産学(官)連携の戦略的取り組み/産学連携:国立大学の現場から

開催日 2002年5月15日
スピーカー 磯谷 桂介 (文部科学省文部科学技術移転推進室長)
スピーカー 原山 優子 (東北大学大学院工学研究科/RIETIファカルティフェロー)
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議事録

産学(官)連携の戦略的取り組み

磯谷 桂介

さまざまな産学官連携とその問題点

本日は、由緒あるBBLにお招きいただきましたことを感謝申し上げます。文部科学省で産学官連携を担当している者として話題提供したいと思います。

知識社会といわれる時代が本格的に到来し、産学官連携が有益だという認識が浸透してきています。ただ、産学官連携の議論には誤解も含めてさまざまな側面があるのではないかと思います。この点を整理したうえで、文部科学省の施策を紹介し、また今後、大学が戦略的に産学官連携に取組むために必要とされる方策についてお話します。

はじめに押さえておきたいのは、大学の使命は教育・研究であり、それを通じて社会貢献することだということです。市場価値や利益、雇用創出に関わる企業とは行動原理が異なり、行動原理が違うものが連携するのはむずかしい話です。MITのリタ・ネルソンがいっていましたが、大学にはまさに「ファイヤーウォール」が必要で、大学の本質は企業や起業ではありません。サイエンスや学問と、テクノロジーやビジネスもまた違うものです。サイエンスは新原理・現象を発見し、分析・批判、体系化する営みですが、テクノロジーは発明され、実用・製品化されるものです。

最近、産学官連携ブーム、特に産学官連携議論ブームになっています。私も政府の一員として自戒を込めていうわけですが、文部科学省も含め各省庁がやたらに「産学官連携」を標榜します。たとえば、大学からの新規産業創出、研究成果を使っての経済活性化、大学発ベンチャー1000社計画というものまでありますが、その背景にはさまざまな思惑、各省庁の利害があると思います。

そのうえ、「産官学連携」という言葉の意味内容も多様かつ曖昧で、明確な定義がありません。英語でもインダストリー・ユニバーシティ・リンクなどと大まかないい方がされています。「学」にしてもどんな大学が参加するのか、個人なのか組織レベルなのか、「産」にしても大企業、中小企業、スタート・アップ企業なのか、またどんな研究分野かによっても全く違うわけです。たとえばバイオ・サイエンス、バイオ・テクノロジーは未成熟な研究分野なので若干特色があって、研究成果が基本特許、そしてビジネスに比較的ストレートにつながっています。ただし、研究成果が実際の薬となって実用化されるまでには相当年数がかかりますが。いずれにせよ、アメリカ・メリーランド州のバイオキャピタルなど公的研究機関を核としたベンチャーや関連企業からなるクラスター形成の成功事例があります。一方、日本のエレクトロニクス分野では、多数の同列の特許や要素技術の集大成としての製品が存在し、キヤノンやソニーなど優良大企業は独自の特許戦略を持ち、企業主導で大学へアクセスしています。こうした成熟分野において大学発ベンチャーがどの程度参入できるのか、バイオ分野とは違うむずかしさがあるといわれています。

形態にもさまざまなものがあります。まず、産学官連携の前段階ともいえますが、たとえば産学官の関係者による交流会、大学から企業への情報発信、シンポジウムなどがあります。教育面ではインターンシップの実施や教育プログラムの共同開発、研究面では民間の方と大学の先生による論文の共同執筆や契約に基づく共同研究があります。また、コンサルタンシーや狭義の技術移転、さらに、公的研究機関や大学の研究成果に基づく起業化も広い意味で産学官連携といえるでしょう。産業界から大学等への財政的援助、すなわち「奨学寄附金」なども産学官連携に該当します。

キーワードとしての産官学連携

冒頭に申し上げたように、知識社会の到来によって、各界での産学官連携への期待が高まっています。まず、産業界では、産業構造・企業行動が変化してきており、企業には新しい技術開発と市場開拓のためのアライアンス戦略が必要とされています。企業が、その相手先として大学を活用しようとする場合もあります。また、経済産業研究所でも研究されているように、各国政府が、国全体のイノベーション・システムを作っていくという動きになっています。わが国の場合は、特にバブル崩壊後の経済停滞打開の切り札として、また、製造業が空洞化し日本企業の元気がなく何とかしなければいけない、ということで大学への期待が高まっているようです。教育面でも、人材不足・ミスマッチについて産業界から高等教育への不満があります。いろんな期待と思惑があるわけです。

各省庁、産学官連携をキーワードにさまざまな施策を主唱していますが、国が箸の上げ下ろしまで指導する従来型産業政策ではなく、新しい環境・産業技術政策、あるいは各分野の政策の模索という側面があるように思います。従来あったサービス化・ソフト化に続くキーワードとして産学連携、イノベーションが出てきたように思います。地域産業政策では、80年代にはテクノポリスや頭脳立地など猫の目地域政策ではないかといわれるくらいクルクル名称が変わりましたが、今、産業クラスターということで、産学官連携やネットワーク型イノベーションというキーワード、コンセプトができてきています。

地方公共団体についても、先進地域の真似をする従来型から独自性を活かした産業創造、地域からのイノベーション創造ということで民の手法を導入し、ネットワーク・コーディネーション型の行政指導へと変わってきています。新しい「公共」への期待も出ています。従来型の経済・文化政策に限界を感じ、たとえば山形や岩手で、市場原理ではない新しい価値創造型の「産学民官」の連携が模索されており、その中にはNPOの活動も関係してくるでしょう。

大学の変化と期待される役割

大学側も非常に変化をしています。高等教育が大衆化すれば、大学は人材供給先である産業界をより強く意識せざるを得ません。研究面でも、知識生産様式が変化しています。1994年にマイケル・ギボンズらが提唱した「モード論(I・II)」は、従来の伝統的なディシプリンに基づくモードIという知識生産様式に対して、社会問題を解決し、そのために異なったディシプリンの人たちが集まり、共同して問題解決を図るという様式、モードIIが浸透しつつあるという考え方です。また、吉川(弘之)先生の「俯瞰型研究」や村上(陽一郎)先生の「社会化された科学」などのコンセプトも出てきています。さらに、大学の機能そのものも変化し、教育・研究に続く第3の使命としての「社会貢献」の代表例、あるいは公的な税金で賄われている大学として国民への説明責任を果たすうえで、わかりやすい1つの例として産学官連携が挙げられることもあります。

ここでも確認しておきたいのは、知識社会において大学に期待される役割は大きく2つに分けられるということです。1つは長期的観点で、人材育成・学術研究を中心に「知」の再構築をはかるという大学の基本的な使命です。もう1つはビジネスや技術のイノベーションのための日常的な産学官連携に参加し、中・短期的にも社会に貢献することです。同時に、産学官連携は大学の多様な活動の1つに過ぎないということも重要です。これは科学技術学術審議会産学官連携推進委員会の報告書で指摘されたことであります。

産官学連携議論の陥りやすい「罠」

ところで、産学官連携議論の中で4つの陥りやすい「罠」があります。まず、大学の研究開発を活用し経済再建につなげようという即効型プロジェクトが流行ですが、そもそも研究面での連携は「ピンポイント」だということです。やはり普通は、要素技術的なものが多い。ビジネスではもっと大きな広がりがあると思います。そういう意味で、今の経済混迷脱却への期待をかけていいのかという疑問があります。第2に、産学官連携の議論はブームになっていますが、一皮むけば、産業界や経済産業省からの大学改革への注文が圧倒的です。経済活性化のために大学が必要だから、大学改革をどうするか、非公務員型法人の導入、大学そのものの設置自由化が必要など、それぞれ重要な論点ですが議論が偏っています。それだけで産学官連携が成功し、経済社会の活性化につながるか心配です。第3に、アメリカをモデルとした「あるべき論」が先行するきらいがあります。日本としてどうするかいろいろ考え方がありますが、大学の先生方、産業界の方々の当事者としての自覚が重要です。法制度について、これまでもいろいろやってきましたけれど、本当に改革につながるか、問題があります。第4は包括的な問題ですが、産学官連携への過剰期待、悪乗りがあるのではないかと思います。過剰期待して予算をつぎ込んではみたものの、短期的な結果が出ないとなると、反動として失望感が広がる可能性があります。先進的なことをやったけれど失敗した、ということになると、皆が引いてしまう可能性もあります。さらに、そういう派手な活動でなく地道な研究活動がつぶされてしまうかもしれません。産学官連携の本質は異質・多様性、創発、「場」の創造にあることを忘れてはいけないと思います。

従来型産学官連携の問題点

これまでの日本の産学官連携は、「あうんの呼吸」型、大企業中心の「お付き合い」型が中心でした。特定の大学の研究室と結びついた企業側のメリットは学生の就職、技術情報のアドバイスなどです。一方、大学の先生は、「奨学寄付金」という使いやすい研究費を企業からもらい、自分の学生が大企業に就職してくれるのですから、先生にとっても悪くない。産も学もほとんど不満がなかったわけです。しかし、このシステムは中小企業やベンチャー企業にとって、または、新しい者が参入するという点では問題があり、知的財産権の取り扱いなどにおいて不透明な関係です。もう1つ、日本の産学官連携についてよく評されているのは、これまでの官主導の産学官共同研究開発プロジェクトが必ずしも成功していない、ということです。ハーバード大学のマイケル・ポーターと一橋大学の竹内弘高教授が2年前に出した「日本の競争戦略」という本では、むしろ国のプロジェクトがなかった分野において企業の競争力は向上したとの指摘がされています。原因として、プロジェクトの組み立て方が悪かったのか、公的な資金の使いにくさなのか、その他いろいろな問題があると思いますが、よく分析していかなければならないと思います。

1カ月程前の産業構造審議会で配布された資料によれば、IT産業は即功性同時並行型でイノベーションを起こしていく、化学は比較的長期の産学官連携、いわゆるリニア・モデルとターゲット・ドリブン・モデルを選択できるような戦略が必要、バイオ産業では公的研究機関の研究成果と大企業の開発とのギャップを埋めるために継目のないベンチャー育成をやっていく必要がある、とされています。着眼点は優れていると思いますが、いずれにしても過去の失敗を反省して、中央集権的なプロジェクトやパターナリズムに陥らないことが必要です。

以上まとめますと、これまでの日本の産学官連携においては、個人の創造的活動を支える「活力ある組織」としての大学が見えてきませんでした。企業側も日本の大学をあてにしない、あるいは大学を安く使おうとする姿勢があったと思います。行政には、縦割りでさまざまな規制があることや、一貫しない施策という問題があります。こういうわけで、これまでは、ダイナミクスのない産学官連携であったと思います。

研究・技術移転面での文部科学省の施策

さて、文部科学省の産学官連携施策について、研究・技術移転面に的を絞って述べさせていただきます。基本的な考え方は大学の主体的・組織的な取組みを推進することです。また、産学官連携の前提として、「知の創造」と「知の活用」の両方が必要です。これからお話する内容は知の活用のほうに偏りますが、文部科学省としては競争的資金の拡充、基礎研究の推進、若手研究者への支援といった「知の創造」にあたる施策も不十分ながら進めています。

研究・技術移転面での施策の経緯ですが、昭和58年に国立大学において共同研究制度が開始され、62年に産学連携の窓口としての共同研究センターの整備が開始されました。平成12年には共同研究や受託研究における複数年度の契約が可能になりました。大学の研究者や公私立大学の特許料の軽減もされています。13年には受託研究費や共同研究費を使って、国立大学の判断である程度高額な人件費を払えることになりました。兼業規制緩和は、部分緩和ではありますが、国立大学の教員の方が非役員待遇でコンサルティング等の業務に従事することが、技術開発・指導では平成9年度から、TLOでは12年度、経営・法務指導では14年度から解禁になりました。役員兼業については、12年度から、人事院承認による研究成果活用型、監査役、TLO兼業が可能になったということで今の数字に至っています。一昨年の9月にTLO協議会が発足し、アメリカのAUTMとの交流も始まりましたし、日本のTLOの活動実績も着実に上がってきています。平成14年3月には国有特許を扱う認定TLOがスタートしました。このように施策を進めてきた結果、今までのあうんの呼吸型連携からルールに基づく連携に少しずつ移行しつつあります。現実に共同研究件数は非常に伸びていますし、大学教員の特許の意識ということで、国立大学における発明届出数も急激に増加しています。

国立大学における特許の帰属問題

国立大学における特許の帰属の問題について触れますが、国立大学の教員が発明をした場合、その特許を受ける権利は、一部を国が承継しますが、原則として発明者個人に帰属するというルールが昭和53年からずっと続いています。当時2つ理由がありました。1つは、職務発明に係る権利は発明者の所属する組織が承継できる、というのが特許法35条の解釈ですが、大学の先生の職務発明についてはどこで線を引けるのかについて相当議論があったのですが結論が出ませんでした。もう1つは、仮に全部国有にしてしまった場合、国が責任を持って特許を活用して、対価を個人に還元できるシステムがなかったことです。これらにより、応用開発目的で国が経費を拠出した研究の成果としての特許等については国が権利を承継し、その他は個人の自由に任せるという方針になりました。今、TLOも整備されつつありますが、大学で生じた発明の帰属はいろいろで、国が持っているもの、国と企業が持っているもの、個人のもの、個人と企業が持っているものがあります。個人が自由意志でTLOに預けるケースもあります。企業から見れば、大学で生じた発明の帰属がばらばらでよくわからない、大学とは特許のビジネスが行いにくいというミゼラブルな状況になっています。

平成12年12月、文部科学省におかれた有識者による技術移転に関する検討会が報告書を出していますが、そこでの結論は、国立大学が仮に法人化された場合、現在個人帰属原則になっている特許に関する取り扱いルールを、組織帰属・組織管理を原則とするルールに転換するのが望ましいということです。法人化すれば、リエゾン機能、契約事務機能等を有する産学官連携に関するワン・ストップ・サービスのような窓口が整備できて、その窓口とTLOが連携して、企業との一括した交渉が可能となり、かつ発明者個人には対価を還元するということが可能になってきます。

一方、法人化までは、当面は帰属のルールは変更せずに、できるだけTLOを機能強化していくというのがこの時の結論でした。TLOは国立大学の場合、個人特許しか扱っておらず、ここで国の特許も扱えるようにすれば、TLOが大学で生じた特許を一括して扱えるというバーチャルな効果が出てきます。そのためには、国の特許をTLOに随意契約で譲渡できる道を開くべきだと提言されました。平成12年12月の通知により、これらを整理して制度改善しました。現にこの3月には、東北大学からTLOに譲渡する実例が出ました。こうした事例がさらに出てくるよう各大学にお願いしていきたいと考えております。

ところで、特許の帰属に関して、最近気になることがあります。研究交流促進法では、民間企業から国立大学も含めた国の研究機関に委託研究した場合、成果の特許権は民間企業が2分の1まで無償で取得できることになっています。これに対して、一部の企業の方、経団連筋から、100%無償で産業界が取れるようにして欲しいという要望が出ていますが、いかがなものかと思っています。民間企業からすれば、お金を払っているのだから成果をそっくりもらってもいいだろうという理屈だと思いますが、今の国立大学に対して企業がお金を出す場合、直接的経費としての研究費しか出せないわけです。教授や助教授の常勤ポストの人件費や設備の経費は大学側が払っているわけです。この仕組みのままで、研究成果としての特許100%をスポンサー企業が無償で獲得するということは、企業が安いコストによって、大学の研究成果をそのままそっくり持っていってしまうということです。もし法改正をするということになれば、今後の日本の産学官連携によくない影響を及ぼすと思います。スタンフォードにしてもMITにしても、たとえスポンサーのついた受託研究であっても、パテント・ポリシーとしては、大原則として、大学の中で生じた発明については大学が所有し、独占的に企業に渡すという対応をしています。有償ならあり得ても、最初から無償で企業に渡すというのは多分、あまりないはずです。最近我が国でこういう議論が横行して、十分検討しないまま、すっと決まってしまいそうになるのはちょっと恐い気がします。

増加傾向にある大学発ベンチャー

日本の大学や公的研究機関発のベンチャーについて少し触れたいと思います。大学発ベンチャーの数は、欧米の水準に比べるとまだ少ないですが、だんだん増えてきて2001年8月現在で274社把握されています。1998年に20件ぐらいだったのが、2000年には70件、さらに増加傾向にあります。ただ、大学発ベンチャーだけのために大学を改革すべきではないし、少なくとも大学全体にとっては大学発ベンチャーの数が本質ではなく、大学発ベンチャーを創出する環境醸成が重要です。異質の知の組み合わせによるイノベーションの環境整備や失敗を許容する文化などを作っていくことが大事です。

それから、大学や研究者にとって「産学官連携活動がどこまでできるのかはっきりしない」という問題があります。たとえば兼業が認められるけれど人事院に聞いてみないとわからないとか、「これでは通らない」と大学の事務局でストップされるというケースがあるわけです。一見地味ですが、たとえば、兼業に関する手続きや基準に関して、マニュアルなどにより明確にすることが大事です。文部科学省では、14年3月に兼業や株式取得などに関する人事関係マニュアルを作成、各大学に配布するとともにHPで公表しています。

大学の研究費に占める企業からの資金割合

企業からの日本の大学への研究投資についてお話します。我が国の企業による国内の大学への研究投資額が、海外の大学への研究投資額に比べて相当低くなっています。企業が国際化しているからある程度は仕方ないのかもしれません。ところが大学側から見ると、大学の研究費に占める企業からの資金の割合が、日本の大学は2~3%なのに対し、ドイツ、アメリカ、イギリスは6%~10%です。こうした企業からの日本の大学への投資の低さの理由を別の調査から推測してみると、企業は国内の大学等の研究機関に対し、知的所有権への意欲が低い、アプローチが不十分、研究レベルが相対的に低い、研究成果の保護の認識が低い、という見方をしています。総じて、日本の大学のマネジメント力が低いということだと思います。一方、日本の大学と海外企業の連携も少ない、日本の大学が国際化していないという問題もあります。日本の大学のマネジメント力をつけるという意味で、産学官連携を支える組織強化とか人材確保・育成が重要です。新時代の産学官連携構築に向けて、個人の能力が最大限に発揮できる環境の整備、組織体としての大学の経営充実などを進めていく必要があります。

経済産業省と文部科学省の産学官連携施策の違い

経済産業省と文部科学省の産学官連携施策の違いを聞かれることが多いので、ここで簡単に申し上げます。文部科学省として大学に関して取組んでいる施策には、大学改革や基礎研究の推進などがあり、それを前提に産学官連携のための基盤・環境整備を進めていくという考え方です。そのうえで大学発ベンチャー創出支援、マッチングファンド、知的クラスター創成事業などを行っております。一方、経済産業省は大学発ベンチャー1000社計画ということをいわれていますが、産業技術の振興、ベンチャー企業そのものに対する支援、地域経済ということを意識してやられていると思います。経済産業省の産業クラスターと文部科学省の知的クラスターの連携が特に重要だと思います。経済産業省から見れば、知的クラスターの制度を活用してどうやって産業クラスターで成功事例を作っていくか、あるいは、文部科学省から見れば、産業クラスターのネットワークを通じて知的クラスターをいかに活性化していくか、こうした接点での取組みがこれからポイントになると思います。日本において、本当の意味で新しい「場」の創造によるイノベーションが、ある程度人工的に、ある程度自然発生的に創造できるチャンスだと思っています。

経済産業省に希望すること

経済産業省に対していいたいことがいくつかあるので、述べさせていただきます。まず、大学に支出する研究費に間接費をつけようとしない。競争的資金になると間接費が30%ついて、大学が研究費を獲得すれば間接費がもらえる、これにより組織にインセンティブが働きます。ところが、経済産業省がお持ちの大学に対する資金は、競争的資金にあまり登録されていません。これは財務省との関係でそうされている面もあるかと思いますが、本当に大学を育てる気持ちがあるなら、研究費にきちんと間接経費をつけて、それによって大学組織が変化するという状況を作ることに協力して欲しいと思います。次に、知財戦略、特に特許取得が重要だということがいわれていますが、ぜひNEDOの事業等には特許を取るための経費を十分入れる、あるいは、すでに特許を取ったものについては優先的に支援するといっためりはりのついた、産業技術にリンクするような予算的措置を考えて欲しいと思います。文部科学省としては、基本的なブレーク・スルーや自由な発想の研究への支援という仕事があるので、あまり、特許だ、特許だというわけにはいきません。3番目に、これまでの地域政策の変化が激しいという問題があります。産業クラスターについては優れたコンセプトだと思いますので、ぜひ長い目できちんとやっていただきたいと思います。4番目に、昨年5月に平沼プランで大学発ベンチャー1000社計画というのを出されましたが、冷静に考えてみると大学発ベンチャー1000社作るのに必要な1000人の経営者をどうやって輩出しようとしているのか、たとえば企業から出て大学発ベンチャーの経営者になるために何か優遇措置があるとか、1000社創出を目指すためのいろいろな工夫や規制緩和を目に見える形で迅速に実行していただければと思います。5番目に、大学を巻き込んだ施策であまり即功性を強調するのはいかがかと思います。刺激としては価値があるし効果があるかもしれませんが、大学の研究の多くの部分に、あまり即効性を求めるのはどうかと思います。6番目に、大学改革の理想論をいいっぱなしというのは、どうかなと思います。我々としてはある種耳の痛いこともあるし、また一方で応援いただけるケースもあるのはありがたいし、政府全体としての議論形成にもある程度は役立っていると思います。ただ経済産業省自らの役割は何なのか、要するに、経済産業省が大学改革で提言されることは、結局直接責任を持たないからいいやすい側面があるわけです。そのうえでどうするかというと、経済産業省としてはほとんど何もできません。本当に大学改革を我々と一緒にやってくれるのであれば、たとえば、経済産業省から文部科学省に、経費・定員つきで何人か来ていただいてもよいのではないかと思います。最後に、産学官連携を通じていろいろ付き合っていて感じるのですが、経済産業省には、一部にはコントロール指向、自分の手のひらの上で物事を操作するという感覚があるように思います。産業の世界では確かにそういうことも必要かもしれないし、そうやって日本の経済もここまで発展してきたのかもしれませんが、大学に関して同じ手法で仕事をされるのはいかがなものか、と思います。

国立大学法人化への環境整備

さて、国立大学法人に関してですが、14年3月に、教職員身分に関して非公務員型導入、経営と教学も分離型運営とすることなどを盛り込んだ報告書がまとまり、大学の自主性・自立性の向上、各法人が就業規則等によりルールを定めるといった方向が打ち出されました。法人化により、ある意味では、白紙の状態になってしまうわけで、法人の判断で何でもできるようになるということは、逆に今以上にしなくなる可能性もあるということです。そうすると文部科学省が何かモデルを作らなければならないな、ということになりますが、これによってかえって硬直化する可能性があります。できるだけ大学が自主的に取組めるような環境整備、インセンティブの導入などをしなければいけません。法人化を目指して、各大学がパテント・ポリシーや産学官連携ポリシーを策定していく動きが出てくれば、各大学の産学官連携活動における自由度の向上が期待できます。

産学官連携を成功させるための多様な取組み

大学を核とする産学官連携の推進には、大学における高度な教育・研究の発展が前提ですが、同時に、各大学の強みを活かして多様な取組みを展開していくということがポイントです。大学を核とした産学官連携を加速するには、大学と大企業との大きなプロジェクト、大学発ベンチャーの創出、地域における中小企業や県との連携など、1つずつ成功事例を積み上げていくことが大事です。各大学・大学群が産学官連携のどこに重点を置くか、どう組み合わせていくかということも重要なポイントです。国際的水準のプロジェクトで各国から優れた研究者を集め、国の資金も投入し、当該研究分野におけるブレーク・スルーを目指すという方法もあれば、地道に1対1、あるいは1対数カ所ぐらいの規模で連携する、あるいは地方公共団体を介した中小企業の支援という方策もあります。また、人材育成のところで、産学官が協調して企業家精神にあふれた人材を作っていくということも考えられます。

また、大学改革だけでなく他の分野でのさまざまな改革や取組みを進めることで、産学官連携ははじめて成功します。たとえば地方公共団体と大学との関係で、地方財政再建促進措置法によって国立大学や独法国研も含めて地方公共団体から国への寄付等が禁じられていますが、何らかの形で見直して、施設・設備、土地などを自治体の判断により提供できるようにすることが必要です。それから、独法国研の改革が進んでいますが、やはり国のプロジェクトをきちんと受け止めるのは国研の役割です。大学に過剰な期待をせず、分野に即した大型プロジェクトを国研中心に展開していくことも必要です。

最後に、産学官連携というのは非常に多様な活動で、大学がどうやって自らの知識創造を行っていくかという観点から、産学官連携を意識した経営が求められます。大学には、ブームに流されない冷静な判断が必要ですが、これまで、経営や組織的な対応をするということに慣れていない大学が多いので、そういうところに産業界、地域、国などからわっといろんな要求が積み重なると現場が混乱してしまう可能性があります。産学官連携に関して、文部科学省として特にやるべきは、大学が主体的、組織的に取組めるようなマネジメント体制の確立に関して、環境整備などにより支援していくことだと思います。

産学(官)連携の戦略的取り組み

原山 優子

東北大学における産学連携の取組み

東北大学における産学連携の取組みについてお話します。1998年に未来科学技術共同研究センター(NICHe)ができました。プロジェクトベースのインダストリー・クリエーション・セクションがあり、現在10あるプロジェクトの教官の方々は、教育の義務からはずされて研究に専念しています。リエゾン・オフィスを同時に作りましたが、プラットホーム、技術相談、人材育成、大学研究成果の実用化支援といった役割を果たしています。1998年の時点で、研究+サポート・サービスという形ができあがりました。
2002年にNICHeの新館、未来情報産業研究館ができましたが、この建物は産業界のサポートで建てられ、民間の研究者と大学院のマスター、ドクターの学生が交わって研究しています。同じく2002年、文部科学省の政策で東北大学ハッチェリー・スクエアができましたが、これは建物ができたばかりで、どのように運営していくか、これからルールづくりに入るところです。

東北大学における産学連携の成功要因

東北大学は産学連携の成功例とされていますが、実際どのへんが成功要因と思われるかお話します。大学というのはしきたりが重んじられるところですが、その中にリーダーシップを発揮する方が何人かいて、そのリーダーシップによって新しい試みが可能になったということです。まずエクスペリメントをしてみないことには何事も起こらない、ルールは大枠としてあるものの曖昧なところもある、できるところまでやってみよう、ということでした。もう数年経ちますのでノウハウも蓄積されてきましたが、そこに満足するのではなく、また新たなチャレンジを続けていくというスタンスです。主に工学部の先生方が始めたのですが、他学部の先生方のコンセンサスを得るのがむずかしいし、工学部内部においても反対の先生方もいる。その中でもリーダーシップを取り続けたということです。
私自身、4月に大学に戻って、第1に教育、次に研究、そのうえで時間があれば外部とのリンケージということを心がけていますが、産学連携という切り口から見ていくと、外部のエキスパートを講師として招待し、学生に刺激を与えたい気持ちがあります。しかし、そのためにはかなり事前に書類を山ほど作らなければいけない。枠組みのルールと内部のルールというのがあって、そのマッチングがうまくいっていないということを実感しました。

システム論で観る文部科学省と大学

システム論という概念で文部科学省と大学の関係を見てみると、まず大学システムという枠の中のルールに基づき、文部科学省と個々の大学との間に、システムとアクターという関係が形成されます。教官はそのアクターの一部を構成する要素という形で、間接的にシステムのコントロールを受けます。また大学自体がシステムで、教官はその中のアクターでもあるわけです。2つのシステムがあって、その2つのプレッシャーを受けているのが教官です。問題はシステム間のコーディネーションがなっていないことです。国立大学の法人化というのは新しいフレームワークを作ることですが、システムとアクターの関係を見直すいい機会だと思います。

ディスカッション

A:

支援する人材の育成に主眼が置かれているようですが、日本にはすでに支援事業もお金も結構あり、問題は支援先がないことです。大学で、企業家精神の育成など教育面に重点を置くべきだと思います。支援にお金を出すのでなく、自己発生的なプラットホームを作り、それをサポートしていくべきです。

B:

経済産業省が先日出した産学官連携の提言では、大学と産業界の境目が限りなく曖昧で、大学自体をデパート化するということで知識の生産からインキュベーションまで大学がやれというのは全く逆行する考え方です。大学のアイデンティティと産業のアイデンティティは明確に区別すべきです。大学は大学でモジュールになり、産業界は産業界でモジュールになる、そのうえでリンケージをどうするか、そこにどういう専門的なモジュールを作るか、ということだと思います。

磯谷:

モジュール化というのは1つの識見ですが、物理的に大学の中に機能としてあってもいいと思います。現時点ではインキュベーションのノウハウはありませんが、法人化することで外からノウハウが入ってくる可能性がある中、過渡期としてプレインキュベーションのような場を持つことがあってもいいと思います。

C:

文部科学省は大学をスポイルするのはやめるべきです。大学が産学連携で有効に機能するためには、規制をできるだけ撤廃すべきです。経済産業省からも大学改革についていろいろ提言がありますが、文部科学省の政策のすり合わせをもう少し徹底していただきたいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。