シリコンバレー起業の景色~セキュリティ・ソフトの最前線とは~

開催日 2003年11月25日
スピーカー 荒川 太郎 (セキュリティ・マネジメント・パートナーズ・インク代表)
モデレータ 安藤 晴彦 (RIETIコンサルティングフェロー/資源エネルギー庁企画官(国際戦略・燃料電池担当))
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議事録

資料に会社のロゴがありますが、CとCが右側を向いています。その間に鍵があり、鍵の左側のハートマークは、人間のハートを意味し、鍵の右側はデジタルをイメージしています。過去12年あまり、海外での事業開発を担当してきました。日本の技術を北米市場・グローバル市場に出したいという思いを矢印に託し、西から東へ矢印を描きました。私は、セキュリティ・ビジネスを中心とした事業開発を主眼に会社を立ち上げました。今日は、日頃の活動や経緯をお話しします。一方通行は苦手ですので、御質問等ございましたら、シリコンバレー流で、途中で止めながら議論していただきたいと思います。

起業にいたるまで~自分自身~

まず自己紹介です。資料にも書きましたが、一枚に納められないほど、ぐちゃぐちゃです。(笑)

私は、1969年に四国は徳島県で生まれました。高専機械工学科を卒業し、三菱自動車に就職して、実験研究をしていましたが、エンジニアを辞め転職しました。そこから民間の航空会社を造ろうとしている企業で営業を担当しました。アメリカ留学を検討していたときに、たまたま衆院選挙を手伝い、秘書を2年半勤めました。もっと勉強がしたくて、神戸大学で経営を学び、外資系コンサルティングで、アメリカ、ヨーロッパのマーケット・エントリーや、企業の日本市場進出・事業開発を支援していました。97年は、まさにインターネットブームが地響きを起こして事業がどんどん立ち上がっていて、アメリカの大手ポータル企業やネット関連企業(ISP)が続々と進出している時で、日本のベンダーも立ち上がっていました。日本企業で元気のあった光通信に、インターネット・モバイル関連の提案をしましたら、「実際にやってみないか」となり、アメリカに渡って事業投資を行いました。その後、日本テクノロジー・ベンチャー・パートナーズから、徳島発のベンチャー企業で面白いところがあると、ご紹介をいただきました。それが、トリニティー・セキュリティ・システムズで、日本の技術をアメリカに持ち込むサポートを3年間行ってきました。そして、セキュリティ関連のソリューションや技術を、北米市場・グローバル市場に展開すべく起業しました。

約12年間ほどですが、私自身の中で色々な問題意識を持ってきました。技術者は、大企業の縦社会・年功序列の中では、そこそこの評価はされますが、特許の問題などを見ても、なかなかフレキシブルに活動ができないと思いました。私が今回立ち上げました「セキュリティ・マネージメント・パートナーズ・インク」(SMPI)では、アメリカのセキュリティ分野の第一線で成功したパートナーたちを事業ポートフォリオごとに割り当てるビジネスを行っています。大企業の中で技術を育てるのではなく、できるだけフレキシブルな形で、良いものを早く、リードタイムを短くして市場に出していくため、パートナー制を敷いています。最終的には、その企業に属さない形で、タイミング良く人材を充当していく組織を組めればよいと考えています。

シリコンバレーで起業した理由ですが、「大きなことが出来る可能性がある」、「失敗してもやり直せるという文化・環境が整っている」と思ったためです。ハイテク、特にセキュリティとソリューションのグローバル市場では、約8割がアメリカ発で、その半分以上がシリコンバレー発です。そのような土地で、技術やサービスのシーズを、切磋琢磨する形で、市場で検証しビジネスに変えていくチャレンジをしたいと考えました。私自身もそうですが、シリコンバレーでは、個々のプレーヤーが、組織の中で「自分が何をできるのか」自分自身のバリューを定義付けできて、ジェネラル・プレーヤーとしてではなく、何が得意で、どうすれば組織に役に立つのかをしっかりと分かっている人が多いのです。そういう人が良いタイミングで、良いポジションに就ければ、良い結果が出せるのではないかと思っています。

次に、会社創りですが、私の会社はCコーポです。会社には、CとSという2つのパターンがあります。Sは、個人が株式会社を作る時に取るステータスです。Cは、会社からファイナンスを受けられる税制になっています。将来的には、ここで会社の卵を産む組織になりますので、その時には、会社ごとにビジネスパートナーにCEOなり、COOという役職を割り当て、会社を育てていってもらうフレキシブルで軽い形にしております。

なぜセキュリティ分野で起業したのかですが、セキュリティの技術ソリューション分野は、グローバル規模で伸び続けています。その中でも北米は一番大きな市場です。伸び続けている中でビジネスをしたいということと、私の今までの経験から、日本の技術・ソリューションを日本人として世界に出していきたいという夢をもっています。事業をするなら、世の中に貢献できる分野が良いと考えました。日本市場では、個人情報や企業情報の漏洩が問題になっています。事後対策ではなく、事前対策をとれるソリューションを提供し、貢献していきたいと考えています。

質疑応答

モデレータ:

荒川さんは、日本の技術は面白いが、ネットワーク分野の事業開発は稚拙と資料に書かれていますが、どのようにお感じですか。

荒川氏:

ソフトウエアでは、日本の会社としてグローバルに活躍しているものは本当にないです。ゲーム、携帯電話ソフトは活躍していますが、OS、ソフトウエアはほぼアメリカの独占に近いですね。

Q:

トリニティーシステムズと新会社の関係はどうですか?

荒川氏:

今まで扱ってきた商材・ソリューションを、これからは事業パートナーとして、私が総代理店・コンサルテーションを行う形で事業開発を続行する位置づけです。トリニティーには非常に面白い技術があり、ハリウッド関係での著作権保護・コピー保護の取組みや、デジタル写真分野で写真協会にモジュールを提供するプロジェクトもあります。デジタルのJPEG、TIFファイル等は、WEB上で流しますと、簡単にコピーされますので、コピー、ダウンロード、2次利用禁止という3つのステップを踏むソリューションを提供しています。

Q:

株式会社には2種類あるとのことですが、CとSの違いはなんでしょうか?

A:

大きな違いは、税制の部分です。たとえば、個人で歯医者、医者をされている方は、Sコーポレーションにします。家でホームオフィスをしている人、オフィススペースを家のスペースとして使う場合に、部屋の敷地面積に応じて税制控除ができる政策があります。確定申告できるためCよりSのほうが安くなります。普通は大抵Cです。

世界のセキュリティ市場規模

図は、3Aという認証ソフト技術の1つです。IDCとJPモルガンの推定で、2006年には11B$、年平均成長率は26%程度伸び続けるというものです。約半分が北米市場、残りの30%がヨーロッパ、15%程度がアジア太平洋です。

ソリューション別ユーザー投資額

図は、ソリューション別のユーザー投資額です。ここから読みとれるのは、やはりセキュリティソリューションが成長市場であり、各ソリューションの幅が広がっていくということです。
アメリカで今どんなことが起こっているのか述べていきます。アメリカは9.11事件の翌年に連邦政府ホームランドセキュリティ省を立ち上げました。国土の安全治安を守るためのインフラの設備投資額を巨額に割き、ワシントンDC界隈とシリコンバレーのセキュリティ・ベンダーたちに巨額の受注が入っています。つまり、ソフトウエア、ハードウエアの開発マーケットがどんどん増えています。次にWi-Fiセキュリティですが、これは無線セキュリティ技術の規格です。シスコ、インテルなどシリコンバレーの大手企業がこぞって資金投下しています。たとえば、シスコは、マサチューセッツのオケナという事前制御の暗号技術を持つ30人規模の会社を500億円くらいで買収し、自社の無線ソリューション分野に組み込んでいます。インテルは、セントリノという無線チップの開発に330億円くらい集中投下をしています。このような動向をみますと、この分野もこれからどんどん立ち上がってきます。
Health Insurance Portability and Accountability Actの省略がHIPPA(ヒッパ)ですが、クリントン政権下で保険制度が複雑怪奇だったため、各州ごとでしか保険が使えなかったものを、移動可能にしようとしたものです。そのため、個人の保険情報等を一元管理しなければならない。すると、貴重な医療情報、個人のファイナンス情報が一挙にデータセンターに集中する。それをどう守るかという問題に、セキュリティ関連会社が集中しています。面白くなる分野でしょう。ドットコムの会社は2000年前後でだいぶ崩壊して駄目になったという話もありますが、USAインターアクティブ、アマゾン等、E-Commerceを中心としている会社は生き残って、伸び続けています。e-コマースでクレジットカード決済をする時、認証技術というセキュリティが拡大すると予測されており、ここも面白い分野です。

質疑応答

モデレータ:

随分伸びていますが、この分野が年率26%成長を支えている訳ですか?

荒川氏:

それも1つあると思います。個人的には、セキュリティのポリシー・マネージメントが業界ごとに上から一気通貫で確立されているインフラがあると思っています。その結果、日本とはだいぶ違ってきていると思います。

セキュリティのマーケットは、事件、損害額と相関関係があるとよくいわれます。最近色々な事件が多発しています。KaZaAというのは、コンピューターのCドライブをオープンにしてネットワークを通じて情報のやり取りができるシステムです。問題なのは、音楽ファイルだけでなく、ソフトウエア、ゲームなどの容量が大きい物でも交換可能ということです。その結果、ハリウッドなどでは、著作権が完全に無視され、お金が取れなくなると懸念されていて、セキュリティ技術の採用に非常に力を入れています。また、よくあるケースですが、メールを荒川さんに送ろうとして、アライさんに送ってしまい、間違った結果、情報漏洩することがあります。大手企業のシスコやヒューレットパッカードなどのきちっとした会社でも起こっていまして、どのように防ぐのかが重視されています。ハードウエアでは、IRS(米国徴税庁)のラップトップが行方不明になり、情報漏洩になった事件も起きています。次に、その被害を数字で見ていきたいと思います。

これは、FBIの調査結果ですが、件数ベースでみるとウイルスやサーバーダウン時の被害のような社外からの攻撃の件数が目立ちます。

しかし、損失額のベースですと、社内の法務書類、人事書類、取引先とのプライシングなどが漏れてしまうといった、内部からの漏洩の方が金額が大きいというデータがでています。

こちらの表で、ハッカーからと従業員からの漏洩の比較をすると、だいたい同数という結果が出ています。「USコンペティター」というのは、オラクル、SAPなど企業から、競合の情報を得るということです。ポイントは、独立のハッカーと従業員の被害総額、件数が同じで、社内の情報漏洩のセキュリティにビジネス機会があると読みとれます。

日米セキュリティ製品導入比較

これは、日本とアメリカとの比較で、日本のIPAの2002年のデータを抜粋しました。日本の企業導入事例としてファイヤー・ウォールやアンチウイルスという箱ものの導入が多く、認証や暗号というソリューションにすべき分野が苦手だといえます。2次利用の防止をしたり、ネットワーク技術のインテグレーションを行ったり、或いは機密情報のマネージメントを行うことにオポチュニティがあるかもしれません。
まとめるなら、セキュリティ市場は世界規模伸び続けており、そのうち北米市場は60%であり、伸び続けています。製品とソリューションの幅が今後も拡大していき、内部コントロール策、情報漏洩対策は今後必ず必要になっていくと予測できます。また、箱物、部材導入ではなくて、セキュリティのインフラ、ポリシーの策定、損害の件に絡めたビジネスも面白いですし、セキュリティの監査も増加していくかもしれません。日本でもそのようなビジネスが生まれてくるのではないかと思います。

日本発のセキュリティベンダー

次に、日本発の技術のチャレンジ分野についてお話しします。アメリカのセキュリティのベンダーと市場をみますと、上の方から一気通貫されている印象を受けます。上の方とは、ポリシー・マネージメントの分野で、ポリシーを設定しツールを決める、ツールの後に予算を決めて配分していくという流れが業界ごとにできています。一方で日本のセキュリティサービスをみますと、個々の技術・製品サービスは割と面白いものがありますが、重要なセキュリティ・マネージメントのレベルはまだまだです。その結果、下の方から、ソリューション・製品を導入し、インテグレーションだけに留まっていると思います。上の方でマネージメントすることによって、より良いサービスが提供できるはずです。

そんな中で我々の周りを見ますと、ともすれば日本のセキュリティのベンダー、セキュリティ市場エリアのおそらく7~8割くらいは、アメリカのセキュリティベンダー発です。私の会社では、良いモジュール・製品・サービスを日本からアメリカに逆に出していきたいと思っていますので、事業開発の視点として日本の産業の元気のある企業から技術開発・事業開発をしたいと考えています。また、業績は割とよくないのだけれども、これまで技術開発で多くの予算を割き、よい技術が眠っている業界にも注力をし、技術発掘をして、アメリカに流したいとも考えています。その後に、このエリアで活躍をしているパートナー、プレーヤーと組んで一緒に事業開発を行い、アメリカのセキュリティポリシー・マネージメントの流れに乗せ、アメリカ市場に入り込んでいくつもりです。

では、どのように事業開発をするのかですが、今、セキュリティ・マネージメント・パートナーズで、サイクリプトという技術開発会社を作っています。日本のある大学とその周辺の開発者と組み、アメリカ政府向けにβ版のテストを行っています。アメリカ政府がVoIP(Voice Over IP)通信でのセキュリティの技術ですが、それを参考にしています。では、この情報をどこで得たかといいますと、私のパートナーの1人が政府関連プロジェクトを取得し、私が技術をパイロット・プロジェクトに結びつけました。あるアメリカの大手ベンダーとOEMにするか自社ブランドにするか交渉する段階にきております。うまくいけば、2、3年後には現実に採算が合うと思います。こうした経験を蓄積し、トータルソリューションの方に技術、経験、資金をアロケートするというステップを踏んでいきたいと考えています。もう1つは、日本での啓蒙活動を行っていこうと思っておりまして、具体的にはセミナー、出版の予定をしています。

セキュリティ・マネージメント・パートナーズ

改めてSMPI(セキュリティ・マネージメント・パートナーズ・インク)の横顔と今後の展開を述べます。事業内容は、「日本発」にこだわっていきます。Peter Laakkonenは、フィンランド・セキュリティというアンチウイルスやVPNのソリューションが非常に有名な会社の元社長で、アメリカ市場でも随分活躍しました。色々アドバイスをもらいながら一緒に事業開発しています。Ziv Kimihiは、お父さんがMITの学者で、イスラエル系米国人の弁護士ですが、家族にセキュリティ関係者が多いことからこの分野に興味を持ち、ヨーロッパからアメリカにきて事業開発をした経験の持ち主です。Loren Kohnfelderは、マイクロソフトのドットネット戦略とインターネット・エクスプローラの事業本部長の経験があり、今はリタイヤして自分で会社を設立していますが、彼にはセキュリティのアーキテクチャの評価、どういう技術がトレンドになるかアドバイスを貰っています。James H. Prentonは、日本語が非常に上手な弁護士ですが、著作権・企業法で手伝ってもらっています。組織は、非常にシンプルで、2つのディビジョンで成り立っています。Staffの部分は固定費で、企業のインフラの部分です。Associatesは日本からの輸入技術のプロジェクトごとにアサインし、会社にしていくスキームです。パートナーは私を除き、全てアメリカ人です。Associatesのメンバーは、中国系米国人と日系米国人で、主に技術検証、マーケットのオポチュニティ探索に注力しています。

これは割と総括的なビックピクチャーですが、2004年と2005年にアメリカ向けで3件、逆に、アメリカから日本向けにモジュールを出す案件が2つほどあり、日本の技術サービスごとにパートナーをチームとしてアサインしています。1~2年のプロジェクトとして、採算性の見極めまで、責任を持ってやってもらいます。ストック・オプション等のインセンティブも会社内で設けています。おそらく、1年後には、ジョイントベンチャーの形になったり、日本の会社、アメリカの会社として出したり、場合によっては、事業提携やライセンス共有だけになる形態を考えています。
私のSMPIは、現在、コーポレーションですが、将来的にはパートナー形式、つまりLLPやLLCの形態になってくると思います。イメージとして、全てが1つのセキュリティ会社になればと思っています。いつか一気通貫で、セキュリティの技術とソリューションがSMPIを通じてワンストップで提供でき、その中身が日本の技術であればいと思っています。

図は、日本発の技術を輸出するために関係する団体を丸で囲み、アメリカ市場向けにこうしたスキームで提供できたらと考えています。今、日本で私がアプローチしているセキュリティ関連の会社は、未だ世の中に出していない技術を持っているところから、ある程度のソリューションができているけれども補完が必要な大手ベンダーまでさまざまです。そうした中でSMPIを通じて、事業開発してこうということで、矢羽根が下から上のほうに上がっています。右下のJapan Security Companiesは、日本のセキュリティ関連の会社で、技術・サービス・ソリューションが出てくる。そして、アメリカでは、事業開発とベンチャー投資、コンサルテーションを行っていきます。将来は、恐らく日本でもファンドレイズする必要もでてくると思います。社会のインフラ作りに貢献する観点で、日本の大手、政府からもファンドレイズできるスキームを考えてまいります。

質疑応答

モデレータ:

荒川さんからお名前が出た、日本のトップキャピタリストのお1人である村口和孝さんには、昨年5月にBBLでもお話いただきました。荒川さんは、村口さんの投資先の有望ベンチャーのアメリカ代表として、マーケットチャネルを創られた後、円満かつ身軽に創業されたわけですね。色々なオプションを持ちながら、アソシエートをうまく使って、先端技術の可能性を追うポートフォリオを組みながら、先々の展開を考えるというのが非常に印象深い点でした。まず、私から質問ですが、ジェトロのインキュベータの使い勝手はどうでしたか? また、パートナーは本当に実力のある多士済々という感じで、かつ、多国籍軍ですが、こうした優れた人を束ねていく経緯、きっかけ、モチベーションなど、差し支えないところで教えてください。

A:

ジェトロのインキュベーションセンターですが、BIC(ビジネスインキュベーションセンター)と現地では呼ばれています。どのように事業を進めていくのかを問われる試験がありまして、私は2002年の春に合格し、1年あまり活用させていただきました。結論からいいますと、私には非常によかったと思います。人的ネットワークの形成に役に立ちました。特に、アメリカの中小企業のキーパーソン、大手の役員の方々、意志決定権のある方々と意見交換でき、密接な関係を作れました。BICのアドバイザリーボードにはシリコンバレーでも有名な方々が名前を連ねておられます。こうした方々との意見交換を通じて、私が今まで気づかなかった事業開発手法やチャネル開拓等で、サポートしていただきました。これらが良かった点です。他方で、政府の支援組織なので、コミットメント、つまり会社を本格的にインキュベートさせるための、たとえば、意志決定がかかわるところにおられない、資金的な関与がないということで、コンサルテーションだけに留まりがちです。(アメリカの公的インキュベータでは、自ら出資し、サポート料も現金ではなく株式で取ってくれるところもありますが)日本の政府機関としては、資金投入までは難しいと思いますが、せめて、会社又は事業の意志決定に関われる人材まで提供していただければ助かります。また、事業ごとに、ネットワーク、ハード、ソフトと何でもやるのではなくて、重点エリアを定めると面白いかもしれません。
SMPIのパートナー制のメリットとデメリットですが、パートナーへのインセンティブは、プロジェクトごとにオプションを出します。成功報酬型ですし、彼らも資金提供するので、期限を決めて取りかかってもらいます。また、泥臭い部分ですが、コンタクトを保つために、個人的にもまめに電話をしたり、会ったりしています。

モデレータ:

やはり、Face to Faceが大事で、その信頼が基礎になるということでしょうか。インキュベータの関与については、たぶん国際水準でお話されているのだと思います。株式をとってサポートすると、入居したベンチャーが大化けすれば、実はインキュベータ自体も儲かる仕組みが前提だと思います。やはり公的機関では難しい面もありますが、工夫の余地があるかもしれません。

Q:

ファンディングについて、パートナーのシェアはどのくらいでしょうか? 外部資金を入れたとすれば、どういうところからでしょうか?

A:

今、資本金は5万ドル程度です。パートナーの持分は各10%です。それにオプション制度をとり、契約内容に1~2年のプロジェクが盛り込まれ、成功報酬を何%か織り込んでいます。

Q:

アメリカの金融機関で、JPモルガン、ゴールドマンサックスなどつい最近までパートナー制をとっていましたが、パートナー制と株式会社制度は、日本の会社法の観点からは組合せが難しいように思います。その答えはやはり信頼関係なのでしょうか?

A:

LLPにするのかLLCにするのか大議論したところです。設立当初は、シンプルにしようと考えました。パートナーシップの会社では、柔軟な反面、費用はこれだけかかったから、この分は負担して欲しい等、資金配分が非常に複雑になる可能性もあります。設立時には、余計な手間を割きたくないという思いがあり、プロジェクトが展開してきたところで再検討することにしています。

Q:

お話を伺い大変感動しました。是非成功していただきたいと思います。若いころからの問題意識を多く挙げていますが、日本の起業が、なぜ世界で起業できないのかという点について、どのような意見をお持ちでしょうか? これから新しくファンドを起こすならば、どういうことをイメージしているのでしょうか? トップの管理ができていないという日本企業のガバナンスの問題なのかもしれませんが、日本とアメリカがどう違うのかを教えてください。

A:

トップの管理のからお話します。アメリカと日本を比較すると、特にセキュリティ分野では、アメリカの場合は、CIO(Chief Information Officer)やCSO(Chief Security Officer)が、単年度・中長期での予算・配分の絶大な権限を持つ組織体制になっています。その結果、ソリューションのライフサイクルも分かった上で、予算の中でやりくりします。一方で、私が理解する日本のトップシステムは、稟議システムで、誰がどのような決裁権を持ち、どのような責任があるのかという点で、責任の所在が非常に曖昧です。下からソリューションを上げていくのですが、トップが内容を理解していないのに、とりあえず採用ということも多いです。

モデレータ:

CSOは、役員クラス、副社長でしょうか。アメリカでは上層部が、なぜそんなに問題意識を持つのでしょうか。これだけ情報漏洩事件や内外からのシステム攻撃があるからでしょうか。

A:

「セキュリティ」という言葉だけでとらえると、防御や受け身的なソリューションの提供という印象ですね。実はそうではなくて、戦略的に仕掛ける意味合いの方が私は強いと思います。したがって、CIO・CSOは、会社の方針を決定する主要役員が予算を握り、戦略を立てる組織が出来上がっていると思います。これだけ内部情報漏洩が明るみにでてきますと、日本では組織自体のあり方から、事後処理が多いと思いますので、カンパニー制をとるなどしっかりしたソリューションを提供できる部署を作るべきだと考えます。

Q:

説明の図で、Finance、Medicare、Basic Modelという3つ三角形がありましたが、それぞれの業界に、責任者がいるのでしょうか。

A:

ここでの問題意識は、日本では業界ごとのセキュリティ・ソリューションが確立されていないとうことです。アメリカのBasic Modelのセキュリティのポリシー・マネージメントですが、アメリカでは業界ごとの雛形があります。ソフトウエア購入時にセキュリティのどの部分を制御すべきかという項目設定があり、業界ごとでソフトウエアの内容が違います。それを図で示しました。日本にこのようなポリシー・マネージメントは、十分にはないと思っています。日本の地方の政治構造は複雑ですが、議員秘書時代に受けた陳情の多くは建設業がらみでした。政治家も後世に残るようなもの、橋や病院や道路を造ることに重点を置いていました。上から与えられるものを日々こなしていて、その結果、問題意識がない方々が多いと思います。私は、シリコンバレーで日本発の会社をたくさん創って、成功したら、このようなポリシー・マネージメントモデルを日本に移植したいと考えています。そして、その中で世界的な技術・人材が流通するインフラを確立したいと思います。ファンドは、現段階では詰めて考えておりません。

Q:

業界のセキュリティで、ファイナンスとメディケア以外にどんな業界があるのか、もう少し具体的に教えてください。荒川さんのご略歴で、光通信アメリカ時代にシリコンバレーで30社に投資し、3社NASDAQ公開したと伺いました。その経緯や現状をお聞かせ下さい。また、今の会社のパートナーは、フルコミットでしょうか、パートタイムでしょうか?

A:

パートナーはフルコミットではありません。
光通信時代の投資先ですが、1つは、ウヴェックスというWEBのカンファレンス用のエンジンをもった会社です。それから、今はオープンウェーブですが元のフォンドットコムと、タンブルビードの3社です。現在も上場を続けています。
業界ごとのセキュリティですが、際立っているのは医療、金融です。これ以外では、私が知る限りでは、ないと思います。敢えていうなら政府系だと思います。

モデレータ:

医療というのは、電子カルテとかでしょうか? フォーマット等も決まっているとか。

A:

電子カルテのほうですね。

Q:

高専に進む方は、早い段階で技術に興味を持ち、理系を選んでいると思います。そして、技術者になるモデルが未だにあると思いますが、荒川さんはどういうお考えで早い段階で別の道に転身されたのでしょうか? そういう経験が起業につながったのでしょうか? ご自身は、立場的にどのようなポジションだとお考えでしょうか?

A:

自分でも変わった経歴だと思います。エンジニアを辞めたきっかけは、一言でいうと、気に食わなかったからです。私の他に11名が技術者として採用されましたが、高専卒は私1人でした。他は、早大理工などの大卒でした。私は20歳くらいで就職し、他は24歳でした。しかし、私が同じ24歳になっても1万円くらい給料が安いんです。これがまず許せなかった。そして、海外の研究部に行きたかったのですが、実際にはエンジン開発に行かされ、思うようにいかない屈折感で自尊心が傷つけられました。
世界を相手にビジネスをしたくて、辞めました。零細企業に勤めたのですが、社長が元パンナムのパーサーで7カ国語くらい話しました。私もそうなりたいと思い、彼の下でビジネスのいろはを体で学びました。
私には、経営者ということよりも、良いものを創りたい、仲間と一緒に楽しく働きたいという思いが強いです。コミュニティのリーダーのようなものでしょうか。オーナーというより、優秀で、世界レベルのパートナーと一緒にコミュニティを作り、できれば、日本の良い素材を世界に出していきたいという思いでいます。

Q:

SMPIのコーポレート・ミッションステートメントがあればご紹介いただきたいです。荒川さんのタイムマネージメントやスケジュールを教えてください。ご出身の徳島には、非常にゆったりした方が多い感じがありますが、何か「徳島DNA」というものはあるのでしょうか?

A:

ロゴマークの「CC」と「鍵」は私が考えましたが、これが会社のミッションステートメントです。これはC to Cという意味で、Culture to Culture、Country to Country、Communication to Communicationを意味します。私は日本発の技術を北米で紹介したいため、左から右側に鍵がかかる形にしています。この鍵の左側はハートで、人間の心を象徴しています。私が、ビジネスで一番大切にしているのは、人間、つまりパートナーやお客さまとの信頼関係です。基本は人間の心でマネージメントしたいということを謳っています。私のこのミッションに賛同いただいた方がパートナーであり、彼らとプロジェクトを一緒にやっていきます。
時間管理では、経歴と同じでぐちゃぐちゃです(笑)。休みはほとんどありません。1カ月に1回くらい、日本、上海・北京、イスラエルに行きます。1年のうち10回は日本、残り4~5回がヨーロッパとアジアです。1週間は、朝6時前後に起きてジョギングや瞑想します。寝る前にも瞑想して、反省したり、自分の思いがどれだけ達成できているかをレビューします。この直近の1、2カ月は、会社設立の法務書類、リクルーティングなどに時間を割いていました。夕方は、よくネットワーキングに出かけます。自分の属するコミュニティグループがいくつかあります。シリコンバレーでも、村口さんが主宰されている青少年ベンチャー育成クラブのようなものがあり、ベンチャーキャピタリストと一緒にやっています。小中学校の授業の一環として、小さいころからビジネスセンスを養うクラスがあり、私もボランティア参加しています。

モデレータ:

「ネットワーキング」とは、具体的にどのようなものですか? テクノロジー関係のものでしょうか? それともマネージメント系でしょうか? 会での特別な趣向はあるのでしょうか?

A:

民族系のネットワーキング・パーティーがよくあります。日本のコミュニティもあります。(アップルに会社を売却し、2度目の創業をしている)曽我さん主宰のSVJENがあり、日本人起業家のコミュニティになっています。また、中国、インド系のものにも参加しています。徳島のDNAですが、難しい質問ですね(笑)。徳島人の性格は、他の地域に比べると陽気な人が多いです。唯我独尊的で理屈っぽい人も多いですね。陽気だけれど、我が道をいく人が多い気がします。

Q:

CIOの必要性は分かりますが、独立したCSOの必要性がよく分かりません。日本で、CSOを置く企業あり得るかというと、CIOでは情報化投資でリターンも見込めますが、セキュリティに関してCSOが予算を持ち、自由に振る舞えうといのはどういう背景なのでしょうか? 要するに、セキュリティ対策をとらないと損害の可能性があるので、損害保険のようにセキュリティ予算を取ってもよいという認識がアメリカ企業にあるのでしょうか?

A:

骨のある質問ですね。仰るような点は勿論ありますが、その本当の奥底にある背景については、私にも問題意識がありますので、もう少し考えてみたいと思います。日本の会社、特に、大手企業にポリシー・マネージメントが必要だと思っていますので、説得材料としても大変重要なテーマですね。良いご指摘をありがとうございます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。