三次元CADの波~製造業再生のシナリオ~

開催日 2002年2月22日
スピーカー 秋山 雅弘 (株式会社アルモニコス代表取締役)

議事録

スピーカーの秋山氏の紹介

東京大学工学部卒業後、6年半エンジニアとしてヤマハ発電機に勤め、当時は小型船を担当。1984年、三次元的なシステムの開発会社「アルモニコス」設立当初から参加、昨年より同社代表取締役に就任。

同社は現在、40名弱の社員数を抱える。設立以来19年間、赤字に陥ることなく存立。

本BBLの前半は主に、秋山氏が昨年、共同執筆した『デジタル・イノベーション―製造業再生のシナリオを詳解―』(秋山雅弘/原口英紀共著、日経BP社、2001)をもとにしている。同書は執筆構想2年、約1カ月で執筆したものである。

三次元空間をバーチャルに表せるのがデジタルの利点

今日お話ししたいと思います、デジタルがもつ第1の利点は、この小さなノートパソコンに800社くらいの資料が入るということです。また、第2の利点はパソコンに取り付けた携帯端末などで世界中と取引が一瞬でできることです。「無限大」の量のデータを瞬時に処理できるということです。

私たちの仕事を考えた場合、デジタルのメリットは「無限大」と「ゼロ」だけでなく、さらに「次元」があると思います。デジタル機器ができてはじめて、コンピュータの中にX、Y、Zの三次元の空間を定義できました。三次元の空間の中にこの世の中にあるリアルなものと同じものをバーチャルで表すことができるようになったと。この次元空間のコントロールができるというのがデジタルの利点です。

アルモニコスの成立と、ニッチ産業としての三次元CAD

会社の簡単な紹介から入りますと、1984年に船の設計をしている人間が4人集まって設立しまして、最初に三菱自動車の車のデザインを設計するシステム開発を受注したのをきっかけに三次元に入りました。なかなか解けないプログラミングの問題を解くためにはコンサルティングがまず必要でして、今では「アルモニコス」という会社と、隣に「アルモニコス・コンサルティング」というコンサルティング会社を作り、コンサルティングから始まり、いろいろなシステム開発を年間で30~40件近く行っています。

エンドユーザーとしては製造業全般のシステムアプリケーションを作る、ということです。会社の成り立ちは私の家にデスクを4つ並べただけから始まったのですが、今、新入社員のリクルートにはすごく成功しています。いい人材を10年目から集めることができています。

1984年~86年に三菱の車が曲線を含むようになりました。三菱の「ギャラン」が新しくなったのもちょうどこの頃ですが、このため三菱からの依頼のもと、私たちは形状処理ライブラリを担当することになり、おかげさまで徹底して3年間、形状処理をやったものです。その資産を今伸ばしながら仕事をしています。こういう曲面はとてもコンピュータでなくては定義できないもので、いわゆる図面を描いては絶対作れないものですので、そういう意味では20年前にそういうきっかけをいただいたのがベースとなっています。

今のアルモニコスはコンピュータ業界の中で非常に「ニッチ」(すきま)な部分だけを担当しています。小さな会社ですので、あまり手を広げることはできません。お客様の方に選んでいただいて、そこの部分の技術開発がきますので、狭い分野で似た開発を重ねていくことで、今のアルモニコスがあります。期せずしてニッチの仕事をしているという感じです。

いろいろな会社から、三次元の技術を使って何か新しいことをやりたいという時に声をかけていただくようになりました。最近では製造業で、今までのもの作りの仕方では限界にきているという会社から仕事の依頼がきます。

よく「二次元で図面を書いてできているのに、なぜ三次元にしなくてはならないのか」と聞かれることがあるのですが、次元を変えると今まで解決できなかった課題が解決できるようになります。その1つがコンピュータを使った三次元です。三次元に、もう1つ時間軸を入れれば、動きとか、破壊の仕方がよく分かりますし、また三次元から今度は図面に落とすなどできます。そこがデジタルの良いところで、それを使ったプロセス・イノベーションを目指しています。

日本のもの作り産業を救うのは、製造技術のシステム化

日本の産業は危機にあります。1つは内部の問題で、若者たちの理工離れやあるいは3K的な仕事を避けてしまい、戦後50年かけて培ったもの作り産業に新しい人が入ってこないということです。変な話、私たちのいる情報産業の方に逃げてきてしまっているのが現状です。

もう1つは海外との関係ですけれども、アメリカはコンピュータが非常に進んでいて、マーケティングの技術が進んでいる。ヨーロッパはシミュレーションの会社がすごく多いです。ドイツなどはエンジニアリングとマイスター的な技術で日本を脅かすのでは、と思います。あとヨーロッパはエンジニアリング系のシステムが強いなと。一方、アジアは日本に習え、とマニュファクチャリングで強くなっていますが、今のアジアの人の勤勉さや国策としての製造業や人件費の安さを考えると、ちょうど20年前、30年前の日本の状況で、伸びないほうがおかしいような状況がアジアにはあると。

解決方法は1つありまして、日本の戦後製造業の大成功にはいろいろな技術、ノウハウがありました。それは設計のノウハウであったり、加工のノウハウであったり。これをうまくシステム化していくことでして、よく「暗黙知」と「形式知」というのですが、頭の中に入っている「暗黙知」をうまく聞き出して、聞き出したものをうまくシステム化していく。これは大きな競争力になります。こういうことは二次産業の方の努力というより、その横にいるちょっと三次産業がお手伝いをする、というより二次産業と三次産業ががっぷり4つに組んでやった仕事は成果を挙げています。

もの作りプロセスのデジタル化は、企業の競争力を高める

それぞれ頭にCA(Computer Aided、コンピュータ支援)がつくのですが、最初にデザイン(CAD)があって、シミュレーション(CAE)があって、製造(CAM)、そして検査(CAT)があります。この4つの流れをうまく三次元化情報を使うことによってイノベーションができるのです。

たとえば、非常にデザインが重視されるボトルの場合、汎用プログラムでもできるのですが、専用の三次元でプログラムさえ作ればデザイナーにとってデザインしやすい、いろいろなシミュレーションを含めた三次元デザインが可能になります。デザインがよくないと、商品は売れませんので、ウィスキーを飲んでから買う人はいなくて、瓶を見ておいしそうと思って買うのですから、ものの価値の中でデザインは非常に大事です。

(パワーポイントを用い、航空機・プレス加工の例とアルモニコス商品を具体的に説明)

実は製品よりも型を設計する方が難しいのです。プレス型の設計の合理化を進めるシステムの開発を頼まれた際、これは設計者も10年目くらいにならないと難しい作業で、三次元でもその可動性や強度を見るにはノウハウが必要となります。そこで入社10年目の人から4カ月か5カ月、ヒアリングをしまして、その後6、7カ月かけてシステムを作りました。今では入社2年目の人が10年目の人の代わりをやっています。ということはその会社にとって人材の育成が大成功ということですし、6時間かけて設計していたのが15分になり、時間的にも20分の1に短縮されました。また、年間200件あった型の作り間違いが0件になったことなど、三次元のメリットを十分に活かしていると思います。

デジタル化はその企業の競争力を高める、つまり20倍早くすることは中国と人件費の競争をしなくて済むということにもつながります。調査によれば人件費は100対5、20倍ですが、イノベーションを進めるということは5%よくなればいいというものではありません。

三次元情報をうまく利用することによって、今までは製図法を用い、図面の読める人しか分からなかったのが、コンピュータを使用することで、頭の中の情報とバーチャル空間の三次元とリアル空間の三次元が一致するようになりました。三次元検査などはソフトとハードの両方が進歩してできたものといえます。

企業の生き残りをかけた「標準化」と「差別化」

もの作り産業が成功するためには「よい製品を早く仕上げる」という、実に当たり前のことがいえます。いままで現場から提案したり、設計の人が徹夜して新しいことを考えたりして価値を高め、品質を高めてきました。製造業はこの価値と品質はマキシマイズ(maximize)してきた。付加価値をあげないと買い直しをしてもらえない。価値を高める設計を奏してそれを実現するのが製造工程で、その反面、費用や納期はミニマイズ(minimize)しなくてはならない。

この相反する事項を実現するのが三次元デジタル技術です。現状プロセスが変わると同時に製品も変わります。そのためにも暗黙知を形式知化してプロセスを変えることですが、標準化をうまくしないとうまくいかない反面、標準化ばかりに走ると差別化、競争力がなくなってしまいます。たとえば、同じCADを使って、相互データ交換を容易にしたところで、同じ武器では同じ製品しかできないので、その武器をチューンアップするか、特殊な武器を作ることで競争力を生み出そうという仕事を私たちはやっています。

標準化は「負けないための競争力」であり、差別化は「勝つための競争力」です。その両方をうまく使わせる必要があります。このような新しいタイプの製造業をお手伝いしようと思っているのですが、民間企業は10人経営者がいると本気で変化を考えているのは2人くらいで、ほとんどが現状維持をねらっています。しかし現状維持はほかの会社が前に進みますと後に取り残されてしまうので、現状維持をねらっている会社が縮小していくのは仕方ない、となってしまいます。

はしょりましたけど、大きく分けて2つの方向があると思います。もの作り業は、エンジニアリングでは、まだまだコンピュータ化しなければなりません。CAD、CAM、CAEなどでは三次元は始まったばかりでして、新聞では成功している氷山の一角を報道するのでほとんどの方は日本の三次元はすごく進んでいると誤解されているのですが、そこのところにできていないことが山ほどあります。今騒がれているIT革命のマネジメント系システムのITはできて当たり前。もの作り系ではもっともっとやるべきことがある。そこをうまくやったところが消費者によい製品を提供できるのです。

製造業の開発支援には「三段階支援」が必要

この19年間で13ほど、補助金をいただいた開発をしており、成功したものもあれば失敗したものもあります。中でも成功途上にあるのが、日本の文字を新しいシステムによって変化させていこうとして作っているソフトで、おもしろいタイプの文字を提起できるようなフォントをデザインするものです。

日本は文字文化の国だと思うのですが、文字数が多すぎるために新しいデザインの文字が出てきません。海外であれば52文字、大文字と小文字を併せてデザインすれば新しいタイプのフォントができあがるのですが、日本だと8000文字作らなくてはならないので、なかなか新しいデザインの文字が出てこない。その自動生成のシステム部分などです。これは神戸にある20人くらいの小さな会社の社長さんがやっています。

また、日本の製造業では繊維産業が苦しいところにありますが、その繊維産業の中にCADを普及させたり、データの流通を促進させたりを可能とすることで地理的に離れた企業同士が提携して新しいアパレル産業を興すことができるのではないかと。こちらは大阪の女性社長が興したおもしろいベンチャー産業とビジネスの組み合わせです。

これらの開発はいずれも最初は補助金、助成金で成り立っていまして、アイデアとしては「三段階支援」ということがいえます。うまくいった研究は基礎研究の段階でスポンサーがつくだけでなく、応用研究から商品化の段階でもスポンサーがついています。特に応用研究への助成は難しいと思われます。最終的な商品化までこぎつけば、ベンチャー・キャピタルがお金を出してくれるケースがあるのですが、だいたい基礎~商品化の間で資金で苦労してしまうのが現状でして、この「三段階支援」(図1)を検討していただければ、と思います。

図1

三次元設計学の教育と、技術と経営の融合が課題

1つは教育の問題で、二次元の製図に代わる、三次元のCAD技術に関する学問がまだ構築されていないということです。ソフトウェアは存在しても、いまは工業高校、専門学校、大学、大学院で製図学があり、図面を必ず描けるようになります。ところが、三次元設計学、三次元製図学は教えてくれない。これを大学などがうまく応援してくれると三次元のメリットを活かしたもの作りがもっと普及するかと思います。

もう1つには、技術と経営の融合でして、アメリカ型MBAは日本のもの作りにあまりなじまない。技術と経営を混ぜたところが今後、必要になってくるかと思われます。ちょうど今、静岡の技術系の大学の大学院から講演を頼まれたのですけど、学校がオープンになってくれると日本の産業ももっと活性化すると思います。ドイツのシュツットガルトのように、民間企業と大手製造業と大学がうまく組み合わさると新しい産業が起きてくると思います。

二次産業や地域支援が産業活性化につながる

発想を変えて、一次、二次、三次産業をそれぞれうまく組み合わせるような形によって面白いことができるのではと思います。もう1つ、新産業創造というと私たちがやっている情報産業が日本を引っ張ってゆくと思われがちですが、残念ながら19年間でたかだか40人という社員数ではあまり雇用には貢献していません。どちらかというと今、衰退している産業がもう1回元気になるとそこが雇用創出の場になると思います。したがって、新作業は三次産業だけとは限りません。

また、地域ということが挙げられます。私の会社のある浜松には繊維、楽器、自動車産業があり、全部連携しているものです。そういった地域間の連携、地域内の技術の連携・ネットワークをつかまえて、自動車とか総合電機産業だけでは生まれない、地域ごとのニッチな製造業の支援や研究開発を応援するような仕組みがほしいな、と思います。デジタルをうまく活用すれば地域は発達すると思います。

浜松にいて、地元商工会議所や市役所と接することが多いのですが、市役所の方には売り上げ意識があまりないように感じます。私は市役所の方にいってしまいました。「市で売り上げをあげましょう、市で使えるお金を増やすために地域の産業を育成してそれを使えるようにしましょう」と。民間的な発想をすると、必ず経費の前に売り上げがありますから、e-governmentの場合ならば「はじめに予算ありき」でそのお金でどうサービスするかではなく、もっと前の段階から地域産業にどう接するか、どう投資をして売り上げにつなげていくか、産業育成を通し税金をたくさん集めて、それをどう使うかから考えてほしいと思います。その意味で売り上げをあげる地域政策があってもよいのでは、と考えます。

投資ですが、三次産業に投資する代わりに二次産業に投資すれば世界一の商品が世界一早く手に入るほか、アクセスを改善(アクセスイノベーション)すれば製造業が活性化します。三次産業はその入り口でお手伝いできればと思います。日本の産業はデジタル化することで20倍早くもの作りができ、その結果、人件費では空洞化しないはずですが、実は流通の経費やガソリン代で日本の産業は苦しんでいることから、(デジタルイノベーションと同時に)アクセスイノベーションが求められます。そのためにも産学官がうまく協力する必要があります。

このように投資が売り上げになり、名声になり、税金になり、最終的にその地域が住みやすい街になるために、1番はじめにあるのが地域育成であると思います。また最後にくる街の人たちへのサービスには三次元のバーチャルデータを用いることによっていろいろなサービスが可能と思います。

e-governmentに求められるシミュレーションの重要性

今のe-governmentは確かに住民サービスにはつながるのですが、地域の産業振興、アクセスイノベーションや地域のエネルギー効率をいかによくするかのシミュレーションは全くできず、サービス提供そのものが先のe-governmentが多いのが実状です。地域産業をどう活性化するかまでを含んだ都市立体モデル、都市のアクセスシミュレーションなど、e-governmentはSIMCITYのようなパソコンゲームでできるようなデジタルシミュレーションを行うことが望まれます。浜松くらいの街だと情報的に可能かと思います。ただ、あまりやると戦争シミュレーションにつながる危険性がありますが(笑)。少なくとも街の三次元データをきちんと把握し、仮説をたて検証することは、防災や地震のシミュレーション等に幅広く応用できるかと思います。

質疑応答

Q:

システム化と差別化の両立とは具体的にどのように可能ですか。人件費が中国と対等化するともありましたが、デジタル化するとノウハウの海外流出も容易になってしまうのではないでしょうか。

A:

このシステムを国の補助金のもとで作成した場合、安く配布されたり、海外への流失危惧は確かにあります。ただ、年商50億円の会社から依頼された内容であり、これが流出した場合、この会社にとっては確かに脅威になりますが、日本の製造業全体の脅威にはおそらくならないでしょう。これはプロセスイノベーションの1例としてあげたのですが、今のようなシステムを作ることで暗黙知を形式知にするという作業は実はそう学問的なことではない。むしろ設計者が当たり前にやっていることを聞き出すことが大変。そう簡単には聞き出せないので。

Q:

同じソフトを使って中国で製造したら十分脅威になるのでは? 本当に日本で製造業が維持できるのか?

A:

浜松には今製造業人口が60万人いるのですが、ヤマハ・スズキ・ホンダが海外に工場を移すと40万人になってしまうのではと心配されます。システムごと向こうにもっていけてしまうとやはり(維持は)難しいかと。ただ、人に入っている技術を会社のものにする、暗黙知を形式知化することで、次の人は次の暗黙知を作ることができる。技術を高める、技術の共有化が図れる。これが日本の製造業の生き残り方だと思います。製造業には「頭」と「手足」がありますが、デザイン、シミュレーションという「頭」の部分で勝てれば、あとは国内で作る、海外で作るという選択肢をもつことができます。また子どもの時からCADに慣れ親しんだ世代が台頭したとき、システムの中にノウハウを入れておけば、スーパーデザイナーの感性や発想が日本の製造業のブランドとなります。雇用の確保はできないとしても、少なくとも付加価値の確保ができます。アクセスイノベーションとうまく連動できれば、製造する側も顔を合わせられるほうが望ましいので、少しは雇用確保もできるかと。

Q:

リクルートの秘密とは?

A:

以前「秋山さんの会社は気がつけばよい会社だね」といわれたのがヒントです。つまり(アルモニコスは)雲の中で光っている星なのだと。大手はちゃんと雲の上で光っているので、みな気が付く。それでリクルートは確率論だと気付いた。よい人材は母集団を集めるのが早いと。母集団を集める方法はお金で、売り上げがあがったら将来投資と称して1番高い雑誌である「リクルートマガジン」にカラーで大手と同じように宣伝を載せます。それだけでソニーなどと並び、知らない会社があると注目される。あとは地域で、多いときで20数回、東京と大阪でガイダンスをやります。そして最後のところはビデオやパワーポイントを使ったプレゼンテーションだと思います。大手企業が数回行うなら、こちらは10回行う。ねらったターゲット校に近く会場を借りるなど、話してみれば単純なことなのですが。でもほかの企業はあまりやっていません。

Q:

残り3人の取締役は東大卒ですか? また、ターゲットとした大学とクオリティは相関関係ありますか?

A:

違います。モチベーションの強い、本当に優秀な子は東大を笠に着ない子。おもしろいのは新設大学の一期生にいい子がいることも。学歴主義でなくても使える子は使える。

Q:

定着率は?

A:

半分くらいです。アルモニコスほど目の色変えてやりたくないという子が、もっとネットワーク的なところに移っていきます。

Q:

給与体系、インセンティブは何か導入していますか?

A:

能力給制度を創立以来から導入しています。また年俸制度もやっています。

Q:

給与体系はガラス張りですか?

A:

ええ、そうです。今は上司とその上の上司の判断にしています。その人の「居て欲しい度」がそのまま定着率につながっている。「居て欲しい度」の低い人は給与も下がる。

Q:

本人とのネゴシエーションは?

A:

あります。人によっては年俸が落ちるケースもあります。それを本人に説明します。それで辞める人もいれば辞めない人もいる。辞めないケースに関してはある意味、面談をしながら将来に向け、どうやっていけばいいかを相談してゆく。納得できなかった人は辞めてゆく。

Q:

退職金制度はあるのですか?

A:

昔に作ってしまったのでありますが、将来的には廃止したいと思っています。

Q:

CAMのプロセスは別のところになるのですか?

A:

大手がよい汎用システムを作っているので、私たちは周りのところを作っている意識があります。CADは国内で別のところがやっているのですが、なかなか成功しなくて、現実ではアメリカとフランスのシステムが主流です。それでできないところをやっています。CAEもアメリカとヨーロッパが強く、国内では理化学研究所とかががんばりはじめていますが。CAMは日本も海外に負けないシステム。会社の狙いそのものはニッチなところ。CATは取り残されているな、と感じたのが数年前で、国から援助を受け、積み重ねてきたソフトがちょうどできあがりました。CATのところについて私たちは主流になろうと。ほかのところはもう主流がいるので、その補完会社になりたいと。

Q:

飛行機とか自動車とかはモックアップを作ってから製造するが、CADのプロセスでもそこまでできるのですか?

A:

(実際に瓶の設計ソフトを動かしてみて)7、80%のところはデジタルモックアップでできますが、残り20%はやはり感性が入ってきてしまいますので、現物(モックアップ)を作ります。現物を全く作らないのも怖いので、8割の補完をバーチャルでやって、最後は感性が必要なので、デザイナーの感性を阻害しないような道具をつくりました。

Q:

御社のノレッジマネージメントはどうやっているのですか。

A:

どのお客様も「機密だ」といわれます。デモレベルはよくても、製品は出してはいけないと。このことには早くから気付きまして、最終的なソフトウェアの著作権はお客様のほうで、それを構成する部品はアルモニコスと。だいたい開発したものには月単価200万円くらいの金額をいただいています。本来50人以下の会社はだいたい下請けになるので、70万くらいのところ、その3倍いただいています。

Q:

浜松でやっているメリット、デメリットは?

A:

デメリットとしてはスクリーニングがかかります。東京にいるともっと案件が入ってくるはず。わざわざ浜松まで来てアルモニコスに、という点でスクリーニングがかかってきます。こちらから出てゆく(新入社員の)リクルートとは逆で、営業がいない会社ですので、お客様に対しては強く出ているといいますか。ただ、今では東京と大阪のお客様が多いので、フェース・トゥ・フェースのコンタクトの重要性からもそろそろ両都市に拠点をもたないといけない頃かと思っています。浜松は今のところアクセスのよさで成り立っています。情報発信ですが、地方産業のため、東京でしたら新聞に載せてくれない規模の会社でも、地方にいるから目立つ、地方都市のメリットとして目立てている。マスコミにだいぶ助けられています。

Q:

三次元CADの市場はどこになるのですか。

A:

世の中に存在しているもののほとんどが三次元ということからも、三次元技術はかなり広範に応用できるのでは。ただCADの人材が少なく、機械設計CADから発達したため、まだなかなか普及していない。ちなみに衰退しそうな産業はおそらくイノベーションがないから、もしくは技術的な敷居が低いため日本で発達してだんだん次の国に移行していったと。そこで1つ高い技術レベルの所をやってあげるとその産業が息を吹き返します。産業の種類としてはたくさんあります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。