金融システム安定化のための今後の方向性-銀行の大掃除

開催日 2002年1月30日
スピーカー 川本 裕子 (McKinsey&Co. Inc.)

議事録

はじめに

本日のメッセージのキーワードは「規律の回復」です。

戦後の厳しい参入・金利規制は銀行に倒産しないことを保証しており、過当競争的状況の下でリスクや採算を考えない量的な拡大を続けてきました。その結果、非効率な銀行が多く存在することになりました。不良債権問題は非効率企業の過剰債務を銀行が支えきれなくなって生じた問題である、という考え方も出来るのではないかと思います。結局、銀行への資本注入と破綻銀行の処理という形で納税者の負担を強いました。銀行は償却まで含めたコストを自分の収益で回収していないわけですから、利ざやの適正化やリストラ、手数料の適正化といった諸々のことを行って銀行経営が自立する体制を築かなければ不良債権という体質はなくならず、将来の世代も非効率なコストや国民負担に泣く結果となるのではないかと思います。

そこでオーバーバンキングが問題になるわけですが、合併や統合による資本規模の縮小、あるいは非効率を一気になくすという意味での非効率銀行の退出・解散・廃業のオプションも検討されるべきである、と思います。

また、不良債権問題は政治的な最優先課題となっていて、注目度が高い割には透明度が低く、専門家の意見がバラバラで具体的な手段として何をすればいいのかということがわかりにくい。そうなると政治的にわかりやすい「資本再注入」という言葉が一人歩きしてしまう。しかし、大銀行であっても資本再注入の前に、資産の圧縮、4%銀行化(BISの自己資本比率規制により海外業務は認められず国内業務のみに特化する銀行)、早期是正措置などの選択肢が存在すると思います。資本の再注入をしても今の銀行の収益体質のままだと結局、資本を食いつぶして終わり、3~5年後にこの繰り返しになってしまいかねない。従って、公的資金を注入した株主として政府が経営陣と収益目標について一種の「契約」を取り交わして、その実現を託しうる経営陣選定と契約不履行の際の刷新に責任を持つべきではないかと考えています。

金融システムの概観

大手銀行、地銀、第二地銀、信金信組労金の規模を預金、貸出金、不良債権額、従業員数で比べ、同時に利益の状況を並べてみました。預金は大手銀行が40%くらいのシェアですが、意外と信金信組も約20%のシェアを持っている。また貸出金は大手銀行が50%、地銀が36%、残り16%が信金信組です。不良債権額は大手銀行が40%、地銀が30~40%、信金信組が20~30%と貸出金に対して若干シェアが大きくなっています。一方、従業員数は大手銀行で26%、地銀第二地銀で40%、信金信組が34%でやはり地域金融機関の従業員が多いという印象です。

金融機関の合理化というと大手銀行の人減らしばかりがいわれますが、結局、これだけを語っていても縮小均衡に終わるだけなのではないかという懸念があります。

利益については'99年から'01年の3年間で全体で1.2兆円の損を出しています。信金信組は2000億円の利益を出してはいるものの、貸出金の割には不良債権が多く、本当にそれだけの利益が出ているのか、検証したほうがいいかもしれません。

さて、現在の金融システムを維持するために、過去10年で約35兆円規模の負担を国民即ち納税者に強いています。個別に、民間金融システム安定のために、破綻銀行処理と資本注入分を合わせて約20兆円程度、公的金融システムからの負担、即ち郵貯や財投などへの補助が17兆円、中小企業保証に4.2兆円、これは直接的には中小企業への補助金で金融システムではないですが、金融システムの機能不全から起こったということで加えております。それに財投不良債権貸倒分が7兆円、対して税収として銀行部門への国民経済への貢献を加えると、35兆円という数字が算出されます。これは、あくまで概算ですが、現在の金融システムを維持するために、国民の負担が大きいことが見てとれます。

日本の銀行のビジネス状況

過去20年、銀行が何によって利益を得てきたか。西川頭取(三井住友銀行)がインタビューで「戦後55年間積み上げた蓄積をほぼ失い、『丸裸』同然と言ってよい」とおっしゃっています。各国銀行業のROEの推移(図)についてみると、(その国の人がBANKに相当する業務を行っていると思っている機関について比較していますが)明らかなことはアメリカ、フランス、スイス、スウェーデンのいずれも収益性を悪化させている期間があっても、その後急回復している。それに対して日本は悪化している程度が非常に深くて長いことが大きな問題点だといえます。フランスは日本と1、2を争う低利ざやの国ですが、危機の後に民営化が行われて、現在では10%程度にROEが回復しています。利益率が低いと海外の銀行が参入してくる、海外の銀行に買収されてしまう、と心配する声がありますが実際には利益率が低い日本の銀行業務に入ってくるインセンティブはほとんどありません。

次に、利ざやと資産の生産性を比較しました。資産の生産性、ROAの実数はアメリカが1.86でドイツが0.61そして日本は0に限りなく近くなってしまいます。これは'95~'99年の平均です。利ざやはアメリカが3.32、ドイツが1.64、日本が0.44、自己資本比率はアメリカが8.3、ドイツが6.9。日本の銀行が「小さく」なってしまっていますが、欧米並みに収益力を高めるためには資産を縮小する、また資本を少なくする、すなわち、金融機関の退出、ということも考えられるべきでしょう。

最大の原因はリスクに見合ったリターンを得ていないということです。企業の格付けと貸出しスプレッドの相関をとると、本来はデフォルトレートにあわせて、付保率や回収率を計算した信用コスト分の利ざやに見合った貸し出しをしなければいけないわけですが、実際の貸し出し利ざやというのは非常に低くなっている。実際の貸出金利とあるべき貸出金利の差から生まれる逸失利益は全銀協ベースで3.5兆円にものぼっています。

即ち、非効率な企業に選別なく融資をしていることが不良債権問題を生んでいるといえるかと思います。従って、銀行金利が適正化することで企業再編、さらには、金融再編が進むのではないか。中小企業の問題を正面から議論しない限り、日本の経済の正常化はないと思います。金利を上げると企業がつぶれるから無理という議論がありますが、金利適正化による影響を試算すると、正常先に対して適正化により1.5兆円の増収が見込まれます。要注意先で金利が適正化できないのは1.3兆円程度。全体で3.5兆円の半分は健全な企業から適正な金利をとっていないという状況があるようで、そこが是正されるべきでしょう。

銀行における支店長の評価は金利を適正化することよりも貸出量を減らさないことの方に重きがおかれてきました。そこで経営方針を「シェアは減っても金利はとる」方向に転換しないと銀行が自立して収益をとるという仕組みにはならないわけです。邦銀のフィービジネスはまだ20%程度で、伸びたとしても40%。貸出に価値をおいている現状では金利を適正化しない限り健全な経営体にはなれない、ということがあると思います。

日本の銀行がなかなか利益を得られない原因として、他国では安定性が高く収益源となっている住宅ローンの市場について日本では官業の存在が巨大で、銀行が100兆円貸しているところに住宅金融公庫が67兆円貸し出している。各国の銀行貸出残高における住宅資金供給のシェアを比較すると、日本は全貸出中の13.9%なのに対し独英米などは30~40%のポートフォリオを占める収益源になっているわけです。

仮に住宅金融公庫の貸出を民間銀行へ譲渡した場合、現状地方銀行はいくら預金が集まっても貸し出す先がなく、低い預貸率で貸さざるをえないのですが、住宅ローンが入ると20~30%の預貸率改善が出来てしまうほど住宅金融公庫のシェアが大きいといわれています。商業ベースにのる貸出となれば、全国で1兆円程度の追加利益が出てくる計算になります。

また、人件費の削減効果によるリストラも当然進めなければなりませんが、実は邦銀の従業員数は非常に少ない。各国銀行の行員数を見るとシティ・グループが約25万人なのに対して日本の三大銀行は2~3万人というように非常に少ない。「銀行」の業務自体や役割が違うということもありますが、人減らしには限界があるのではないかと思います。役員報酬や退職金の削減はアナウンスメント効果はあっても実質的なインパクトは全人件費の1%程度と少ない。たとえば従業員の退職金を20%カット、福利厚生費を50%カット、従業員の給与を10%カットという相当厳しいことをしても15%しか減らないのに対し、総合職が70%で一般職が30%という割合を逆転させる人事構成にすると一気に33%は減る。このように人員構成に手をつけていかない限り、人を切って縮小均衡しても新しい状態は見込まれないのではないかと危惧しています。

次に、物件費の削減の可能性ですが、日本の金融機関は建物や内装が過剰投資になっている例が非常に多い。銀行に対する提示レートが高くなるという問題もあるのかもしれませんが、システムでも建築でもブラックボックス化しているという状況は否めない。土地やシステムの経費構成から改善の施策の例、期待改善率および改善額を算出してみました。すると、土地建物やITに手をつけることで5700億円程度の費用削減が潜在的に生まれます。アメリカの銀行の場合、コストカットを考える時にレイオフが有名ですが、その前に事業部門の清算が検討されることが多い。そこに非常に大きいインパクトが出ます。日本の場合はどうしてもみんなで我慢すれば何とかなる、という考え方になりやすい。レイオフが良いと申し上げているわけではないのですが、インパクトが大きいところはどこか、なぜそこを残すのかという説明に説得力がないと従業員のインセンティブをそいでしまいます。

銀行が収益力をつけて自力再生に向かっていく、という可能性はまだまだ議論される余地があるのではないか。公的資金注入は個別銀行の経営改革の可能性を論議し、実施し尽くした結果として判断されるべきものであると考えます。過去3年間の平均年間業務純益は4.6兆円。リストラの実施、金利の適正化、手数料の増加、個人ローンの取り組み、地銀・第二地銀の公的機関に対する金利減免廃止、資産運用商品の投資拡販、保険の販売といった業態間規制改革、住宅金融公庫のシェアの拡大などの方策がまだ考えられます。中には構造改革・組織改革が必要な難しいものもありますが、それらを実現すると13.9兆円ほどが出てくるわけです。

銀行の収益に対して銀行の公共性はどうなるかという議論があります。もちろん私も公共性が否定されていいものだとは思いませんが、あまりにも言い訳に使われてしまっている。収益追求と公共性は常に対立する概念として表され、銀行法第一条第二項にも「銀行の公共性と私企業性の調和を図る」という趣旨が書かれています。公共性のもとに追求されるべきことが、概念の曖昧さ故に問題になっていないか、公共性といえば葵のご紋のように何でも許されていないか、といったモラルハザードのチェックが必要です。

また、マクロとミクロの問題が混同されやすい。個々の銀行ではなく金融システムの厳正さと個別銀行の経営の失敗とは峻別されなければいけない。モラルの強化だけでは不十分で、すべての国民が金融システムへのアクセスを拒否されることがないように、政策的手当てをするなど、公共性を定義化、ルール化することが必要です。

合併・統合と組織問題

オーバーバンキングの解消のために日本では合併・統合が行われていますが、最近の合従連衡には多大な時間がかかっています。90年代はじめの合併統合は発表されてから埼玉協和が5カ月、太陽神戸三井が7カ月で統合しています。ところが90年代後半になって1年5カ月~3年近く経ってやっと統合という状態になっているわけです。スピードが削がれた分、マネジメントコストを増大させてしまっています。収益インパクトを見ると、'99年3月~'01年3月の営業経費削減分が実額で2500億円、統合グループ内で利ざや優位の側に収束させた場合の収益インパクトが6500億円です。それに比べて会計上の合併分割差益が4大グループの場合は、3.42兆円と非常に大きかったということがわかります。これは即ち、合併統合時に会計上出せる合併時分割差益-いわゆる減資-ですので、オーバーバンキングを解消する手立てにはなっています。ただ、ミクロ的な収益確保の努力は道半ばなのではないかな、ということもわかります。

規模と経費率の関係を見てみましょう。粗利の経費率と資金量の合計額の相関を表した近似曲線を描くと10兆円までは下がりますが、それ以上資金量が増えても下がり方はそれほど大きくない、つまり日本の都市銀行同士の合併というのは既にお互いに十分に大きくて、規模の利益を享受できる範囲ではなかったといえます。今後は小規模銀行の合併統合によって経費率が下がることが期待されます。1県1行というシミュレーションを行うと理論値として営業経費の削減効果は2200億円、各地方で資金量が3兆円に満たない銀行を合併させると3700億円、メガ・リージョナル・バンクにすると5600億円。ここまでいくと現実感が薄いのかもしれませんが、合併統合によって規模の小さいところの「規模の経済」が働きます。さらにこの場合、自己資本の余裕分が出てくるので、「8%銀行(BISの自己資本規制上、海外業務を行える)」にすると、2.59兆円、「4%銀行」だと8兆円ほどの余裕が出て不良債権処理に充てることが可能になるでしょう。

今後の課題

信用回復が急務です。不良債権額について当局、あるいは銀行が発表した数字がホンモノの数値で市場推定値などは存在してはいけないと考えます。銀行もここまでやるのか、といわれるほどの情報開示をしないと、問題の解決にはならないのではないかと思います。

私は今後の資本注入を否定するわけではありません。ただ、ロジカルに検討しておくべきオプションとして「8%銀行」vs「4%銀行」の問題、つまり大手銀行が海外から撤退した場合が想定できるのではないか。4大銀行グループの海外預金と海外貸出が約10兆円ずつあります。海外業務を止めて(自己資本比率を)8%から4%にすると自己資本の余裕が3兆円~9兆円発生するといわれています。これを不良債権の処理、あるいは株式の評価損の償却に充当する。10兆円の資産を海外から撤退したら混乱が起こるのではないかという議論があるかもしれませんが、実際にヒアリングをすると7~8兆円は商業ベースにのる取引なので撤退しても外銀や他行に比較的スムーズにトランスファーされると言われます。残る20~30%、即ち2、3兆円が赤字貸出、あるいは商業ベースにのらないので手当てが必要だと思いますが、さほどインパクトが大きくない。従って、8%ありきは柔軟性を欠く行動ではないか。

銀行の自立化・経営刷新のために特別検査が行われており、より正確な査定に基づく不良債権処理の迅速化が求められます。これに加え、株主権政策体系が整備される時期ではないかと個人的には思っておりまして、国と新経営陣が収益達成についての「契約」を結ぶことも検討できないか。健全化計画の量的な管理よりもリスクコスト後、信用コストを引いた後の資産効率でROAをしばる。ガバナンスが効いている状況ではないので国は収益目標を託しうる経営陣に、たとえば2年ごとに収益目標が達成されなければ経営者交代を迫るといったことを契約する、異業種から参入している銀行は2年で目標達成することを約束しています。免許事業とは、このあたりのチェックがきちんとなされることだと思います。

これまで破綻銀行が国有化した経験も十分に活かすべきでしょう。長銀国有化の時に「国有化」は何を意味するのかという漠然とした不安感をもってしまったことが最大の問題になりました。優良法人顧客が離反して資産が劣化した、個人・法人顧客から預金や金融債が流出してしまった、あるいは従業員のモチベーションが急激に低下したといったことがあったわけで、それを避けるために、破綻銀行が抜け殻銀行にならないために、国有化という得体のしれない不安をとにかく取り除く。そのためには「民間同様の価値創造をします」等のビジョンを顧客や従業員、メディアに向かって発信する。スピードも大切です。資産の劣化を防ために、経営陣の刷新、戦略担当役員の選任、Good BankとBad Bankの選別、Boutique Bank化して売却、処理を3カ月プランなどで実施する、とにかくアクションプランを含めて戦略立案するといったことを早急に決めることです。

多様な銀行スタイルも追求されるべきだと思います。4大銀行はすべてリテール、フィービジネスといわれるわけですが、リテールビジネスがコアになる保証はありません。各国主要銀行の収益源内訳をディスクロージャー資料から検証すると、英国でリテール銀行の雄といわれるロイズ銀行でも国内リテールは約40%で保険投資商品からの収入が30%を占めている。シティバンクもリテール部門は強いがグローバルなコーポレートや投資銀行業務で40%を稼いでいる。ドイツ銀行、JPモルガンに至っては50~60%を大企業、投資銀行業務で稼いでいる。銀行ごとに強弱をつけてもいいのではないか。

最後に、ビジネスのネックは年次を重要視した人事システムの柔軟性のなさにあるのではないかという問題提起として日米大手銀行の取締役就任時の年齢を調べました。すると-取締役の役割は各行によって違いますからあくまでもシンボリックにみた場合ですが-、外国の銀行だと30歳代で取締役になる場合もあれば、60歳代でなる人もいるのに対して邦銀は50歳代に集中している。そうなるとビジネスマインドが多様化していない。中央集権的な人事体制や年齢支配、いつまでも年上の人がエライ、という状況を変えないと本当の改革はできないのではないかと思います。

質疑応答

Q:

銀行のスタッフや支店長レベルでは貸出時に担保が取れるか否かが最大の関心事だった。取引先もリスクベースでのネゴができない。銀行のスタッフも含めてリスクの時代に対応するにはどうすればいいのか。

A:

まず量的な拡大はいいことではない、リスクをとり、貸出金利をきちんととることが正しいのだ、ということが銀行内で実行されることが重要。これまではリスクを見る技術を磨くインセンティブがなかったわけで、経営方針として量的縮小はいいことだと徹底させることが最初の一歩。人材に問題があるのではなく、人事システムに問題がある。中途採用、外銀から戻ってくる人を受け入れる、といった仕組みを変えることも大切。

Q:

1.マクロが悪く、デフレ状態では金融機関の正常化はダメといわれるがどうか。
2.現実の金融界は不良債権の公表値と推定値の乖離をなくすディスクローズは期待できない。この状態が進むと日本はどうなるか。

A:

1.ミクロの改革をやらずにマクロの政策だけを議論しても解決できないという意見をもっています。インフレターゲット論も、語られている内容はまちまちで、また、それで本当に景気が回復するかの保証はなく、結果が見えない。また、これをやれば特効薬、というものはない。ただ、万策尽きたと言われるが、それぞれの人たちが自分の立場と役割でやるべきことをきちんと実行してゆけば今よりもbetterにはなるのではないか。
2.国民負担で現在の金融システムを支えていく、という構図が今の状況で、それが続いてゆくということだと思います。この状況を国民が良しとするのかどうか、がオープンに議論されるべきだと思います。

Q:

1.スプレッドがとれない要因として何が大きいのか。なぜ外資系が入れないか?
2.低格付けなのにスプレッドがとれていない中で、本当に金利を上げても大丈夫なのか。
3.経営陣は本来であれば市場の圧力で交代させていくもので、政府が選べるのか? 政府の能力の範囲なのか? 内部から昇格する経営陣がダメだとすると、外部のどこから経営陣をいれればいいとお考えか?

A:

1.とろうと本格的に決定したのがつい最近のことであること、そのため現場がまだその状況に不慣れなことが大きいと思います。企業と銀行の関係で、もたれあいの関係をなくす必要があります。
2.格付けは規模が影響する。規模が小さいとどうしても格付けが低くなってしまうので格付けが低いから優良ではない、ということでは必ずしもありません。
3.銀行によっては3、4割の株式を持った潜在株主、即ち政府はきちんと責任を果たさなくてはいけない、と思います。国民の資金をいれているわけですから、その代表としての役割が「ものいわぬ株主」では責任をまっとうしていない。一方で、内部の人も能力はあると思うが、現在は、10の能力があってもしがらみなどがあって、言いたいことの3、4割しか言えていない。もっと、追い込まれれば、機能する仕組みになりうると思います。外部の人を無責任な形でとっても問題の解決にはなりません。

Q:

1.スプレッドをどうやってとるのか。オーバーバンキング自体が過当競争で利益率を下げているとしたら、銀行の数をどのように減らすか。できもしない引当金を要求するのは銀行を淘汰するために不良債権処理を進めている、というストラテジーの評価ができないか? 仮にそうだとして政策手段にして位置付けると川本プランはどう生きるか?
2.レッドパージをすればいい、という議論についてはどう思われるか。

A:

1.オーバーバンキングについてはその通りだと思います。非効率銀行が退出してゆくメカニズムがないと、今日お話をしたストーリーが実行されにくい、というのは現実としてあります。特別検査をして大銀行のなかにも退出するところがでると、金融界の健全化が一挙に進むようにも思います。
2.レッドパージについては、年齢に関係ないかなという思いもある。これまで年齢に支配され過ぎたということはありますが、逆に危険なのは若手登用論。年齢によって差別するのもどうかなと思う。

Q:

日本における消費者金融の収益性はどう説明するのか。

A:

消費者金融は成功モデルですが、その理由は銀行には公共性の縛りがあったということをみんなが信じているということ(笑)。ただ、制度的な問題かというと、銀行系の消費者ローン会社も上限までは課していないところもあって、メンタリティーの問題。また、精巧なデータベースをまわすという、銀行には経験のないスキルが要求される。

Q:

消費者金融はリスクは高くないのにリターンが大きい。その秘密はマーケティングにあって、想定している顧客が20歳代の若年層。ここは一見、リスクが高いように見えて、実際は親が暗黙の連帯保証をしているので、非常にデフォルト率が低い。

A:

海外の銀行は、消費者ローン、住宅ローン、商工ローンのところ、中小企業貸出というところが非常に高い利益率を誇っているのが特徴。日本だけ中小企業が儲からない、みんなで支え合う、という前提になっています。

Q:

1.金融技術の発達で政府系金融機関がやらなくてもいいことはあるか。そのことで民間金融機関の収益性があがる、という部門はあるか。
2.各国金融機関はグローバルコーポレート、投資銀行業務など国際業務で稼いでいるようだが、なぜ日本の民間金融機関は稼げていないのか。

A:

「グローバルコーポレート」というのは必ずしも完全な海外業務ではなく、グローバルに展開している企業との取引ということです。日本の銀行は国際業務と外貨建ての国内業務の2種類を行っていて、後者がメインだったのではないか。外貨建て国内業務をしている限りにおいてはさほど収益があがらない。本当の国際業務は強い海外プレーヤーと競争せねばならず、今の人事システムではそのスキルが身に付かない。
民間ができるところに政府系が出ているところが問題。今後、政府系金融機関の役割がまったくないわけではないが、本当に緊急避難的な対応以外はやめる、貸出業務はやめる。政策的な対応をしなければならないときに、コストがかかるということはあるかもしれないが、利子補給をするといった方向性があるのでは。

Q:

政府系金融機関の名前が協融団に入っているとやりやすい、という民間の声もあるが。

A:

ネームに意味あるのであれば、保証を入れればいいのであって融資する必要はない。

Q:

政府の役割について、公的資金がさまざまな銀行に入ると利益相反がおきないか?
今後、公的資金が入っていくとそれは即ち、大規模な政府系金融機関の誕生ということにならないか。

A:

裁量が働く、という危惧については天下り先にするのではなく、政府が責任を持ってCEOの選任に際してはアドバイザリーボードを設けて、厳正な手続きを踏む、ということがベスト・エフォート・ベースだろう。透明性を確保することで説明するしかないのでは?
大規模な政府系金融機関が出来てしまうことはその通り。私は危機にならずに今の半民営の銀行が真に「民営化」し私企業として自立することが、日本にとって健全な姿ではないかと思う。

Q:

銀行のガバナンスはお互いに持ち合いをやるがために、銀行に対してはコーポレートガバナンスが利いていないのでは? だとすると、乱暴かもしれないが、国が優先株を普通株に転換して、トップに相応の人を据えてアドバイザリーボードを作り、透明性をもってチェックをする、ということしかないのではないか。

A:

おっしゃる通りだと思う。また、今の優先株を持っている状況でもガバナンスを効かせる仕組みを作りうるのではないかと思う。私が申し上げるべきことではないが、資本をいれるべきではないというのが民間金融機関の立場。これ以上、政府は関与してほしくない(笑)。ただ、資本注入の論調としてはわかりやすいので、そればかりが注目されるが、本当に議論されるべきは資本を入れたあとに、どのように健全化をめざしてチェックしてゆくことだと思う。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。