東アジア共同体と日米関係

開催日 2005年11月15日
スピーカー 白石 隆 (RIETIファカルティフェロー/政策研究大学院大学副学長・教授)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)

議事録

はじめに

東アジア共同体と日米同盟というテーマは、おそらくこれまでにもいろいろな人が議論してきたテーマと思いますが、どうもこの2つの間になかなか整合性が取れないのではないかという一般的な理解があるような気がいたします。それで、今日はこのテーマについてお話しさせていただくことにしました。

たとえばこの9月の総選挙のことを思い起こしていただけるといいと思いますが、選挙自身は自民党の圧勝に終わり、新聞等では郵政の問題に争点が絞られて政策論争のない選挙だったというのが一般的評価です。ただ、外交政策について自民党と民主党のマニフェストを見ますと、はっきりした政策の対抗軸というのがありました。自民党の方は「凛とした外交」ということで、毅然として、自分の信ずるところによって外交を行っていくという姿勢で、その上で、日本外交の一番大きな基本は日米同盟にあり、アジア「共同体」については支持するという立場です。ところが、アジア共同体の共同体にはカッコが付いています。それに対して民主党の方は、「開かれた国益」というのが基本的な姿勢で、日米同盟については進化させていくということです。進化させていくということの趣旨は、要するに、アメリカがあまり一方的行動を取るというのは望ましくないので、必要とあれば日本は、日本国民とアジア太平洋の人たちの意を体して物申しますということです。そして、東アジア共同体については支持する。ここの共同体にはカッコは付いておりません。

これは別の言い方をしますと、たとえば横軸に「日米グローバル・パートナーシップ」と取り、縦軸に「東アジア共同体構築」と取ります。そして、横軸の右の方は単なる「Yes」で、左の方は「Yes, but」とします。それから、縦軸は上が「Yes」、下は「Yes, but」としますと、民主党の立場は第2象限に入ります。そして、自民党の立場は第4象限に入るのではないだろうかと思います。もちろんそこでの一番重要なポイントは、もうかつてのように共通の土俵がないのではなくて、共通の土俵はあり、それが「Yes」と「Yes, but」の対立でということであります。こうしてみると日米グローバル・パートナーシップと東アジア共同体ではっきり日本の2つの政党の立場をつかまえることができるということであり、いかにこの2つが日本外交の大きな課題であるかということを示しているように思います。

問題は、どうして第1象限はできないと考えるのかということです。私の今日の話は、それは思い込みでしかなく、うまいインスティチューショナル・ミックスをつくれば第1象限の解を出すことができるという趣旨であります。基本的には、まず東アジア共同体をどういうふうに考えるのか、その上で、日米同盟との整合性をどういうふうに考えればいいのかという形でお話ししたいと思います。

東アジアにおける地域形成のプロセス

東アジアにおける地域形成というのは、たとえばヨーロッパにおける地域形成とは違うプロセスを経て行われてまいりました。そこでのポイントは、ネットワーク型の経済統合にあって、別の言い方をすると、1985年のプラザ合意を契機として、日本の企業、さらには他の東アジアの企業のビジネスのネットワークが地域的に拡大して、気が付いてみたらこの地域の経済が事実上統合されてきたということです。

ただ、その上で少し確認しておきますと、この地域統合というのは単にマーケットの力だけで進展していったのではなく、その基礎に、いくつか政治的なアレンジメントがありました。その1つはアメリカの地域的なデザインです。特にアメリカが、いわゆるハブとスポークのシステムという形で、バイの安全保障の束として、アメリカをハブとしてこの地域につくり上げた安全保障のシステムです。それを基礎とした、いわばアメリカの平和の維持というのが非常に大きな条件でした。2番目に日本の「成長の政治」です。つまり日本が高度成長に成功し、この成長の政治の外延的拡大として、経済協力、それから日本企業の直接投資の形で進出していったということも非常に重要です。そして最後に、アジア経済危機までは、韓国、台湾、さらには東南アジアの国々で、政治を安定させ、経済を発展させ、国民生活を良くして、それがひいてはさらなる政治の安定をもたらす、そういう開発主義の政治がうまく機能していました。その条件の上に、こういうネットワーク型の統合というのが進展してきたのだということです。

東アジア共同体構想の始まり

東アジア共同体というのは、もう随分前からあるように思われるかもしれませんが、恐らく日本の政治家で「東アジア共同体」という言葉を使ったのは、首相ではもちろん小泉総理が最初で、2002年1月に総理がシンガポールに行って、そこで東アジア共同体構築の第一歩として、「日本ASEAN経済連携」を提案したのが最初の事例だと思います。つまり、東アジア共同体というのは極めて新しい考え方であって、もっと前には、マハティール首相が、1990年から1991年にかけて「イーストアジア・エコノミック・グループ」「イーストアジア・エコノミック・コーカス」ということを言いましたけれども、歴史的に見ても、大体そのくらいから構想として始まったと考えてよいでしょう。

では、そういうものがどうして大きな力を持つようになったのか。少なくとも重要なポイントが2つあったように思います。1つは1997年の経済危機です。それ以前には、東アジアで制度的な枠組みをつくることは望ましくない、むしろそんなものはつくらないでマーケットの力に任せて統合を進めていけば、政府が何もしなくてもできるだろうという発想があったと思います。しかし、1997年の経済危機で、やはりそういうわけにはいかないとなり、しかもタイが経済危機に陥ったときに、アメリカ政府が支援の枠組みに入らなかったこともあって、この地域の多くの国々でナショナリズムが高まりました。そういう中で、1997年にASEAN+3の最初の会合が行われ、その後、韓国の金大中大統領の提案で、「イースト・アジア・ビジョン・グループ」がつくられ、それで「イースト・アジア・コミュニティー」ということがいわれるようになってきた。これが1つの流れです。

もう1つは、日本の中で、最初にそれに動いたのは現在の経済産業省だと思いますが、グローバルな通商のリベラリゼーションだけではなく、日本とシンガポールの経済連携ということを、ちょうど経済危機の後に始め、その後、経済連携が日本の通商政策の大きな柱になってきました。同時に通貨協力においても、1997年には日本の主導でアジア通貨基金構想が提唱され、その後、チェンマイ・イニシアチブの形で通貨協力の枠組みが作られました。ですから、少なくとも日本から見ますと、東アジア共同体構想というのは、単に地域的なレベルで起こったことを日本が受け入れたのではなく、まさに国益の追求の一環として日本が独自にやろうとしたことであります。

東アジア共同体構築におけるアーキテクチャ

では、実際に東アジア共同体構築ということでどういうアーキテクチャがつくられているのか。そもそもアーキテクチャの基本にある価値はどのようなものか。たとえば、今回の東アジアサミットのメンバーシップの要件というのは、東南アジア友好協力条約の締約国というもので、この条約の基本的なポイントは、1つは主権尊重であり、もう1つは友好協力です。ということは、主権尊重の上で友好協力をしましょうというのが、共同体の一番の基本的な考え方としてあるのです。そもそもそういうものとして東アジアの共同体構想があるのだということを押さえておく必要があります。

では、実際にどういうアーキテクチャができているのか。まず通貨協力について申しますと、ASEAN+3を枠として、日・中、日・タイ、日・韓国、韓国・タイ、韓国・中国、中国・タイ、中国・シンガポール、こういうバイのスワップ協定の束として通貨協力は行われており、その枠になっているのがASEAN+3でございます。通商協力については、今のところ日本の場合には、日本・インドネシア、日本・タイ、日本・マレーシアのようなバイと、それから日本・ASEANというものと両方やっておりますけれども、全体として見ると、実は日本・ASEAN、ASEAN・中国、ASEAN・韓国、ASEAN・インドというふうなASEAN+1の束として進展しています。それから、東アジアサミットというのは、ASEANと日本・韓国・中国の3と、それからインド・オーストラリア・ニュージーランドの3で、実はASEAN+3+3です。そしてAPECは、これも事実上はASEAN+3、それにアメリカ、台湾、その他が入ってαになっていますし、ARF:ASEANリージョナルフォーラムも同じようにASEAN+3+αになっております。ということは、要するに今、東アジア共同体構築ということでつくられつつあるアーキテクチャというのは、ヨーロッパ連合のように基本条約があって、そのメンバーになるのに非常に多くの要件をきちっと満たさなければなれない、そういう固い、しかもintrusiveな統合体ではなくて、ファンクショナルな、領域ごとの、ネットワーク型の、ASEANをハブとしたメカニズムであるといっていいのではないかと思います。

東アジア共同体構築の背景

主権尊重・友好協力という、ある意味ではshallowなフレームがハブになる、そんなものをつくって何になるのだという議論が当然あります。それにもかかわらず、どうして東アジア共同体構築ということがやられているのかというと、私には少なくとも2つ大きな理由があるように思います。

その1つは、たとえばインドネシアを例に挙げますと、人口約2億1000万で、毎年、大体250万人が新たに労働市場に参入してきます。それだけの人にどうやって雇用を創出していくのか、それだけの経済成長をどうやって達成するかということが非常に重要になってきます。それをやるためには、現にこの地域にあるビジネスのネットワークをどうやって呼び込んで、そこでどうやって産業集積をつくっていくか、それが雇用創出・経済成長の鍵になるということです。そのためには、やはり経済連携、あるいは東アジア共同体構築ということに入っていかざるを得ない、これが1つの理由だろうと考えております。

それから、もう1つ重要なことは、やはり中国にどうエンゲージしていくのかという問題です。中国の経済規模は購買力平価で見れば1990年代の半ばに日本の経済規模を超えておりますし、現在の為替レートで計算しても、遠からず中国の経済規模は日本の経済規模を超えることになります。2050年くらいまで考えれば、中国の経済規模はアメリカの経済規模に近いところまでいくかもしれません。そうすると当然のことながら、地域的にも、グローバルにも、力の均衡を大きく変えていくことになりかねません。そういう中で、では中国にどうエンゲージしていけばいいのか。これは、アジアにおいて21世紀最大の課題だろうと私は考えておりますが、これについて基本的には大きく2つの考え方があるように思います。

中国台頭をどう考えるか

1つは、中国は、やはり中長期的にはヘゲモニックな意図を持っていて、機会があれば、この地域に中国を中心とした秩序をつくろうとするだろうという考え方です。もう1つは、中国というのは基本的にディフェンシブな国で、歴史的に見ても、周辺さえ安定していれば、別に中国のさまざまなルールを外に押し出して受け入れさせようとはしなかった。その意味でディフェンシブなのだという考え方です。この2つでかなり中国の将来についての評価というのは違ってきますが、具体的にそれをどういうところで評価するかといいますと、3つぐらい大きいポイントがあるのではないだろうかと思います。

1つは、ヘゲモニックなインテンションがある、ヘゲモンとしていずれアメリカに取って代わろうとするということであれば、そのときには、たとえばアメリカが現在つくっている地域的な安全保障のシステムに対して、この維持のコストを上げていくというようなことをするでしょうし、あるいは通貨の秩序、貿易投資のルール等についても、自分たちのルールを押し付けてくると考えた方がよい。そこの判断で、中国が中長期的にどういうことを考えているかというのは判断できるだろうと思います。

2番目に、中国の外交あるいは外交的な行動を見てみますと、ここではルールを受け入れるという動きと、それから一方的行動をする動きと両方ございます。たとえば、南シナ海について見ますと、中国はASEANが提案した共通の行動規範というのを受け入れました。これは、2002年に中国とASEANが戦略的パートナーシップで合意し、中国は一方的行動はしないことを受け入れ、実際、フィリピン、ベトナムとは海底資源の共同探査をやる方向で今協議が進んでいると思います。それに対して東シナ海においては、中国は一方的行動をやっています。

3番目に、中国がどういうインテンションを持っているかにかかわらず、中国が経済的に急速に台頭してくれば、その周辺の国はそれに対して当然のことながらさまざまに対応します。それは国家のレベルあるいは政府のレベルで対応するだけではなく、社会のレベルでもいろいろな意味で対応が始まります。たとえば政府のレベルの対応で見ますと、ミャンマーはすでに、事実上、中国の衛星国化しております。それに対してタイは、日本と中国をうまくバランスさせる政策を意識的に、しかもシステマチックに採っていると私は理解しています。また、インドネシアは海を隔てて遠いということもあるのでしょうけれども、あまり戦略的に中国に対応しているようには見えません。むしろ、取れるものはいくらでも取ろうということで、かなり機会主義的な行動をしているように思います。ですから、国によって違いますけれども、かつて中国が閉じていたとき、あるいは中国の経済発展がそれほど大きな意味を持たなかった時代に比べますと、さまざまな意味で、中国が台頭することによって、東南アジアの政府の行動は変わってきております。

同時に、東南アジアの華人は、この20年間で急速に変わりつつあります。こういう人たちの中では今、中国語、英語、現地語のできる人たちがかなり出てきていて、グローバルあるいは地域的に活躍する人たちが増えてきています。ですから、華人問題の性格そのものが変わってしまい、1960年代、1970年代に大きなテーマだった華人の現地化などはもうとっくに終わってしまって、今はどうやって地域化しグローバル化した華人のビジネスを、それぞれの国がもう一遍自分のところにとどめようかというふうな形に転換しております。ですから、その意味で中国の台頭というのは相当に複雑な問題であって、これにどう対応していくかというのが、東アジア共同体ということをいろいろな国が考える大きな理由ではないだろうかと思います。

日本はどう関与していけばいいのか

では、そういう中で、日本はどういう形で東アジア共同体構築に関与していけばいいのか。申しあげたいことは3点です。東アジア共同体を、中国をどうエンゲージするかということの一環として考えるべきだというのが第1点でございます。そこで一番重要な点は、中国が一方的行動をできる限りしないように、WTOのようなグローバルなルールもありますし、東アジア共同体で地域的なルールをつくれるのなら、そういうものをどんどんつくり中国にも受け入れてもらい、ルールに基づいた行動をできる限り広げていくのが、そこでの基本的な考え方かと思います。

それから2番目に重要なことは、この地域における成長への貢献ということで東アジア共同体を考えるということです。これは、すでに政策的にも随分いろいろな形でやられておりますけれども、たとえばベトナム、あるいはタイ、インドネシア、フィリピンか、それから、政治的な条件がうまく整えばミャンマー、そういうところで、日本の民間主導で、それを政府が後押しするような形で、現にすでに広がっているネットワークをさらに深化させ、拡大させ、産業集積というのをつくっていくことが、東アジア共同体を考える上で2番目に重要なことであります。

それから3番目に、アメリカをどうやって東アジア共同体構築の中にエンゲージしていくのかということです。では、そこで何が鍵になるのか。ASEANをハブとして、機能領域ごとにネットワーク型にさまざまのアーキテクチャがつくられており、それを総称して東アジア共同体とわれわれは非常にルースに呼んでいるのですが、実は東アジアにおけるハブというのはASEANだけではございません。もう1つハブがあります。それがアメリカです。では、どうしてアメリカがハブかというと、この地域の安全保障のハブはあくまでアメリカであり、そのアメリカをハブとしてスポークの形で、日・米だとか米・韓だとか米・比というふうな安全保障・基地協定の束として、もう1つ大きなシステムがあります。であれば、重要なことは、アメリカをハブとして他にもさまざまの地域協力のシステムをつくっていくことを、日本が一緒になってやるというのが、実は鍵になるのではないだろうかと思います。

アメリカの役割はさらに中国にどう関与するかということにもかかわります。日本の中で、東アジア共同体構築について「Yes」と言う人と「Yes, but」と言う人がいるのはどうしてか、突き詰めて考えますと、やはり中国の長期的なビヘイビアについて信頼していいのではないかと考える人と、信頼できないという人がいる、そして実のところ中国が長期的にどういう行動をとるかはわからない、中国人も知らない、これが決定的に重要だと思います。ではそういうきわめて不透明な中で日本は中国にどうエンゲージするか、さまざまなルールをつくって、そこに中国を引っ張り込んでいくというエンゲージメントが重要ですが、同時に、抑止、deterrenceということが要ると思います。そのdeterrenceの最大のポイントは、当然のことながら日米同盟であって、そのハブとしてのアメリカをどうやって説得して、この地域の新しい秩序の形成に主導的役割を果たしてもらうかというのが重要になってくるのではないかと思います。

まとめて申しますと、私は楕円を考えるのですが、楕円には中心が2つあります。こういう楕円の2つの中心、ASEANとアメリカが2つのハブになって、ネットワーク型のイシューごとの秩序形成というようなイメージで、東アジア共同体と日米同盟というのを、いわばポリシーの手段として日本としては考えておく必要があるのではないかということでございます。

質疑応答

Q:

ハブはASEANとアメリカだとおっしゃいましたが、実際にアメリカがこの地域に関与することは、中国は牽制する部分もあると思いますし、またアメリカにとってもメリットがないと、なかなか協力してもらえないと思うのですが、その辺の戦略をどのようにお考えでしょうか。

A:

それは非常に大事な点です。私が知っているアメリカの研究者は、安全保障のコストだけ負担してどういうメリットがあるのだという議論をよくしています。ただ、本当にそうか、というのが私の考えです。なぜかといいますと、少なくとも19世紀末以来、アメリカの東アジア政策の基本というのは、この地域にいかなるヘゲモンも許さないというもので、それは逆の言い方をすると、自分たちがヘゲモニックであり続けるということです。それが国策の基本であるのならば、当然アメリカは自己利益の追求のためにこの地域にいようとするだろうし、そのときに、日米同盟で日本が働き掛ければ、アメリカも利益になることであれば、当然のことながらやってくるのではないかと私は見ております。

モデレータ:

ということは、アメリカが乗ってこないのであれば、それはそれでもいいということですか。

A:

それはもう仕方がないです。だけど、こちらはいろいろ知恵を使って、日本の利益になることでアメリカが乗ってきそうな話は、常に考えておかなければいけないということでもあります。ただ、重要なことは、やはりアメリカというのはこの地域において死活的利益を持っているわけです。その場合の死活的利益というのは、単に安全保障だけではありません。日本はアメリカにとっては非常に重要な国なのです。それから、この地域が世界の成長センターとしてこれからも長期的に発展していく可能性は非常に大きいと思いますが、そういうときにアメリカのルールがデファクトのルールとして、あるいはアメリカも受け入れられるようなフォーマルなルールがこの地域で定着していくことは非常に望ましいことであって、それは日本にとっても望ましいことです。そうすると、中国が自分たちのルールを押し付けてくるようなことになれば、当然のことながらアメリカは反対します。ですから、あまり心配する必要はないというのが私の感じです。

Q:

中国の台頭と東アジア共同体の果たす役割についてですが、中国をエンゲージしていくためという面を強調しておっしゃいましたが、確かに、中国の外交姿勢というものが伝統的なバイからマルチのルールに変化していることを考えると、それは理があることだと思うのですが、ただその一方で、中国をヘゲモニックだという見方からすると、この東アジア共同体自体が、この地域における米国の影響力を中和して、中国がその影響力を拡大するためのツールとして使われるのではないかという可能性についてはいかがでしょうか。

A:

そこはまさに外交力の問われるところで、日本政府にはそのために大いに頑張っていただかなければいけないとは思います。ただ中国が、たとえば今回の東アジアサミットを自分たちの都合のいいように使おうとするというのは、これは当たり前の話で、それはそれで仕方がない。しかし、中国が自分たちの都合の良いようにしようとすれば、反対すればよいのであって、その際、他の国々とともにどうやって対抗していくか、それがまさに日本外交の鍵だと思います。
と同時に、非常に面白いことは、たとえばチェンマイ・イニシアチブは、日本がリーダーシップを取って作ったもので、これは日本がなにもしなれば決して動かないものですけれども、少なくとも形の上ではASEANがハブになっています。通商協力にしても、中国・ASEANというのは中国がリーダーシップを取りましたけれども、結局、相手が合意しないとできませんから、結果的にはASEANをハブとしてできているわけです。ですから、あまり中国のリーダーシップということを心配しなくても、結局、相手のあることなので、気が付いてみるとASEANをハブとしたシステムができているのではないかと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。