金融改革プログラムについて

開催日 2005年3月1日
スピーカー 川上 尚貴 (金融庁総務企画局政策課政策調整官)
モデレータ 植村 修一 (RIETI上席研究員)
ダウンロード/関連リンク

議事録

わが国の金融を巡る環境変化

バブル崩壊を受け、わが国で不良債権問題が顕在化したのは、平成5(1993)年頃のことでした。そして平成7(1995)年に戦後初めての大きな銀行の破綻として兵庫銀行破綻があり、平成9(1997)年には北海道拓殖銀行、山一證券などの破綻、平成10(1998)年には日本長期信用銀行、日本債権銀行の一時国有化などが起きてきます。これを受け、平成8(1996)年の預金保険法改正をはじめ、セーフティネットを整備してきました。平成10(1998)~11(1999)年大きく2度にわたり、大手銀行に公的資本を注入し、平成11(1999)年9月以降、地方銀行・第二地方銀行にも注入しました。

平成12(2000)年金融庁が発足し、その頃から金融機関の破綻が少なくなってくると、次には、日本の経済立て直しのために根本の不良債権の額を減らしていくというフェーズになりました。平成13(2001)年4月の緊急経済対策あたりからこの流れが始まり、平成14(2002)年10月「金融再生プログラム」ができました。本日お話しする「金融改革プログラム」はその次のフェーズを画するものとして、昨年12月金融庁が策定・公表したものです。

「金融再生プログラム」は、不良債権問題の解決と構造改革の推進は「車の両輪」との認識の下、主要行の不良債権問題解決を通じた経済再生を目指しました。日本の金融システムと金融行政に対する信頼を回復し、世界から評価される金融市場を実現するため、平成16年度には主要行の不良債権比率を半分程度に低下させ、問題を正常化することを目標としました。その後、主要行の不良債権比率は、平成14年3月期の8.4%から同16年9月期4.7%まで下がり、「再生プログラム」の目標は射程内に入ってきています。

このプログラムは主要行を対象としていますが、中小・地域金融機関の不良債権処理については、別途、平成14年度内をめどにアクションプログラムを策定することとされ、これは「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」として、平成15年3月に策定・公表されました。リレーションシップバンキングとは、長期継続する関係の中から、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性などについての情報を得て、融資を実行するビジネスモデルのことです。具体的には、「金融再生プログラム」と同様、平成16年度までの2年間を「集中改善期間」とした上で、まず中小企業の再生と地域経済の活性化を図るための各種の取り組みを進める中で、不良債権問題も解決しようというものです。

このような別のアプローチが採られた理由としては、地域の中小企業には、抜本的な企業再生手法の選択肢、人材の利用可能性などが限定的であり、無理な処理を強いると、本来再生可能な中小企業まで廃業・清算に追い込まれる恐れがあり、地域経済に重大な影響を与えかねないことが挙げられます。このアクションプログラムは多岐にわたりますが、大きく分けると、中小企業金融再生に向けた取り組みと、健全性確保、収益性向上等に向けた取り組みに分けられます。

実施状況は半期に1度、当局が取りまとめて公表しているのですが、平成15年度~16年度上半期の概要では、着実に進捗がみられます。まず、地域銀行の経営改善支援により、債務者の約2割(約7300先)が業況改善し、経営情報やビジネスマッチング情報を提供する取り組みについても、着実に推進しています。また、約8割の地域金融機関が担保・保証に過度に依存しない融資を推進し、その中で、スコアリングモデル(信用格付けモデル)を活用した融資が幅広く普及しました。デット・エクイティ・スワップ(債務の株式化)、デット・デット・スワップ(債務の劣後ローン化)等の手法や企業再生ファンドを活用した企業再生についても着実に増加しています。地域金融機関の不良債権動向をみましても、着実に比率は下がってきています。

このような中、1度緊急時に膨らんだセーフティーネットも整理されてきました。現在は、システミックリスクのおそれがある場合に限って発動される預金保険法102条の仕組みと、国の資本参加によって金融機能の強化を目指す金融機能強化法の枠組みだけに純化されてきています。

そしてセーフティネット最後の懸案がペイオフ解禁です。平成8年預金保険法を改正し、同13年3月まで預金の全額保護をうちだしました。その後期間が1年延長されましたが、同14年からは定期性預金についてのペイオフ解禁、そしてこの4月から一般預金も解禁となり、元本1000万円までとその利息のみの保護となります。ただし決済用預金(無利息、要求払い、決済サービスを提供できる、という3要件を満たす預金)は引き続き恒久的に全額保護とされます。この決済用預金について、本年1月現在での各金融機関の準備状況は、導入済みおよび検討中・準備中を合わせると97.3%になり、準備も整っているといえるでしょう。これが4月から順調に実施されれば、セーフティネットの整理が一応完了します。

「金融改革プログラム」のポイント

〈基本的考え方〉
「金融改革プログラム」は、「金融再生プログラム」の後を受けて、金融庁が昨年末に策定・公表した平成17年4月からの2年間に実行すべき新しい金融行政の指針です。今までの、不良債権問題への緊急対応を中心とした「金融システムの安定」を重視した金融行政から、「金融システムの活力」を重視した、将来の望ましい金融システムを目指す未来志向の行政に転換を図るものです。
望ましい金融システムとは、いつでも、どこでも、誰でも、適正な価格で、良質で多様な商品にアクセスできる金融システムといえます。そして、不良債権処理はどうしても「官」主導になりがちな面もありましたが、今度は「民」の力を軸としてこれを実現していきたいと思っています。魅力ある市場を創設し、「貯蓄から投資」への流れを確実とすることもうたっていますが、これは投資家の選択肢を拡大するとともに、銀行にリスクが過度に集中するという構造の是正にもつながるものです。これらを総称して、「金融サービス立国」の実現といったキャッチフレーズも使わせていただいています。「金融サービス立国」への挑戦に当たって5つの視点を挙げました。もっとも重要なのは、利用者ニーズの重視と利用者保護ルールの徹底です。それに続いて、ITの戦略的活用等による金融機関の競争力強化および金融市場インフラの整備、国際的に開かれた金融システムの構築と金融行政の国際化、地域経済への貢献、信頼される金融行政の確立が挙げられます。

(1)利用者ニーズの重視と利用者保護ルールの徹底
金融商品・サービスの提供・販売体制の充実を図ります。平成16年12月から銀行等による証券仲介業務が解禁になりました。このメリットとしては、顧客のワンストップ・ショッピングのニーズに応え、利便性を向上すること、また投資経験のない銀行顧客層の市場参加を促し、新たな裾野を拡大すること、証券会社の店舗が少ない地域におけるアクセスの改善が挙げられます。
また、同16年12月改正信託業法が施行されました。その概要は、受託可能財産の範囲の拡大、信託業の担い手の拡大、信託サービスの利用者窓口の拡大です。窓口拡大としては、信託契約代理店制度と信託受益権販売業者制度の創設があります。
銀行法等の一部を改正する案も現在検討中で、銀行代理店制度について出資規制の撤廃などを行い、新たに代理業制度(仮称)を設けることを考えています。銀行の決済サービスなどをいろいろな窓口で受けられるようにしたい、ということです。
銀行等による保険販売規制についても、昨年3月の金融審議会の報告で、たとえば1年後、というとこの春くらいからですが、段階的に見直し、遅くとも3年後には、銀行などにおいて原則として全ての保険商品を取り扱えるようにしよう、ということが書かれています。しかし懸念される弊害、たとえば銀行が融資先に圧力販売するのではないか、または健康情報などが融資判断に流用されるのではないか、ということがあるので、その弊害防止措置をどう講ずるかということと合わせて、現在なお調整が続いています。
こういう諸々の規制緩和を通じて、多様なサービスを提供していきたいと思います。
一方、利用者が増えることにより、トラブルも増えることが予測され、法律の改正など利用者保護ルールの整備も進めていく必要があります。昨年秋の金融先物取引法改正では、外国為替証拠金取引業者について登録制を導入、業者に対する規制の整備を行いました。今国会では、保険業法について適用範囲を見直し、特定の者を相手として保険の引き受けを行う事業についても新たに保険業法の規制を適用する一方、事業規模の小さい、少額短期の保険のみの引き受けを行う場合は最低資本金などの規制を大幅に緩和する、という2段構えの法律改正を提案する予定です。
また、「投資サービス法(仮称)」の制定を検討中です。これは今までそれぞれの金融商品ごとに縦割りの業法で投資者保護が図られていたものを、現在投資家保護の図られていない商品も含めて、横断的な規制の枠組みを作り、統一的な投資者保護を図ろうというものです。これは、2、3年かかる大きな作業です。
「金融サービス利用者相談室」も設置します。今まで金融庁は、相談・苦情処理を各セクションでバラバラに行っていたのですが、利用者の目線に立って、窓口を一元化しようというものです。
やや長期的な取り組みとして、金融経済教育の拡充があります。かつてのような右肩上がりの経済も望めず、銀行だってつぶれるかもしれないという中で、自己責任の下、各人が主体的に人生を生き抜いていく基礎知識として、お金の管理を教えていくことが重要という認識です。ライフステージに応じた施策が必要ですが、特に、小学校、中学校の段階での教育が重要ではないかと思っており、文部科学省や日銀とも協力しながら行っていきたいと思っています。
ほかに、偽造カード犯罪等の金融犯罪防止、ペイオフ解禁拡大の円滑な実施、担保・保証に過度に依存しない資金調達手法の拡充などがあります。

(2)ITの戦略的活用等による競争力の強化および金融市場インフラの整備
最近のITの進展に伴って、それに関連した法の整備を検討しています。たとえばプリペイドカードですが、カード自体にデータの載っているタイプは現行法の規制の適用がありますが、それ以外のスクラッチカード、ネットプリペイドなどについても法を適用することを検討しています。
企業開示制度の一層の充実は、利用者保護の観点からも重要で、具体的には内部統制の強化、ガバナンス情報の充実、四半期開示を徹底することなどが挙げられます。
市場行政当局の体制整備としては、課徴金制度というものがこの4月から施行されます。従来の証券取引法では不公正取引・開示義務違反への制裁は刑事罰を中心としていますが、刑事罰は重大な結果を伴うので発動は控えるべきという考え方があります。それだと規制の実効性が十分でないので、金銭的な負担を課する制度(いわゆる課徴金)を導入することになりました。これをさらに継続開示義務違反についても拡大しようと検討中です。
金融機関の経営管理(ガバナンス)の向上の一環として、検査における「評定制度」の導入を考えています。アメリカにはこういうものがあるのですが、検査の評定を数値化し、金融機関に通知する一方、これを何らかの行政側のメリハリのある対応と結びつけることで、経営改善の励みにしてもらう、というアイディアで、研究会を立ち上げ検討を始めています。
また、金融機関のリスク管理の高度化として、バーゼルII(新しい自己資本比率規制)の導入があります。これは原則平成18年度末実施で、一部の先進的手法については19年度末からの実施となります。自己資本比率は国際基準行では8%、国内基準行では4%という規制があり、この数字自体は変わりませんが、分母のリスク計測を今までのように一律機械的にするのではなくて、先進的手法による金融機関独自の手法の選択肢なども認めるというものです。それに伴って、検査・監督当局の体制整備も必要になってきます。
ほかに、適格機関投資家の範囲の見直し等、私募市場の活性化、市場行政当局の体制整備があります。

(3)国際的に開かれた金融システムの構築と金融行政の国際化
金融のコングロマリット化に対応して、適切な検査・監督体制の構築などを検討しています。また、経済連携協定(EPA)交渉への積極的取り組みなど、アジアにおける対話の促進、金融の国際的なルール作りへの積極的な参加を目指します。

(4)地域経済への貢献
地域・中小企業については、従来のアプローチを基本的に踏襲します。
現行の「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」について、評価を行った上で、この3月にこれを承継・発展させる新たなアクションプログラムを策定したいと思っています。地域の各金融機関には、事業再生、経営力強化、利用者利便向上のため、地域の特性を踏まえた個性的な計画の自主的策定を要請する方向です。

(5)信頼される金融行政の確立
金融行政の透明性・予測可能性の向上のため、金融庁の行動規範(code of conduct)を確立したいと思っています。また、ともすれば金融行政は外資にきつく、国内には甘いとか、国内金融機関からはその逆だといわれたりしますが、内外無差別原則を確認しながら進めていきたいと思います。
また、電子政府の推進ですが、行政の電子化により行政コストの削減を図り、利便性の高い金融行政を目指します。そして「金融庁総点検プロジェクト」に基づく金融庁の組織・体制の総点検および見直しを図ります。

本プログラムの施策の実施については、今年度内にできるだけ早く具体的なスケジュールとして「工程表」を策定し、公表します。「金融サービス立国」を「民」の力によって実現するための、金融行政当局の基本的姿勢として、金融行政は市場規律を補完する審判の役割に徹すること、そのために不要な規制を撤廃し、金融行政の行動規範を確立すること、その一方で利用者が不測の損害を被らないように、必要な利用者保護ルールを整備することを挙げています。

質疑応答

Q:

金融改革プログラムは「官」主導ではなく「民」の力によって進めたいということですが、その割にはかなり細かいことまで指示されているという批判がありますが、いかがでしょうか。

A:

基本は目的である良質なサービスが実現するためのインフラとして何を提供するかということではないか、と思います。確かにこの10年の激変を経て、行政と金融機関の距離感が安定するにはまだ模索が必要と思われ、個々の項目について、どこまで金融庁が関わるかという度合についてはよく検討が必要なところもあると思いますが、たとえば「リレーションシップバンキング」やITについても、成功事例が幅広く共有されるように情報を提供するといった役割は、業界の現状の下で、まだまだ求められているものではないか、と思います。

Q:

「投資サービス法」の制定をめざしているということですが、イギリスでは、これに該当する法律は1986年にできていて、2000年には金融サービス市場法という、銀行も保険会社も包括したような法律を整備しています。金融のコングロマリット化も進んでいることですし、これからつくるのなら、この金融サービス市場法に見合うような法律をつくったほうがよいのではないでしょうか。

A:

それは理想的なのですが、そうなると預貯金も、保険も、ということで土俵が広がってしまい、検討にさらに時間がかかってしまいます。それでともかく、この2年間くらいを目標に、まずは投資サービスの範囲で現在、有価証券に含まれていない商品も含めて極力範囲を拡げて、利用者保護の法律を制定したいと思っています。

Q:

金融機関の競争力をはかる指標として、どんなものを考えておられますか。欧米の投資銀行に互していけるといったことも、指標になるのですか。

A:

欧米の投資銀行と同様のサービスを提供できるようになるというのはかなり高い目標ですが、あり得るとは思いますし、より一般的には、やはり収益力をはかる指標は大事でしょう。もう1つ大きなものとしては、どれだけ利用者のニーズを満たしているかで、何らかのアンケート調査をし、満足度の高いサービスを提供しているかどうかを、みていきたいと思います。

Q:

金融のコングロマリット化に対応した法律は、具体的にどういうものを目指しているのですか。

A:

これからの検討ですが、国際的な議論も踏まえながら、自由化の流れの中で、銀行系列、保険会社系列などでそれぞれ持ち株会社規制の中身が違っているのを整理しつつ、必要なリスク管理をどう確保していくか、といった検討を行うことになるのではないか、と思っています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。