人口減少社会における労働政策の課題―平成17年版労働経済の分析から―

開催日 2005年9月28日
スピーカー 石水 喜夫 (RIETIコンサルティングフェロー/厚生労働省労働経済調査官)
モデレータ 児玉 俊洋 (RIETIファカルティフェロー/京都大学経済研究所附属先端政策分析研究センター教授)
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議事録

労働経済の分析(分析白書)のメッセージ

今年の白書は、「みんなで働き、支え合う社会をつくるために」を副題とし、3章構成になっています。第1章では『人口の変化と経済社会』ということで、総人口・人口構造の変化が経済社会に及ぼす影響について分析しました。総人口自体が減っていくということもありますが、2007年以降には団塊の世代の人たちが引退過程に入ってくるという、人口構造の動きもあります。また、人口の地域配置の問題を見ますと、団塊の世代の方は実は大都市のベッドタウンに住んでいる方が非常に多いのです。ですから大都市の中で急速な高齢化がこれから起こっていくことが明らかですし、一方で人口減少している地方圏が、構造改革の中でどのように自立をしていくかという問題もあるということで、課題は目白押しです。さらにグローバル化、産業構造の高度化を進めていかなければならないということで、その中で労働政策が果たしてどのような貢献ができるのかを考えてみようという白書です。より多くの人たちが意欲を持って働くことで労働力供給を促進し、そういう人たちが高い能力を発揮して高い生産性を実現していくことが大きな方向性として重要になるだろう、こういう考え方のもとでいろいろな分析をし、政策課題を検討しています。

第2章では「労働力供給の現状と課題」ということで、経済社会の持続的発展に向け、みんなで働き支え合っていくことが重要なのだから、そうしていくために、若者、女性、高齢者を見た場合にどうしたらいいのかという観点から分析をしています。

第3章では「変化する企業構造と雇用管理の課題」ということで、人口減少・少子高齢化時代における企業経営と、そこで働く労働者の実態を分析して、雇用管理の課題を提示しました。ここでは、正規労働者と非正規労働者のかかわりについて議論すべきだと問題提起しています。日本社会が持続的に発展していくために、労働の質を高めていくと考えていきますと、今後も企業の中で職業能力を形成していく日本型雇用システムは一定の役割を果たしていくと思います。その中で、この正規・非正規の組み合わせをどうしていくかということです。

まとめとして、『働き方の見直しと、仕事と生活の調和』ということで、1人1人が十分活躍できるようにしていき、意欲と能力の発揮ができるように、職業能力開発機会を十分に提供していかなければならない。そして、意欲を高め、労働市場に参加してもらった人々に対して、今後の雇用創出分野を適切に洞察して、人材育成、就職支援などの労働市場政策を総合的に展開するということで、このあたりが産業政策と共に考えていかなければならない分野であろうかと思います。

最後に労使関係に対しての問題提起として、『懐の深い雇用システムを目指して』ということです。日本型雇用システムは、雇用を安定させ能力形成を進めていくという点では結構良かったと思います。ただ、日本の労働組合には正規の労働者の組合という性格があり、他の人々を十分取り込めていない、そういう労使関係上の弱点があります。そういう弱点がある中で、日本型雇用システムは良かったといってみても仕方がないわけです。日本型雇用システムの雇用の安定機能と人材育成機能をベースにしながら、より多くの人たちを仲間に入れてパートナーシップを広げていくということを、「懐の深い」という言い方をしてみました。

人口減少の分析と問題意識

ここからは資料に沿ってご説明いたします。

2ページ目は人口減少のグラフで、高齢化率が上がっていくという人口動向、人口構造の観点から、人口減少をテーマにしたという問題意識を表したものです。

3ページ目は出生率です。日本の出生率は非常に低く、このままでいくと人口減少、人口構造の大きな変化は、他の諸国では見られないようなかたちで激しく進行していくことにならざるを得ないでしょう。その辺を見越して、今からきちんと考えておく必要があるという問題提起です。

4ページ目は人口構造です。55~57歳層の団塊の世代は、1960年ごろから1970年代前半にかけての日本の高度経済成長期とに新たに社会に参加した人たちです。大都市圏にたくさん就職してきて、工業部門で新しい技術や生産方式を取得し、80年代の成長を支えて社会の中核となり、現在に至っています。この世代の世代論と戦後日本経済の展開が重なってくるところが多分にあるだろうと思います。

5ページ目は戦後日本経済の展開と人口を見たものですが、15~64歳の生産年齢人口は1995年をピークにすでに減少過程に入っています。ですから、労働力供給の制約という意味からいえば、人口減少というのは未来の問題ではなく、すでにもう現実のものとなっているわけです。労働力人口自体は1998年がピークになっています。

そして、1950年代ぐらいから見てみますと、人口の増加と消費の拡大というのを基軸にしながら高度経済成長が導かれていくわけですが、人口や労働力人口の地域配置という意味でいえば、東京圏あるいは大阪圏に団塊の世代の人たちが大量に集まってくる。その人たちが大都市圏の中で家庭を持ち、都市型ライフスタイルが広がっていく。これが日本の高度経済成長を導く原動力になりました。1970年代の半ばぐらいにいったん成長率が鈍化しますが、大体この時期から出生率が低下していきます。物の生産、経済の成長だけでは、なかなか人々の豊かさが実現できず、家庭生活の豊かさという観点からもいろいろな課題が出てきました。

地域格差の問題

一方で1970年代の半ばというのは、東京圏に人々が集中し、都市型ライフスタイルで成長するということに対して、地域格差の問題が出てきます。それに対して、70年代の後半ぐらいから地方圏への公共投資の拡大というのがありました。確かに労働という観点から見ますと、賃金にしても雇用機会にしても地域格差は縮小していくわけなのですが、さまざまな問題を抱えていくことになりました。プラザ合意、第四次全国総合開発計画があり、公共投資への依存は継続していきますが、バブルの崩壊があり、平成不況を通じて公共投資は見直される気運が高まっています。1995年には経済計画で「構造改革」というものが出てきて、まさに、今までの仕組みについて見直さなければならないことになっている時代状況ではないかということです。

6ページ目は、こういう問題意識を置いて、地域における人口配置の問題を分析しています。これは1950~1970年代ぐらいにかけて、東京、大阪、あるいは名古屋に若い人々が大量に集まってきたということです。そこには地域格差の問題があったし、若い人たちが大都市に集まってくる必然みたいなものがあったわけです。

7ページは耐久消費財についての地域格差を見たものです。耐久消費財は、三大都市圏がやはり普及率が高いわけです。都市に集まってきた人たちがそれを生産し、都市で生活する、世帯を持つことによって需用されていくという循環が生まれていきます。1970年代ぐらいになるとその格差がなくなって、全国一律で普及するかたちになるわけですが、この格差是正の動きは、地域経済が自律的にこうなったわけではなく、公共投資による政府のてこ入れというものが非常に大きかったと思います。

8ページ目の下のグラフは、公共投資への依存度を表したものです。1960年代の半ばぐらいまで大都市圏、地方圏、同じように上がっていきますが、東京圏、名古屋・大阪圏は1965~1970年にかけて下がります。ところが一方で、所得下位の地域については公共投資への依存度が上がり続けます。1人当たりの県民所得は、大都市に人を集めた1960年代は、やはり東京圏と所得下位の地域格差はかなり大きいですが、1975年ぐらいにかけて急速にすぼまっていきます。これは公共事業の展開というものの果たした役割が非常に大きかったわけです。

そういう意味で、日本はまさに国土の均衡ある発展ということで、公共事業が地方を下支えしてやってきました。それで、今でもそこそこの人口を地方圏に配置したかたちになっています。ただ、今日の構造改革論議でも明らかなように、この仕組みは持続しません。しかも人口が減っていくという中で、果たしてどうしていったらいいかという大きな問題があるわけです。

地方の労働生産性の問題

9ページの人口密度と労働生産性の関係を見ますと、やはり人口密度が低いところは労働生産性も低いのです。しかも地方圏は高齢化、人口減少の中で十分な労働力供給も確保できないのが明らかなわけですから、果たしてどうしていくのかという問題があります。この分析でいくと、人口密度が1平方キロメートル当たり500人を超えていれば、ある一定の生産性を確保できますが、それ以下のところは十分な生産性の確保ができません。人口減少の中で一定の生産性を確保していかなければならないのであれば、何らかのかたちでの産業集積を活用して、国の生産力を上げていかなければならないという問題提起です。

ここは各省調整で国交省とかなり議論したところですが、最終的にセットした表現は、「地域における人口減少の与える影響を軽減させるために、中心的な都市の集住・集積の利益を活用することは考えうる1つの方法であり、社会資本の効率的な活用という観点からも、居住区域に一定の地域的なまとまりを持つことが有効だろう。仕事があるところに人が移動していくことは、わが国全体の生産力を上げるという観点から評価できるものであり、円滑な労働移動を支援していくことが政策課題として重要である」としております。わが労働政策では、それぞれの地域にどうやって雇用開発をするかという議論になりがちな中で、地域間の労働力配置ということをまじめに考えた上で、「動かしていく」という問題意識を持たなければならないということをはっきり文章にしたというところは、結構踏み込んだと思っています。

大都市圏の問題

10ページ目は大都市圏の問題です。団塊の世代の方たちが高度経済成長期に東京、大阪、名古屋にたくさん入ってきておられ、そういう人たちが世帯を持って子供を生み育てるとなったときに、やはり大都市中心部では教育環境あるいは住環境としてもよくありませんので、ベッドタウン地域に居を構えて、平日は長い時間をかけて通勤をしているということになります。いわゆる会社人間とイメージされるこういう方たちが引退していくとどういうことになるのかということは、大都市の中で考えなければならないのではないかということです。

11ページは、地域別に見た休日の活動状況(男性)です。ベッドタウン地域の男性は、趣味・娯楽・スポーツとか、学習・研究というかたちでご自身でいろいろ活動することについては割とかけている時間がありますが、交際・付き合い・ボランティアというものの活動は割合が少ないです。団塊の世代の方が地方出身でベッドタウンに住んでいるということだとすると、もともとその地域のコミュニティではありませんし、しかも会社人間でやってきています。こういう人たちの退職後、どうやって社会で受け入れていくのか。また、社会で受け入れていくということ以上に、その地域社会が形成されていないわけです。ですから意識的にそういうコミュニティもつくっていかなくてはいけないという課題があります。

次は13ページです。これからどういう産業で雇用創出をしていくかということで、私どももここ3年ほど、ヒアリングやディスカッションをしながら雇用創出の研究をしてきました。これからの雇用創出分野というのは、「技術革新に伴い新たな事業分野が生まれたり拡大することによって雇用が拡大する分野」、「所得の向上に伴って、選択的で質の高い消費が生まれ、それに対して影響される製品やサービスの拡大によって雇用が増える分野」、「少子・高齢化の進展や環境問題の深刻化など社会の動きに対して、新たなビジネスの形態が生み出され、その成長によって雇用が拡大する分野」の大体3つぐらいに分かれてくるというイメージを持っています。特に3番目の分野とのかかわりで、コミュニティ・ビジネスということに注目して分析もしてきました。

日本の雇用システム

14ページは労働力供給の推計と社会の展望ということで、人口減少の議論をしますとマクロの需給はどう考えるのかという議論になります。かいつまんでいうと、労働力人口の減少は2000~2005年で既に0.5%の減少です。労働力の供給という観点からは、人口減少というのは既にもう現実のものとなってきています。それぞれの年齢階級、性別ごとに労働力率を一定とおいて、特に政策的な後押しがない場合で労働人口がどれくらいになるかという推計ですが、たとえば2030年にかけても年率でマイナス0.7%になります。このレベルであれば労働政策によって労働力率を引き上げていくとか、あるいは技術革新によって生産性向上でカバーしていくということで、十分吸収できる大きさの問題だろうと思います。

それとのかかわりで外国人労働問題ですが、人手不足になるので外国人労働者を導入していかなければならないという主張もあり、産業政策局とも随分議論をさせていただいています。最大のポイントの1つとして、在留資格の範囲をこれからどのように考えていくかということがあると思います。現在、専門的・技術的分野に該当すると評価されていない分野への在留資格の拡大については、当該分野で就労を希望する日本人の就労機会や、本来当該分野で育成されるべき若年者の能力向上の機会が、阻害されることにならないかという懸念があります。一方で、受け入れの経済的メリットを考慮すべきという意見もあり、わが国の労働市場の状況を十分踏まえた上で対処する必要があるということで、引き続き、経済的なメリット、経済運営における意義も意識しながら、議論させていただきたいと思っています。

次に24ページ、社会的に議論を深めるべき正規・非正規の組み合わせというところです。人口減少社会の中で、継続的に労働力の質を高めていかなければならないということは明らかですが、非正規従業員の増加が、労働者の職業能力面での二極化、ひいては所得の面での二極化を生み出す危険を意識しながら、社会全体として、正規・非正規の組み合わせや、そうした区分のあり方そのものについて議論を深めていくことを求められるだろうという問題提起です。

25ページは労働政策の3つの主要課題ということで、今まで議論してきた課題と政策の方向性について、「働き方の見直しと仕事と生活の調和」、「意欲と能力の発揮に向けた職業能力開発の充実」、「労働市場政策の総合的な推進」ということでまとめています。

最後に、わが国の雇用システムについてですが、人口減少というのは、日本社会、特に戦後社会にとって、大きな転換点であることは間違いありません。日本型の雇用システムが戦後社会の中で形成されたものであるとすれば、こういう大きな転換点を迎えて、日本型雇用システムをめぐる評価が大きく変わってくる、あるいは意見が分かれてくるというのは、やむを得ないこととも思います。ただ、労使の間で話し合いをし、システムの形成について労働政策もかかわりながら戦後きておりますけれども、雇用システムについては、今まで雇用安定機能をどのように維持していくか、あるいは人材の育成機能をどのように高めていくかということは、国の政策としてどのようにサポートしていくかということも含めて、議論をして、さまざまな仕組みを作ってきているわけです。人口減少の中で、労働力の質を上げていくという方向性とのかかわりでは、基本的にはその方向は適っており、決して違うベクトルではないと思います。

日本の雇用システムは、労使の努力によって雇用安定と人材育成の優れた機能を有しているので、こうした機能を活かしながら、1人1人の個別的な労働関係にも対応できる懐の深い雇用システムを目指していくというのが、大きい意味での方向になるのではないかと結んでいます。

質疑応答

Q:

今は非正規雇用者が増えていることが問題になっており、賃金や社会保障などの面で非常に不利にできているので、将来は「正規社員で雇ってくれ」と言ってくるのでしょうか。その場合に、あまり能力の高くない者も正規雇用せざるを得なくなるという現象も起こってくるのではないでしょうか。したがって、日本の生産能力を維持したり高めたりするためには、限られた労働力人口の中で、能力のある人間をいかに増やすか、全員の能力をいかに増やすか、それが課題になってくるのではないかと思います。その点については、どのようにお考えになっていらっしゃいますか。

A:

1990年代の半ばぐらいから、非正規従業員は継続的に増加しており、パート・アルバイト・派遣社員などが増加してきています。これは、経済情勢の問題ももちろんあるのですが、1990年代の半ばに雇用ポートフォリオということで、経営側の方々も、たとえば「新時代の日本的経営」というかたちで問題提起をして、こういう方向を推し進めてきました。それをめぐるさまざまな雇用の制度改革もありました。少なくとも現行の制度を前提とすると、増えこそすれ減ることがあるとは私には思えません。
正規従業員を機軸において、高度な人材育成、高度な人材を抱えながら物を作っていくというのは、グローバルな産業競争の中で非常に難しい状況になっているそうです。製造業でも弾力的な生産調整もしないといけないし、賃金コストも削減しないといけない。そういう中で、どうしても非正規従業員に頼らないと物づくりはやっていけない。それが、ある段階までは賃金コストを削減していくことにメリットがあるのだけれども、たとえばよい品物を作るとか故障率をできるだけ減らすとかいう観点から言ったときに、いろいろな問題が現場で出てくる。けれども、なかなかこれに替わる仕組みが作れないというわけです。職安の現場で見ても、労働者は何とか常用の仕事に就きたいと思っていますが、やはり非正規の求人がどんどん増えています。
労働能力の向上がポイントになるのではないかということは私も同感です。ですが、パッチワーク的に細切れ雇用でつなぎ合わせて労働するような人が増えていったときに、なかなか生産性や労働力の質の向上といっても難しいです。ですから、人手不足に導かれておのずと正規になっていくということではなくて、少し戦略的に長期的な雇用システムと正規雇用の求人の拡大ということについて議論をしていかないと、なかなか転換していかないのではないかと思っています。

Q:

外国人労働者について、私が考える基本的な問題は、言葉の問題や日本社会との溶け込みの問題、保険医療の問題、社会保障の問題です。今、これらの問題は、まだほとんど手付かずになっていると思います。人数が多くなってからではなかなか解決策を探すのが難しくなると思いますから、少ないうちから関係省庁が合わさって検討していく必要があるのではないかと感じます。その点はどんな検討が行われているのか、いないのか、お聞かせいただければと思います。

A:

少ないうちから受け入れについての考えを深めておくことが大切だということは、これは一般論としてはその通りですが、少し労働力供給や労働市場についての見極めの違いがあるのかもしれません。失業者が現段階においてもかなりいるわけです。この失業者にどういう能力を付与して就職させていくか、労働力として活躍してもらうかということを考えなければならないという、こちらのほうが、労働行政としては政策課題としてプライオリティは高くなるという点があります。
いろいろな社会コストの問題についてご指摘がありましたが、これはまったく同感です。社会保障、教育、治安、産業競争力、地域対策の観点から国民的なコンセンサスを踏まえた上で判断することが必要であり、発生する社会的なコストをどうやって負担し合うかという問題があるということまで踏み込んで議論していかないと意味がないことだと思います。

Q:

団塊の世代が一斉に退職すると、労働力市場の過剰感というのは払拭されるのでしょうか。トータルとして労働力率は減るでしょうが、そんなに雇用は増えないのですから、あえて労働政策や産業政策等で雇用の絶対量を増やすという努力をしなくても、むしろバランスが取れてくるのではないかという考えに立つべきでしょうか。労働力市場全体の需給の長期的な展望という点で、どうお考えになり、そして団塊の世代がいなくなるという中で、少なくとも日本の労働需給は大幅に正常化すると考えたほうがいいのかどうか、その辺はどういうふうにお考えでしょうか。

A:

長期と短期の問題を分けて議論する必要がありますが、短期で現状を見た場合、やはり現在の失業の水準というのは大変高い水準だと思っています。それから人出不足につきまして、確かに雇用過不足の人員判断は不足が増えてきておりますが、われわれの職安のほうで常用求人とパートタイマーの不足を見ますと、明らかにパートタイマーの不足を訴えているのです。常用の不足は高くなっていません。1980年代から1990年代前半ぐらいまでにかけて、わが国において人手不足という場合は、明らかに常用求人の不足を訴えていたのです。ところが現状の人手不足というのは、非正規雇用の部分について人が集まりませんというかたちなのです。ですから、この姿で本当によいのだろうかと。そして、これを人手不足と称して、産業人が望むようなかたちでロットとしての供給を集めなければならないという問題の立て方でいいのかどうか。ここは議論しなければならないと思います。
それから、団塊の世代はニートとのバランスでいきますと、高齢者の雇用は非常に改善してきています。つまり企業において、ニート、フリーターと呼ばれている労働者よりは、きちんと能力の蓄積があって、社会、会社にも貢献してきた労働者のほうがいいのです。2007年問題というのは60歳退職というのを前提にして議論されていますが、企業が雇用延長に取り組む中で制度的にもこれはかなり違うだろうと思います。企業は、必要な人材は、高齢者については継続雇用というかたちで確保していくということになると思います。若年者をめぐる雇用環境は引き続き厳しいのではないでしょうか。
さらに、長期を見た場合には、経済理論の助けを借りて推論していく必要があり、私はJ.M.ケインズの1397年講演「人口減退の若干の経済的結果」に注目しています。人口減退下の自由主義市場経済は長期停滞に陥る可能性が高いので、今後の公共政策の再構築に向けて霞が関でも大いに議論する必要があると思っています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。