EU拡大、ヨーロッパ統合と構造改革-ドイツを中心にして

開催日 2002年1月18日
スピーカー 手塚 和彰 (千葉大法学部 教授)
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議事録

ドイツの規制緩和枠と分社化の経緯

ドイツの規制緩和には2つの枠があります。ドイツ独自で行う規制緩和、もうひとつはEUのレベルで行われる規制緩和です。ドイツは概ねEUの規制緩和を前倒しにして実行してきた国といえるでしょう。たとえば電気通信については、1998年1月1日の期限以前にドイツテレコムが規制緩和・自由化しています。鉄道(ドイッチェ・バーン)も東西ドイツの統一後、一緒になって規制緩和、民営化を行いました。

ただし、電気通信関係においてドイツは今のところ分社化されておりません(日本の場合はNTTにしろJRにしろ分割、あるいは今後分社化されることが予測されますが)。一方、エネルギー関係はそれぞれの地域ごとに分割されています。もっとも有名なのはノルトラインヴェストファーレン地方(Nordrhein -Westfalen)のケースです。この地域では電力会社を公的に作り、その傘下に石炭(会社)や各ダムもおいて民営化してきたという経緯があります。

規制緩和の2つの重要な意味

「規制緩和には2つの意味がある」と私は思っています。Service publicとpublic utilitiesです。今までは国や地方自治体が自ら行う、あるいは一定の企業に行わせることを是としていましたが、それを市場に開放するということです。この点は、EUも同様の位置づけをしています。ご存じの通り、アムステルダム条約(新欧州連合条約)以降に条文が変わり、現在では「一般的な経済利益」の項に明記されています。今までは「公的には自治体がやる、私企業に排他的な権利を与える」とされていたことも、「競争原理を損なわない範囲でしか(行ってはならない)」という項が付け加わり、競争制限が撤廃されています。

電力供給についてはかなり規制緩和が進んでおります。最近の一番大きな問題は今後EUが拡大されて、安全性などの技術革新が進められていないポーランドやチェコなどの電力が非常に安く入ってくることです。チェコでは27のチェルノブイリ型の原子力発電所がまだ操業しております。ちなみに、日本企業は75ほどチェコに立地していますが、その最大の理由は賃金水準です。ドイツやイギリスに比べて賃金が5分の1。松下電器もイギリスから撤退してチェコに進出するという話があります。余談ですが、東西ドイツ統一の時には日本は旧東ドイツの会社を一社しか買わなかったのにチェコ進出には熱心であります。

EUにチェコが加わった場合、チェコとドイツのバイエルン地方(Bayern)が非常に近くオーストリアにも隣接しているので、チェコから半額以下で電力供給されることになります。新しい原発も建設中です。ご存知の通り、ドイツとオーストリアは今後20年で原発を廃止することになっております。もし、オーストリア国境のすぐ近くにチェコの新しい発電所が出来れば、今後はそこから電力を買わなければならないということになります。しかしこれに関しては、エネルギー政策を含めて共通の安全基準を作ってコントロールするということで合意ができているようですので、追々そういうことになるでしょう。

このように経済分野が徐々に統合され、域内の安全基準などを満たしながら安いものが供給されるということになるのだと思います。他方、EU内部でもドイツとフランスの間でシビアな対立が従来からあります。フランスでは原発を今もって廃止するとはいっておりません。独仏の国境地帯-ザール地方(Saar)-ではドイツの会社が競争に負けて、小さな電力会社が倒産している、といったこともあるわけです。ザールはルール地方と並んで炭鉱が主要産業でしたが、その主要産業である炭鉱が閉山する間接的な理由は火力発電所の台頭ではなく、むしろ(隣接する仏の)原発、すなわザールの輸出先であるフランスの政策によるのです。そのような理由でライン地方はどんどん炭鉱を縮小し、炭鉱自身をどんどん閉山せざるを得ない状況です。最近では活炭を猛烈な自然破壊をしながら掘っており、ドイツの電力会社はかろうじてこの活炭で生き長らえています。

ユーロ流通と規制緩和による人・資本移動の活発化

数年前に民間の規制緩和が話題に上りました。このときドイツの三大銀行が消滅しドイッチェ・バンク(Deutsche Bank)だけが残りました。コメルツ銀行(Commerzbank)はドイッチェ・バンクの傘下に、ドレスナー銀行(Dresdner Bank)はヒポバンク(Hypovereinsbank;抵当銀行)の傘下に入る、という具合にかつての三大銀行のうち、一行しか生き残っていない状態になりました。

ちなみに、日本にはまだ都市銀行が7行も残っています。以前よりは減ったといわれますが、それでもまだ多い。また、ドイツにはクルップ(Krupp)という鉄鋼会社があり、もう1kgも鉄鋼を作っていないというときにティッセン(Thyssen)の残った鉄工所と合体してティッセン・クルップという会社になりました。ちょうど今から5年ほど前にEU全体の政策として鉄鋼生産を調整する、ということがありました(モデラトーレン;Moderatoren)。EUのファンドを原資に過剰設備の廃棄を進めたわけです。当時は鉄鋼4グループがありましたが、ドイツの鉄鋼業の設備投資は遅れており、生産性が低いものでした。余談になりますが、こんな笑い話があります。"Schwedisches Auto bestet aus Schwedisches Stahl, deutsches Auto bestet aus Kruppstahl, und polnisches Auto bestet aus Diebstahl.(ドイツ語で「スウェーデンの車はスウェーデンの鉄鋼で作られ、ドイツの車はクルップの鉄鋼で作られ、ポーランドの車は泥棒したものでできている」という意。鉄鋼=Stahl、窃盗=Diebstahlをかけている)これはポーランドの人の前ではいえませんが、ポーランドでは車を作っていなかったのに、国境が開く前から新車がジャンジャン走っていたわけです。

話を戻すと、クルップも鉄鋼から機械を作る時代になったということです。規制の中で民間企業は猛烈な合併、分割を進めてきたという状況があります。最近でも鉄鋼会社のマンネスマン(Mannnesmann)という会社がテレコミュニケーション、コンピュータ、移動通信の会社へと一生懸命移行していたところ、イギリスのボーダフォン(Vodaphone)に敵対的買収をかけられたということがありました。敵対的買収は日常茶飯事に行われています。日本企業も決して魅力がないわけではないので、資本の移動、人の移動、モノの移動がある程度自由化されれば、おそらく韓国などアジア資本の敵対的買収もどんどん入ってくるだろうと思いますね。

資本の移動、人の移動、モノの移動が、この1月から導入されたユーロ圏でどうなるか。通貨格差を享受してきたイタリアでは抵抗が強いようですが、それ以外は順調にスタートしたといわれております。たとえばBMWの新車を買うときに、これまではマルクをユーロ換算すると国によって価格が違ったのが今は統一され、物価水準の差が歴然とする。それでますます資本の移動が活発になるのではないかと思います。

統一経済圏を後押しするヨーロッパ会社法

ヨーロッパ会社法がスタートせざるを得ない、国境を越えて「ヨーロッパ会社」が設立されます。長年ヨーロッパの会社法が成立しなかった理由の1つは、大陸の、ドイツなどの株式会社では監査役会が取締役会を指名するというシステムに由来します。監査役会に経営参加して、特に株式会社の場合は五分五分で参加するというシステムになっていました。そこで大企業がほとんど共同決定への参画を含めて持ち株会社を作り、その下を株式有限会社にして共同決定をまぬがれるということをやって来ました。戦後の占領史を見ると、イギリスの占領軍は鉄鋼・石油の共同決定制度を後押ししましたが、自分の国でやられては困るということで、とりわけ株式会社法については取締役会と監査役会の二重構造を否定して一本化し、経営傘下も拒否するといった態度に終始しました。だからこれまではうまくいかなかった。EUではどちらかの制度を主要な拠点、本社のあるところで選んでその国の法制に準拠する、という選択を可能にするとで合意に向かいそうです。したがって、金融部門が通貨統合がされ、資本移動が自由になってきた中で「ヨーロッパ会社」が設立され始める、ということです。

欧州理事会の機構改革ではEUの拡大や票数を増やす、といったことが予定されています。今まではドイツやフランスなどの大国が圧倒的に強かったのですが、若干その事態を緩和するという方向に向かっています。もっとも、人口の3分の2、票数の3分の2強を占めないと決定にならない、といった問題はあります。しかし、東への拡大は進みます。ドイツと日本の規制緩和で対照的なのは、ドイツの場合、70年代の後半から高失業低成長に転化、当時のサミットの共通テーマが雇用と成長だったときに、日本だけが無縁で知らん顔をしていました。その間、70年代からドイツが味わってきた経験には大変なものがあります。たとえばスペイン、ポルトガルがEUに加盟します。EU域内ではヒト・モノ・カネの移動が自由ですから、86年のスペイン、ポルトガルの加入により産業立地が移動します。また、ヒトの移動についても、ベルリンが89年、90年頃から大建設ブームになったんですが、スペイン、ポルトガル、あるいはポーランドなどから労働者が流れ込んできて優良大建設産業がつぶれる事態に陥りました。今でもベルリンの首都改造-大ベルリン改造計画-が進行中にも関わらず大建設産業がつぶれる。これは、中小の建設業者がポーランドやチェコあたりから賃金水準の低い労働者を連れてきたため、アングラ経済が勝ってしまうということですね。自動車産業も競争力の問題で、メインの本体組み立ては国内でやっても部品は海外に出しています。たとえば、昨年5月にスロベニアの経済大臣と会談したときに、「独バイエルン地方のBMWなどへの自動車部品の輸出元はほとんどはここである」ということをいっていました。賃金が5分の1ですから。今後もEUの拡大は進みますが、その前にすでに、ドイツではEC時代から賃金格差による国際競争にさらされていたわけです。失業率も旧西ドイツは10%という状態。その中で製造業を維持、雇用も維持、そしてソフトランディングをはかってきたのがドイツです。日本の場合、東南アジアなどでは勝ってきましたが、それよりも遙かに安い中国が登場したわけで、それが一気に来てしまったというのが1つの特徴だと思います。したがって、このような事態に対して日本がドイツから研究するべきことはたくさんあると思うんです。

その一方で昨夏、欧州の調査に行ったとき、BMWがチェコに建設を予定していた工場を急遽とりやめてライプツィッヒ(旧東独)に作ることになりました。旧東ドイツの賃金が安いとはいっても5分の1ということはなく、だいたい西ドイツの7-8割程度です。ただEUの中の1項に旧東西ドイツに関してある一定の優遇措置をとってもいいと明記されています。それで賃金は割高ですが、営業税等で優遇が受けられる、と。大量生産の自動車は現在ではほとんどがロボットで作れるようになっており、人間は何をやっているかというと部品の供給をいわゆる看板方式でやっているわけですね。さまざまな車種がありますから、間違えないように部品供給する仕事がメインです。

セーフティネットのいきすぎは自らの首を絞める

ドイツと日本は終身雇用の率が一番高かった国だろうと思います。ドイツも解雇がしにくい国で、解雇する場合はゾチアルプラン(Sozialplan)といい、合理化計画をやって退職金を上乗せするなどの条件が決まらないと解雇できない、という法律上の規制がありました。もちろん正当な事由がない限り解雇が出来ない、そしてEUの規制もありました。ところが1985年に導入された期限付き雇用が増加傾向にあります。これを極端に行ったのがオランダです。正職員もパートタイムも同一条件でやってきた。ドイツも概ねそれに則っていました。たとえば年休を6労働週分とれることになっています。半日勤務のパートの人でも6労働週分とれるわけですね。そのかわり有給休暇中の賃金も半日分でいいと。日本でも今頃になってオランダモデル型のパートタイム労働をいい出してきています。結局97年と99年にそれぞれガイドラインが出て、EU諸国では今後はフルタイム労働だけでない、パートタイム労働でも同じ扱いにする、というように国内法を整備しました。これはどういうことかというと、630マルク・ジョブといういい方があるのですが、630マルク(為替の問題もありますが5万円そこそこ)の収入のパートタイムの人も、それ以上であれば社会保険などに加入する、健保にも年金にも入る、労使が折半してやる、ということになりました。それ以下は一番短い就労でも公的な補助をして、長期失業者(80万人といわれていますが)その人たちの就労のために環境整備を行っていかなければならない、ということです。特に長期失業をするとセーフティ・ネットの整備がいい渡されます。ドイツの場合(就業年限や子どもの有無によっても違いますが)、雇用保険が70%前後もらえます。それが切れると就職活動中は60%前後が雇用保険らの失業保険として出る、さらにそれが切れた場合には生活保護に入る、ということです。要するに若者でも手当てもらってブラブラすることになる。子どもでもいればさらに児童手当がつきますし、その他諸々で結構、もらえます。そうなりますと安い賃金のところには就労しない、という問題がでてくるわけです。セーフティ・ネットのいきすぎ、という議論です。結局、昨年6月、野党であるCDUの「失業が長期化するのは働く意欲がないからだ」という主張を与党SPDのシュローダーもしぶしぶ認め、手当てをカットしていかざるを得ないということになりました。その代わりに短時間就労で収入が630マルクの場合には補助をして欲しい、ということでいくつかのモデルが生まれています。

まず、保守党が政権を奪還したザール地方。この地域は鉄鋼、石炭の町だったのですが今やかなりハイテクに転化し始めています。地理的にはEUの中心にあたります。かつてはBMWの工場候補地にまでなりましたが、川が多い地域なので最新鋭の工場建設には十分なスペースがとれないということで断念した経緯があります。ただ、ハイテクはいいようで「低所得のパートタイマー(電機関係に就いている人が多いのですが)について使用者側が保険料を肩代わりする」ということをやっています。また、働いている人に社会保険料を与える、というような議論もされています。しかし、日本における103万円と130万円の議論にもあるように、あまり援助をし過ぎると使用者も雇う方も、就労制限を自ら作ってしまうことになるのではないか、という議論がされているのも実情です。しかし、それでもなんとかやらざるを得ない、ということなのでしょう。

日本はドイツの地方自治に学べ

日本と違ってドイツの場合の素晴らしいところは、連邦政府が上から下まで決めているのではないということ。州以下の所ですべてが決められます。州政府がもっとも権限を持っているわけで、連邦政府は軍事と外交とその他一部しか権限を持たない。税源、所得税なども州レベルにたくさん入るようになっています。日本の場合はそうではないようですね。介護保険が最たるものですが、一挙手一投足まで政府が決めたいようです。ドイツの場合、州レベル以下にもってきたところに産業政策の1つの競争条件があるのかな、と思っております。

ですからザールが非常に元気がいい。北のブレーメン(Bremen)もいいですね。ドイツでは今年の9月に総選挙がありますがシュレーダー(現政権党首)とシュトイバー(バイエルン州首相)の一騎打ちといわれており、その争点の1つが失業率です。ご存じの通り、失業率は暮れに延びて年末に400万人に近い数字になってきています。また移民問題が争点になってくる。移民の規制をゆるめろ、といった検討がされています。シュレーダーも日本と同じようにインドからIT人材を入れようとしていますから。

こうやって考えて参りますと、ドイツの最大の問題は国内投資が減っているという点です。ドイツは特殊な装置をEU統合並びに東西ドイツ統一の過程で作ってきました。すなわち東西ドイツ統一後、「東西ドイツ連帯基金」という投資基金を設けて西ドイツ国民から税金として1.9%(だったか忘れましたが)とっています。これがドイツの投資基金になっていて東に投資援助を与えている、ということなんですね。本来、EUの原則ではやってはいけないことなのですが、東西ドイツ統一後の状況の解決のためには良いということで特例が認められました。原型はマーシャルプランで、日本の場合は開銀(日本開発銀行)の資金になっていまや雲散霧消してしまったという状況。これが弱みですね。

規制緩和の流れで最大に注目しなければならないのが、ドイツの金属労組についてです。これは世界最強の労働組合で、日本でいうところの川上から川下の製品に至るまで、中小も含めまた造船や航空機もすべて入っています。その中で地域によってかつては11の協約ゾーンが最低条件として決まっていました。それを、労働時間や賃金について弾力化することは一切まかり通らない、ということだったんですね。これもついに破られることになるのかもしれません。昨年の5月にシュミット元首相は「東は賃金が低くてもかまわない、だから協約賃金を低いところで立ち上げてもよい」と述べた。労働時間についても、もともとは週48時間ですが、協約で金属労組が定めていてのは36時間まで切り下げてきたという歴史的な経緯があります。それも「企業や地域の状況によって協約からの弾力化ができる」ということをドイツの新聞(『ディ・ツァイト』)に対して発言しています。

日本の場合は春闘がその機能を持っていたのですが、全国一律に賃金を上げちゃっている。つまり、日本の場合は(地域の物価格差を勘案せずに)平準化し過ぎてしまった、ということに問題があります。日本は北海道あたりから考えてこなければならなかったのに、それを怠ってきたことが今思えば最大の問題です。そもそも地域別の賃金に戻ってしまうのがいいのか悪いのかという議論はあるにせよ、日本の競争力を考えつつ検討し直す必要があると思います。「定期昇給」という不思議な制度があるのも日本だけですから、そろそろそういったものを廃止するべきではないでしょうか。

ヨーロッパにおけるワークシェアリング

結局、ヨーロッパとの規制緩和の関係で申し上げれば、オランダモデルはいったん解体をして、それをパート労働者から積み上げる、というスタイルをとっています。ですから、そのもとでは夫婦で一単位の給料である、と。また、北欧型モデルのワークシェアリングは育児休業をとりますので、今は最長6カ月ほどとれるのですが、とにかく夫婦のうち亭主も1/3は休みをとらなければ育児休業が承認されないんです。従ってかなりの比率で育児休業をとっていることになる。極端にいうと、北欧型の場合3年ほど子どもを育てるために休むことが出来る、ということになります。

それから、最近の規制緩和では55歳以上は1年目はフルで働いて50%の賃金、それから雇用保険から20%の上乗せ、その20%には保険料の税金などはかからない。するとネットではかなりいい給料になります。二年目はまるまる1年間休みです。その代わり前述の50%と20%がもらえる、ということです。こういった働き方はだいぶ広がっているようですね。日本ではSONYのようなグローバル企業でさえグローバルスタンダードで考えられない。外国人と日本人の基準が違うダブルスタンダード。そこを考えていかなければならないのではないでしょうか。仕事をするときは猛烈にやって、休むときは休むという具合ですね。企業が変わっていかなければならないんでしょうね。

チェコとドイツの関係が実は非常によくない。ご存じの通り、ヒットラーの侵略のきっかけになったズデーデン地方というのがあるんですが、ここは3、4世紀前からドイツ人が開拓してきたという歴史があるわけですね。ところがそれを全部追い出して、1968年にチェコが社会主義化した後に没収された土地については返還するけれども、ドイツの敗戦時のものは返さない、といったことをやっているものですから。同様にオーストリアとの関係も悪いですね。もっとも、私の大学(千葉大学)がリンツ大学と提携をしたのでリンツに行ったんですが、ここはチェコと近いのでチェコと大いに一緒にやっていきたい、などといっています。リンツは鉄鋼の転炉の技術を開発した鉄鋼メーカーがある街ですが、ヒットラーにメチャメチャにされて100%つぶされてしまったんですね。しかし、そんな中でも電力、交通、農業の競争力をつけてきています。

話を戻しますと、ドイツは独自の規制緩和は遅れていたんですがEUの規制緩和を前倒しで進めることでかろうじて規制緩和を進めることができました。フランスのように規制緩和がなかなか進まない所に比べるとなかなかの優等生であります。ドイツにはカルテアムト(Karte Amt)というのがありまして、立派な鑑定書を作って、旧通産省の権限くらいはあって、さまざまな書類などを出させるわけですが、規制緩和と自由化の問題を競争力を導入することでクリアしてきたわけです。バブル時代に日本企業がアメリカに入っていったときに“Buying into America"と批判されましたが、そのうち日本も“Buying into Japan"になるのではないか、そうなっても仕方がないのではないかと思います。ただ、そのためには日本の国内の投資が進まなければ始まらないんだろう、とも思います。

質疑応答

Q:

労働の関係でオランダは同一労働、同一賃金で失業率が急速に下がったことで有名。短時間労働を取り入れて改革したというが、同じモデルを採用したドイツの失業率は下がっていない。イギリスは改善しているが、フランスもだめ。パフォーマンスの違いはどこから?

A:

Duisburg Johann Straussが嘆いたことがあります。北バイエルンで国境に接していたために失業率が高かったので、ある優秀な女性の就職を南に斡旋しようとしたら職安がストップをかけた。職安の人達が現場を知らないんですね。
Duisburgで19.8%の失業率のところで民営の諸公家用紹介を作った。オランダでは民営の職業紹介が非常にはやっています。職安の縄張りをとっぱらってようやくワークし始めたんです。セーフティーネットが整備されすぎていて、失業したほうがいい。求人はあっても求職がない。労働市場の開放が進んでいない。日本でも職安を撤廃して民営化してしまうとよいでしょう。オランダモデルでは個別立法が徹底しているんです。オランダは小国で優良企業が多いですね。要するに仲介業者が発達しているかいないか、というのがポイント。働く側の意欲も違いますね。

Q:

3つあります。失業問題の解消には規制緩和や賃金のフレキシビリティがよくて雇用保険などはモラルハザードが起こるというが、職業訓練などはポジティブなのか、それとも効率的ではないのか。
ドイツではチェコなどの低賃金におされている。それを税で支えている。製造業の付加価値を高めるというのが日本のスタンスだが欧州を事例にした場合、いいのかそれとも人為的なことをやらないとだめなのか?
中央と地方のあり方は? 交付税を入れても地方税のウェイトはそんなに変わらない。地方と中央の歳出。財源より歳出の中身が問題?

A:

製造業が日本でどれだけ生き延びるかが問題です。日本は国際化の遅れが大きいんです。たとえばチェコではドイツ語ではなく英語がメインですね。頭脳流出が起こるポテンシャルがあります。日本では、東京都などの地方が独自の政策を作れません。シンクタンクへの丸投げ。中期・長期のプランを持っているところに出す、という方法もあるのではないでしょうか。財務省がそこまで切り込むかどうか? それいかんでは緊急雇用対策もどこかに消えていってしまいます。
サッチャー以来、英蘭は雇用保険が短いんです。身障者の認定が甘いので55歳位で身障者になってやめていきます。地方のほうが現場をおさえています。欧州の州政府などにいくと30年間同じところにいるプロ(専門家)がいます。日本にはいませんね。日本の人事制度を変えなければならないと思います。
資格別賃金なので、欧州は教育訓練を猛烈にやっています。金属労組からの要望もありIT訓練をやっています。ドイツはかつての職人訓練をやりすぎましたね。ただ、若い人たちがそのような職業訓練を受けても職場がないという問題があります。

Q:

ワークシェアリングは子育てを優遇している。産休、育休はワークシェアリングの観点なのか、それとも少子化対策なのか。子育て効果はあったか。

A:

ダブル就業による所得税摘発は行われません。50万件年間で訴追されています。ドイツには保育園はほとんどないので休んで育てます。ただ3年も休むとキャリアに影響します。働いている女性に対する保護が遅れたんですね。女性は家にいるものだという価値観だったものですから。控除を大きくしてスウェーデンは1.86まで出生率まで回復しました。日本の場合は硬直化しているので1.8までは回復できるかどうか。

Q:

欧州のワークシェアリングの問題はあるが、ワークの総量をどうやって増やすか、ということはどうすれば解決できるのか。失業自体を解決するには?

A:

かとく労働者が増えているか。かとく労働者の数が順調に増えているのはワークシェアリングの成果です。1年間の準備期間を経て失業へ。

Q:

ドイツ自身はEUから出て行くオプションはないのだが、外圧をどう感じているのか。

A:

最初はイギリスとの間に非常に問題がありました。独仏もあったが、統一した。EUがしぶといのはブリュッセルに集まって、東との圧力、ベラルーシ、そしてロシアが控えていることです。日本にとっての中国はどうだったか。日本は遅れをとったのではないでしょうか。日本の投資は遅れていて技術だけはもっていかれる。女工さんたちに持っていかれたりしました。

Q:

ヨーロッパ会社法にかかわり、Daimler Chlyzlerの問題はどうか。合併解消のうわさはありますが。

A:

Daimlerにとってお荷物になっている。Merzedes2000(米国向け)が日本でも売れているが、大衆車としてはMerzedesは売れないのでは?

Q:

公的金融セクターはドイツではどうなっているか。一般庶民レベルの反応は?

A:

欧州は住み分けがきっちりしていましたが、壁をとっぱらった。庶民の金融がしっかりしています。Stadtsparkasseは地方が資金を中小企業に投入しなければなりません。高利回りで市民はよく利用する。市中の銀行が競争力を失って合併を重ねて三大銀行がなくなってしまったというわけではありません。ポストバンクが問題なんですね。それと競っているのがStadtsparkasse。ただ、sparkasseはもっぱら貯蓄のためだけです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。