ITバブル後の政府調達について

開催日 2003年4月25日
スピーカー 海野 恵一 (アクセンチュア(株)パートナー)
コメンテータ 後松 範之助 (アジルコンサルティング(株))
モデレータ 池田 信夫 (RIETI上席研究員)
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議事録

コンサルティングから責任シェアに

本題の前にアクセンチュアがどのような会社か、また私自身がどのような仕事をしてきたか、述べておきます。

アクセンチュアは、世界に社員が7万5000人、日本に2500人います。私は、今年3月末まで日本法人の代表取締役でしたが、今はパートナーとして仕事をしています。33年間勤務しましたが、前半の16~17年はソニーや日産自動車を担当しました。後半の16~17年は化学、電力、石油などの分野でコンサルティングをしてきました。

アクセンチュアは、ITすなわち情報システムの構築、また、業務改革を推進することを主な業務としてきましたが、最近は、BTOすなわちビジネス・トランスフォメーション・アウトソーシングというやり方に変わってきています。

これは、お客様の本業を一緒にやりましょう、業務を代行しましょうということです。つまり、責任もシェアしませんかということです。社名をアンダーセンコンサルティングからアクセンチュアに変更したときに、コンサルティングをとった理由が、そこにあります。これは、重要なことなので冒頭に申しあげておきます。

アクセンチュアも社員が7万5000人もいると、お客様と利益をシェアする一方、損失が生じた場合には補てんもするというのが、基本的な考え方です。皆さんが認識されているコンサルティングとは、少し概念が違うと思います。

そんな中で私自身が取り組んでいるのは、日本の企業の本社業務の一部を、中国の大連に持っていきませんかという運動です。それをアクセンチュアが責任をとりますよ、ということで推進しています。

バブル、ITバブル崩壊後、日本の製造業は低迷しています。これを水面からアップしていくには、中国の7%、8%の経済成長のメリットを我々が享受してもいいんじゃないかという発想です。メリットとしては、アクセンチュアはアメリカの会社のため、中国政府がアメリカに遠慮して、くちばしを入れにくいということがあります。また、大連は万里の長城より北にあり、文化、風習が日本と似ているのでやりやすいのです。この構想は日本の企業の活性化プログラムの最大イベントになりうると思っています。

実際、ここ1~2年くらいで10数社が本社の一部を含めた機能を移転させると予想しています。この移転は、コスト削減という短視眼的な要素ではなくて、サービスをどうするか、機能をどうするか、業務の品質をどう向上するかという企業の本質的問題を解決するための方策です。

そして中国は僕の専門領域でもあるのですが、ITとBTOと中国、さらに環境を結びつけて展開したいと思っています。環境問題は日本経済の停滞と非常に関係があることで、これまでの大量生産、大量廃棄を適量生産に転換することが重要だと考えています。

レガシー(既存)システムの問題

自民党e-japanの重点計画特命委員会が、レガシーシステムについて下記のような問題提起をしました。

(1)中央省庁における情報化経費の約8割を占めており、このレガシーシステムにメスを入れない限り、予算の効率化は進まない。(2)しかも、事実上システムをサポートしているコンサルティング会社は4社、寡占の状態にあり、また、安値落札・高値随契の疑いがある。(3)オープン系システムに比べ、約5倍の年間経費を要しており、高コスト構造となっている。

しかしながら、レガシーシステムは日本の公共サービスの事業基盤として長年にわたって貢献してきました。課せられた使命は大きく、メリットとして主に次の点があげられます。(1)歴史が古く、過去の情報資産を保有している。(2)日本全国あまねくサービスを提供している。(3)社会インフラとして高度な信頼性、要求がある。(4)複雑かつ連綿として制度への対応が求められている。

こうした経緯もあり、システムは大きくなりがちですが、単純に大型コンピュータを利用し続けていることが悪いわけではなく、問題は、過去のシステム資産の呪縛から逃れられないことにあります。つまり、過去のシステム遺産により委託先が限定されている、委託先に依存して業務知識が空洞化している、建て増し的なシステム開発になる、などの点からシステム規模が肥大し、開発保守費用が増加するということが、デススパイラルとなって繰り返されているわけです。

こうしたことは先に電子政府問題であげられたことと基本的に同様の問題を内包しているのではないか、と観測されます。例えば、(1)ITと業務・人事改革の連係が十分でない=今までの仕組みは必要ないのではないか。(2)ITをてこに規制緩和、行政手続きの簡素化を進める意識が薄い=仕事の仕組みそのものを壊していく必要がある。(3)システムのオープン化・共通化が図られていない=システムはあくまでも手段であり、その背景には要らない仕事が多い。といった点です。

さらに、過去のシステム資産に縛られることで、投資対効果(IT-ROI)が低くなっているのではないか、という疑念があります。効果とは何か、効果の算定がおかしいと思います。ある仕組みをやるのに、今までの仕組みを捨てたらどうですかといっても、そこに企業がむらがっているため、それができないのです。

要するに、(1)IT投資に占める投資/コストの配分が不適当である=本来必要な戦略的なIT投資の比率・額が小さい、結果としてIT効果を引き出せていない。(2)IT投資先の視野が狭い=IT投資が業務効率化や業務機械化の段階にあり、革新的な「攻め」のIT投資が行われていない。(3)IT投資/コスト管理方法が貧弱である=IT投資に対して計画的、客観的な効果測定ができていない。(4)保守・運用などのITコストについても適切な基準設定が行われておらず、改善できる費用が多い。

本当は、システムを入れ、業務を変えた場合、効果がなかったら誰が責任をとるのか、追加投資はどうするのかという問題があるはずなのですが、日本人は、けじめをとらない、これは日本全体の課題だと思います。

IT投資とコストのバランス

次に戦略的IT投資とコストのバランスについてです。

企業はITコストとして、システム維持運営、機器の保守費用、ライセンス費用、法規制対応などに出費します。こうした経費を情報化経費の55%にして、残りの45%を戦略的IT投資(=戦略的案件への投資)に回すのが適正だと判断しています。民間優良企業はじめ政府関連においても、45%を投資すべきだというのがメッセージです。

それでは、戦略的IT投資とは何でしょうか。レガシーシステム問題は、どうしても単純なコスト縮減の議論に陥りやすいのですが、サービスをどう向上させるのか、機能をどう拡張するのか、品質をどう向上させるのか、といった問題を考えるべきなのです。コストをかけなければいけないところもあり、戦略的な課題に向けてITをどう活用するべきなのかという、本質的な議論につなげていくべきだと思います。

IT-ROI改善の本質は、コスト部分の適正化を目指すアプローチというより、ITをてこに事業革新を実現するスキーム構築を意味しています。(1)戦略的なIT投資、(2)システム保守費、(3)維持運営費という3つの見方をしていくべきです。考慮点としては、ITをてこに事業革新を導くのは容易ではないため、手段を検討する必要があります。

IT投資の原資をどう捻出するのか、継続的に原資を確保していくのかという原資の問題、現行システムを維持しながらどう新たにITを活用するのかというリスクの問題、ITコスト大幅縮減だけでなく事業コストの削減や徴収削減のため、どのような改革を実施すべきかという改革領域の問題があります。

レガシーシステムからオープン系システムにダウンサイズすることで一般的には、ITコストの縮減が可能です。プロジェクト管理、ソフトウェア開発及び保守、ミドルウェア、ハードウェア、データセンター/ネットワーク5つの領域で、約30~50%の削減が可能という数字が出ています。

ITーROI改善と事業革新を実現するためには、戦略的アウトソーシングを実施するのが、最短のアプローチだと考えています。そのためには、政府もアウトソーシングするべきです。戦略的アウトソーシングとは、アウトソーサーの経営資源を有効活用し、従来の外部委託方式や公共機関自らの営みでは遂げられない変革を達成するプログラムです。

アクセンチュアは、次の7つのプログラムについてそれぞれが専門集団をつくり、プロジェクトを推進しています。IT戦略策定ノウハウ、業務革新ノウハウ、人材育成ノウハウ、プロジェクト推進ノウハウ、事業経営ノウハウ、ファイナンス能力、リスク担保能力です。

従来型アウトソーシングとの違いは、従来型が仕様に従った成果物や役務を期待するのに対し、アウトソーサの裁量範囲を拡大することで、事実上の成果を期待することです。(1)官民のジョイントベンチャーの設立など、創造的なビジネスノウハウのもと事業をより機動的に変革する。(2)従来、委託先が実施していたシステム開発・運用管理作業を含め、アウトソーサが責任を持ってあたる。委託元から必要なノウハウ・知識が空洞化している場合は、その再教育を含めて実施する。(3)一定レベルでのサービスを保証し、システムを構成する技術基盤の選定・提供については、アウトソーサーの裁量に任せる。(4)組織にとって重要であるがコアでない業務プロセスのアウトソーシングを請負う。アウトソーサーが、これらの業務プロセスを管理し、継続的に改善することでコスト削減と効率アップを実現する。

以上が主な点ですが、10数年前、アンダーセンコンサルティングの時代に空港の業務を全部請け負って、業務プロセスを改革した例があります。経営からお客さまと一緒になって進めて、効果が出せると思います。

また、戦略的アウトソーシングで実現できる継続的な効果は、従来型では成し得ない大きなものです。従来型アウトソーシングでは、5年で200億の効果を出すという場合、毎年40億の効果を出すものですが、5年間その通りにいくとは限りません。戦略的アウトソーシングでは、互いの努力にあっても効果が上下するとして、減れば責任をとり、増えれば利益をシェアするというものです。そういう改革であるべきだと考えています。欧州では、普通にやっていることです。

アジルコンサルティングについて

(コメンテータ:後松氏)
アジルコンサルティング株式会社は今年4月にスタートした会社で、アジルは、アジアの意味です。アーサーアンダーセン、監査法人デトロイトトーマツ、朝日監査法人のOBが集まって発足しました。何をするかというと、IT投資前と投資後の企業価値、業績価値指数(KPI)や企業価値を評価し、目標達成度をモニターし、その実現を確実にします。対象としている会社は、売上規模で1000億円以下の中堅企業です。

また、大手コンサルティングファーム出身者による経験豊かな品質の高さを誇っています。コンサルティング方法論は「AGILE BPR With ERP」、ツールには斬新なシステム構成ソリューション「Cross Solution」を使用します。コンサルティングフィーもプロジェクトコストが最長2年で回収できるように設定しています。

システムをレガシーからオープン系に変更することは安定性とセキュリティ上、明らかにコストが下がることは事実です。政府関係のIT投資額は、相当多いと思いますが、システム以前に効率化、業務改革の問題もあるかと思います。政府の調達コストという点では、コストが何をもって妥当であるか、安いか高いか、その物差しが難しいということであれば、アクセンチュアのIT設計の考え方はセカンドベストとして使っていく考えです。また、経済的な効果を事前の事業で経営的に評価しようというツールを現在、開発中です。

当社オリジナルの企業価値評価アプリケーション「AGILE EV ASSESSMENT」について説明しておきます。

企業戦略および企業の経営モデルの観点から評価し、目標としての企業価値指標を設定し、そして企業活動の推進にあわせ、企業戦略の実行状況と経営モデルの整備状況をモニタリングすることにより、企業価値増大目標の達成を確実なものにします。企業価値のひとつの指標としてROEを事前、事後評価します。ROEは、企業セグメントとセグメントを構成する経営モデルで構成され、経営モデルは組織、人、業務プロセス、ITによって構成されます。今、ソフトを開発中ですが、単にデータをインプットするとROEが出てくるというものではなく、ITのどこを変えるとROEがどう変化するかというシミュレーションをします。今年の夏に第一バージョンとして汎用的なものをつくり、今年中にセカンドバージョンをお客さまと議論しながら作る予定です。そして現在値と目標値がERPを導入して稼働後、定期的に数値を入れ、それが確実に実現できるようにサポートしていきます。アクセンチュアさんもコスト削減をアクセンチュアとお客様の間で折半するお話がありました。私どもで今、2つのプロジェクトが進行していますが、2億7000万ぐらいかかるところを1億弱でできるばずという事例もあります。

質疑応答

Q:

アクセンチュアがコンサルティングをやり、それでコストを下げた場合、本来得られるであろう公共的な利益のかなりな部分がアクセンチュアの利益となってしまうのではないでしょうか。つまり、コンサルティングファームとシステム運営会社は、同一であってはいけないのではと思いますが。

A:

我々は自分たちの利益を考えているのではありません。例えば、各省庁間の共済業務などは、一元化したらいいのではないかと思うわけです。過去のしがらみとは、手を切ることです。100億円の損害賠償と言われても、慰謝料を払ってでも清算する覚悟が必要です。そうでないといつまでも別れられない。共済業務は一元管理、という網を投げかけ、どこが一番いいアイデアを出すのか比較する。そうすれば、今まで1000億かかっていたことを200億でやるところが出てくるのです。

Q:

実際に政府関係者や大企業に業務改革の提案をしても、結局はいろいろ条件がついて、コストが高くなっていってしまいます。発注側の意識が根本から変わらないとだめなのではないでしょうか。

A:

私が実際にやった例では、やはり人事から根本的に変えないと成功しませんでした。発注側が、腹を据えて「すべてを任せる」という姿勢にならないと、無理です。アクセンチュアは、やはりアメリカの会社ですから狙ったら徹底的にやります。それだけ任せられないと引き受けません。アジアの中で日本が孤立しているのは、その点で、中国の企業はまさにアメリカ流です。ウムも言わさずにバサって切っていきます。

A(後松氏):

現場での調達を2回ぐらいやったんですが、何が大変かというと、どういうハードが必要でどういうソフトが必要かって、すごく詳細な証書をつくらされる、これがないと入札にかけられない、さらに条件がついてきて、1社しかつくっていないような機材というのは、書いちゃいかんとかあって、さらに詳細なものをつくらされる。その結果、ものすごく技術的な仕様書になっちゃって普通のが作れないということになる。そうすると本来やりたい業務が実現できないものになっちゃったりして、あれ直せ、これ直せということになる。じゃ、どうしたらいいのかということです。この仕様書があるからコストアップになるので、国の発注の仕方を変えることによって相当、変わってくるんじゃないのかなと、私は思っています。

Q:

行政から見ると、ベンダーに行政がだまされていると、ベンダーはそんなことはないと、行政がいいかげんだからこういうことになるんだとお互いに責任の押しつけあいになっているのではないでしょうか。いったい、どこから直していけばいいんですかね。

A:

各省庁がバラバラにやっているのをひとつにする、完全にオープンで。今までの規制とか過去のしがらみを全部忘れてやればいい。誰か腹くくって命かけてもやるよっていう人が、一人いれば、できるかどうかわからないけれど、判断できるかなと思います。

Q:

調達例から見て、発注したら、スリムでがっちり、きちんとやってくれるところをどう選んだらいいでしょうか。

A(後松氏):

世の中にどういうサプライヤーがいるかをまず知る、評価する作業がいると思います。もちろんサプライヤー自体が、クローズしていては話になりません。確かにブランド価値イコール信頼性、それも重要なことで、ある程度評価する時間が必要と考えます。たとえばERPと同じにしてもユーザーさんが、あれやれ、これやれというときりがないですね。ですから、トップがこれしかない、やるんだったら捨てるところは捨てると。ただ、捨てるところをどうケアするかという措置はやりながら、やはり目標と戦略をどうするか、ということです。ERPをオープンシステムにしても、セキュリティはないしということになる。すると業務改革をやるしか話は進まないということだと思います。

Q:

アメリカのIT調達ではレガシーとオープンの比率はどの程度でしょうか。

A:

レガシーとオープン比率で言うと、今、市場の中で新規導入する際ですが、日本は32~33%から40%ぐらいの間、米国が11%ぐらい。つまり3倍ぐらい、日本の方が高いわけです。ちなみにコストの話を申しあげると、たとえば、日本だけではなく世界中にあるわけですが、同じものを韓国でつくると30億、40億でできるものを日本は1000億投入している。そんなイメージですね。

Q:

IBMが成功した1つの理由は、ややアイロニカルなんだけれど、メインフレームをやめなかったことなんですね。みんながオープン系になっているときに、メインフレームのマーケットは今後どうなるでしょうか。

A:

最近メインフレームが増える傾向もあるんですよ。何故かというと、メインフレームでオープンソフトが動くものが出てきている。要は、外のデータベースとの接続性があれば、ソフトの早いメインフレームを使いたい、という人がいて復活しているんですが、メインフレームと呼んでいても似て非なるもの、そういうことだと思います。

Q:

現在、経理をやっていますが、以前、商品取引会社の取引をネットで担当したことがありまして、コンピュータを使ったシステムをどう組むかが、業務上重要だと思っています。新しいシステムを導入しても、それが何年かたつと他のサービスも提供したほうがいいだろうとか、同じサービスを提供していくにも今のシステムを改良したほうがいいということになりますが、そういう大きなシステムの変更をどういうタイミングでどれだけやるかという判断をする際に、取引所の経営者なり提供会社の経営者はどういう点を重視すべきでしょうか。

A:

そもそも金を出すときに何が今の時代の流れの中で、我々がしなければいけない原点かを見極める必要があると思います。それによっていくらお金を出すか、だから何を効果の基本的な基準にするべきか。これだけ効果がありますよということじゃなくて、効果そのものの基準となるベースのファクターは、何なのかということを考えるべきと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。