産業界から見た最近の若者と日本の教育の問題点

開催日 2003年11月26日
スピーカー 下谷 昌久 (大阪商工会議所人材育成委員会副委員長/大阪ガス株式会社顧問)
モデレータ 佐伯 英隆 (RIETI副所長・上席研究員)
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議事録

質疑応答

モデレータ:

私は下谷さんがこれらについて単に調査をやっているだけではなく、運動体の旗振りをやられていることに非常に感銘しています。
製造業ばなれと国民全体の勉強ぎらいという点について、2つのエピソードを紹介させていただきます。
ある時、関東近郊の中学の先生が生徒達を連れて旋盤工場に行きました。せっかく工場見学に連れて行ったのに、先生はそこで生徒達に「お前らしっかり勉強しないとこんな仕事につくことになるぞ」と言ったのです。
また、あるシンガポールの新聞記者は日本全体が劣化していると感じると言っています。アジア諸国とFTAなんかを組むよりむしろ、日本は20年くらい鎖国して国を立て直さないといけないと感じます。

Q:

製造業が学生にとって魅力的な職業であればもっと人材が集まるのではないでしょうか? 製造業の地位を上げればいいのではないでしょうか?

A:

その通りだと思います。製造業のイメージをもう少しあげないといけないという議論が以前ありました。結論として出たのが、製造業の人たちが報われるようにするには「宣伝する」ということでした。若い人たちに受けるようなCMをすることです。また、以前だと技術者の父親は子供に自分の後を継ぐように教育してきましたが、今はそのパターンはありません。そんな文化が受け継いでいけるような環境を作ることができれば一番です。また、マスコミにも製造業が魅力的に見えるような番組作りをしてもらいたいと望んでいます。

モデレータ:

メディアの役割は非常に大きいと思います。私が最近滞在したイギリスでは技術や理科系の知識を与えてくれる番組が日本の5倍くらいの時間を占めています。ですから産業界からも、そういった内容の番組にだけスポンサーをするなどしたらよいのではないでしょうか。

Q:

超大企業の人事担当の方にお話を聞くと、最近の若い人はそんなに落ち込んでいないと聞きます。一方、あまりレベルの高くない私立大学の先生は、面接に行く前に生徒は落とされてしまうと言います。このような状況から、トップの人たちはあまり変化していないけれども、下の人たちがむしろ落ちているのではないかと考えますが、いかがでしょうか? また、製造業に属している企業は高卒の従業員は10年間採用していないと聞きます。団塊の世代からの採用、バブル時代の採用などのこぶがあり、これ以上採用できないというのです。そうすると、工業高校を卒業しても良い職場などないのではないでしょうか。採用側としてはどのようにお考えですか?

A:

超大企業の採用は50人の募集に対し、5000人集まります。しかし、それでその企業は良いかもしれませんが、日本経済全体を考えるとそれでいいのでしょうか? と問いたいです。その反面、中小企業は採用をあきらめている状態です。個別の問題として良い人材を獲得し、総論として扱わないのは大きな問題です。産業界全体の意見、たとえば経団連、日商の見解を出していただきたいです。

Q:

現在の日本は雇用情勢が非常に悪い状態です。海外と比較しますと80年代の欧米を追いかけているようです。米国、英国が今、教育を重視している背景には学力低下に苦しんでいた時代があったからではないでしょうか。学力低下問題についてもわが国は15年遅れで欧米を追いかけているようです。学力低下問題についても諸外国と同様にこのようなサイクルはありますでしょうか?

A:

それは違う気がします。海外では識字率などの低さが目立ち、それを上げるために頑張っていました。しかし、それは今の日本のレベルとは違いすぎます。
アメリカ、イギリスはあのような経験をし、急上昇しました。抜かれ方のカーブこそは違いますが、今や日本はそれに抜かれています。やはりここで、学力向上につき真剣に取り組まないと、後で「ボディブロー」が効いてくると考えます。あるシンポジウムで塾の先生が、毎日子供たちにものを考えないようにと教えていることについて嘆いていました。山があればその山へどのように登るのかは教えない、むしろ登山道路がどこにあるかを教えている状態です。塾だけでなく、学校でもそのように教えています。その原因は入試です。1問に対し、じっくり考えていると点数が取れないのです。分からない問題は飛ばしていかにといけません。ある大学の教授は、このごろの子供は証明問題をほとんど取り組んでいないと話しております。このような実態により子供たちは物事を論理的に組み立て考える能力が下がってきています。学力が下がってきているようには一見、分かりませんが、日本にとっては潜在的な問題です。

モデレータ:

このセミナーには社会において影響力を持つ人たちが集まっています。今日のプレゼンテーションをお聞きになり、共感されたらそれぞれの場所でその影響力を発揮して欲しいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。