少子化と日本経済への影響

開催日 2002年11月15日
スピーカー 藤原 美喜子 (RIETI客員研究員)
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議事録

私は少子化の専門家ではありません。また、役人でも学者でもありませんが、本日は経済の専門家という立場から、少子化問題がいかに日本経済へ影響を与えており、また今後与えていくのか、という切り口からお話をしたいと思います。私は少子化の問題は女性問題ではなく、家族問題としてとらえなければならないと考えています。そこで、日本の家族政策への予算問題を考えながら、本日はお話をさせていただきます。

はじめに

短期間に経済大国の仲間入りをした日本について、私自身は日本人として誇りに思っています。でも、そのために払ったツケは大きかったのではないでしょうか。そのツケのひとつは、子どもを産み、育てることが難しくなったことです。今年6月の「国民生活に関する世論調査」で子育てについて、「楽しいと感じることの方が多い」という人が4割(42.9%)しかいないという結果が出ています。一方、ドイツ、英国、アイルランド、オランダ、スウェーデンなどの先進国の調査では、子どもの成長にかかわって見守るのは人生の最大の喜びである、と答える人が7~8割を占めます。年次有給休暇の取得状況は、平成13年度の調査によると、企業が付与した年次有給休暇日数に対する実際の労働者の取得率は48.4%であり、前年比1.1%減少しています。
経済大国であるにもかかわらず、子供を産み育てることが非常に難しくなっているのはなぜなのか。非常に引っかかりをおぼえています。

少子化の現状・原因

少子化の現状を確認しておきましょう。出生数は1973年に209万人だったのが、2001年には117万人で、出生率は1973年の2.14%から、2001年は過去最低の1.33%まで落ち込んでいます。都道府県別で見ると、都会ほど出生率が低くなっています。厚生労働省の統計によるこれからの予測では、(1)2006年に死亡実数が出生実数を上回る、(2)2014年には出生数が100万人を割り込む、(3)2050年には出生数が現在の半分の66.7万人になる、となっています。もちろん、少子化問題は日本だけの問題ではなく、独仏など他の先進国にも見られる共通した現象です。ただ、日本の場合、非常にスピードが速く、深刻です。

少子化の原因としては平均初婚年齢が男女ともに上がっていることが挙げられます。晩婚化、特に30代男女の未婚割合が高くなっています。30代男女は共に仕事が忙しく、出会う機会が少ないことに加えて、女性の社会進出によって経済力が向上し、結婚を急がなくなったといわれています。晩産化の傾向も問題で、第一子出産時の母親の平均年齢が、1965年は25.7歳だったのに対して、2001年は28.2歳と上昇しています。30歳以上の出産も、1975年の2割が、1995年の4割超と増えていて、出生児数の減少の原因になっていると考えられています。

もうひとつは、生涯未婚率の上昇です。1970年には3.4%だったのが、1995年には5.1%、1980年生まれの生涯未婚率は16.8%まで上がるのではないかといわれています。さらに、高い子育てコストも少子化の原因とされます。体力・時間とは別に経済的負担が増大して、1994年の厚生白書によれば、大学を卒業するまでの子育てコストが2000万円弱ということで、2人目、3人目をつくることへのためらいがあります。

若年層の価値観の変化や多様化も少子化の原因になっているようです。女性の高学歴化と就業意欲の高さに加えて、仕事と子育ての両立が困難であれば産まない選択をする、また夫婦別姓を志向すると今の日本では事実婚となるため、婚外子になってしまう子どもを産むのをためらう、といった人々の存在があります。さらに深刻なのは、産みたくても産めない人たちがいる、ということです。厚生労働省の推計によると、不妊治療受診者数が全国で28万人もおり、保険を適用するかどうかで議論の真っ最中です。

政府による家族政策の欠如も指摘しておく必要があるでしょう。即ち、女性が社会進出を果たして経済的に自立できるようになって、女性労働者が増えているにもかかわらず、政府の子育て支援に対するコミットメントが増えていないということが問題なのではないでしょうか。最近の社会保障給付(1999年:75兆円)の内訳は、それぞれ高齢者対策予算が68%、子育て支援予算が3%になっていて非常に差があるのです。

少子化の日本経済への影響

さて、少子化の日本経済への影響について3つに絞ってお話しします。まず、労働力人口の減少が挙げられます。特に、30歳未満の若年労働力人口がこれから2015年までに500万人と約30%が減少し、30~59歳の層でも150万人が減少すると予測されています。政府は、将来的に外国人労働者に頼るのか、働く女性に仕事を辞めずに子供を産んでもらうか、政策決定をしていかなくてはいけないと思います。そうでなければ、労働市場の規制緩和をしなくてはならないかもしれません。

次に、経済規模の縮小です。30歳未満の若年労働者が減るということは、消費者としても減少することであり、消費市場の縮小も影響として大きいです。子ども関連産業、教育、レジャーおよびサービス業の売り上げが悪化するでしょう。子育てにはお金がかかるので、仮に今年、10万人多く産まれたと仮定すると、1年間の消費額を1人100万円とした場合は10万人×100万円として1000億円。さらに、成人までの追加消費は単純にそれを20倍して、2兆円が創出されるとしてソロバンをはじくことができます。現に日本で、1950~1970年に総世帯数が倍増したときは住宅需要、耐久消費財が大幅に増加することを経験しています。

3番目に、社会保障負担の増大も問題です。平成12年10月の厚生労働省推計によると、社会保障給付費は2005年に100兆円、2010年には127兆円と税収入の約4倍、2025年には207兆円になるとされています。実際、国民負担率は1975年の7.5%から2002年には15.5%と大幅に増加しています。世帯主の年齢階級別所得再分配状況によれば、60歳以上か未満かで当初所得と再分配所得の額が逆転して税金がもらえない、ということになりかねないのです。

少子化改善プラン、その具体的提案

これまで厚生労働省を中心に、エンゼルプランで保育所を増やす等、少子化改善プランを策定してきましたが、その実態・成果はどうなのでしょうか。不安に思っている国民が非常に多いのではないかと思います。国民は豊かさを感じていない、不況による消費不振やデフレによる買い控えがある、といった日本の現状が浮かび上がってきます。「タンス預金が30兆円ある」と金融機関の人がいっていましたが、根強い政府に対する不信感があるようなのです。いざというときに手元にキャッシュがあった方がいいと思っているからです。90年代には13回の補正予算、120兆円規模を組みましたがそれも成功しませんでした。GDPの60%は個人消費なのにその伸び悩みがGDPマイナスの要因となっている、とさほど効果があったとは思えない状況が浮かび上がってきます。

やはり政策の基本姿勢として、短期決戦型ではなく「少子化改善10年計画」というように政府が家族政策に対する長期的なコミットメントを示すことが必要です。特に、若い人がいかに日本の将来にとって必要なのか、ということを明らかにすべきだと思います。国の経済政策のために子供を産む必要はありませんが、産みたい人のためにはもっと予算配分をして支援してもよいのではないでしょうか。家族政策の目的は消費目的であってはいけないと思いますし、子育ては基本的に親の責任です。ただ、親ができないところは、政府支援、特に、若者が子どもを産んでも仕事を続けていくことを支援するということが必要だと思います。家族支援目的の予算枠を大幅に増額し、労働力減少回避のためにも、働く母親が仕事を辞めることなく子育てができるような予算配分の実現が課題です。女性は消費者だけでなく、就労者として税収アップに貢献できるのです。

ここで、毎年、2万人の子どもが産まれる場合と、10万人の子どもが産まれる場合とを仮定して1~5年目までのキャッシュフローを算出しました。すると、2万人の場合は3000億円、10万人の場合は1兆5000億円と算出できます。毎年10万人の子供が産まれるというのはいくらなんでも非現実的であることは承知していますが、あえて計算のために数字をおいてみました。それによって恩恵を受ける企業は、子供関連産業から自動車産業、レジャー産業、産婦人科・小児科医院、バス・タクシー等輸送業、宅配便や理髪店まで、多岐にわたります。子供の成長とともに、教育関連やゲーム、出版なども恩恵を受け、さらには子供が増えて住宅の買い替えなどの場合にはテレビや冷蔵庫などの耐久財への需要増加も見込まれます。また、政府にとっての恩恵は何か。それは税収増であり、社会保障財源の増加です。企業収益も改善し、株式市場が回復します。

最後に、さらなる改善策として少子化対策は若者の多様化した生き方にあった政策であるべきです。夫は仕事、妻は家事子育てといった、戦後の分業型家族モデルは今の時代にはなじみません。夫婦共働きを前提とした家族モデルへ移行する必要があるのではないでしょうか。「男女別就業意識の違いの推移」という調査では、1972年には男性の26.2%が「(女性は)結婚するまでは職業をもつ方がよい」と回答していたのが、1995年には11.1%まで15ポイント減少します。代わって「子どもができてもずっと職業を続ける方がよい」というのが同時点の9.7%から27.3%へと大幅に増加しています。若い人の意識がかなり変わったのではないでしょうか。

少子化の話をする時、女性の就労曲線を示すM字型のMの後が上がった方がいいわけですが、彼女たちが気にするのは機会コストだと思うのです。家庭に入ると失ってしまうコストが高いから、産むのをためらったり、後回しにしたりする。つまり、働く女性たちが仕事を辞めなくてよいような政策、機会コストを低くする政策を生み出すということが大事なのではないかと思います。

<具体的提案>

1.内閣府に家族政策大臣を新設
内閣府に家族政策大臣(40代前後の女性)を設置して10年計画を策定、国のビジョンを作る。また、日本はこれから30年が大変なわけだから、その中心にいる30代が意思決定に関わっていないのはおかしい。当事者である30代を中心とした審議会にするべきである。
2.家族政策予算の大幅引き上げ
出生率回復のために家族政策の予算を大幅に引き上げる。高齢者対策重視型予算から、家族政策予算へのシフトを推奨したい。増額予算対象項目の例としては、(1)ゼロ歳児用保育施設の増設、(2)児童扶養手当の増額、(3)出産費用の保険適用化、(4)子どもの医療費の無料化、(5)不妊治療の保険適用範囲の拡大、(6)育児休暇用手当の増額および期間の拡大、(7)保育園費用およびベビーシッター代の課税所得からの控除、等。
3.規制緩和
児童福祉法を改正して保育園設立の規制を緩和、年間を通じて入園できるような措置が検討できないか。夫婦別姓を法制化することで、婚外子の問題もなくなり、出生率の増加が見込めるのではないか。
4.企業経営者の教育
企業経営者を教育して有給休暇をとりやすい環境作りをする。毎年、100万人以上の子どもが産まれているのに職場復帰する女性が6万人に留まっているのは、育児休業制度が取りにくいという事情があるのではないか。子供を育てながら働く女性を敬遠する職場環境という問題もあるのかもしれない。

質疑応答

Q:

内閣府には男女共同参画担当大臣もいますが、世間が少子化問題は重要である、ということを認識しないと実際には変わらないのではないでしょうか。少子化対策として投入する予算規模に関して、たとえば一子の出産に1000万円を出すという政策をとれば、女性は子供を産むようになるのでしょうか。そこが個人問題なのか、政策問題なのかの境目なのではないかと思います。

A:

日本政府は長銀の国有化に4兆円を使ってきました。若者も税金を払っているのですから、彼らのために税金が使われてもいいはずです。なぜ彼らに60代まで待たせるのか。金融問題で何兆円もの国庫負担の話をしているのになぜ、少子化対策として若者に税金が使えないのか。日本ほど、20~30代の考え方と、政治家の考え方が離れている国は珍しい。もっと日本の若者は怒っていいのではないでしょうか。

Q:

女性の就労状況を表すM字型カーブの、最後の上がり方に女性自身が満足しているのかを知りたい。政策的にその機会コストはどのように下げられるのでしょうか。キャリアを積み重ねた場合に得られたであろう自己実現や満足度についても考える必要がありますし、日本社会の働き方そのものが問われています。職場に戻りにくい、ということが本質的な問題なのであって、企業としてのコストとベネフィットを、一企業としてどう変えられるかということではないでしょうか。

A:

総論と各論の違いは、痛いほど感じます。なぜ、奨励金を出すなど対策が考えられないのか。具体的なコストベネフィットについてはよくわかりませんが、役所はなぜ、出産休暇などにもっと理解がないのでしょうか。役所こそ、コストベネフィットをあまり考えなくてもいいはずなのですが。お役所が若い人の終業時間を16時にすると出生率が上がるのではないでしょうか(笑)。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。