アジア産学官連携の実態と日本・地方の対応

開催日 2003年1月24日
スピーカー 三本松 進 (島根県立大学教授)
モデレータ兼コメンテータ 角南 篤 (RIETI研究員)

議事録

田辺:私は去年の7月まで、中国経済産業局の局長を務めておりましたので、1つは中国地域のPR、もう1つは地域での産学官を推進した立場で、地域イノベーションシステムの形成や地域行政の重要性について、私が体験したことを申し上げたいと思います。

中国地域の産学官連携

中国地域の産学官連携は盛り上がっております。2002年2月に尾身大臣を迎えて、中国地域の産学官連携サミットを行ったときには、全国でも珍しく全県の知事(1県だけは副知事)、各県行政のトップ、各県商工会議所連合会会長、中国地域経済連合会会長、全ての国立、私立、公立大学にも参加してもらうことができ、まさに中国地域の産学官サミットという形になりました。ラウンドテーブルでは、中国地域発展のための産学官連携マスタープランという3カ年計画プランをつくり、産学官連携の具体的な実用事例を3年間で1000件行うことにしました。

また、基本方針は「人」です。通常、産学官連携とは、大学の教育や共同研究とは別に産業との結びつきのところで産学官連携ということが多いです。人を育てる役割というのはまさに大学の大きな役割です。大学の教育そのもの、または研究そのものを、地元地域のニーズ、地域の産業、地域の社会に基づいたものにしようと掲げています。

もう1つは、地域や社会自体にチャレンジする文化を形成しようということです。産学官をそもそも担っている産業界や大学、行政の意識改革からまず始めます。そのためには地元の産業を積極的に盛り立てることが必要です。例えば、地域の県庁や市役所は非常に大きな組織ですが、県庁や市役所が新卒の技術系も事務系を採用しても、元気がある若者は大組織に入って安住してしまいます。それではその地域は元気になりません。新卒採用をできるだけ控えて、ベンチャーをおこそうとして失敗した人を積極的に採用するような行動指針もその1つです。

また、日本の行政や産業界は、物を購入しても契約金すら払わず、物を全部納めた数か月後に手形で払う商慣行があります。これではベンチャーや中小企業はなかなか元気になれないのです。そこで中国地域は県庁や中国連合が率先して契約金の3割は前払する試みをしています。ところが現状は、研究開発の委託をする場合、年度経費や、補助金は全て後払いです。ベンチャー支援を唱えつつ、ベンチャーにはものすごく苦労をかけているという面があります。

行政の役割

地方の産学官連携で考えたことは、産学官連携の中での官の役割です。地方の場合は、行政の役割を前面に持ってこなければいけないので、中国地域の産学官連携の官は行政そのものです。工場をいろいろ回って気がつきましたが、中国地域は非常に元気のいい中堅、中小企業が多かったです。例えば日本ビジネス協議会に属している元気のいい経営者の2割は中国地域にいます。しかし、「外国人の技術者を雇いたいのだけど来てくれない」という報告をよく聞きます。幾つかの理由の1つとして、家族で来日しても、子供の教育ができないという問題があります。これはまさに行政が関与し解決できる分野です。

企業の競争力は地域の行政のあり方、地域のシステムのあり方に関与しています。女性がもっと頑張るという意味もそうですし、地域の行政が大学を産業界のために役立てるといった面で環境整備をする必要もあるのではないでしょうか。

日本全体の景気がよければすべての県がよくなる時代ではありません。県で産業を誘致するということも重要ですが、何かが生まれることを積極的にやって、税収が伸びるように自治体が取り組む必要があります。もっと自治体がこの産学官連携に取り組むべきです。

中国地域はそれぞれの県が競争する形で産学連携を試みていますが、予算の問題があります。しかし、大臣が島根県から出たということもあり、非常に盛り上がっているのが現状です。

質疑応答

Q:

日本や中国地域の状況を考えると、大学の先生方の意識もまだまだ低いですし、システム的にも自由度は高くありません。アメリカやその他の地域でいろいろな産学連携システムを見てきましたが、日本ではハードは揃っているもののシステムが追いついていないようです。マネージメントを変えていくところに手がついていないので、そこが変わると本当にいい産学連携ができるのではないかなということを、常々思っています。様々な施策なども行っていますが、例えばSBRI制度という日本の制度が市場とどうつながっているかという公共調達の面のシステムが全然ないのです。地方でトレードオフの関係がありますからなかなかできません。このような公共調達の問題があります。また、コーディネーターは大変大切です。しかし、現状は縦割り世界のコーディネーターはたくさんいらっしゃいますが、その方々が横につながっていないという問題があります。このようなマネージメントの関係を変えれば、非常にうまくいくのではないでしょうか。更に、インキュベーション制度にも問題があると思います。インキュベーションセンターはいろいろありますが、6年や7年もインキュベーションに入っている状態のものもあります。インキュベーションセンターは早く卒業させなくてはなりません。ある一定時期に目利きができなかったらはじき出さないとだめなのです。インキュベーションというのは、ある年限の間に地域が一体になって育て、それを地域に送り出していくべきなのです。工場団地があれば、土地を安く提供し、生産していく施策です。これらがつながっていないということを常々思い悩んでいるところです。

A:

地方の行政がその役割を果たします。経済局は産業を盛り立てるために必死になって走り回るというのが仕事だと私は思います。まさに縦割りになっているところを、横につなげる必要があります。そのようなことを実行できたところから伸びるのではないかと思います。日本全体一律にというよりも、そのようなことに本当に取り組んだ地域や自治体が成功例をどんどん出していくかもしれません。

Q:

中国地方は重厚長大で日本で1番遅れた産業構造を持っているところだと思いますが、いかがでしょうか?

A:

まさにそこは御指摘のとおりで、中国地域というのは重厚長大なところです。プラント産業や昔の公害防止は、まさに環境のためです。中国地域は産業クラスターの1つが、そのプラント産業で培った環境関連の技術を使って新しい環境関連技術、環境関連産業をつくろうとしています。
具体的には、中だけではなく外へ飛び出していって一緒にやるということを我々もどんどん行っています。例えばペットボトルを再生してもとの原料に戻すという新しい会社をつくったりしております。これは経済産業省が支援し、山口県が相当応援した事業です。このような大きな取り組み以外に、もっと小さくベンチャー的な取り組みも出てきております。そのような応援をしていこうというのが中国地域の産業クラスターの1つです。

Q:

地方ではどこでも財源の問題があると思います。ベンチャーといっても、信用金庫などを含めて、どんどん信用萎縮が起こってしまい、去年だと約3割減だと思います。資金的なものはどこから集めてきているのか伺いたいのですが。

A:

直接私がファイナンスのサーベイをしたわけではないのですけれども、一般的にシリコンバレーでもそうですが、ベンチャービジネスモデルの中のプライベート・エクイティは未公開企業が市場での公開価格から逆算して増資をしてきます。10本のうち1本当たってベンチャーキャピタリストは儲かるというわけです。今、アメリカも株式価格が下がっていますから、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストも何社かに1社はつぶれる、または夜逃げをしている状態です。日本でもプライベート・エクイティはそれなりに整備されてきてはいるのですが、現状、ベンチャーキャピタリストモデルは厳しい状況じゃないかと思います。おそらくどの地域でも工夫しないと今の時期、ファイナンス的には需給バランスの首が絞まっているのではないかと想像します。
地方の利点は、東京や大阪だと目立たないのが割と目立つという点です。すると、行政も応援しようということになります。例えば、鳥取県が去年3月に、地銀を中心に2種類のベンチャーファンドを地元の企業から500万単位で集めました。すると、県も7500万円ずつ出資してこのファンドは立ち上がりました。
もちろん運用の問題がありますし、確かにベンチャーでは様々な壁があるのですが、そのような自治体が中心になり、エンジェルとベンチャーキャピタルの真ん中くらいのところをやろうという取り組みも進んでいます。しかし、そのような取り組みができる県、できない地域によってだいぶ差はでてきています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。