日本企業の進化型~日本発の先端的人材・組織モデルとは何か

開催日 2005年9月15日
スピーカー 淡輪 敬三 (ワトソンワイアット株式会社代表取締役社長)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)
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議事録

日本企業の今

日本企業で今いわれていることは、まず伝統的日本企業モデルの限界です。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」時代の組織・人のモデルは当時最高といわれましたが、さすがにそれも限界にきたようです。それがはっきりしてきたのはここ10年ぐらいで、日本の特徴は「強い現場」ですが、それだけでは勝てない分野が拡大してきました。典型的なのがデジタル分野です。アナログ的なことがかかわっている自動車は勝っていますが、こういう分野のほうがむしろ特殊だと思います。

また、国内での成長が頭打ちで営業所も増えない、人の流動性もほとんど定年になった人がやめるだけという滞った状態だと、人は成長しません。すると明らかに活力が落ちてきます。ここにグローバル化の必然性があります。そしてグローバル化するならそれぞれの国の事情がありますから、日本でうまくいった人材モデルをそのまま当てはめてもうまくいきません。

最近は成果主義がいわれていますが、一方日本型への郷愁も根強くあります。しかし、もう後戻りは無理だと思います。世代間の違いがあって、どんなにヘタな成果主義でも30代の評価は高いです。40~50代の評価は低いですが、たぶん成果を突き詰められると困る人がたくさんいるからでしょう。でも最近は人事の仕組みもIR上重要になってきていて、海外の投資家に「ちゃんと成果をはかっているのか」と聞かれた時に、「いや、日本の人事は違いまして、村社会のようなものでして」などと説明しても通用しないわけです。

次に、企業の存在意義という、根本からの自問・自答が必要になってきたことです。伝統的な価値観が現在の変化の激しさにより見失われ、経営者が悩み出しています。グローバルで勝負するのか、地域密着でいくのかなど、考えざるをえない状況です。たとえば自動車を例に考えると、中国とインドがモータリゼーション化し、人口の4割が車を持つようになると、ハイブリッドカーにしても資源的にもたないし、温暖化の観点でも耐えられなくなります。このまま自動車社会を進めていっていいのかと考えざるをえません。企業は地球号に乗っている人類にどんな価値を提供するのかということが問われてくると思います。

そのような社会と企業との関係のほかに、企業と個人との関係があります。企業価値をどの辺に設定するかということがすっきりしないと、人事でも方針が定まりません。これはあらゆる組織でおきていることで、役所も例外ではありません。存在意義を昔のモデルからどう次のモデルにバージョンアップするかというのは、全ての組織の課題ではないかと思います。

もう1つ、グローバルマーケットからのプレッシャーと新成長機会の出現があります。資本市場がグローバル化してますので、CSRやコンプライアンスの圧力はますます強まるでしょうし、ガバナンス体制の革新も求められます。M&Aに関しても、先日のライブドアとフジテレビの一件がワイドショーで取り上げられている、ちょうど同じような状況が20年前のアメリカでも見られました。ということはこれからM&Aがさらにショートカットされたような形で、日本で起こることが予想できますので、その対応が必要です。そして、マーケットとしてはBRICsが勢いがあり、東欧も潜在力があります。今成長モデルとして我々が注目しているのは台湾、香港、中国沿岸部で、日本人は中国標準語ができないのがネックとなっています。

新たな芽と不安

日本はバブル崩壊後、「失われた10年」といわれましたが、その間でも生み出されたものはありました。カーナビ、携帯電話、デジカメなど、これらの技術的優位は明らかでしょう。あと「Japan cool」のコンテンツ、アニメーションやマンガなどがあります。高速ネットも遅れているといわれていたのに、あっという間に追いつきました。「失われた」のは、自動車と機械を除く、それまで主役だった産業で、周辺ではかなりのものが生み出されているのです。パチンコ業界やオンラインゲームなどエンターテインメント関連で、世界の覇権を狙えるような企業も出てきています。

これから楽しみな面もある一方、今のままではいけないと思うのは、これから日本の社会構造の激変が予想されるからです。

1つは少子高齢化、人口減少社会の到来です。ただし、人口減少社会ではインフラに投資しなくてよくなるので、その分文化に投資され、発展するのではないかという明るい見方もあります。歴史上では、ルネッサンスの頃と江戸時代の町文化がこれに当たるのですが、どちらもペストや飢饉で人口が減少していました。金持ちがさらに大金持ちになって、芸術家のスポンサーになり、絢爛たる文化が生まれました。しかし普通に考えると、マーケットが全て縮小するのですから、今までと同じ事をしていたらマイナス成長になるわけです。

2つめには、希望格差社会、二極化も大きな問題です。小学生高学年に「自分は親の世代より豊かになると思うか」と聞くと、60%近くが「ならないと思う」と答えています。中流の数が減ってくるのです。こういう諦めの気持ちがニートやフリーターの増加につながっていき、社会全体の活力が下がります。

3つめは、多様な「異質」との接点拡大です。かつてに比べると外国人労働者が増えていて、日本人もだいぶ慣れてきていると思うので、それをどう活かすのかがこれからテーマになると思います。

「成果主義」の過去から未来

ここで、少し「成果主義」について取り上げたいと思います。成果主義も、1990年代は「賃金」成果主義だったのが、2000年の頃は「人事」成果主義になり、今後は「経営」成果主義というように変わっていくと思います。

どういうことかというと、1990年代は高度成長も終わり、しかも団塊の世代がこれから50代になるというところで、このまま年功賃金でいくと利益が出ないということが見えてきました。そこで人件費適正化のため、アメリカからヒントを得て導入したもので、実際は賃金抑制のためだったのです。

それが2000年頃からは、企業も変革を求められるようになったので、企業の抱える課題に対する取り組み方で評価に差をつけ、目標達成への動機付けとして行われました。

しかしこれからは、それぞれの企業がどう事業を変革したいかによって違ってくると思うのです。それを担う人材はどんな意識を持って、どう動いてほしいのかを考え、そのためにはどんな成果を追求するかということになるので独自性が出てくると思います。業態によっては年功賃金がよい場合もあるでしょうし、アメリカ型がよい場合もあるでしょう。

「成果」の定義は難しいです。同じ企業であってもその事業の立ち上げ、ビジネスモデル確立、スケール拡大のそれぞれの時に求められるリーダー像は違ってきます。

立ち上げの時に一番必要なのはパッション、情熱です。これはゼロから1をつくる、「0-1型」人材、アントレプレナー型です。ビジネスモデル確立期は、いわゆるリーダーシップが大事です。先頭に立ってコンセプトをみんなに伝え、組織をつくります。「1-10型」人材、エッジ型リーダー人材で、ファンもできるが敵もつくるというタイプです。それがスケール拡大期には、「10-100型」人材、CEO人材が必要で、マネジメントができないといけないのです。

リーダー人材もこのように変わっていくのですから、一律の「成果」では捉えられません。「成果」を定義するのは「経営」の責任で、経営者が成果を定義しなければ、組織はどうしたらいいか分からなくなり、成果主義は機能しません。

日本型組織の変革全体像

では、ここ何年かの日本型組織の変革全体像をまとめてみますと、まず、プロ型組織・人材モデル指向です。かつてのようにスクラム組めば勝てる時代ではなくなってきて、その道のプロが必要とされています。特に金融やマーケティングなどはプロがいるといないとでは差が大きくなります。プロ指向になると「何年会社にいたか」より「プロとして一流か」が大事になるので、序列マネジメントは否定され、「自由と自己責任」原論がでてきます。これは専門職制度という形で導入されたところもありますし、サービス業などでは伝統的雇用形態をやめ、全体をプロ型組織に変えたところもあります。

もちろん全ての組織がこうなったわけではなく、次に、「仕組み型組織」と「アメーバ型組織」というのがあります。「アメーバ型」というのは組織図がなくて、プロがチームで集まっているもので、目標を順に変えながらビジネスモデルをつくっていきます。「仕組み型」は決まった商品をしっかり売るというもので、トヨタのような例です。どの企業でもこの2つが必要になっています。医薬品などを例にとると、開発の部門はアメーバ型です。しかし営業は医者との関係を積み上げるのが大事ですから、仕組み型組織になります。この2つを両立させないといけないわけで、生産性改善とイノベーションの同時達成をめざすような、かなり難しいことをやることになります。

そのほかに、ガバナンス改革やグローバル化対応「日本型モデル」の模索などがあります。

日本企業の機会と挑戦

ところで、最近の傾向として、象徴的だったのはアパレル業界のワールドが上場廃止したことです。彼らにとって、市場から資金を調達する意味がなくなってきていたのです。いまや資本コストを上回るような超過利潤を生み出す機会は極めて少なくなっていて、金が金を生むようなメカニズムがある意味もう過ぎてしまったといわれています。これから資本主義で大事なのは、リスクの高いところにお金を供給することです。つまり未公開企業にとっては必要ですが、公開してかなりの知名度を得るともう未公開でも困りません。アパレル業界では人材が付加価値の源泉ですから、株主還元より、リターンは内部で分け合ったほうがいいということで、パートナーシップ制に移行したわけです。

日本の企業の構造がだいぶ変わったのだと思います。事業戦略より人材構想のほうが大事になって、人材育成機能が問われるようになってきています。頭の使いどころをかなり「人」と「組織」に切り替えないといけません。その点、日本企業は欧米の企業より、人の理解の仕方は深いので人材構想では先行しているのではないかと思います。アジアなどで欧米型人材マネジメントをすると、最終的にあまりうまくいきませんし、日本企業は地元になじみ、尊敬を集めているところがかなりあります。

「日本的経営」の進化

それで、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」再興として、まずは自問自答し、原点回帰をはかるのがいいと思います。会社は株主のためにあるのではないと、私は思うのです。そういう考え方では欧米との競争に勝てないと思いますし、むしろ、もっと次元の高い考え方があるのではないでしょうか。ステークホルダーとして株主だけでなくもっと全体を考えるというのは、日本のよい特徴だと思いますし、もっと自信を持っていいと思います。

もう1つ、世界化のエンジンとしては、トヨタのように「日本的経営」で突出し、グローバル化することです。トヨタほど強烈な思想でなくても、日本的要素を重要視し浸透させながら、多様な文化も少し組み込むような経営をするのがいいと思います。

日本的要素で最も特徴的なのは、顧客と社員に対する長期コミットです。日本では「お客様は神様」ですが、欧米では違います。

あとはプロセス磨き重視です。無駄なものを取り除き、本質的なプロセスをつくります。欧米では途中はあまり気にせず、あくまで最後が大事です。商品をプロセスで作り込むのは、職人文化の1つの価値観だと思いますが、これが商品のクオリティ・マネジメントにすごく効いています。

徹底したチーム主義というのもあって、日本の企業では、チームの誰かが失敗するとほかの人が役割を変えてカバーするという柔軟性があり、これがいろいろなイノベーションを起こすパワーになっていると思います。欧米では結果を出せないと排除されて、新しいチームになってしまいます。

ただ、このように人に長期コミットし、徹底してチームでやり、暗黙値をベースにすることは、リスクもあります。まず意思決定のスピードが遅くなります。それから相互依存、甘えが出て、不活性になりますので、その辺を成果主義でカバーするといいと思います。

最終的に最もよいのは、日本的経営に欧米から付加したモデルで、「アタマがGE」「足腰がトヨタ」モデルだと思います。経営陣はトップダウンで意思決定をスピード化し、それを受けとめるほうはPCDAサイクル(計画、実施、評価、改善)をまじめに行うというかたちです。

今後の「人」の課題は、まず経営視点では「コア人材」という概念が必要です。今までのモデルだと「全員一緒」だったのですが、それはもう無理だと思います。競争力の源泉を担うような人材が必要で、そのような人材を惹きつける「場」をデザインしないといけません。また、その企業にとって大事な価値観は磨きをかけて「純化」し、そうでもない部分では「多様性」を受け入れるというバランスが必要です。

また環境変化に対応するものとしては、少子高齢化に対応した「エイジレス」「ジェンダーレス」人事運営、非正規社員の動機付けとマネジメントが必要とされます。いろいろな国の人もさらに増えると思いますから、異質で多様な文化チームからの価値創造、また、アジア市場の重要性に対応したアジア人材基盤の構築、グローバル対応の新たなリーダー群の開発などがあります。それからM&A対策も必要です。

「政策」への意味合い

最後に、「政策」への意味合いということで、私の仕事についてお話しします。

私は経営に、「変化」「ダイナミズム」を埋め込むことをします。人事制度などでもあまりがっちりしたものをつくると変革の妨げになります。どれだけ頭を柔軟にして、あとからの修正を可能にしておくかが大事です。私はわざと「穴」をつくるようにしています。そうするとその穴を埋めたいという人が現れ、かえって組織の見直しが起こります。

それと、何が起きているのか、徹底ディスクロージャーをはかります。みんなから見えれば「市場原理」が働き、「修正」が起きます。これが変化を起こす二大原則です。

3番目に大事なのは、人材の流動性を常に確保することです。「滞れば濁る」もので、変革リーダーが守旧派に転じてしまいます。居心地のいいポジションに着いてしまうと、それを守ろうとして変化が遅れ、その組織の存在意義がなくなってしまうのです。リーダーが適切なタイミングで流動することには常に注意を払います。

あとは、国内を視野に考える癖がついているのを、少なくとも北アジアは視野に入れて考えるようにすることが大事だと思います。企業はこのような方向に向かっていますので、政策発想もその辺を意識するといいのではないかと思います。

質疑応答

Q:

少子高齢化社会に向かって、もっと女性の力を活かさないといけないと思いますが、日本企業にはまだ偏見があるようです。それについてはどうコンサルティングされていますか。

A:

先端的な企業では既に性別関係なく、本人の実力で判断されていると思います。かえって女性のほうが勉強熱心で、専門職、研究職などは女性のほうが多いくらいです。ただ、出産時がネックになっています。我々のテストでは、その期間中も週1回でも働けば連続性がもてることが確認できています。ですから、いかに連続性をもたせるかが課題だと思います。また、もっと出産をポジティブに考えられるような社会的バックアップも必要です。ただ、先端のところと遅れているところとで格差がさらに拡がりつつあると思うので、女性の戦力化にもっと取り組んだほうがいいところもあると思います。

Q:

本日は日本企業についてお話しいただいたわけですが、欧米企業はどのような状況なのでしょうか。

A:

欧米では個人主義で自己責任が当たり前ですので、あまり国の政策とは関係なく、就職・転職もどんどん自分で動きますし、自分の将来のキャッシュフローがどうしたら最大になるかを個人が考えているという世界なのです。日本よりずっとお金が中心で、それで人が動きます。日本は「武士は食わねど高楊枝」というような精神があって、若い世代ではよく分かりませんが、お金を中心に人生を考えてはいないと思います。共通したものを感じるのはアジアで、中国はちょっと違いますが、韓国などはそうです。企業も文化とのかかわりが大きいですから国によっていろいろですし、一概にどれがよいとはいえないと思います。また、ヨーロッパで感じるのはいまだに階級社会だということです。企業も未公開あり、パートナーシップありと多様です。

Q:

いろいろな企業のコンサルティングをされて、実際に変革するのは難しいこともあると思いますが、今までの経験からみて、いかがですか。

A:

既成業種は難しいことが多いです。特に難しいのはマスコミで、それは言葉の問題があるので外国からの参入が少なく、競争が少ないからではないでしょうか。危機意識がある企業は変わることができます。あと大事なのはトップで、トップの意思が明快で納得感があればいくらでも変革できます。みんなで話し合って変わるというのはやはり無理で、トップが宣言してやりきるということです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。