預金保険を巡る環境変化と課題

開催日 2004年11月18日
スピーカー 永田 俊一 (預金保険機構理事長)
モデレータ 植村 修一 (RIETI上席研究員)
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議事録

預金保険を巡る環境変化

預金保険を巡る環境は、この8年間の危機的状況とはだいぶ様子が違ってきています。ここ2年間は金融機関の破綻は1件だけですし、今までに破綻した金融機関から引き取った債権の回収作業もかなり進みました。ある意味、平時になったという感じで、もちろんいざという時にはすぐ動けるような体制づくりも必要ですが、全体的にだいぶ落ち着いてきているという印象です。

資料(預金等全額保護下における資金援助の年度別動向)にありますように、平成8~14年度は全額保護でやってきました。その間資金援助した件数は169(うち破綻金融機関は168)、金額としては約18兆円、ほかに救済金融機関がいらないという債権を買い取る必要があるので、資産買取に約6兆円、あわせて約24兆円かかっています。そのほかに銀行に対する公的資本注入が計12.4兆円で、かなりの費用を援助しました。

平成8~10年度は大手銀行の破綻もありましたが、その後徐々に変化がみえてきました。平成14年10月に「金融再生プログラム」において平成17年3月までに不良債権比率を半減させるという目標を立てたわけですが、資料(主要行の不良債権)の推移をみますと、平成14年は8.4%だったのが、平成16年は5.2%になりました。4%台が目標ですから、達成できるのではないでしょうか。金融機関の破綻件数も、平成10~11年度の74件、12~13年度の70件に比べて同14~15年度は1件と激減しています。

これらは経済環境が回復してきていることを反映していると思います。バブルがはじけて、1990年代に入り、景気の山、谷は3回あったと思いますが、今回の上り坂を持続できるかどうかがポイントだと思います。どちらにしても、トンネルの出口にきているという意識は多くの方がもっておられるのではないでしょうか。ペイオフ解禁拡大に向けた環境が整い始めているということだと思います。

話を先に進める前に、もう1度資料(預金等全額保護下における資金援助の年度別動向)の参考のところを見ていただきたいのですが、金銭贈与と資産買取で使った約24兆円をどうカバーしているのかというと、金融機関から集めている保険料4.3兆円、国債10.4兆円(交付国債を償還して現金化)、資産整理で回収したものが4.4兆円となっています。債権回収等については子会社にあたる整理回収機構に委託しています。

そして平成15年度末で一般勘定借入残5.3兆円で、その内数になりますが一般勘定欠損金が3.5兆円あります。年間の保険料収入が約5000億円なので、単純に計算してあと7年債務超過状況にあることになります。資本注入は1.8兆円+8.6兆円、これは金融再生法、早期健全化法と法律別に分けてあります。そのほかに2兆円、これはりそなグループへの分で、合計12.4兆円になります。これはいずれ健全化すれば返ってくるお金ですが、平成15年度末で返済は2.1兆円で、53条買取等と合わせて借入14.5兆円で賄っているので、一般勘定の5.3兆円とあわせて約20兆円の借金があるということです。

法的には平成17年度以降ペイオフ解禁拡大で、そろそろ普通の時代に戻るということだと思いますが、預金保険機構は多額の借金を抱えて、今は金利が低いからまだいいのですが、これから金利が上がったらどうなるのかという問題があるわけです。でも、経済がこのまま回復すれば、資本投入した分は利回りつきで返ってきますし、破綻金融機関も少なくなるので事故処理も減るという、プラスの要因もあるとも思っています。

預金保険機構の役割

アメリカでも日本と同じような状態は1990年の前後に起きています。ただ問題を認識してから対策をとるまでの時間が、日本はアメリカの倍くらいかかるようです。アメリカではS&L(貯蓄貸付組合)が破綻し始めた85年から89年の5年間に起きたことが、日本ではバブル崩壊から10年間ぐらいにかけて起きています。アメリカでは89年に国を挙げて不良債権問題に取り組み、RTC(整理信託公社)をつくったりして大胆な政策をとりました。日本の場合、それをどの時点とするかというと、私は小泉政権になってからだと思います。ただし改善のスピードはアメリカも日本も5年で、だいたい同じだと思います。

そして、93年にクリントン大統領が財政再建に取り組みはじめ、連銀が実質ゼロ金利だったのを引き上げたのは翌年春でした。日本もアメリカと同じような経緯をたどり、不良債権が片づいていくのだろうと思います。

資料(預金保護範囲の変遷)にありますように、昭和46年に預金保険機構ができたのですが、定額しか保護しなかったのを平成8年6月から同14年3月末までは全額保護としました。14年4月から一部定額保護となり、いよいよ17年から原則として定額保護となります。ただし決済用預金は全額保護です。決済用預金は、無利息、要求払い、決済サービス提供可という3要件をみたしているもので、当座預金、無利息の普通預金が該当します。

預金保険機構は、金融機関から保険料を払ってもらい、保険事故があった場合に、預金者に保険金を払うという仕組みです。その対応については、通常の対応と危機対応に分けられます。

平成17年からはじまる通常の対応とは、保険金の支払いと資金援助(預金等の定額保護)で、直接元本1000万円までとその利息を保険金として支払うか、救済金融機関が見つかるまで金融整理管財人による預金払い戻しや通常業務を行い、救済金融機関が見つかればその金融機関に保険金内で資金援助をするということです。

それに対して、これまでの危機対応は、特別な法律をつくって行っていました。これからも万一のことがあれば預金保険法第102条第1項により対応措置を講じ、資本増強(株式等の引受け)、特別危機管理銀行による実質国有化、または通常の対応と同じく金融整理管財人による管理を行います。これらはシステミックなリスクがあると金融危機対応会議が判断した場合です。こういう場合は預金は全額保護されます。

それでは、なぜこれほど長い間ペイオフ解禁にならなかったのでしょうか。
平成7年12月金融制度調査会答申「金融システム安定化のための諸施策」がでました。金融機関の不良債権問題が深刻で、信用不安を醸成しやすい環境にあり、金融・決済システムは経済のインフラストラクチャーとして重要なのに脆弱であるということ、また預金者に自己責任を問うにはディスクロージャーがまだ不十分ということで、平成12年度末まで預金等の全額保護の特例措置がとられることになりました。しかし、その時期がきてもまだ環境が整わないということで、期限が延ばされ、ようやく平成17年4月全面解禁ということになったわけです。

ペイオフ解禁に向けて

ペイオフ解禁となりますと、預金者に公平に支払う仕組みを整えておかなければいけませんから、名寄せの検査をしたり、預金者の理解を図るためのキャンペーンなど広報活動をしたりして、準備を進めています。ところが実際に自分の身にふりかからないとなかなか理解していただけないようで、アンケートの結果では「ペイオフ解禁」について「きいたことがある」方は多いのですが、内容についてはほとんどの方がわからないと回答する。根気強く、理解を得ていきたいと思っています。

今回のペイオフ解禁は、不良債権問題が解決してきたこと、ディスクロージャーが十分になってきたことも理由に挙げられますが、私は定額保護を基礎とした預金保険自体に積極的な意味があると思っています。

昭和46年の預金保険機構発足時から定額保護だったわけですが、その時点に戻るということではなく、保険事故が普通に起きて、それを普通に解決する社会になるべきだと思うのです。昭和46年から定額保護下で何も起こらなかったのは、起こさないようにしていたからなのです。預金者、金融機関、預金保険機構の3者がそれぞれ自分の問題として考えなければいけないのではないでしょうか。預金保険機構は基本的に加盟金融機関からの保険料収入によって保険事故に対応するものなのだと思います。国全体をゆるがすような市場の危機などの場合は、財政援助が入るということなので、それをあたかも全額保護が本来の姿かのような認識をもたれてはよくないと思うのです。

日本の場合は歴史的に、普通に保険事故が起きる状態を経験する前に金融危機がきたので、そういう点でも難しいのでしょう。しかし、自立自助の精神は日本の本来目指していたところだと思いますし、そういうところもご理解いただいて、ペイオフ解禁を迎えていただきたいと思います。

質疑応答

Q:

本日のお話しの中ではなかったのですが、預金保険料率についてはどのようにお考えですか。今まで諸制度が変わっても保険料収入総額は変わっていないので保険料率を工夫してこられたのではと思いますが、今回も決済用預金の導入があり、諸外国では銀行のリスクに応じて保険料率を決めたりしているようですが、どのような取り組みをしているのでしょうか。

A:

危機の時には特別保険といった工夫をする必要はありますが、基本的には銀行によって料率を変えてはいません。というのも、料率が高いところは危ないのではないかという話にすぐなってしまうので、慎重にせざるをえないのです。しかし一方では同じ料率であることへの不満もあり、なかなか難しいところです。

Q:

ペイオフ解禁後は破綻処理を粛々としていくとのことですが、アメリカと違って日本ではまだそういうことに対しての抵抗感が大きいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

A:

これから起こると考えられるのは、景気のちょっとした波で小さい金融機関が破綻するということだと思うので、それほど金融システム全体をゆるがすようなことは起こらないと思います。もちろん、そういう事態になれば危機対応をしっかりやるつもりですが、私の考えでは、もう環境は整ったと思います。
景気が回復してくれば、預金保険機構という仕組み自体が国民の関心を引かなくなるものです。アメリカでもFDIC(アメリカ連邦預金保険機構)とRTCを合わせた人員がピーク時は約2万3000人いたのが、いまはRTCはなくなりましたし、FDICも約5000人になっています。わが国の預金保険機構もピーク時からは減っていますが、預金保険機構は約400人、整理回収機構は約1800人います。これからはそういうこともあわせて考えていくということです。

Q:

先ほどのお話しのなかでは、もう通常の対応に戻るのだということでしたが、どうして決済用預金は全額保護という制度をもうけたのでしょうか。

A:

これについてはモラル・ハザードを助長しないかということもあるのですが、日本はほかの先進諸国に比べて小切手ではなく、預金が日常的な決済に使われているので、かなり議論をしてきましたが、結果として定額保護には含めないことにしました。ほかの国でもそれぞれ独自の保護制度をもうけていて、たとえばアメリカでは個人退職口座というのがあり、これは別枠で定額保護されています。

Q:

最近中小金融機関の合併の動きがありますが、それについて金融庁との連携などがあるのですか。

A:

預金保険機構は金融庁の監督のもとにありますし、その政策に沿ったことをやっていかないといけません。保険事故ということからいえば、情報収集は大切なので、よく情報交換はしているのですが、私どもがやっている検査は金融庁長官の命を受けて行う名寄せ等の検査で、データの整備状況などに限定されており、金融機関の経営全般にわたる検査を行う訳ではありません。国によって違いますが、日本の場合はこれを金融庁が行っています。これから事故が起きた場合は、元本1000万円を超えた分は、倒産法制に基づいて処理し、財産状況に応じて債務超過であれば一部カットして支払われることになります。また、資金援助方式ではスムースに受け皿金融機関を見つける必要があります。預金保険機構としては、概算払い検査の実施などに当たり、今後も金融庁と緊密な連携が必要と思います。
平成13~14年度はペイオフ一部解禁を控えて、お尋ねの整理・合併ということにつきましては、今回はそのようなことは今のところ聞いておりません。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。