理工系学生の起業家育成とベンチャー創業 ~日米比較・米国のインキュベーション事例~

開催日 2002年7月24日
スピーカー 塚越 雅信 (インクタンク・ジャパン(株)代表取締役社長)
モデレータ 原山 優子 (RIETIファカルティフェロー/東北大学 教授)
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議事録

私は、アメリカのケンブリッジに本社があるincTANK日本法人の代表を務めております。incTANKは理工系研究者に対してハンズオンで創業支援をしております。本社の社長Karl Rupingは知的財産権の弁護士です。もう1人のFounderはJim Chungという者で、スタンフォード大学の修士を出た戦略の専門家であります。彼は以前、アメリカの別のベンチャーキャピタルにいまして、IT関連の投資に精通しています。私はボストン銀行(現フリート・フィナンシャル)本社に10年間勤務しておりました。その後、ドイツ州立銀行ウェストドイチェ・ランデスバンクで、金融の特に高いリスクの資金運用に携わってきました。エンタープライズソフトに関しては、OJTを通して理解しております。この3人がinkTANKのマネジメントパートナーです。

IncTANKの本社はMIT、ハーバードなど有名大学が所在するケンブリッジにあります。そのため、技術系研究者の方々の創業者支援を主に行っています。私自身は現在、東京大学先端科学技術研究センターとアライアンスを組んで、インキュベーション、アーリーステージの投資という見地から技術シーズの事業化を進めています。

本日のBBLでは、学生意識や大学の環境の日米比較についてまずお話し、インキュベーション事例、また学生組織についてご紹介させていただきます。その後、企業家側のサクセスファクター、サポートサイドのサクセスファクター、日本の大学環境、学生に期待することをお話し、まとめたいと思います。

インキュベーション事業の中でいちばん大切なことは、自分たちのコストに絡むことはあまりしないという点です。私たちの方針は、低コストで高い付加価値をつけ、事業展開することです。根の生えた技術、有能な起業家の発掘、それをうまく会社にする、これが企業理念です。そこから、我々に投資してくれる人たちに高いリターンをすることが1つのミッションになっております。

スタッフは極力少人数にしております。アーリーステージのベンチャーキャピタルにリターンが入ってくるのは早くても2~3年後であり、それ以前につぶれてしまうところもあります。アーリーステージですので、つぶれてしまっても売る資産がないところがほとんどです。それらの理由から、コストは最小限に抑えるようにするのです。そのような中でのインキュベーションですが、対象は近隣の大学院生がほとんどです。日本でも大学を包括した事業を展開しようとしています。

日米理工系大学比較

日本の大学生の目的意識は低いように感じます。むしろ大学に入ること自体が目的である学生が非常に多いと思います。それは昔も今も変わっていません。あまりにも難しい入学試験があるので、それが終わったら今まで勉強してきたことを捨ててしまうのです。また、自動的に卒業できるという仕組みが学生自身の意識の中にあると思うのです。院生になると、研究者同士の中にある縦割り、横割りのシステムが露骨に出ています。アメリカでもありますが、日本ではそれがもっと陰な部分に出ていると思います。若い学生がもっとやりたいという研究を、自由性を持たせてやらせてあげるという研究室は、相対的にみてアメリカのほうが日本より多いです。また、研究者間のネットワークも日本は少ないです。特に、教授陣と院生の間の壁が非常に分厚いのです。すると、学生が集まるところに教授陣がアクティブに集まらないのです。また、そのようなチャンスもないと思います。

もう1つの日米大学の違いは、大学のセッティングにあると思います。アメリカの大学はそれぞれのキャンパスが孤立していないところが多いです。キャンパスの建物が商業地区の中にあり、町に融合しているのです。ところが日本のキャンパスは、法的に壁で覆われています。空洞化とまではいかなくても、壁の内側にいるか外側にいるかでずいぶん違う雰囲気があります。また、ここ最近ビジネススクールができ始めていますが、それを利用して、理工系の学生とビジネススクールの学生の交流を深めることができれば、もっと違う意味での価値が出てくると思います。たとえば、MITのスローンスクール(ビジネススクール)はエンジニアの学生に興味を持ち、お互いに交流しています。それが引き金となり、ベンチャーが立ち上がることも多々あります。理工系とビジネス系学生の情報の流通がないのは問題です。場の提供とは、個別のものを提供すればよいというわけではないと思うのです。

きょうは、起業家教育というものではなく、ソフトな部分で何が必要なのかということを、私の視点でお伝えしたいと思います。アメリカでは、自分が大学に入って何を勉強したいのか、将来どうしたいのか、という目的意識を持っている学生が多いです。大学に入学するのが目的という学生は比較的少ないです。また、文化的な要素があり、教授群と垣根の低いつきあいができます。教授に対して、授業中はProfessor○○とかDr.○○などと呼んでいますが、他の場所ではファーストネームで呼び、そのようなフレキシブルな状況が継続的なコミュニケーションを作っていくのです。それはプラスの要因の1つだと思います。また、将来の目的意識を持っていると、学生はネットワーキングを必然的に作っていきます。MITのテックリンクは理工系のそのような大学院生が集まって作った、成功している組織です。先ほどのスローンビジネススクールの学生も、テックリンクの中にずいぶん入っています。そのような形で情報の流通が行われています。これは大学が組織的にやっているのではなく、学生が率先して行っているものです。

それでは、日本では大学から派生するベンチャーは育たないのでしょうか、若手の研究者からベンチャーが育たないのでしょうか、というと少し違うと思います。日本の大学にもビジネス意識は生まれてきているといえます。研究だけ行っていればよいという認識から、少し違った意識が生まれてきているのです。また、学生のキャリアプランも多様化していると思います。今までは大企業指向が根底にありました。その要因としては、終身雇用、雇用の安定、プレステージなどがありましたが、その点今の学生、若手の研究者は変わってきているように思えます。さらに教授の中でも、ビジネススクールや実践的な教育が必要とされている、と主張する方も増えてきています。また、もう1つの要因は政府でもベンチャーを奨励してきているところだと思います。これまでは、産学官連携というと、全て共同研究という枠組みの中での事業でしたが、ここ数年は、ベンチャーを大学の技術シーズから立ち上げていくという流れが作られてきています。また、大学の中の意識も変わってきたように思えますし、また、民間のベンチャーキャピタルも増えてきています。加えて、最近はトラディショナルな金融市場の中で魅力のある投資案件があまりないので、その資金がベンチャーの中に流れているということもあると思います。

しかしまだベンチャーキャピタルサイドの認識の問題もあると感じております。経済産業省のマッチングファンド、文部科学省の助成金もサポート要因になっていますが、その助成金の中にはフレキシビリティーが足りない部分があり、利用者の中には、申請しづらい、利用しにくいという感想も出ています。

それに対して、最低資本金の撤廃の法改正が週末ニュースで流れましたが、それが実現すると、ベンチャー立ち上げのコスト削減につながると思います。そうなると、各々ベンチャーはしっかりとした企業理念を持っていないといけません。信用リスクが増えてくるので、その信用リスクに耐えられる企業体ができていないと、融資を受けることができません。

テックリンク

テックリンクは、MITの大学院とスローンビジネススクールのそれぞれの自治委員会が集まり、99年に発足した組織です。incTANKの社長のRupingもその創設者の1人です。最初の目的は、実はワインテーストだったのですが、それ以外にも目的を設定するようになりました。リサーチのトピックを設定し、意図的にラボ同士をひきあわせていく会になりました。また、少人数のラボツアーを組み、横の接点を率先して作っていきました。それ以外に、年に1度非常に大きなイベントを開いています。400名ほどの、学生、教授、研究者を呼び、パーティーを開きます。このようなイベントの中で、名刺の交換をして、研究の話をし、事実その場でベンチャーが生まれたりするケースもあります。99年に出来上がったテックリンクのアクティビティーはMITの中で評判になり、今ではスローンスクールのオフィスや学生部長のオフィスにフルスポンサーになってもらっています。

日本の学生組織は、学生だけで勝手に行っているところが多いですが、大学組織のサポートをもらわないと継続性が薄れてきてしまいます。大学に認めてもらうようにすることは、組織の信頼性を上げることになります。現在のテックリンクは、イベントごとに一般の企業からもスポンサーシップを受けており、近隣のハーバード、ボストン大学のつきあいにも活用されています。

インキュベーションの事例 AgaMetrix, Inc.

現在incTANKでインキュベーション中のAgaMetrix, Inc.は、MITの2人の研究者によって2001年7月に設立されました。現在8名の社員がいます。すでにエンジェルの方々のサポートにより約50万ドルの資金を調達しています。半年の間には100~400万ドルのInstitution Roundを行う予定になっています。会社の主力商品は、既存のバイオセンサーの正確性や信憑性を上げるソフトの開発です。たくさんあるインキュベーション、またはアーリーステージのベンチャーキャピタル会社の中でなぜ我々の会社に来たのか、支援者を選択する要因をご説明します。AgaMetrixの創業者の1人は、以前に別の会社を立ち上げた経験がありました。IncTANKはその会社にも投資をしていましたので、投資スタンスやつきあいがよくわかっていたのが大きな要因の1つです。もう1つは、米国の投資が冷え込み、投資家の動きが鈍い中、お金があり準備ができていたことです。また、付加価値の提供もできるといった点も挙げられます。実際に提供するものが場所やお金だけではなく、地財権の弁護士である社長がITの戦略について、また私が財務の手伝いをすることができたのは大きなファクターです。

過去の経験から学んだこと

起業時に、チームモラルやビジョンを共有することは不可欠です。創業時は変動要因が非常に多く、その中でぶつかり合いが出てくるのは必然的です。チームとして成り立っていくには志を1つにすることなのです。一方、技術系で多いのは、自分の研究をベースにして事業の立ち上げを目指している方々です。そこで危険なのは、自分の技術を追求するあまり、技術が完成するまで市場調査を行わないことです。incTANKのビジネスモデルでもありますが、未成熟な技術の中でも、市場調査を常に行うことは非常に大切です。技術が完成しきったうえで市場調査を行うような、きれいなプロセスの会社は長続きしません。

起業家の必要条件

起業家として大切なことは営業です。起業家とは会社の顔でもあるのです。投資家に対する営業、顧客に対する営業、また将来自分の会社に来てくれる人たちへの営業が必要になります。また、起業家にとってマーケティングは最も大切です。そのうえ、起業家は熱意がないとだめです。ビジョンもないともちろんだめですが、熱意がないと長続きしません。起業家はアドバイスを受ける心が必要です。特に創業時には、メンタリングが非常に大切なプロセスになります。またチーム作りの段階で、相乗効果の高い人たちを引き込むことは必要不可欠です。Aクラスの人間はAクラスの人材を呼び込むことができるのです。これは非常に大きな要素です。また事業をするにあたり、市場性があり、説明責任ができる技術がなければいけません。加えて、コアコンピタンスを形成する必要があります。技術系の企業であれば、技術自体のIP戦略などをしっかり組んでいく必要があります。ここで忘れがちなのは人材です。社員1人のバリューを保つことが必要なのです。タイトルを作ることではなく、各個人がいかに価値のある人材かということを認識することは非常に大切です。また、起業家はマーケティングをしなければなりません。エンジェル投資家やベンチャーキャピタルとのつきあい方を学ばなければなりません。魅力のある会社でもつきあい方次第で資本の投資が不意になってしまうケースがあります。すでに株が取引されている会社とは違い、初期の会社の財務諸表はあってないも同然です。それよりもむしろ、人間に投資をするのです。

日本の大学に期待すること

日本の大学の方々に考えていただきたいのは「箱づくり」指向です。大学内の運営体系を考えずに「箱」だけ作り、それに対してなぜ助成金が出るのでしょうか。「箱」を作るのならば、そのソフトを充実させるために資金を投入するほうが効率的だし、安くあがると考えます。建物を作ればできたという証明が見えますが、人材育成は証明するのは難しいし、タイムスパンも長い、そのような点でこのような現象が起こっていると思いますが、今助成金が必要なところはそのソフトの面だと思います。また、それを受ける大学側も重視すべきだと考えます。

ビジネス教育ですが、そこで必要なのは競争原理を教えるということだと思います。実践的なビジネス教育が求められています。また大学も、金儲け概念への理解も必要です。教授が自身の研究でベンチャーを立ち上げ、社会に役立て、対価をたてるということに悪いことだという考えを持たないことが必要なのです。しかしそのためには、教授としての仕事もしなければなりません。研究と起業のインセンティブのバランスはとらないといけません。また、キャンパスの体系についてですが、過疎化現象が起きる可能性は非常に高いと思います。学生や研究者にとって、キャンパスは単なる仕事場になっているような気がします。横のつながりのために、社交の場として使うことが必要だと思います。加えて、やはり人材を算出する先の市場ニーズを考えた教育が必要です。そのようにすれば、人材の流動化が出てきますし、キャンパスの活性化にもつながります。大学には魅力が出てきますし、それが有能な人材の牽引になります。

日本の学生に期待すること

実用研究をするのであれば、事業の計画能力を持たないといけないと思います。これは学生のみならず、研究者全般にわたっていえることです。また、最近ベンチャーは非常にポピュラーになってきましたが、ベンチャーだけがキャリアではないと考えて欲しいと思います。さらに、日本人であることに誇りを持っていただきたいです。

インキュベーションやアーリーステージベンチャーキャピタルは労働インテンシブです。ですから、有能なコンサルタントを集めただけでは、よいベンチャーが出るとはかぎりません。きれいなオフィスや最新鋭のPCは、投資先に提供するような気持ちを持っていなければなりません。つまり、低コストで高付加価値なマネジメントができるビジネスをサポートサイドがしなければならないのです。また、初期の段階では人に投資しているという気持ちで考えるべきです。大学発ベンチャーにも同じことがいえます。どのような人間に投資し、どのように育てていけばいいのかを考えるのです。受身の投資態度ではだめなのです。ですから、起業家との信頼関係を結び、投資後もメンタリングを行います。また商品を売る手伝いもします。単に投資するだけではないのです。

日本では、組織も政府も企業も大学も皆、模索中なのではないかと感じます。昔の組織では追いつかないが、果たして21世紀の日本のモデルとはどこにあるのか。そこで地団駄を踏んでいる組織は非常に多いと思います。カリスマ的ビジョンを持った牽引者や、爆発的ショックも必要なのかもしれません。私個人は、現状において、21世紀に見合う社会や経済の共存共栄に向けて、日本をほんの少しでも変えたいと思っています。

質疑応答

Q:

学生ベンチャーと市場ニーズをマッチングするにはどのような方法がありますか。

A:

そこがまさに、創業支援業務がサポートするところです。起業する人たちは市場ニーズを全て把握しているわけではありません。我々が立ち上り、市場にはどのように出回るのかをお話します。人的ネットワークと開眼には、学生たちの社交場が大きな要因です。社会人にも集ってもらい、市場ニーズについて話してもらうのです。そこでは学生たちがいろいろなニーズを持ったベンチャーたちとも話すことができるのです。そのような自由性が要因の1つです。

Q:

アーリーステージの企業家はどのようにして見つけるのでしょうか。

A:

テックリンクのようなネットワークの運営に関わっている組織が、起業家と接する機会を増やしているのは事実です。そのような場で自己紹介をし、事業の話をすると、必然的に興味を持っている人たちは集まってきます。そのような場を増やすことによって起業家の発掘をする、ということがいちばん大きいと思います。Officialなところで起業家を探し出すのは非常に困難です。Unofficialなところでの発掘は長続きするのです。日本ではそういった場がまだありません。そこで私は、大学以外のいろいろな場に顔を出すようにしています。また、大学の中でも起業したいという学生はいます。ただ、若すぎてまだ勉強をやめる勇気がない学生がほとんどです。また、若いうちに起業したい人はたくさんいますが、年をとるにつれて少なくなっているように思えます。そこで、学生に継続的に接する機会を増やすようにしています。

Q:

学生たちに目的意識を持たせて、その中の何%かを起業する学生の予備軍として育てていくにはどのようにしたらよいのでしょうか。

A:

まず開眼させることからスタートします。私はアントレプレナーシップ論というものはないと思っています。そのような授業を聞いただけで起業する学生はいないのです。むしろ、大学の中に場を作るようなソフトコンテンツを重視することが必要なのです。1つの試みとして、東大の駒場リサーチキャンパスでオフィスを借りて、感じたことを話すという場を設けています。研究者には、研究室からなるべく出てきて欲しいと思います。そこで、彼等が自然と研究室から30分でも出てこられる魅力的な場が必要なのです。たまたま空いているような部屋ではだめです。おいしいコーヒーがあるとか、面白い人がいつも居るようなインセンティブがあればよいのです。いろいろな分野の学生や研究者が集まってくるところからアイディアが出てくるのです。教育ではなく、場の提供だと私は思います。

Q:

場を提供するとともに、研究室という枠組みを学生が壊す必要があるのではないでしょうか。

A:

私も、単に場を提供するだけで自動的に人が集まるとは思いません。提供する場は教授の方々にサポートしてもらう必要があると思います。

Q:

日本に、インキュベーションを行う人たちはあまり多くいないと思います。実際、エクイティーだけでは成り立っていけないのではないでしょうか。そこで、パブリックセクターの力を使っていくことはできないのでしょうか。もし行うとしたらどのような人材をあてていけばよいでしょうか。

A:

inkTANKメインパートナーはそれぞれ違う部門の人間です。それぞれが専門の分野を持っています。そのような専門の人間がチームになり、インキュベーションを行うことが大切だと思います。そして各々の専門分野を補っていくインキュベーション施設を作ればよいと思います。アウトソースをしてもいいですが、単にコーディネーションだけでは魅力がないのです。やはり、起業する人たちに「あそこでインキュベーションして欲しい」と思わせることが必要です。

Q:

起業するにあたり高いポテンシャルがあるのに、目先のことでソリューションを求めるだけで、アドバイスを受ける気がない人たちについてはどのように対処すればよろしいでしょうか。

A:

話をしていて、徐々にその人が何に興味を持っているのかわかるように努力することが必要だと思います。何に興味を持っているかがわかれば、85%のビジネスモデルを90%にすることをうまく説明できるのです。結果論ですが、そのようなことをすることによって話を聞くようになります。単に違う視点からの話では聞き入れにくいものです。持っているポテンシャルをもっと大きくするためにアドバイスがどのように有効なのかを認めてもらう必要があります。メンタリングとは信頼関係を構築したうえに行います。

Q:

日本の理工系学生のほとんどはまだ、ハードウェアの勉強をしています。サービスやソフトウェアの起業は小額でも可能だと思うのですが、ハードウェアになりますと、最初の投資は大きなものが要求されます。そこで、日本の学生でも本当に起業できるのでしょうか。

A:

ハードウェア会社の起業は、資金面でも研究施設面でも難しいところがあると思います。実際incTANKでサポートしてきたベンチャーは、ソフトウェア関連がほとんどです。それは、時代的な流れもあるし、場所的なものでもあると思います。日本の大学はハードウェアが強いようですが、そこでまさに大学の研究施設が組織的にオープンになればいいのです。初期段階の研究は大学で行い、少し出来上がったものを起業につなげていく方法です。また、大切なことは初期段階から市場ニーズを測ることです。

Q:

そのお話からの疑問ですが、大学の中の施設は使うが目的は自分の起業のため、というと、クリアでなくなってくる部分が出てくると思います。それには社会的なものと自分のプロフィットのためのポリシーが必要になってくるのではないでしょうか。アメリカではそのようなケースはどのように対処しているのでしょうか。

A:

それぞれの大学でポリシーは違うのでマニュアルなどはありません。そのために、ハード関連を最初から作っていくベンチャーは比較的少ないのではないでしょうか。アメリカと日本が違うのは、大学自体がベンチャーを立ち上げる流れが公知されているところです。それにより、アメリカの場合は動きやすいのではないでしょうか。プロジェクトは事業側に向けての公募をし、そこから政府の助成金をもらうという手段もあります。そのようなシステムを作っていくのはどうでしょうか。

Q:

インキュベーターとして、失敗例もあるかと思いますが、その場合どのようにフォローしていくのがいちばんよいと思われますか。

A:

初期投資の段階ですから、何の要因による失敗であろうが、誰が悪いということは問い詰めません。我々の力が及ばなかった場合や、チーム自体が良くないケースもあります。失敗例の1つとして、大学生のチームで作った会社がありました。ところがそのチームには、起業することではなく、単に会社の社長になることが目的だった人間が多くいました。また、テクノロジーインテンシブな会社ではなかったので、市場に出るタイミングが非常に大切でした。アイディアは面白かったのですが、市場ニーズを測ることができず、チームは解散しました。しかしサービス業でしたので、清算のプロセスなどはありませんでした。
別の例ですが、別会社と合併せざるを得なくなった失敗例もあります。同時多発テロの時に、資金が非常にきつくなっていた会社がありました。チーム自体の相乗効果がうまく出ず、キーのエンジニアがチームを去ってしまい、そのような結果になってしまいました。初期段階の会社では、人材を集め、保持することが非常に重要だということを学びました。
失敗後のフォローに関しては、これからの職場を紹介したり、いろいろな場に連れていったり、また資産に関しても投資家に返すサポートをします。
起業に関しては、教育という固い形ではなく、場の提供を継続的に実施していくことが大切だと思います。パッションを持ち、事務的に行わないことです。そのような形で、有能な人間といろんな形で接することができるのです。そこで我々がいかにスパイスを付けることができるのかも重要です。ロングショットですが、実りが大きいことだと確信しています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。