやろうと言って、仕事をしています。

私は特にオフィサーの人たちに、とにかく仕事を一生懸命やろう、いい仕事をして、その結果が出てきたら世の中の人が認めてくれるのだから、その快感を味わった方がいいよと言っています。本当に人間が能力を発揮できて、いい仕事をできる時間というのは、かなり限られていると思うのです。その時間に、カラオケやゴルフなどにうつつを抜かして仕事をしないというのは認められないと、私は考えています。

それと7つの戦略があります。1つ目は「出来るだけ早いIPOの実現」で、これは2年以内にやっています。2つ目は「開発製品の50%は世界No.1のシェアを取る」で、これもかなり取れています。3つ目の「外部比率を50%にする」というのはなかなかできていなくて、今20%強ぐらいです。4つ目に、汎用PCビジネスをメインにするのではなく、携帯電話やデジタル家電に特化したビジネスをやっていこうと考えています。あとはNEC・日立だとか、学歴や性別や年齢だとかにこだわらない組織ということを決めました。また、新しい給与制度等の社員に対する魅力的なベネフィットプランを作りました。7つ目は、クリエイト・メイク・マーケットの体制をできるだけ早く作ることです。

売上については、「携帯電話とデジタル家電」は2003年が200億円強でした。2004年が660億円で、2005年が1200億円ぐらいまで上がってきています。ですから、2003年から2004年に売上が3倍になって、2004年から2005年でまた倍になったということです。今年はもっと大幅に伸びると思っています。それから「サーバ」「PC」「ファンダリ」についてはあまり変わっていません。ですから、われわれが特化している携帯電話やデジタル家電のところに、大きなビジネスの伸びが出てきているといえます。

先ほど世界のトップ3に入ってくると申し上げましたが、2005年のセカンドクオーターから2006年のセカンドクオーターまで、キャパシティーが3倍伸びます。去年はどういう伸ばし方をしていたかというと、1.6倍です。そうすると非常にゆっくりしたキャパシティーの伸ばし方になりますから、やはり競合会社も同じように付いてくるのです。しかし、去年から今年にかけて急激に伸ばしますと、こういう伸ばし方はほとんどわれわれの競合会社はやっていませんから、一気にここでシェアが取れると思っています。

次にGP(製造原価利益率)についてですが、エルピーダの10月-12月期とアメリカ系のメモリ会社(A社)の直近のクオーターで見てみると、エルピーダの場合はDRAMが91%で受託ファンダリが9%、A社は70%-30%です。そうすると、全体のGPがA社は23%、エルピーダは、この10月-12月期はまだキャパシティーが出てこなくて、18%になっています。これをDRAMに計算し直してみると、A社は5%で、うちは20%以上いっています。これはどういうことかというと、アメリカ系の会社は、8インチのラインのリミテーションなどから、今のラインで競合できるレベルに入っていないのです。エルピーダは今の製品で十分コストは競争ができるというレベルに入ってきましたから、ここからはDRAMを作るだけではなくて、別にほかの製品を作ってもいいのではないかと思っています。

次に、マーケットシェアですけれども、2003年、私がエルピーダに入ったときは、マーケットシェアは2%ぐらいまで落ちていました。エルピーダをつくったときは日立・NECが一緒になったわけですから、日立・NECのシェアを統合すると16%ぐらいだったのです。それが2%ぐらいまで落ちて、今8%から9%ぐらいと見ていて、多分このファーストクオーターには10%を超えてくるのではないかと思っています。

日本の半導体産業の将来を考える

さて、よく日本人が創造的かどうかという議論があって、日本人は創造的ではない、なぜなら日本人は農耕民族だから考え方が創造的ではないということをいっているのですけれども、それは全然違っていると思っています。良い事例として、日本の携帯電話のアプリケーションというのは実に使いやすく、マニュアルを見なくても使えます。それから自動車のナビゲータも、マニュアルを見なくてもほとんど使えます。そして、ゲームやアニメ、電気自動車など、日本の製品というのは非常にカスタマーフレンドリーなのです。

アメリカの場合は全然カスタマーフレンドリーではありません。アメリカのソフトウエア会社の人たちと話すと、日本は社員が辞めないからいいよなと言います。ソフトウエアというのは非常に継続性が重視されるのです。ですから、日本はいいソフトが作れるはずだというのを、10年以上前に彼らと話しました。時間がたってみると、確かにそういうソフトウエアがいっぱい出てきています。ですから、日本はソフトウエアが弱いのではなくて、いい物がたくさんあるのです。それを認めて、もっと良くするためには、日本のいろいろな人事政策まで含めて変えていかなければいけません。

日本では設計開発をするときに、よそと同じものをやるときはOKを出して、よそと違うものをやるときはOKを出さないのです。それは反対で、よそと同じものをやったら何の付加価値もないのです。ですから、リスクはありますが、よそと同じものをやらないということをやっていかなければいけないと思っています。

次に、日本の半導体の強さ・弱さを見ると、日本の強いところというのは、だんだん局所的に強くなってきたのです。「パッケージ技術」や「微細化技術」「品質管理能力」「協調体制」などが日本の強いところなのですけれども、これは製品全体にかかわってこないのです。アメリカやヨーロッパの強さというのは、非常に戦略的に強くて、たとえば「製品化能力」で、日本の場合はほとんどカスタムチップなのです。それから「グローバルスタンダードになるようなCPUの欠如」だとか、この辺も後れています。「工場運営」についても、基本的に韓国や台湾に負けるはずがないのです。しかし、日本は負けています。それはなぜかというと、小さい工場があちこちにたくさんあり過ぎるのです。私たちは今、ファブが広島1個だけです。それで最先端のラインで見れば、日本の会社全部に匹敵するぐらいのキャパシティーがあるわけですから、どちらが効率的かということです。工場運営については日本は強いはずなのですが、自分たちで負けのパターンに入ってしまっているということがいえると思います。人事制度の課題については、国籍やプロモーション、報酬、間接部門などですが、うちの間接部門はほとんどいません。ですから、経理でもアカウンティングをやっているのは4人です。今はコンピューターがすごく進んでいるので、そのくらいでできなければおかしいはずです。間接部門なども大幅に変えていかなければいけないと思っています。それから「プロの経営者がいない」ということです。これは日本人に資質がないのかというと、私はあると思います。ただ、半導体事業が株式市場に出てきて独立独歩でやっているのかというと、やっていません。日本の中で半導体専業で出てきてやっているのはエルピーダだけで、本当に半導体のトップが経営していないのです。それは機会を与えていないところが問題であって、機会を与えてできないのだったら変えるだけのことです。そこをすぐ短絡的に走って、外国人を連れてくればうまくいくと考えますが、それではうまくいきません。そういう問題ではなくて、本当は中にいい人がいるのに、その人たちを育てるということをやっていないのです。私はそこが問題だと思います。

それから、先ほどのカスタムチップの問題で、カスタムチップかデファクトスタンダードかという議論があるのですけれども、これは開発のやり方に問題があるのです。日本の場合は、お客さんごとのカスタムチップを作っています。私がいた日本テキサス・インスツルメンツ(TI)などはそういう作り方をするのではなくて、ティーチャー・カスタマーがいて、それが日本、ヨーロッパ、アメリカなどにあって、そこのお客さんと意見を交わしながら製品を作ります。時々はティーチャー・カスタマーがもっと進んでカスタマーズ・カスタマーになって、たとえば携帯電話を使うユーザーと話して製品開発をします。ですから1つの製品がたくさん売れるわけです。結果として、日本の場合は設計者が60~70%、アプリケーション技術者が30~40%ぐらいです。私がいたTIは20~30%ぐらいが設計者で、アプリケーション技術者が70~80%ぐらいです。ここが強烈な差として出てきていると思います。

次に、産学官が一体になって仕事をしていかなければいけないということです。「学」の方は基本的には基礎技術と、それから10年後のマーケティングをやっていただくということです。10年後のマーケティングというのは、半導体やデジタル家電の場合、企業ではよく見えないのです。これは学生が、どういう物が欲しいのかというところから発想した方がいいと思います。それと基礎技術のところは結構足が長いですから、そういう面ではやはり学校が中心になってやっていった方がいいと思います。産業界と学界がつながらないのは、学校の先生の問題もあるかもしれませんが、基本的には産業界の方のNIH(Not Invented Here)という問題があると思います。

「官」の方は、半導体だったら半導体産業のグランドデザインをちゃんと描くということです。産業界が納得するくらいのグランドデザインを描かないと、多分みんな総論賛成・各論反対というふうになってしまうと思っています。そして、税制や会計原則ですが、日本は、昔にできたルールをじっと正しくやってきました。たとえば台湾の基本的な考え方は、企業は利益を出すべきであり、利益を出すために政府はサポートするということです。日本は、会計原則を守ってきちんとやるということで、ここがすごく大きな差として出てきています。それは台湾が正しいのか日本が正しいのか分かりません。ただ、企業人から見たら台湾の方が頼もしいです。あと補助の問題や仲介の問題、規制の排除などは「官」にやっていただいて、やはり産学官がちゃんとつながってやっていくという構図をつくっていかなければいけないと思っています。

最後に、半導体企業マッピングを見てみますと、今、半導体で勝っている「Winner」は、デファクトスタンダードの製品を作っている会社です。それから、システム・ソリューションが提供できる会社、先端テクノロジー向けの生産能力がある会社、深いノウハウがある会社です。逆に、カスタムチップを作っている会社や製品数が多過ぎる会社、テクノロジーが非常に中間的で小規模工場が乱立している会社、間接費が圧倒的に大きい会社などは「Loser」になっています。「Dead」のところは、どこかとマージするのか、半導体をやめるのか、できるだけ早く結論を出した方がいいと思います。エルピーダは、先端テクノロジーはありますし、独特のビジネスポートフォリオをつくっていますし、生産能力もありますし、間接費は非常に小さいので、まだ「Winner」でも「Loser」でもない「Hope」であると思っています。

質疑応答

コメンテータ:

今日のお話やそれに関連するようなことで、4つ質問させていただければと思います。1つ目は企業文化に関連することで、TIの方は、私が日本のいろいろなデバイスメーカーさんを調査したときと少し違う雰囲気を持っておられます。それは、何かTIが非常に素晴らしい、ある種の学習機会を提示した時期があったのではないかと思うのですが、そういう学習機会や、自分がブラッシュアップしていく機会というのが何かあったのか、お気付きの点がありましたら教えていただきたいと思います。
もう1つは、日本のメーカーを拝見していて、マーケティングという側面から、各社で戦略的に違うなということを感じます。特にモバイルやデジタル家電、サーバになってきますと、DRAMがデバイスの中に占める役割がある意味でどんどんサブシステム化してきます。そうすると、いかにシステム全体を読んで、その中でのデバイスの役割を見通すかという形で、非常に的確で、より詳細なマーケティングができないと、うまくマーケットの動向を見いだせないと思うのですけれども、その辺りでどんな努力をされているのでしょうか。
それから、キャパシティーの増大というときに、半分以上は外で、パワーチップセミコンダクターなどとのコラボレーションがあると思うのですけれども、どういうふうな形でキャパの拡大が同時に進行できるのでしょうか。主にどんなことに気を付けておられるのかをお聞きしたいと思います。
最後に、生産システムに関することで、エルピーダの生産システムは、現状比較しても日本の大手のメーカーとは格段に差があるなという印象があります。旧NECの時代からエルピーダの時代になって、200mmのところ、それからプローブテストのところ、あるいは300mmのところと拝見しますと、これほどまでに生産性が上がるかなというほどドラスティックに上がっています。日本の多くのデバイスメーカーさんもそういうポテンシャリティーは持っておられると思うのですが、なかなかそれがうまく上がりません。なぜ上がらないのかということについて、坂本さんのご意見、ご感想をお伺いできればと思います。

A:

まず1点目はTIの文化というような感じでとらえたらいいと思うのですけれども、私たちがTIにいたときは、基本的にいわれているのは結果主義です。ですから、パフォーマンスが良ければプロモーションされるし、パフォーマンスが悪かったらプロモーションされないと、実に明確です。そこに、学歴や性別や年齢など、そういうことは一切入ってきません。実にクリアに結果主義で判断します。結果に対して、給与やストックオプションやプロモーションが実にクリアに付いてきます。
それと2点目は、モバイルだとかデジタルコンシューマーだとか、そういうふうにやっていますけれども、以前は256メガビットだとか512メガビットだとか、そういう事業部だったのです。それで、一般的にはテクノロジーごとに分かれていました。それを私は、やはりDRAMでもかなりシステムに深く入ってこないと売れず、アプリケーションスペシフィックなDRAMにしないと駄目だということを非常に明確に感じていて、エルピーダに入って4カ月したときに今の組織をつくったのです。システムに非常にフレンドリーな事業部にならないといけないと思っています。それとマーケティングも、その事業部の中にマーケティングも設計も全部入ります。ですから、全体のマーケティングというのは、みんなが集まってきて、そこで議論するというふうになっています。
それから、パワーチップとうちは結果的にすごい投資をし合っていて、いくら投資するかというのは、ある意味で競合会社でもあるし、非常に難しいところがあります。ただ、私たちは契約していて、彼らが流すDRAMの50%はうちが買って売るということで、その50%の部分についてプロフィットをギャランティーしてもらっています。それと、テクニカルトランスファー・フィーをもらってやっています。彼らもそういうビジネスに対しては非常に満足していると思っています。
工場運営についてはこれといった名案はありませんが、うちの工場は相当自動化が進んでいます。これは別にエルピーダになってやったことではなくて、NECの時代からありました。ただ、そのオートメーションというのは、時々うまく動かないとギブアップしてやめてしまうのです。UMCジャパンのときも、オートメーションをやめたら生産能力があと10~15%ぐらい増えるといわれて、私もやめようかなと思って1カ月ぐらい考えました。しかし、ベースに戻ってみれば、やはり日本の給与は高く、自動化を一番やらなければならないのは日本の会社なわけです。それをやらないということは、世界の中で競争のレースに参加しないということに等しいわけです。ですから、自動化はやらなければいけない、それでいろいろと問題があったら、それは乗り越えていかなければいけないということでやっています。それからオペレーションのところは、デイリーレポートを出してくるわけですが、私はその数字を見て、そこに対して自分のコメントを毎日出しています。オペレーターの人から見たら社長からメールが来たというので、彼らからはその10倍ぐらいのメールが来ます。そのたかだか5分ほどの時間がどのくらいのアウトプットにつながってくるのか、私はそういうところを非常に大切にしています。あとは工場の運営ですけれども、唯一東芝だけが、工場出身者が半導体のトップにプロモーションされているのです。それ以外のほとんどの会社は、大体もう定年間近の人たちが、工場の工場長か、工場の社長をやっているわけです。工場というのは半導体全体のコストの6割ぐらいを占める、非常に重要なところなのです。6割を占めるというのは、逆にいえばエクイップメントベンダーやマテリアルベンダーが猛烈にアタックしてきます。私たちは、COOを工場長にしています。6割のコストの責任を持つ工場長をやるというのは、会社にとって非常にいいキャリアプランになります。2000人から3000人いる従業員の面倒を見なければいけないし、財務も、技術も、オペレーションも見なければいけないわけですから、工場長というのは猛烈なキャリアパスになるはずなのです。日本の場合はそこのところを全部ギブアップしてしまっているということで、これは非常にもったいないことだと思います。

Q:

政府の役割でグランドデザインの重要性を指摘されましたが、現代において、こういうグランドデザインなら意味があるのだ、あるいはこういう機能を期待するということについて、もう少し詳しく教えていただけたらと思います。

A:

たとえば「Dead」の会社の中にもキラリと光るテクノロジーやプロダクトがあるはずなのです。そういう部分をどうやって生かしてくるのかです。それと「Loser」のところでは、たとえばマイコンに特化して市場価値を出していくとか、そこの仕事をはずれた者は違う会社に回していくとか、ファブレス会社については、ほとんど同じようなプロダクトポートフォリオでやっているところは整理統合するとかです。また、半導体で小さい会社や中間の会社は、たとえば彼らが持っている非常にキャッシュリッチな製品は残しておいていいけれども、それで残った部分をどこかとつなげた方がいいということで、そういうグランドデザインをちゃんと描くということです。部分的な調整をやって、今の日本の半導体が蘇生できるかといえば、できません。年々悪くなっていくと思います。世界の趨勢は今、DRAMソリューションやフラッシュソリューションからメモリソリューションに移り始めています。そうなったときに、日本の半導体は取り残されていく可能性があるのではないでしょうか。アメリカの会社はお金で動くのですけれども、日本の会社は比較的協力できる部分があるというふうに私は信じています。ですから、そういう面で見て、日本の半導体産業をどういうふうに再構築していくのか、その辺のグランドデザインを描いていくということだと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。