DOスポーツ振興~社会的要請と課題解決に向けたITによる解~

開催日 2002年10月8日
スピーカー 広瀬 一郎 (スポーツプロデューサー)
モデレータ 澁川 修一 (RIETI研究スタッフ)
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議事録

私は、1980年に電通に入社し、84年からサッカーを中心としたイベントのプロデュースをしてきました。DOスポーツに対するITによる解とは、日本人にどれだけスポーツをさせるかという命題に取り組んだプロジェクトのことでありまして、本日はそれをご紹介させていただきます。

DOスポーツの意義

人々に、スポーツをしたいか、または好きか? との質問を投げかけると、8割弱の人がスポーツはしたいし、好きだと答えます。その反面、7割はスポーツをしていないのです。つまり、需要が潜在化しており、これをどのようにして顕在化させていくかというのが重要なテーマだと10年以上いわれ続けてきました。人々がスポーツをしたくてもできない阻害要因には(順不同) 1.時間、2.コスト、3.場所、4.仲間 が挙げられます。そして、これらの阻害要因が解決すれば、国民の2人に1人は新たにスポーツを始めるだろうと予測されています。
阻害要因の1つである時間については、労働時間の短縮、学校の完全週休2日制により、余暇時間は絶対的に増えています。しかし、増えた余暇時間の80%以上はテレビゲームに費やしているという調査結果もあります。義務教育年代では、スポーツというソフトがテレビゲームというソフトに負けてしまったのです。しかし、仲間はいます。そして、場所についても、国民1人当たりの体育館の延床面積は、先進国の中でも劣っていません。
つまり物理的な問題ではなく、施設はどこにあるのか、どうしたら使用することができるのか、仲間はどこにいて、どうしたら連絡がとれるのかということがわからないのです。このような情報の流通をはかるために、Webサイトを作成することによりスポーツ離れを解決しようというのがDOスポーツです。経済産業省では国が行う事業として、これを3年のプロジェクトとして立ち上げました。1年目は上記の構想を立て、2年目はサイト作り、3年目はそのサイトを運用するというものです。3年のプロジェクト終了時には事業性が高いものは民間に払い下げをし、事業性はそれほどないが、公益性の観点で残したほうがいいものは引き取り手があれば引き取ってもらう、事業性も公益性もないものは止める、という3つにわけて結論を出すということで進んでいます。
DOスポーツの参加人数が増え、1人当たりの余暇消費時間の中にスポーツを取り入れる時間が増えることが、日本にとってどのような意義を持つかをお話します。
老人医療費の問題:21世紀の前半の中で出てくる人口構成の問題を見ますと、老人医療費の負担増が挙げられます。そこで、スポーツをすることにより老人医療費が減るという因果関係があるかどうかを山形県村山市で東大の先生方が3年間にわたって調べました。結果、その関係は「あるらしい」ということでした。但し、地域的なものもあり、絶対的という結論にはいたっていません。引き続き研究中です。
時間消費型の生活:労働時間が減り余暇が増えますと、所得消費型ではなく時間消費型の生活になります。つまり「お金はないが、みんな幸せ。」という形になるのです。ここにスポーツというソフトが入ってくるとそのパフォーマンスを発揮できるのです。
肩甲骨異常の問題:小学生の間ではこの問題が増えています。足の10本の指に均等に力がかけられず、肩甲骨のバランスが崩れて真っ直ぐに立てないのです。それによりホルモンバランスに異常を来します。すると異常犯罪を起こしやすいという傾向になります。これを健全なスポーツを通して改善できる可能性があるのです。
家庭の問題:一般の会社に勤め、週休2日制であるにもかかわらず、土曜日は一日ゴルフにでかけるという「お父さん」が少なくありません。これでは週休2日の意味があまりなく、「お父さん」は結局週に6日間、家庭に不在になるのです。もしお金をあまり使うことなく、健全なスポーツに衣替えをすれば、それを産業化することもできるし、日本の社会にも貢献できるのではないかと考えます。
私は99年にスポーツ産業学会でスポーツのソーシャルパフォーマンスについて論文を書きました。その中に以上述べた問題提起はすべてさせていただきました。その内の1つの解で子どもの心の問題を取り上げました。モラルを義務教育で教えるのは難しい傾向があります。道徳教育や、倫理教育を進めようとすると東アジア地域では、日本は「その道に入った」といわれるような外的要因があり、実現が困難です。その反面、環境教育やスポーツ教育は誰からもとがめられることなく、公共心を育てることができる教育なのです。

ITによる解

私は2000年にスポーツナビゲーションという会社を設立しました。そこでスポーツナビというスポーツのポータルサイトを作ったのですが、これはアメリカのCBSスポーツラインをモデルにしたものです。CBSスポーツラインとはスポーツの専門ポータルサイトとしては世界で唯一IPOしている会社です。しかし、スポーツナビはうまくいかず、現在はYahooの子会社になりました。その経験を活かしたいと考えていたところ、経済産業省からDOスポーツのサイトを作るプロジェクトがあると聞きました。
2年間は民間でサイトを立ち上げていたわけですが、今度は国の予算でのプロジェクトです。そこにはいくつかの特徴があります。1つはコンテンツを志向しないことです。スポーツでコンテンツを志向し始めると際限がなくなります。大切なのは、どのコンテンツが誰にとってどのような価値があるかというマッチング、すなわちインターフェースに徹したデータベースと検索です。もう1つは施設の検索ができるデータベースを作るということです。現在、このようなデータベースはどこにもありません。縦割り行政の弊害で、データを収集するのが困難だったためです。利用者にとって管轄は全く関係がありません。このサイトではその検索を実現するようにします。また、このサイトの存在を一般に広めるためにはプロモーションする必要があります。このサイトではYahooやGoogleのような巨大検索サイトと提携することも考えています。更に、最終的には事業化を目的としていますから営業力も必要です。営業とはバナー広告だけでなく、オリジナルコンテンツを所持している人たち(競技団体など)にどこまでこのサイトに参加してもらうことができるかということです。つまり、優良なコンテンツホルダーがこのサイトにどのようにして情報を提供してくるのか、そのモチベーションを作ることも必要です。
このような特徴をふまえて、来年にはDOスポーツサイトを立ち上げる予定です。

質疑応答

Q(青木):

先ほどお話があったスポーツ施設の管轄の問題ですが、この縦割り行政的な管轄の仕方は改善されてきているのかどうかお考えを聞かせてください。

A:

スポーツに関しては、縦割り行政の弊害を改善しようという動きはあります。モスクワオリンピックの時からスポーツ業界では行政を関与させないようにする論調がありました。しかし矛盾するのは、スポーツ界でも政治力をもたないと行政から独立できないことです。従って、全体の底上げをするより、どこかで1つのモジュール化させたものを成功させて他とベンチマークすれば、この弊害を取り除いていくことができるのではないかと考えます。

Q(梅村):

今の子供を見ていると、スポーツをしていないように見えます。むしろ、スポーツを子供のときからしていた年代が「見る側」となって今のスポーツ業界を支えているような気がします。しかし、今後スポーツをしない年代が大人になり「見る側」もいなくなってしまうとスポーツは衰退していく一方だと思います。そのような危機意識はありますでしょうか?

A:

とてもあります。23区内では1校でバスケットボールのチームさえ作れないところが増えてきています。昔はそんなことはありえませんでした。選択肢が増えて、スポーツの競合力が減ってきてしまったのです。スポーツ自体は変わっていませんが、とりまく環境が変化してしまったのです。この現状にやっと気づき始め、スポーツ指導者として登録している8万人をデータベース化することが今年決まりました。今までは、空き地がありました。塾に行かなくてもよかったし。テレビゲームもありませんっでした。すると子ども達は勝手に空き地で遊んでいたのです。しかし、現在はこのようなスポーツ指導者がスポーツの楽しさを教えないと駄目な状況になってしまったのです。

Q(青木):

学校毎にチームをまとめる必要はないのではないでしょうか? アメリカのスタンフォードでは子供達は土曜日にクラブに通いスポーツしています。日本でもそのようなプロモートをしてはいかがでしょうか? すると小学校など公共の運動施設をコミュニティーが使用できるような規制緩和をすることが必要になると思いますが。

A:

学校単位でチームをまとめる必要は全くないと思います。むしろ、今回このサイトを作った主旨もそこにあります。実際に、文部科学省が主導して学校施設の開放はしています。しかし、その一般開放の情報を持っている人が限られているのです。地域の教育委員会にしかそれはなく、そこに情報を取りにいく一般人は非常に少ないのです。それをネット上で開放していくというのがこのサイトです。施設の内容、利用情報、最終的にはネットでレジスター、更に課金まで行いたいと考えています。また、利用者の情報を共有し仲間を増やしていくこともできます。またマーケティングを行うことにより施設の稼働率もアップすることになります。

Q(岡松):

DOスポーツにより逆にスポーツすることが管理されてしまうのではないでしょうか? つまり、通りがかりの小学校のグランドが空いていて、それが開放時間内であるという表示がしてあれば、そこで自由に野球ができるようにすればよいのではないでしょうか。野球するのにインターネットで登録してからでないとグランドは使用できない、クラブに所属しないとできないのでは、スポーツを自由にできなくなってしまうような気がします。自由にスポーツが楽しめるという方向で物事がすすめられないのかなという印象を持ちましたが、如何でしょうか?

A:

その自由を担保するためのシステムと我々は考えています。たとえば、学校施設の開放は簡単なように聞こえますが、事故が起こった時に誰が管理責任者なのか特定できないと実現できません。立会人(管理責任者)にどこまで責任を負わせるのかを明確にしないと自由は担保できません。管理するためのインターネットではなく、「この指とまれ」的なサイトにすればいいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。