日本発ベンチャーの現状と課題-大企業スピンオフからの価値創造~ベンチャー世界戦を戦うには~

開催日 2002年5月17日
スピーカー 村口 和孝 (日本テクノロジーベンチャーズパートナー代表)/ 林元徳 (トリニティ・コミュニケーションズ社長)
モデレータ 安藤 晴彦 (RIETI客員研究員/内閣府企画官(経済財政運営総括))

議事録

はじめに

安藤:「植物が育つときには、葉の成長点で活発な細胞分裂が起こる。そこに十分な養分を送り込んで植物は成長する。このような植物の成長過程と同じように、ベンチャー・キャピタリストは経済の最先端に必要な経営資源を送り込んで経済の発展を促す仕事をしている」という村口さんのお話しは印象的でした。日本経済が立ち枯れしそうで元気がないのは、経済の成長点に必要なリソースの供給量が世界各国に比べて少ないからだと思われます。今日は、「ベンチャー世界戦」の最前線にいるお2人から、最先端の景色をご紹介いただきます。また、ベンチャー政策では何が必要かについても触れていただきたいと思います。

「創業不全症」の日本はデファクト・スタンダードを勝ち取れるか

村口:日本経済の究極の問題点をベンチャー・キャピタリスト的な立場から見ると、世界に比べて日本では資本の燃焼効率が悪いため、いかにして効率性を引き出すかという点につきると思います。本日は、日本経済の最もミクロな部分をご紹介します。

現在、日本は「創業不全症」に陥っているといえましょう。その原因を紐解いて行くと、日本の資本主義の歪みや非効率性が浮き彫りになって来ます。最近では、法人同士による経済発展から、健全な個人同士の経済活動へとポイントが変化しています。この変化に対する効率性、すなわち「投資効率」が不完全だと、経済活動の変化に適応できないのです。

野球にたとえるなら、巨人でも阪神でもそれぞれのファンは、それぞれの贔屓チームが優勝するよう願っています。それぞれのチームの力が拮抗していれば、それだけシリーズは盛り上がります。これは経済についても同じことがいえます。経済が活性化して盛り上がるのは、未来の不確実な事象(リスク)に対して、「A社の技術が勝つか、B社の技術が勝つか」という、互いの企業を支持する者たちが競い合うからです。こうした競争により経済市場は賑わい、そして活発になります。一方が圧倒的に優位にあれば、勝つと思われる方に資金は動きますが、両社が競い合っていればそれぞれに健全な資金が集まってきます。まさに「資本の戦争」です。こうした戦争において最も激しい戦いを行い、勝利を収めた者が、次世代のデファクト・スタンダードになります。

たとえばMicrosoftのWindowsとAppleのMacOSはアメリカで戦い、その戦場の中心となったアメリカ市場がパソコンOSのスタンダードを決めるデファクトとなりました。同様に、日本市場が戦場となる資本戦争を起こせれば、世界的なデファクト・スタンダードを取ることができるでしょう。たとえば、かってのベータとVHS、ホンダとヤマハのバイク戦争など例はいくらでもあります。企業間の戦いこそが経済を活性化させるのです。こうした戦いでは、「中庸」とか「足して2で割る組織論」などという言葉はまったく無縁です。ベンチャー関係でよくいわれることに、「アメリカには目利きがいるが日本にはいない。日本のベンチャーは駄目だ」というものがありますが、実際にはアメリカにも他国にも「ベンチャーの目利き」などいません。世界戦に勝ち残れると思われるほうに資金・武器を注ぎ込むのがベンチャー・キャピタリストの本質です。つまり、「目利き」などではなく、悪く言うなら「武器商人」に近いものです。

ベンチャーの活性化と世界戦

めまぐるしく変化する経済・産業界でここ最近3年間で起こったことのうち、キーポイントとなる8点の事柄についてお話しましょう。
1)産業構造変化、IT革命、グローバル化
インターネットの普及・拡大により、ビジネス・産業は大きな変化を遂げました。今後の課題は、いうまでもなくネットワークインフラの整備と更なるグローバル化です。
2)産業の新たな担い手の出現
1)に関連して、IT関連の新たな産業とその担い手が現れました。今やなくてはならぬ存在となっています。
3)投資ストラクチャーの整備
日本のベンチャー関連の制度は形こそ整いましたが、LLCとエンゼル税制は、世界に比べてお粗末です。形式ではなく、実質をなんとかしないと立ち遅れたベンチャー制度はいつまでも低いレベルのままになってしまいます。
4)ビジネスモデルと事業計画策定
これらの単語は、大学でも頻繁に使われるようになりました。しかし、肝心の「資本教育」が欠落しています。株を発行し、資本を得られることを真に理解している大学生はほとんどいません。言葉の意味だけでなく、そこから経済の本質を捉えられるようにしていかないといけません。
5)新公開市場。先行評価。アナリストのレベルアップの課題
ナスダックをはじめとする新公開市場が台頭してきていますが、これにきちんと対応できるアナリストの存在が不可欠です。やみくもな投資や運用は混乱・破綻を招きます。
6)大学改革・大企業リストラの役割、TLO(技術移転機関)をどう充実するか
人件費を削りたいからリストラするといった流れでは経済の発展は望めません。改革・再構築から、新しい産業・企業・雇用を創出し、経済の活性化を図らなければ先行きの見えない混沌に陥ります。そうした意味でも、TLO(技術移転機関)の充実は非常に重要な課題です。
7)「独立型」ベンチャー・キャピタリストの登場
「独立型」とは、既存勢力の影響を受けずに自由の立場である、ということです。ベンチャーは既存体制とぶつかり合います。ですから既存の企業や勢力からベンチャーを保護できる「独立型」であることが重要なのです。
8)投資資本の循環形式
投資した資本に利益を乗せて回収するのが、投資家の期待する資本の循環です。
投資家→VC→起業家→株式公開→投資家という循環が大事ですが、はたして、新しい「市場資本主義」が始動したかが問題です。投資するだけ無駄という風潮が生まれると、ベンチャーは急速に衰退し、さらなる悪循環に陥ります。
2002年は、ベンチャー企業第2の発展の年です。厳しい選別局面のなかで生き残ったベンチャー企業こそが世界戦に出て行けるようになって来ました。また、ハンズオン型ベンチャー・キャピタリストの実力が試される年でもあります。ガバナンスを担う株主総会や取締役会の質を上げ、活性化し、世界レベルの質にしていくことが重要です。

投資効率の経済学

次に、「投資効率の経済学」について触れておきます。ここで重要なのは、「金利とは何か?」「金利は誰が作るのか?」の2点です。まず、事業投資をする。その分のリターンがある。そして、元本(投資額)よりも多く戻ってくることを社会的に「金利」と呼びます。これは政府が勝手に上げ下げできる公定歩合とは違いますが、まったくかけ離れたものでもありません。市場の金利は、少なからず公定歩合の影響を受けて上下します。

さて、事業投資をする際に目安となるのは、企業の経済状況を示す指標(レシオ倍)です。年間の金利がたとえば1%なら、この逆数をとって100倍というレシオが出てきます。これに主観的な数字を掛け合わせてレシオ倍を算出します。ここでいう「レシオ倍」とは、企業経済状況を銀行が判断するときに使うD/Eレシオ(Debt Equity Ratio:有利子負債:資本金の割合)、そしてインタレスト・カバレッジ・レシオ(営業利益と受取利息・配当金の合計を支払利息で割ったもの)とはまったく異なったもので、投資家やベンチャー・キャピタリストが使う独特のものです。レシオ倍は、投資家が効率的に投資活動を行う上で欠かせないものが、日本ではこのレシオの算出はおろか、読み方さえ知らない投資家が多すぎるようです。

ベンチャーの先行投資

そもそも、どのようなプロジェクトでも、必ず「先行投資」が必要となります。この先行支出を賄うのが当初に必要な資本(エクイティ)です。日本では、「最初から赤字が出るベンチャーは駄目だ」という風潮がありますが、実際に最初から赤字だから即倒産ということはありません。

すべての企業は、必ず赤字から始まります。創業段階の、つまり「先行投資」が必要な局面では必ず赤字になりますから、投資家が投資をするときに財務分析を頼りにすることはできません。仮に数字は赤字側に下降していたとしても、バリュー(市場価値)の上昇を見越して、むしろ反対向きに意図的な先行投資を行います。その意味で、「ベンチャー投資」の世界は、経済アナリスト達が分析するような客観的なものではなく、かなり極めて主観的で思い込みの強いものです。数字にまどわされず、支援したい企業に投資する。しかしこれは言葉を変えれば「数的根拠のない投資であり、いい加減である」ともいえますね(笑)。

地球(世界経済)を巡る環境は10年ごとに変化し、経済の担い手も変化して行きます。世の動きを見越して「先行投資」を行うのが本物の「投資家」です。こうした投資家の行動により経済の成長点が活き活きと伸びていきます。今こそ、ベンチャー投資が保証される経済社会が求められているのです。

投資循環の仕組みを株で知る

投資回収実現の仕組みを知ることと、そのための教育が日本では一番不足しています。たとえば、株が「シェア」と呼ばれることを知らない日本人が大勢います。経済発展を「シェア(分担)」するのが株式の本質であり、会社という果実を作って「シェア(分配)」するわけです。実際にやってみると、ベンチャー企業の創立は極めて単純なことがわかります。私達は、「少年少女起業体験キャンプ」において、子供達に「参加」「貢献」「シェア」という資本主義のキーワードを教えています。事業計画を立てて会社に「参加」し、起業、資本収集、事業準備、営業を通じて「貢献」し、決算、監査、株主総会を行って結果を「シェア」するのです。プロ投資の世界でも同じです。これは、極めてシンプルな資本主義の「サイクル」なのです。

こうした内容について15分ほど話せば、子供達はたいていのことを理解し、すぐに取り組み始めます。しかし、日本人大学生の90%は、この仕組みを知らないまま卒業します。それが日本の教育の実態なのです。

ベンチャー・キャピタリストが資本を運営する

先行投資に必要な資金を集めるには2つの方法があります。出資金を集める方法と借入する方法です。商法に出資のルールが書かれていますが、多くの日本人はそのルールさえ知らずに大企業に勤務しています。もちろん、これは大学の受験問題にも出題されません。株式会社の質を向上させるには、取締役会の統治能力、つまりガバナンスを向上させなければなりません。投資家への説明と出資から始まって、株主総会⇒取締役会⇒執行役員会のガバナンスが利いた上で、適切な人事と経費の投入⇒販売による経費回収⇒配当(投資家)へという単純なサイクルを実行するのです。ベンチャーの「投資事業組合」は、お金を持つ者同士が資本を寄せ集め、無限責任組合員(ベンチャー・キャピタリスト)に運営を任せ、投資先が株式公開をしたら、みんなで分配する仕組みになっています。

金利と配当、企業価値

さて、前述したレシオ倍と金利の話です。たとえば投資金額が1億円で金利が1%ならば年間100万円の金額が戻ってくる計算になります。これを逆に考えると、ある会社からの年間利益が100万円で金利が1%なら、この会社の企業価値は1億円であるという計算が成り立ち、投資家は1億円の投資を行ってよいと判断できます。つまり、「会社の値段」=[毎年会社が産み出す現金]×[金利水準の逆数から計算したレシオ](×[投資家の主観])です。そして、投資をするときには、このレシオを使用して計算します。会社が生む利益に何十倍かのレシオを掛けたものが市場価値となります。これは、銀行などからの融資(デット・ファイナンス)とは発想が全く異なります。

ベンチャー創業時に求められるのは「大和魂」

ここで、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)の投資活動ついて簡単にお話します。NTVPでは、個人の方々の資金を集めて投資活動をしています。NTVPの起源は私の大学時代にさかのぼります。当時すでに中国共産主義経済の崩壊を予感していた私は、アメリカのシリコンバレーの見学をきっかけにベンチャーの世界へ飛び込みました。

証券会社系のVCへ入社してから14年後にイスラエルを訪問した際に印象づけられたのが、かの地では個人が独立していて創造的であることです。そこで「ベンチャーは組織ではない」と強く思い、準備もなく会社を辞めて、今の個人型ベンチャー・キャピタルファンドを創設しました。符号するように投資事業有限責任組合法が施行され、第1号となったわけです。

NTVPの4文字は4つのコンセプトが掛け合わせたものです。
1)日本からベンチャーを生み出す。
2)テクノロジー型ベンチャーで世界に出る。
3)スタートアップ段階から投資する。
4)会社ではなくパートナーシップでやる。

NTVPにはこの4つの思いが込められています。グループ下にある(有)NTVPサポートの事業説明会は半年に1度、またNTVP「起業体験プログラム」はボランティアでやっています。

これは大事なことですが、ベンチャーは大企業のミニチュア版ではありません。間違えて理解すると悲惨な目に遭います。たとえば「介護」というキーワードがまだ新聞で取り上げられていない、今から8年ほど前には、介護プロジェクトへの先行投資資金を得るために大変苦労しました。そもそもまったく新しい事業ですから、数値化できるデータなどありませんでした。しかし、「全く新しいこと」への「先行投資」、つまり全く先が読めないという状態で先行投資をしているからこそ、よい「ポジション」が取れるのです。投資家から見た成功するベンチャーの条件とは、難しい「経営論」を唱えることではありません。むしろ、「大和魂」という言葉に集約される「思い詰めた」「根性を振り絞る」ようなメンタリティーが求められています。息を詰めた状態で1000日間勝負します。そのときには数億円規模で思い切って「先行投資」をしなければなりません。なぜ、苦しい中で必死に頑張らなければならないのか。それは「お金」のためだけではありません。心因性のものに由来します。ベンチャーキャピタルをしていて、この辺の勘が悪い人はベンチャーの才能がないと思います。ベンチャーの創業には、人の心に関する深い理解が極めて重要なのです。

「真水投資」の重要性と個人税制整備の必要性

シリコンバレーやイスラエルを真似しなくとも、日本人の未来を真面目に考えて創業すれば、目の前に世界が開けて来ます。「創業不全症候群」として私が挙げている、「日本人は農耕民族で保守的だ」「アメリカ人は勇気がある」「赤字を出すのは危険だ」「ベンチャーキャピタルには担保が必要だ」などの思い込みは全くナンセンスです。林さんのトリニティーのように、創業初期特有の赤字があっても、結果的にはすごいテクノロジーにつながっている会社もあることに注目すべきです。しかし、日本では、セキュリティ関係のベンチャー企業というと、まずイスラエルを挙げます。なぜ、日本の優れたベンチャーに注目しないのか、憤りすら感じます。「変化はいつもチャンス」です。そのことを心から理解する必要があります。そして、起業家の心の問題はとても大事です。日本のベンチャーの講座では全く教えていませんが、金メダルを取るためのスポーツ心理学があるように、「起業家心理学」も必要なのでしょう。

世界を変える投資を日本から行うには、個人投資税制の整備が必要です。日本は法人中心の社会でしたから、法人税制ばかりが整備されています。個人の投資税制は不備で、投資活動は極めてやりにくくなっています。「個人乗数発生投資税制」が大事です。これは何かというと、経済の成長点に個人の「真水投資」が向かわなければいけないということです。しかし、現実は、こうした流れをストップさせるような税制・運用になっていて、非常に個人投資がしにくいのです。たとえ制度的には可能でも、事前の手続が困難だったり、実際の税務申告上の判断が難しかったりします。たとえば、個人の投資先の倒産は損金処理できませんし、個人の投資は税引後となっています。

個人税制が整備されれば、結果的に個人が貯金として蓄えておくよりも、「真水投資」することでベンチャー企業の支出となります。そこで税収が上がり、さらにベンチャー企業が成長するにつれて税収増にも繋がります。「真水投資」促進のためにも、個人が投資をしたときに優遇したり、また損した時にも税金を返還する仕組みがあってもよいのではないでしょうか。

最前線ベンチャーの具体例・トリニティー・コミュニケーションズのコピーコントロール

安藤:それでは、トリニティーシステムズ林社長から、最前線で具体的にどのように戦っているのか、アジアの海賊版の問題等についてお話しいただきたいと思います。

林社長:なぜ、会社を起こしたか、その背景についてお話します。私は、以前ソフト会社に勤めており、日本では380万本も売れたゲームソフトの開発に関わりました。日本では万々歳でしたが、他国では正式な形でリリースする前に、現地の一流の百貨店等でコピー品が大量に売られていました。それも、日本では7800円のソフトがわずか100円前後の値段で、です。こういうことがごく普通に、日常的に起こっています。これは、ゲームソフトだけの問題ではなく、デジタルコンテンツやデジタル社会全般の問題です。インターネットを介してデータのやりとりを行う際の危険性が、日増しに大きくなってきています。これを、いたちごっこと諦めるのではなく、また、ファイヤーウォールだけで満足するのではなく、インターネットやデジタルコンテンツを、世界中の誰もがどこからでも安心して利用でき、しかも、使いやすいものにしていくために、我々は最善の努力をして行くべきだと確信しました。そんな時に出逢ったのが村口さんです。創業当初は、メンバー数人と、事業計画書があるのみでした。この事業の本質、問題点、方向等を、洗いざらい議論しあって、創業にこぎつけました。当社が目指すのは「世界中のインターネットユーザーが、安心してデータのやりとりが出来る環境を創造すること」です。それに対する適切なソリューションを提供していくことが理念です。そのためには、世界最高水準のセキュリティレベルが求められます。セキュリティというと、難しくてお金がかかってというイメージがありますが、使いやすさ(ユーザー・フレンドリー)、低コスト(導入・運用)を完備する必要があります。もう1つ重要なのは、純国産テクノロジーということです。

第一に、「世界最高水準」とは、平たくいうと、サーバーからクライアント端末に至るまで、ネットワーク中のどこを切り取っても情報や著作権が守られるということです。第二に、使いやすさとは、あらゆるデジタルフォーマットを自在にコントロールできることです。既存のシステム環境でセキュリティを確保しながら、動画、静止画、音楽ファイル、メディア、ファイル交換など、あらゆるフォーマットに対して、適切なソリューションを提供することです。第3に、低コスト導入・低コスト構築です。新しいシステムを立ち上げるのに何億もかけずに、2桁程小さな金額レベルで運用開始できることを目指します。つまり、新たなシステム構築の必要がないこと、新たな整備投資が不要であること、運用開始用の教育コストが不要なことです。第四に、純国産テクノロジーの優越性として、自社開発によって低コスト化が図れます。また、カスタマイズの意志疎通の容易さ、迅速なサポートの充実、機密性の高さといった面でも、純国産テクノロジーが優れています。

イスラエルのCCCDと当社製品の違い

さて、私達の開発商品であるCD-ROMのコピー・コントロールについてお話ししましょう。あちこちで物議をかもしているのが、音楽CDのCCCD化です。音楽CDの不正コピーもかなり問題視されており、加えて音楽メーカーの売上が非常に減少しています。売上高でみても、一時期に比較して3割、4割減になっています。パソコンの普及により、使う側に悪気がなくても、簡単に不正コピーできてしまうので、これに何らかの歯止めをかける必要が出て来ました。

そこで、CDメーカー数社が採用したのがイスラエルのCCCD(Copy Control Compact Disc digital audio system)と呼ばれるものです。ただしこれはCDの世界基準(レッドブック)から外れており、正確にはCDとは呼べません。構造的に、コピー防止機構の影響で音質劣化が発生しますし、カーオーディオなど、既存のCDプレイヤーでさえコピーガードに引っかかって再生できないケースも発生しています。さらに、CCCDは一度購入したら返品は受け付けません。これをCDだと思って買った人の中には、自分の環境では再生できない「CDモドキ」をただ持っているだけしかできないこともあります。CCCDに対して、弊社商品はCDの国際基準レッドブック準拠なので、音質劣化もありませんし、もちろん、カーナビステレオ、一般のプレーヤーで再生可能です。それでいて不正コピーにはきちんと対処する仕組みになっています。

技術面の話になりますが、そもそもCDはサブコードチャンネルとオーディオトラックという領域がいつも合っていないといけないのです。しかし、CCCDではこれがズレます。このズレがCCCDの不正コピー防止のための本質的な部分なのですが、ズレがあるゆえにCDの規格からは外れます。その点、弊社製品は本来の音楽データと完全一致であり、サブコードとオーディオトラックのズレは発生しません。CCCDは弊社製品とは明らかに異なるのですが、同じセキュリティ関連製品ということでひとくくりにされるケースが多いようです。しかも、そうしたケースでは、よく調べもせずにイスラエルやアメリカ製品を追い求める日本の大企業のブランド志向が多く見られます。

コンテンツ保護と電子メールのセキュリティシステム

コピーコントロールのほかにあと2つ、私たちが開発している商品をご紹介します。インターネット上ではコンテンツビジネスは成り立たないといわれます。これは、面白いコンテンツがないからというのが主原因ではありません。そもそもコンテンツ保護のセキュリティが確立していないので、出せば出すだけコピーされて出回ってしまうのが問題なのです。そこで当社アプリケーションを使用すれば、正規ユーザー以外は画像を見ることができなくなります。正規ユーザーがチップ又は暗号鍵を使うと、暗号が外れて本来の画像を見ることができます。プリントやコピー等はできません。この商品は、著作権管理のために開発しました。デジタルコンテンツのセキュリティだけでなく、ビジネス上のセキュリティでも流通させたいと思います。

次に、メールのセキュリティ・システムです。これまでも暗号化技術はありましたが、あまりにも難しく、導入しても社内教育が追いつかず、結局使われなくなるということが多々ありました。当社製「秘メール」では暗号化されたメールを送受信します。暗号となった本文をダブルクリックするだけでパスワードが求められ、解読できる本人が入力すれば、暗号を解いて平文を読むことができます。その上、メールの転送、コピー、プリントもできませんので、受け手が勝手に転送・配布するのも防げます。もちろん、端末から端末までメールを送るすべての経路では、暗号化されていますので、仮にメールが不正入手されても、盗んだ者が読むことは出来ません。当社では、セキュリティ分野で貢献すべく、この分野を究めていきたいと思います。

モデレータより

安藤:このような素晴らしいベンチャーのテクノロジーが、舶来ブランドに対抗して、日本ではなかなか浸透していきません。日本発ベンチャーへの理解が足りないのではと思います。モデレータとして、それぞれの方のお話から3点ずつ付け加えておきます。

まず村口さんですが、第1に、彼の投資スタイルに感銘を受けました。普通の会社員が、会社を飛び出し、志に向かって事業を始めるときに、そのスタートアップ時に数億円の「先行投資」を行っています。ある起業家に、会ってたった15分で、しかも数億円の投資を即決されたそうです。その起業家は数千万を要望したそうですが、村口さんは、創業赤字でもフリーキャッシュフローが確保できるように大胆な先行投資をされました。第2に、「介護」に目をつけた先見性です。当時の厚生白書には少しだけ「介護」に関する記述があったそうですが、村口さんは白書のデータの根拠を調べるのに、厚生省に電話をかけて、6時間もあちこちの部課をたらい回しにされた挙句、最初の部署に電話を回され、結局、データの根拠は乏しいと気付かれたそうです。逆に、ご自分がイメージした大きな市場規模を信じてもよいだろうという確信につながったそうです。これは主観、期待値を込めて先行投資する良い例でしょう。

第3に、「レシオ倍」です。これは重要な要素です。たとえば、金利1%という前提で年間100万円を産み出す企業には1億円の、年間1000万を産み出す企業には10億円の市場価値があることになります。

アメリカのベンチャー企業では、会長、社長に立派な人を就任させたりしますが、給料をほぼゼロにしながらストックオプションで埋め合わせます。村口さんが、ビル・ゲイツは、給料で大金持ちになったのではないという話をされましたが、トップや最高幹部の「現金給与」を低く抑えるのは、実は、シビアな計算に基ずく合理的行動です。本来の給料が1億、2億もする大物CEOを外部から招聘して就任させるときに、新設ベンチャーでの給料は1千万とすると、それ以下の役員給与はさらに低く抑えることができます。ベンチャー立上時は必ず赤字になりますが、会社から流出する資金、つまり役員報酬を抑えて開発費などに回すことで、できるだけキャッシュポジションをよくできます。軌道にのってきたとき、1日でも早く利益を得ることができ、一日でも早く株式公開すれば、レシオ倍で企業価値や得られるキャピタルゲインが激増します。いまは100万円の価値でも、1年後、2年後に50倍、100倍の価値が得られるかもしれません。だから、必死に頑張りますし、無駄な現金支出は末端まで抑えようという雰囲気ができます。

林さんは、日本の財産ともいえるソフトウェアやコンテンツが、アジアの海賊版に侵害されるのに義憤を感じ、ゲーム機メーカーとも交渉しましたが、受け入れてもらえなかったそうです。第1に、「モジュール化」の議論でいえば、機器メーカーが、アーキテクチャを作り、デザイン・ルールを定め、その枠組みの中でカプセル化されたゲームソフトのメーカーが「モジュール」として頑張っているのですが、じつは、情報が隠されカプセル化されたはずの「モジュール」から、肝心な情報が漏れています。要は、そもそものデザイン・ルールに不備があるわけですが、ハードメーカーでは対処してくれません。本件は、モジュール化の前提条件の破綻という根本的な問題を、モジュール側のテクノロジーでカバーしたものと理解できます(この点は、アメリカでモジュール化が浸透したと同時に、モジュールに関する知的財産権保護を強化するプロパテント政策が勃興したこととも大いに関連します)。

第2に、「秘メール」については、今日は、かなりあっさりとお話しになりましたが、これは深刻な問題です。私も秘密に近い情報をメールで送るのには抵抗感があります。このメールシステムをうまく使えば、安全ですし、技術がカバーしてくれます。第3に、コンテンツは、やはり日本の財産です。その財産がコピーされて流出してしまう、その部分をどうカバーしていくのかが問題だと思います。その際に、外国ブランドだけでなく、日本の優秀な技術も注目されてもよいと思います。

質疑応答

Q:

ハンズオン型について、経営者集団をプールして、新しい企業に送り込んだりするのでしょうか? また、エクイティ投資とローンのレバレッジを聞かせてください。

A:

NTVPファンドは、投資先に社外取締役として入ります。取締役会の質を高めるために、取締役、役員のヘッドハンター的依頼も日常茶飯事にあります。レバレッジの話ですが、多くの銀行は、スタートアップという我々の投資段階では、融資してくれません。融資して元本が戻ってくるということが成り立たないからです。ローンが許されるならば、必要総資本の一部をローンで補います。あるいは、事業の途中で、ローンを使っても良い段階になって、銀行と話をし、ローンも活用します。

Q:

有限責任組合員の方のイメージを教えてもらえませんか。

A:

実際には何十人といらっしゃいますが、1人を代表ケースとしてお話しさせていただきます。日本の従来のVCファンドのジェネラル・パートナーは株式会社です。私のファンドでは、SONYさん、松下さんといった大会社から資金を調達するのでは、独立性の問題が出てきます。ですから、経営者の方から投資してもらう場合でも、会社からではなく、経営者個人のお金をお預かりします。こういうふうに細心の注意をして投資資金を集めることで、ベンチャーについての「独立性」を極限まで確保しています。これは私が意識してやっていることです。

Q:

そういう投資家はどうやって集めるのでしょうか? 参加を募るのでしょうか? 資金を集める苦労、投資先を見つける苦労、やり始めてから今までに、その両方に関して日本において変化が起きたという感触はありましたか? また、税制以外に、国や政府に対して求めることはありますか?

A:

トレンドとしては、1998、1999年あたりから、国がベンチャーを意識的に取り上げているため、全体的には、ベンチャーに協力的な雰囲気になってきました。国が行っているアナウンス効果で、雰囲気が変わってきたのではないかと思います。資金の集め方は、実際に会い、電話して、お願いします。その人がだめでも、ほかの人を推薦していただいたりしますが、非常に平凡です。1人でできるのは50人が限度でしょうか。投資後の苦労としては、ピンチヒッターで投資先の社長になったこともあります。危機を乗り越えるためですが、初めての経験でした。
制度面では、「資本」の機能を日本人があまりに理解していません。「資本」に関するテーマを文部科学省が教育科目に入れ、受験に必ず出題して欲しいくらいです。
また、正しい「資本教育」を中学校ぐらいから行ってもらいたいものです。起業は、受験競争だけでない、個人の新しい選択肢にもなるでしょう。もう1つは、税制の問題です。個人だと経費で落ちない項目がたくさんあります。法人であれば精算されるのに、個人で投資すると精算されないこともあります。寄付も同様で、法人ではなく、個人が行うのは大変難しいです。法人の経済活動だけではなく、個人の経済活動が、自由にクリエイティブに資本主義活動を行えるように、税制を始めとしてスムーズな運用ルール、制度にしていただきたいと思います。

Q:

無限責任を負うのは、どういうときでしょうか? 実際に無限責任を負うことはあるのでしょうか?

A:

債務超過になった場合に責任を負えということがあります。発生した費用で有限責任組合が背負いきれないものは、無限責任組合員にかかってきます。無限責任組合員として有限責任組合員から訴えられるリスクと、投資先の取締役として取引先から訴えられるリスクがあります。これを上手く両立させるための組織がLLC(有限責任会社)制度です。しかし残念ながら、日本ではまだこの制度がありません。日本はアメリカと違って、個人型VCは極めてわずかであり、VCのほとんどが会社形態です。世界のVCは、98%が個人です。「日本の常識」が「世界の非常識」になっています。LLCはこの数年間に、アメリカ50州すべてで整備され、多数のVCが活用しています。韓国、シンガポール、香港でもLLC制度は整備されています。ちなみに、シリコンバレー最大級の法律事務所の弁護士からは、私のように個人が無限責任組合員になるのは信じられないことだといわれました。LLC制度がまだないのに、あまりにリスクが大きいということです。しかし、それでも身体を張って頑張っています。LLCは、日本では議論中のようで、実現はまだまだ先の話です。成長点への「真水投資」を増やすために大切なリーガルスキームが未整備であるというのは、非常に情けない状態です。

Q:

経済産業省では3千億以上の開発補助予算を毎年使っています。このうちの1割でもベンチャー育成のために使いたいと、私は思っています。政府資金は、スピード感の点でも使い難く制約の多い「ダル・マネー」となりがちですが、どういう条件なら使えると思われますか。

A:

3千億円はもともと税金ですね。その税金は経済活動から来ているものです。なぜ、NTVPのファンドに政府資金が入っていないかというと、税金の補助がなくても自力で出来るというエビデンス(証明事例)を作りたいということが1つです。それと、日本経済では、全てが法人を基本にしている制度であるため、制度が非常に使いにくいという事実があります。たとえば、林さんの会社(トリニティーセキュリティシステムズ)は、純国産技術で世界最高水準のものを創っているのに、なぜ普及しないのか、防衛庁からお呼びがかからないのか不思議です。知名度の問題であるなら、新聞紙面を2面ほど買いきって、ベンチャー企業のPRをしてはどうでしょうか。
たとえば、「秘メール」のコンセプトを外国で説明すると、「すごい! 一緒にやろう」と直ぐに大きな反応があります。日本では反応は全く違います。この問題意識の差はどこにあるのかと思ってしまいます。
自分たちの著作権や情報は、誰かに守ってもらうのではなく、自分で守っていく積極的な働きがいると思います。コンテンツの改ざん、ウイルスの問題等には、今は抵抗力ゼロの状態ですが、ある程度の免疫力をつける必要があると思います。いつも怯えるのはよくないですから、この解決のために開発を進めています。1日も早く安心してデータのやりとりができるよう頑張りたいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。