イノベーションの誘発剤たる産学連携とは?

開催日 2003年6月20日
スピーカー 原山 優子 (RIETIファカルティフェロー/東北大学教授)/ 角南 篤 (RIETI研究員/東京大学先端科学技術研究センター客員研究員)/ 藤本 昌代 (RIETIファカルティフェロー/同志社大学講師)/ 中村 吉明 (経済産業省関東経済産業局総務課長)/ 和賀 三和子 (米国GETIマネージングディレクター/産業技術総合研究所客員研究員)/ 星野 友 (東京工業大学生命理工学研究科修士課程)
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議事録

産学連携の現状と定義

原山 優子 (RIETIファカルティフェロー/東北大学教授)

この4月に、RIETIの経済政策レビューシリーズの1つとして、「産学連携」(東洋経済新報社)という本を出しました。現時点の日本では、「産学連携」はキーワードとなっています。キーワードから進んで、今やスローガンになっているのではないかとさえ、思えます。

産学連携推進は政策課題となり、法的整備、施策がかなり進んできました。この動きは、もう地方自治体にも及んでいて、産学連携課というのを、県・市レベルでもつくっています。

産学連携について、社会的認識を得るためには啓蒙活動も必要であり、政府レベルの啓蒙活動が活発に行われています。2001年11月に産学官連携サミットがスタートし、つい先日の6月7-8日にも産学官連携推進会議が行われました。4000人の参加者があり、国内での雰囲気の高まりを感じました。

また、産学連携に対応するため、大学の組織変革も進められています。具体的にはTLO(技術移転機関)、リエゾンオフィス、インキュベータ(起業援助)、知的財産本部などが設置され、産業との関係を明白にするための仕組みができてきています。大学の役割ということに関しても、教育、研究を基本として、社会貢献、地域への貢献ということが、大学内でもかつてより認識されてきています。

ところで、「産学連携」といっても、多様な認識が混在していると思います。産学連携というと、技術移転、大学発ベンチャー、共同研究、人材養成など、いろいろなチャンネルがあり、最近ではそれをベースに、新産業創出・雇用創出ということがいわれています。そこで、何が肝心かというと、大学と産業という異なるドメイン(領域)が存在するという点で、その異なるドメインがインターアクションを行うことによって、相乗効果が生まれ、それぞれのポテンシャルが高まります。大学も産業も、産学連携をそれぞれのポテンシャルを高めるために用いるべきなのです。それを行う段階で、連鎖的プロセスが起こり、派生効果が生まれ、それが人的資産の質、イノベーション能力、経済生産性などの向上に結びついていくのです。このように多くの派生効果を含むものですので、効率的にそれを生んでいくスキームつくりも重要な点だと思います。そして最終的に社会貢献へとつながっていくのだと思います。 では、テーマごとの講演に移ります。

中国における「産学研」連携―技術移転メカニズムの多様化へ

角南 篤 (RIETI研究員/東京大学先端科学技術研究センター客員研究員)

「中国の産学連携は進んでいる」とよくいわれます。中国の場合、産学連携のアウトプットは必ずしもハイテク技術ではないのに、「中国脅威論」と結びついて語られることが多いようです。「進んでいる」という意味は、絶対的な技術のレベルの向上に役立っているということではなく、中国では、産学連携が今の経済成長を持続していくために不可欠なものとして注目されていて、その結果として産学連携を支えるさまざまな政策が行われているということです。

その中でも、校弁企業(大学が自ら設立した企業)は盛んに設立されてきました。80年代「科学技術は第一の生産力である」というスローガンのもと、改革開放が進められましたが、「産」である国有企業は独自に研究開発をできる状態ではなかったので、大学、中国科学院といった公的研究機関が改革され、自ら校弁企業を設立することにより、産学連携の足がかりをつくっていったわけです。校弁企業のPush要因として、80~90年代に大学改革(法人化、兼職等)が進んだこと、財務状況の悪化によって大学が自前で資金を調達しなければならなかったことがあり、Pull要因としては、市場の拡大、また国有企業の改革の遅れなどにより参入するチャンスが生まれたことがあります。

ところが校弁企業が増加することにより、新しいリスクも生じてきています。1つは経営に関すること、もう1つは大学のレピュテーション(評価)に関することです。これはどういうことかといいますと、たとえば北京大学や清華大学が会社をつくり、香港や上海の市場で上場する時、彼らのマーケットバリューはその一流大学という名前によってオーバーバリューされている場合が多く見られますが、経営の中身に関してはまだまだリスクが高いのです。これは中国当局もよく認識しているところです。このレピュテーションのリスクは、大学がどんどん企業をつくっていくとますます高まるということは否めない事実です。最近はその反省にたって、経営責任の明確化と「大学」と「経営」の分離がいわれています。本の中では清華大学を例に挙げています。

また最初は校弁企業という形をとっていたものが、サイエンス・パークとかインキュベーションなど、多様化しています。

中国の大学について、具体的にふれたいと思います。まず学校数はずっと変化がなかったのが、最近少し増えています。それはIT技術者の不足を補うため、IT関係の専門学校を大学化したためです。その一方で、学生数はそれほど増えていないので、財政的には厳しくなっていくでしょう。

また、大学の数、校弁企業数、校弁企業の総収入の割合をみてみますと、大学は各地にありますが、校弁企業の数と収入の割合は、北京、上海に偏りがあります。

それで、ある有名大学の財務状況を調べてみると、中国の一流大学はだいたい政府からのサーポートの割合は少なく、あとは自前で稼いでいるということです。清華大学では教育と経営を分けるために、「清華企業集団」というものを間に置き、その下にさまざまな企業を組織しています。こういうパターンは、これから増えていくでしょう。

校弁企業は、最初はワンパターンだったものが、最近は多様化しています。また、中国のユニークなところは、外資系R&Dセンターとの連携が非常に盛んなことです。たとえば、MSR(マイクロソフトリサーチ)の長城計画は、中国の文部省である教育部といっしょに計画したものです。

中国における産学連携は、校弁企業の数においては北京・上海が中心ですが、広く経済発展に大学が果たす役割は非常に大きいです。たとえば江蘇省や浙江省などの、ニットウェアなどを作っている町では、地元の大学と連携しながら、技術を改善し、世界的な競争力を高めています。必ずしもITやバイオという分野に産学連携が集中しているわけではありません。もっと幅広いところで、経済発展のために期待されているということです。

バイオテクノロジー分野の研究開発と産学連携

中村 吉明 (経済産業省関東経済産業局総務課長)

この研究は一橋大学の小田切先生といっしょに書いた2つの論文に基づいています。私がバイオテクノロジーに注目した理由は2つあります。1つめはヒトゲノム解読が産業化に結びつくのではないかといわれだしたこと、2つめはそのヒトゲノム解読をしたのが、ナショナルプロジェクトももちろんありましたが、セレラ・ジェノミクス社というバイオ・ベンチャー企業が主導的役割を果たしたことです。なぜこのような利益に直結しないようなことをするのか不思議に思い、バイオテクノロジー分野に興味を持ちました。

まず、サイエンス・リンケージの推移の日米比較をみてみましょう。米国で特許をとる時には、どのような学術論文を参照したか、ということを記載します。このことから特許1件につき、どの位の論文を参照したかということがわかります。ここでいえるのは、バイオの分野ではその割合が高い、つまりピュアサイエンスと特許との近接性が非常に高いということです。日本においても同じ事がいえます。 従来、リニアモデルといいまして、研究、開発、生産、販売へと一歩一歩進んでいくというのが基本的な考え方でしたが、それに対し批判がありまして、ある程度のフィードバックがあるのではないかということで出てきたのが「連鎖モデル」です。

「連鎖モデル」でも、自動車産業と創薬などのバイオテクノロジーではいくつかの相違点があります。またバイオテクノロジー分野でも、ゲノムが解読される前と後ではプロセスが多少異なりますが、創薬に関してはこの図が一般的なものだと思われます。創薬の特性は2つありまして、1つめは「学」と「産」の高い近接性、つまり大学の基礎研究の応用の可能性が高いこと、2つめはハイリスク・ハイリターン構造で、40万個の化合物があった場合、最終的に残るのは80個といわれ、薬ができるまでだいたい10年から12年、発売されるまでに10年から12年かかり、かかる費用は100億から200億といわれています。

では、企業はどういう対応をしているかというと、合併を繰り返してなるべく大きい企業をつくり、規模を大きくして、研究開発費を捻出しようとします。そして研究分野はなるべく選択・集中し、それ以外の分野はバイオ・ベンチャー企業の成果を活用するという、「企業の境界」の戦略的設定が行われています。

このようにバイオ・ベンチャー企業は、新たなイノベーションの仲介機能を持ってきているのですが、日米比較してみますと、まず企業数は日本333社に対し、米国1300社です。上場数も日本約10社、米国約300社です。果たしている役割も日本は相対的に低いということです。

次に、日本のバイオ・ベンチャー企業65社を対象にした調査の結果ですが、地理的には特に関東圏に集中しています。起業元は大学が26.2%で、あとは独立型が多いです。独立型とは、製薬会社で研究していた人が、独立して始めたということです。

そして、バイオ・ベンチャー企業のとった特許は、出願中が平均6.24件、登録済みが1.74件ということで、非常に少ないという印象です。全く同じ形で質問したわけではありませんが、慶応大学の榊原先生の調査によりますと、研究家発ベンチャー企業で創業経営者が所持している特許の数は7.7件、非創業経営者が所持しているのは20.9件です。

また技術連携の状況としては、大学・公的研究機関というのが非常に多いです。民間企業との連携は41.5%ですが、米国ではもっと多いと思います。日本の大手企業は、米国のベンチャー企業に対しては甘くて、どんどん共同研究してしまうのですが、日本のベンチャー企業には厳しいのです。

それから、起業時の障害を見てみますと、一般的には資金調達が一番に挙げられるのですが、それ以上にスタッフの確保が障害となっています。

まとめますと、(1)頑強な特許戦略の欠如。(2)人材確保の困難性。国立大学教官に関しては兼業規制の緩和により、大学、企業間の雇用の流動化は高まりつつありますが、大企業の研究者については、本来は研究者であるのに、営業に回されてしまうということがあり、雇用の流動化が進まないのが問題だと思います。税制、年金、教育など制度的な変革をして、雇用の流動化を進めないと、これ以上はベンチャー企業の創出促進は難しいのではないか、と思います。(3)創業者の企業私物化。これもベンチャー企業が大きくなれない理由の1つだと思います。

MEMS分野の産学連携―米国を中心に

和賀 三和子 (米国GETIマネージングディレクター/産業技術総合研究所客員研究員)

MEMSとは、Micro Electro Mechanical Systems の略で、微小電気機械システムのことです。半導体加工技術を用いて製造するもので、非常に広い範囲で使われ、機器の付加価値向上に貢献する、次世代の技術とみなされています。ただし、半導体加工技術を用いるのでコストがかかり、研究開発期間が非常に長くなるので、大企業にとってもリスクの高い分野であり、また中小企業にはちょっと参入しにくい分野といえます。それで、世界的にも公共機関による研究開発が進められています。日本では、91年から大型プロジェクトとしてマイクロマシン技術開発プロジェクトというのが始まりました。

本日は米国での話を中心にしますが、米国のDARPA(国防総省高等研究企画庁)はずっとMEMSの研究を後押ししています。日本のプロジェクトとの違いは、たくさんのプログラムを3年単位くらいで後押ししていることです。国防総省ということで、軍事システムへの応用がメインなのですが、コストダウンは重要なので、民間で実用化してもらって、比較的安いパーツを使えるようにしたいということから、実用化までを考えた産学連携を推進しています。資金援助も大学や国立の研究機関にだけするのではなく、なるべく共同研究の企業パートナーを見つけて、それぞれに研究開発を進める、ということのようです。

NSF(米国国立科学財団)でもこの分野での産学連携に力を入れていまして、その1つとしてカリフォルニア大学バークレー校に86年 Berkeley Sensor & Actuator Center(BSAC)というのができ、以来ずっと続いています。日本では研究会の会費は年間10~30万円位だと思いますが、こちらは年会費5万ドル、約600万円で年2回、非常に詳しい説明会があります。もし共同研究がしたい場合は、個別に契約をすることになっていまして、そちらは会費年間7~8万ドル、約1000万円位になると思います。ちなみに先日5月29日には東京でBSACのシンポジウムが行われました。日本の企業の他、世界各地の30社がメンバーで、ここから生まれたベンチャー企業は18社、その中には無線センシングシステムの実現を目指している企業もあります。活動の発表はいろいろな形で行われています。

似たような形でミシガン州では、2000年にWireless Integrated Microsystems が設立され、BSACよりは小規模ですが、同じように研究、産学連携をすすめています。

米国は産学連携がスムーズに進んでいると思われていますが、研究者の立場からは、産学連携にあまりにも力を注ぐと、自由な研究が妨げられるのではないかという思いがあり、その辺のバランスをどうとるかというのは、いつもディスカッションになるそうで、実際はそれほどスムーズにはいっていないことが分かりました。では、国内の状況はといいますと、90年代後半からはいろいろな施策により設備面はかなり整ってきたように思います。MEMSの研究会も各大学で始まっています。ただ、米国のような大規模な研究開発システムというよりは、情報交換の場、共同研究にもっていくための場的な研究会です。ベンチャー企業も徐々に設立されてきています。米国は日本より広くて、密接なコミュニケーションがとりにくいなど、日米の違いはあるので、必ずしも米国と同じようにする必要はないと思います。その中でも神奈川科学技術アカデミー(KAST)は、最先端の大学の研究をすばやく実用化する仕組みで、大学の先生がそこに行って産業界の人といっしょに研究をするという、大学に行くという敷居の高さを取り払った、ユニークな役割を果たしていると思います。

産学官連携―工業技術院と産業技術総合研究所の比較

藤本 昌代 (RIETIファカルティフェロー/同志社大学講師)

出版された本は「産学連携」というタイトルですが、「産学官連携」ということもよくいわれます。これまで、この「官」は研究資金源と企画・実施者として定義され、政府を指す場合と公的な試験研究機関を指す場合がありました。国立試験研究機関の独立行政法人化に伴い、政府からは分離されましたが、政策実施者ということで、「官」と定義することにします。

まず、産業技術政策における工業技術院の役割を年代別に整理します。(1)戦後復興期(1960年代)。技術指導、基盤整備などの産業界への直接的な支援。(2)キャッチアップ時代(1970年代)。ナショナル・プロジェクトの担い手、高度の試験設備の開放、技術相談、技術指導。(3)フロントランナーを目指した時代(1980年代)。基礎研究による社会貢献。(4)COE(センター・オブ・エクセレンス)を目指し始めた時代(1990年代)。さらに基礎研究へシフト。このような変遷が見られます。

その中で、工業技術院での産業界、学界との連携ですが、基本的に委託型分業連携と考えられると思います。産業界にとっては、プロジェクトを通して、国からの研究費が得られる、情報を得られる、若手研究者の育成に役立つ、最先端技術を知らなかった中堅企業の育成ができるという反面、ライバル同士が同じプロジェクトに入ることから、オープンな情報交換は難しいという状態でしたので、完全に共働ではなく、分担という連携でした。

他に、本では挙げていないのですが、1990年代に一箇所に集まって研究するという集中研究方式の事例がありました(産業技術融合領域研究所)。民間研究者との融合を図ったものでした。

他に、全国に7拠点ある地域研究所の役割ですが、地域産業振興と国の産業技術政策への寄与があり、こちらは技術相談や研究成果の普及などの技術支援型連携であるといえます。

独立法人化に伴い、工業技術院は産業技術総合研究所となりましたが、産業界、学界との連携は以下の6つが挙げられます。(1)共同研究による連携。民間とダイレクトにというケースが増えている。(2)研究成果普及による連携。(3)別機関との人材交流による連携。(4)情報交換による連携。(5)技術サービスを介した連携。(6)地域研究所での地域産業界、地域学界との連携。

次に、産業技術総合研究所の組織図を見てみます。他の独立法人の組織図と比べ、特徴的なのは管理関連部門といわれる、研究以外の部門が非常に厚く設けられていることです。本体の研究部門での成果を運用するための意気込みが見えます。

まとめとしまして、まず連携については、産業界とは共同研究、成果普及、技術相談など、大学とは共同研究、大学院生の受け入れなどを行っています。そして、研究重視型(ハード)から研究成果運用(ソフト)への移行、ということで、組織設計に工夫はなされていますが、研究成果の発掘、どの分野にどういうビジョンをもって研究を進めるかという運用のためのデザイン強化に、さらに人材を投入する必要があると思います。それから、地域での総合的な援助など、先端的研究以外の役割への期待があり、両方の役割期待へのバランスをとるのが課題です。

大学の外部変化への対応性

星野 友 (東京工業大学生命理工学研究科修士課程)

この研究の目的は、東京工業大学のカリキュラムの変遷を分析し、日本の大学の外部変化への対応性を考察すること、またスタンフォードの事例、原山さんが研究されたものですが、それと比較し、今後のカリキュラム設計への提言を試みることです。

背景として、まず米国の大学ですが、米国の大学は戦略的に市場を拡大・開拓しています。米国スタンフォード大学は、シリコンバレーの産学連携の推進力として注目されていますが、シリコンバレーではスタンフォード大学から優秀な技術者がどんどん出てきて、即戦力となり、しかも人材の流動化により、広く活躍しています。それは大学内で、技術革新のトレンドを踏まえた上で研究分野・講義を対応させ、高速で変化する産業界のニーズにあった人材を供給しているからです。

一方、日本の大学は、人材育成への要請が高まっているにもかかわらず、提供する教育サービスと労働市場で要求されるスキルのミスマッチが存在しています。日本では、どの様にカリキュラムを決定しているのか、外部変化に対応する努力が、どの程度戦略的にされているのか、調べてみました。

調査方法は、東京工業大学の電気系カリキュラムにおける講義数およびその増減を数値化し、講義数の変化の要因を調査しました。結果を見ると講義数は不連続に変化しています。

次に、新しく開設された講義と閉設された講義数を数値化しましたが、これも不連続ということが分かります。

では、このような新陳代謝はどういうメカニズムで起こったのかを調べてみました。すると、変化のあった年には組織変革が行われていたことが分かりました。そのような時に、どういう戦略でカリキュラムを決めているのかということを調べてみましたら、特に学部として戦略があるわけではなく、カリキュラム委員個人の裁量で行われているということでした。組織変革は新しい学問分野の台頭に呼応しているということも分かりました。

その他の特色として、基礎的知識の習得を重視していること、30年位前からは「現業実習」と呼ばれる、現場に行って数日間のプログラムを行うというカリキュラムがあり、プロフェッショナルとしての技術者養成を目指しているということです。

スタンフォード大学の場合は、カリキュラムの新陳代謝が激しく(連続的)、常に古い分野の廃止、新しい分野の取り入れが行われています。また、カリキュラム作成は学部の戦略に基づいています。プロフェッショナルとしての技術者養成という目標は、東京工業大学も同じですが、こちらは基礎知識重視、スタンフォード大学は市場の動向重視、というように目標達成への戦略が異なっています。

そこで提言としましては、JABEE(日本技術者教育認定機構)の設立により、今後カリキュラムの国際標準化など外部からのプレッシャーが高まることが予想されることから、このような外部変化への対応が必要になるのでは、と思います。さらには、積極的かつ戦略的に次世代の技術パラダイムを模索し、現場のニーズも汲み取ってカリキュラム作成を行っていくことを期待します。

質疑応答

Q:

日本では、「官」の縦割り構造が非常にネガティブに働いているように感じているのですが、米国でもそういう問題があるのでしょうか。また、どういう形で解決されているのでしょうか。

和賀:

基本的にNSFは基礎研究、DARPAは応用研究を援助しています。特にコーディネイションはないと思うのですが、プログラムマネージャーの制度が違いまして、DARPAは大学の先生が2、3年間プログラムマネージャーとして入ってきて、その先生もNSFで研究をしてきている人だったりして、今度は自分の同僚みたいな人達にお金を出すわけです。人の流動性が非常に高いので、すぐ情報は拡がると思いますし、またナノテクノロジーの分野では、NNI(National Nanotechnology Initiative)というのができ、それはとてもよく統制がとれています。

原山:

スイスの事例では、経済省と文部省は、それぞれ相手方の研究資金の配分を決定する委員会に人をだしており、人的交流、情報交換がなされています。

和賀:

研究者にインタビューしますと、やはり縦割りの問題はある、と皆さんおっしゃいますが、産総研では、最近、研究資金が削られているということに、危機感を持っていまして、ユニットによっては、経済産業省からの運営費交付金と文部科学省からの外部資金の両方によって運営されているところもありますし、複数の省庁との共同研究を行っているところもあります。そういう重複を解消するのはなかなか難しいです。産総研の地域研究所の中でも、研究の重複は見られたので、研究分野ごとのユニットを組み立て、中の縦割りは解消する工夫がされています。

Q:

カリキュラムに関して、海外の産学連携と比較した時、企業のニーズに応えられるようなシーズは日本の大学にも揃っているのだけれども、連携が悪いということなのか、それともシーズそのものに問題があるということなのでしょうか。

星野:

シーズは日本にもあり、システムが足りないのだと思います。大学は、企業のニーズより一歩先の新しい技術分野を創造するようなシーズを出していくべきだと思います。

和賀:

大学での研究というのは、もの作りに直結しないものがメインです。米国の研究者いわく、大学では一企業ではなかなか出来ないような研究をするのが重要で、産学連携で将来的な技術転移がどこに行くのか見定めることが大切である、ということです。受け皿がない場合は、自分たちが受け皿となります。シーズを全て企業化するのは、難しいです。これから国立大学の法人化にあたり、産学連携で資金を得ようとする時、リスクについてもよく考えなければいけません。

Q:

大学が産学連携を進める背景の1つは、米国にしても中国にしても、国家予算の削減があると思うのです。基礎研究にはお金がかかるものですから、いかに応用研究からフィードバックを得るかということを大局的に考える必要があると思います。そうでないと基礎研究がおろそかになる危険性もあります。特にバイオの話では、バイオ創薬では基礎研究に直結しているかもしれませんが、周辺のバイオ・ビジネスはそうではないので、その辺は区別していただきたいと思いました。
それと、大学のカリキュラムの話で新陳代謝を講義数の増減で分析されていましたが、先生と講義内容の関係についてなど、質的な変化も見ていかないといけないのでは、と思いました。

星野:

それはそうだと思います。東工大の場合、新しい分野を取り込んで内容が増えて、そのうち飽和します。そこで先生が辞められた時、新しい先生を入れるのではなく、科を分けるということで対応します。スタンフォード大学の場合は古い分野を廃止して、新しい分野を取り入れるという違いがあります。日本は先生の流動化があまりないので、それも問題の1つだと思います。

原山:

大学の制度もだんだん緩くなってきており、今の枠組みの中でも大学の対応性を高めるためにできることはいろいろあります。しかしそれを実行に移さないことが問題なのです。また産学連携をいかに「したたかに」活用していくか、というのがこれからの課題だと思います。企業側も大学の基礎研究を援助するのは、長期的視野にたてば必要になってくると思います。

Q:

バイオ・ベンチャー企業の特許出願は少ないわけですが、その原因として、創業者(研究者)が自分で持っていて、それを企業に使わせている場合があると思うのですが、来年から国立大学法人化に伴い、特許が機関有になってしまい、企業が使いにくくなるのではと思います。その辺について、どう思われますか。

中村:

私は、機関有になってもそれほど変わらないのでは、と思っています。大学にとっては収益上有利になると思いますが、ベンチャー企業には特に影響はないと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。