対外援助および経済・人道・開発援助における日米協力の再定義

開催日 2002年2月21日
スピーカー Patrick Cronin (Assistant Administrator, USAID(米国際開発庁))/ James Clad (ジョージタウン大学 教授)
開催言語 英語

議事録

「日米は協力して世界に貢献すべき」
-ジョージ・W・ブッシュ米大統領による2月19日の国会演説より(抜粋)-か

「米国と日本はともに脅威と侵略に立ち向かいました。我々はまた、苦しんでいる途上国の人々に援助と希望をもたらすべく協力してきました。我々は、世界第1位と2位の経済大国であり、最も寛大な経済・人道援助拠出国です。日本の開発への貢献は、世界に知れ渡り、尊敬を集めています。国際連合、世界銀行、主要8カ国(G8)」などさまざまな国際機関における日本の働きも然りです。

開発を推進する上で、はびこる貧困、高い非識字率、ひどい疫病など深刻で困難な問題に直面します。お金は必要です。しかし、お金だけでこうした問題を解決することはできません。このような国々が誠実な政府をつくり、きちんと法を執行し、質の高い学校や病院を建てて、経済成長をはかれるよう、我々が手助けすることで、恒久的な救済がもたらされるのです。そのために必要な長期的コミットメントを我々2カ国は約束しなければなりません。

ここ数カ月のうち、我々は開発に関する2つの世界サミットに参加します。日本と米国は協力して、民間セクターとのパートナーシップ拡大、国際金融制度の改革、アジア・アフリカ・中東諸国の子供たちの教育機会拡大を促進するべきです。いかなる努力をする上でも、援助の対象とする人々やコミュニティにもっとも効率よく恩恵を与えられる形で資源を注ぎこまなければなりません。

我々2カ国は、それぞれユニークな強みをもち、その強みを合わせて世界に貢献するというユニークな機会に恵まれているのです。科学においては、環境を保護しながら新たなエネルギーを生み出す技術の可能性を探っています。医療の分野では、ヒトゲノムの研究を進め、延命や苦痛軽減といった治療に使える段階に近づいています。

自国の経済が不安定で過渡的な状況にあるにもかかわらず、日本はこのような多大な貢献を続けています。このような状況の中、はたして日本は対外的なコミットメントとリーダーシップを維持しうるのか、という疑問を持つ人もいるでしょう。しかし私は違います。すばらしい時代が日本を待ち受けていると信じています」

途上国援助は貿易・投資増加につながる(Cronin氏によるスピーチ)

国際開発庁で政策立案および予算の担当をしています。ブッシュ大統領が2月19日、国会で行ったスピーチ(上記)をご覧ください。米国の対アフガニスタン政策の重点は開発に移りつつあります。我々は、途上国の生活水準向上を手助けしたいのです。

しかし我々はまた、経済的パイを拡大しなければなりません。そのためには紛争を処理することが必要です。経済発展を遂げるには平和でなくてはならないのです。経済発展という「家」はきちんと管理されなければなりません。教育や医療の欠如は発展の妨げとなります。農業関連の援助が必要です。なぜなら、途上国の経済活動のほとんどは農業分野におけるものだからです。この援助の中には、貿易のための生産能力育成も含まれます。

このような政策は貿易・投資の増加につながるはずです。かつて、途上国への資本流入の大半は外国からの援助でしたが、今は民間資本がほとんどです。対外援助を専門とするみなさんにとって興味あるイベントがいくつか近々ありますので、ここでご紹介したいと思います。

まず6月に国連食料農業機関(FAO)が世界食料サミットを開きます。この会議は日本と米国にとって世界の飢餓撲滅について議論する機会となるでしょう。本気でそう思います。あと少し頑張れば飢餓を撲滅できるのです。

同じく6月、カナダで主要8か国(G8)サミットが開かれますが、この会議では(テロ対応策に加えて)アフリカ、教育、世界的経済成長について話し合われます。

9月には南アフリカ共和国のヨハネスブルグで持続可能な開発に関する世界サミット(リオプラステン)が開催されます。ここでは社会開発、経済成長(と貿易対処能力)、および環境への債務について議論されます。

途上国援助拡大のためには、国際開発銀行による援助を最大化したい(James Clad氏によるスピーチ)

クローニン博士と私が今回東京に来たのは何故か。それは、ブッシュ大統領がつかんだ歴史的な瞬間がここにあると信じるからです。これは日米が個別具体的に焦点をしぼって協力できるチャンスなのです。対外援助は切っても切り離せない問題です。日米とも、経済発展の過程で中間層の増加と経済成長を経験してきました。

今年、我々は運営方針を決めたいと思います。これは単に言葉だけに終わるものではありません。「どうやったら前に進めるか?」。我々はその答えを聞くために東京に来たのです。

日米いずれにおいても、国民は政府開発援助(ODA)について懐疑的で、ODA予算の膨張を受け入れがたく思っています。そこで、国際開発銀行による開発援助を最大化したいと考えています。そのために重要な制度変更について議論しなければなりませんが、この議論は自己弁解的なものであってはなりません。これは単なる援助の問題ではなく、資本移動の拡大にかかわる問題なのです。

質疑応答

Q:

日本は途上国の経済発展を高く評価します。まさしくこのことを最重要事項と位置付け、途上国において雇用が創出されることを望んでいるのです。第2に、国際開発銀行による貢献を尊重します。ただ、日本にも国益があるので、2国間援助という選択肢も必要です。第3に、民間部門の役割があります。民間部門がやがて開発援助機関の役割を担うようになるだろうという楽観論がかつてありましたが、これは実現しませんでした。民間部門による途上国への信頼は形成されていません。被援助国政府と協力して民間部門の信頼を回復することが大切です。

Cronin:

民間部門の信頼を回復しない限り、何百万人という人々が貧困状態から脱却できません。モザンビークのような国でインフラが整備され貿易対処能力が造成されるのを私は実際に見てきました。ウガンダでは農業の復興がはかられていますが、このような国で希望が生まれつつある理由もわかりました。まず、よい選択をする人々がもっと報いられるようにしなければなりません。

特に9月11日以降、破綻国家が米国の政策に影響を与えることも明らかになりました。アフガニスタンやパキスタンに、より多くの資源を振り向けることになるでしょう。ブッシュ大統領は米国においてそうであるのと同じく、両国の教育を重視しています。政府組織の構築と民主化により多くのエネルギーを注がれると思います。紛争全般が新たな関心を呼び起こしています。先を読んで、根本原因を解決しなければなりません。破綻国家の問題に取り組む上でもうひとつ大事なのは、欠陥ある制度に対処すべきか学ぶことです。

最後に、非政府組織(NGO)、非営利組織(NPO)、メディアと協力して市民社会の問題に取り組まなければなりません。

Q:

破綻国家とはどこを指すのですか。イラン、イラク、北朝鮮のことですか。

Cronin:

イランは破綻国家ではありません。主な判断基準は、「どの国がよい制度を構築しているか」ということです。ある国がテロリストの温床になっているとしたら、それはその国の政府が破綻していることを示します。公正な選挙が行われているか、汚職がはびこっているか、といったことが破綻国家であるかどうかを判断する基準です。より大きな言論の自由は、市民社会を形成する要素です。

Q:

対外援助で目指すものは何ですか。各国それぞれ目標達成の方法は違います。他国の文化や伝統を尊重することが必要と思いますが。

Cronin:

概ね同意します。

Q:

アフガニスタンに関する日米協力はケーススタディだと思います。私はテロ対策のシナリオに懸念を感じます。仮にイラク攻撃が実施された場合、人々の関心はアフガニスタン支援からイラク問題に移ってしまうのではないでしょうか。

Cronin:

9月11日の事件は一過性のものではありません。米国は今、多大な責任を担っています。テロの根本原因はイラクに関する要素とは別のものです。イラクにおける政権交代にはむしろ経済的な意味合いがあります。つまり、アフガニスタンに投じられるべき資源がイラクにシフトしてしまう可能性があるということです。イラク問題は、大量殺戮兵器製造です。北朝鮮については、ブッシュ大統領は北朝鮮政府がよりよい選択をするよう、促しています。現状維持は危険です。ときには率直に話すことが必要なのです。不安を引き起こすかも知れませんが、不安はすでに存在するのです。

Q:

米国は北朝鮮で政権交代が起こることを望んでいるのですか。

Cronin:

我々が望んでいるのは改革、特に農業分野における改革です。ブッシュ大統領は韓国の太陽政策を支持しています。農業改革をすすめるためにはアクセスを広げ、監視を強化することが必要です。食料を必要としている人々に直接手を差し伸べることが必要です。

Q:

北朝鮮を国際的な金融機関のメンバーにする、というのはどうでしょうか。

Clad:

北朝鮮自体どうするべきか不確かなのだと思います。北朝鮮では、何らかのコンセンサスを得るのがとても困難なのです。

Q:

破綻国家からの反発を想定しなければならないと思います。彼ら自身は破綻国家だと思ってないかもしれません。こうした感性の問題にはどう対処していくつもりですか。

Cronin:

よい政府と制度が基本です。これは現実なのです。北朝鮮の人々が餓えに苦しんでいる現実を前に、北朝鮮政府がいい政府かどうか頭を悩ませる必要はありません。全体的なゴールと個別具体的なターゲットがあるのです。資源を受け取るためにはある標準を満たすべく努力しなくてはなりません。

Clad:

資源を受け取ったら、今度はそれを適切に使わなければなりません。これは道徳相対主義ではありません。

Cronin:

対外的に援助をする前にやらなければならない国内政治上のプロセスがあります。対外援助にお金を使うことについて米国民に納得してもらうためには、融資条件を設定する必要があります。

Clad:

世界経済にリンクすることが生活の向上につながるという傾向があります。
米国国際開発庁の戦略は援助を受ける国、つまり現場で策定されることを忘れないでください。

Q:

国家が部分的に破綻するというケースもあります。地域レベルで援助プログラムを実施することはできるのでしょうか。

Cronin:

サハラ以南のアフリカでは、我々のプログラムはより地域に密着したものになってきています。貧困は国単位の問題ではないからです。個別の地域に目を向けなければなりません。地域別・地区別の両方をやっています。

Clad:

国境を越えた開発の相乗効果は莫大です。

Cronin:

米国際開発庁には、医療、経済、民主化という3つの政策分野があります。援助現場における戦略は、地域性を考慮して策定されます。

Q:

米国は国際的な金融機関とどういう連携をとっているのですか。「価値ある成長」(quality growth)とは、どういうことですか。

Cronin:

財務省は開発銀行と協力しています。「価値ある」(quality)というのは、たとえば、包括的で寛容力を育てるような教育を指します。持続性もまた価値の構成要素です。価値ある医療というのは、人々が必要とする医療サービスを提供することです(でなければ、彼らは神学校に行ってしまいます)。

Clad:

課題は失われた制度の回復です。たとえば、1950年代のパキスタンの教育制度は非宗教的なものだったし、1970年代のアフガニスタンでは女子も教育を受けていました。

Q:

対外援助において日米間の分業を想定していますか。

Cronin:

まずは日本の人々の意見を聞かなければなりません。我々は協力して優先課題に取り組まなければなりません。分業することによって、相互補完性をうまく利用することができると思います。

Clad:

本物の機会を目の前にしています。もう少しで重要な理念を確定することができるのです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。