中国の構造改革

開催日 2001年12月17日
スピーカー 趙晋平 (中国国務院発展研究センター対外経済部副部長)

議事録

変化する中国経済

中国国務院のシンクタンク、発展研究センターにて経済政策全般について研究調査しています。対外研究部に所属しておりまして、対外経済関係を主に担当しています。中国に関するさまざまな問題が議論されています。経済改革、WTOについても皆さんご興味をお持ちだと思います。また、中国と日本の貿易関係、セーフガード、報復措置などについてお話させていただきます。

まず中国の経済成長の現状ですが、経済開放路線を採るようになり、成長率はかなり激しく変化しています。年平均9.5%程度の高成長を遂げています。1993年以降、経済成長率は次第に下がる一方です。昨年は国債市場の好況と内需拡大政策で上がりましたが、今年の見通しは7.4%程度です。他方で、中国の一人当たりのGDPは発展途上国レベルであることを忘れてはいけません。

地方の格差は拡大傾向にあります。一人当たりGDPで見ると、1980年に1.9倍であった東部と西部の格差は1990年に1.96倍、2000年には2.51倍になりました。協調的に発展し続けるためには、経済全体の実力を上げることが大切です。

構造的な問題として、難しいのは国有企業の改革です。過去20年間で工業生産に占める国有企業の割合は下がってきています。全体的なシェアは3割弱です。1985年には66%、1999年は26%となっています。国有企業では資産負債率が高まってきていまして不良債権処理問題が深刻化しています。もともと国有なので従業員全てに対して責任を負っています。社会保障制度の建設など、国有企業の問題解決が必要です。

中部、西部と比べると東部の国有企業率は低い状況です。東部で国有企業率は3割強です。統計上の観点でいいますと、99年には純粋に国有企業数だけ数えていましたが、その後、国有企業との合弁企業なども統計に含めるようになりましたので、実際より東部では国有率が多く見えます。東部と比べると中部、西部はあんまり発達しておらず、国有企業改革が東部ほど進んでいません。

今後の国有企業改革においては、いかに全体的なシステムを改革しつつ、構造改革によって引き起こされる大量の失業者問題などの社会問題改革と両立させるかが課題です。また、いかにして国有企業を上場させ、間接金融だけでなく、直接金融によるサポートを行っていくかも重要な点です。国有企業内部のコーポレートガバナンスなどのしっかりしたシステムの構築が必要です。

次に経済全体ですが、需要構造からみると、消費が6割、投資が3割強を占めます。外需は2.3%とシェアは少ないです。これまで主に内需拡大政策を採ってきて、その効果の現れだといえます。消費について都市部と農村部を比較すると構造的な違いは明らかです。都市部の人口は総人口の3割に過ぎませんが総消費の4割強を占めています。農村は総人口の約7割を占めていますが、消費は全体の3割強に限られています。政府支出は2割を占めていますが、数年前と比較すると増加傾向にあります。これは政府が積極的なマクロ政策を採っているからですが、小さい政府を目指すという観点から言いますと、社会経済全体としては好ましいとはいえません。

地域別に見る総需要の構造

総需要の構造を地域別に見たいと思います。中国経済を貿易依存度で見ますと、東部は輸出も輸入もGDPの3割です。中部と西部の貿易額全体では1割にも満たない状態です。東部は改革開放路線を採り、対外貿易の割合が高まってきています。中国の全体的な対外的輸出依存度で見ますと2割程度と、東アジア発展途上国の中では低い水準ですが、以前と比較するとかなり高まってきています。さて、どのような問題が起こり得るのでしょうか。

例えば国際市場は下がってきています。2000年以降、中国の輸出も減っています。前年比較でいいますとマイナスになった月もありました。昨年の輸出伸び率は28%と非常に高い水準でしたが、今年は5-6%程度でしょう。その影響で今年の中国の経済成長はやや減速することとなるでしょう。これは対外輸出依存度の増加によっておこった問題です。いかに内需型にしていくかが課題ですが、第10次5カ年計画による内需拡大政策も1つの方策でしょう。11月に来年度の財政政策を決定する会議が行われ、来年度も積極的な財政政策を執ることが決まりました。国債も増発されるでしょう。

さらに農村消費が少ないことも問題点の1つです。都市部の消費は相対的に多いですが、都市再生によって経済成長を遂げる狙いからいって、農村消費を増やす必要があると思います。都市化率を国際比較すると中国は低いです。97年のデータを見ると、極貧国で42%、世界平均が46%で中国は31%に過ぎません。都市化率の向上も第10次5カ年計画での目標の1つです。中国では戸籍は簡単に移せませんし、自由には移住できません。農村から都市部に移住したいと思っても難しかったのですが、今後は経済成長のためにも柔軟にするべきでしょう。

地域格差、都市・農村格差のお話をしましたが、ここで産業構造の話をしたいと思います。90年代の変化を見ると、工業などの第二次産業が急速に増え、半分くらいのシェアを占めています。まだサービス業主流という段階ではありません。外国との比較で申しますと、一人当たりのGDPが近いインドネシアなど比べて産業構造の点で遅れが目立ちます。

輸出商品構造を見ますと、90年代以降、かなりの変化が見られます。一次産品率が低下し、工業製品率が上昇しています。もっとも注目すべき点は付加価値の高い産業の輸出が90年代の2倍程度増加したことです。機械製品のような付加価値の高い製品ができるようになった理由を分析することが重要です。

産業別の外資企業率を見るとよく理解できます。2000年の各業種のデータによりますと、電子・通信分野では6割が外資系企業による生産でした。つまり、電子・通信機器産業は外資の参入によって成長できたといえます。その他に産業機械、輸送機械、電子機械などの機械分野でも外資率が高いです。これまでの中国の発展、産業育成、競争力強化は外資導入による効果のお陰だといえます。

また、外資系企業の9割が東部に集中しています。中西部は合わせても1割に過ぎません。しかしながら企業の平均資産で見ますと、むしろ東部の企業の方が低いという結果がでました。東部ではさまざまな分野の生活消費物資にまで進出しており、資本集約製品でない物も生産しています。中西部では石油、金属など、資源関連の資本集約型投資が多いため、企業あたりの資産額が高いという結果がでました。

輸出商品構造ですが、東部では製品の半分が輸出に向けられている一方、中西部では輸出向けは1割に過ぎず、ほとんどが国内消費にあてられています。国内販売は利益率が高いといわれていますが、国内企業の未整理や信用関係がうまくできていないことなどから、代金未回収などの問題も起こっており、投資環境の改善が必要といえます。

中国の失業問題は長期的な課題

中国の構造問題の1つに失業問題があります。政府の公式発表によりますと中国の労働者7億人のうち、都市部の失業率は3.1%、レイオフを含む職場から離れた労働者を含めた失業率は12%という計算もあります。都市部の失業率も実際には3.1%より高いのではないかという声もあります。2000年に2000万人の求職者がおり、求人倍率は0.76で農村部を含めるとさらに深刻な問題です。

この数年間の構造改革を経て、労働調整の効果が表れてきています。製造業、小売業では人員削減が進んでいる一方、金融・保険業では人員が増加しています。失業問題の深刻化は注意すべき点です。また、農業などの第一次産業は効率性が低く、農村には1億3000万人に上る過剰労働者がいるといわれています。工業化に伴い、いかにしてこのような大量の過剰労働者を吸い上げるかは長期的な問題です。これまで東部経済は相対的に伸びたが、労働賃金は安く抑えられてきました。今後も安い労働者を大量に外資投入に活かすことが競争力保持につながるでしょうし、今後20年位は続けられるのではないかと思います。

次に中国のWTO加盟について話します。中国は非常に厳しい条件を受け入れました。例えば、現在80-100%の乗用車にかけられる輸入関税を2006年までに25%に下げること、中国繊維製品に限り、セーフガード発動を2008年に延長すること(他の発展途上国は2004年)、中国製品に対する特別セーフガードを12年間認めることなどです。中国国内での加盟論議を聞いていると楽観的な考え方が多いように思いました。中国が厳しい条件を受け入れた背景について私見を述べます。まず中国は閉鎖経済では立ち行かなくなることを中国人が認識していることの表れだといえます。また、これまでも西側の厳しい条件を呑んで努力してきたのだから今回も何とかなると思っているようです。そして外部の力を借りて経済を開放し、構造改革を推進することを狙っています。これまで外資導入によって成長率を高めてきた経験があり、対外開放なしに成長はできないというヨミがあります。サービス産業も含めて経済を国際レベルに引き上げることが可能だと考えている人は少なくないのだと思います。

WTO加盟によって必要な制度改革

WTO加盟により国内のさまざまな政策、制度の改革が必要になってきます。第1に外資系企業に対する差別的待遇をなくすことです。第2はWTO規制に反する法律の撤廃、修正です。膨大な数の法律を整理する必要があります。第3に政策立案の透明性、公平性の向上で、かなり時間がかかることが予想されます。第4に金融、保険などのサービス業への外資参入を許可することです。3-5年の間で外資系銀行は人民元を取り扱えるようになります。また、4年間で生命保険以外の保険業務への参入が可能になります。さらに地域制限も撤廃されます。国内の金融機関はかなり危機感を持っているようです。国内銀行はネットワークなどの強みを持っているにもかかわらず、給料も高く、優遇も良い外資に人材を持っていかれることを怖れ、北京でも上海でも人材を巡る競争が激しくなっています。第5に3年間ですべての企業に対外貿易経営権を付与するということで、自由な対外貿易を許可するという方針です。WTO加盟に際してまずいかに政府が関与していくかが重要なカギを握っていると思います。中国では、フォーラムなどの場において外国の有識者らに中国経済のグローバル化に関する意見を聞こうとする動きが見られます。中国政府はこれまで経験のない分野では国際社会の意見を積極的に取り入れようとしています。

中国のWTO加盟によってEUや北米、日本にも相当なメリットが予想されます。日本は中国にとって第一位の輸入パートナーで、輸入全体の2割近くが日本からのものです。関税引き下げにより、日本からの輸入がさらに増加すると思われます。貿易額は昨年は831億ドルでしたが、今年は900億ドル程度にまで増えるのではないかと思われます。日本では中国からの輸入が急増しているため、困るといわれていますが、中国にとって日本は第一位輸出のパートナーではありません。中国の経済成長率が高ければ高いほど、日本からの輸入も増加し、日本に対する貿易赤字が増加します。中国の経済成長は日本にも経済効果を及ぼします。

日本の貿易統計では香港経由の輸出は中国として扱われていません。香港経由の輸入を中国大陸からの輸入として計上しているようです。香港経由の輸出入を含めると、基本的に日中間の貿易はバランスのとれた貿易だと思います。

中国と日本の経済関係ですが、1995年と比べて輸出産品にあまり変化は見られません。機械製品は多少増えましたが、RIETIの関さんがおっしゃっているように、中国と日本の経済は補完的な関係にあります。日本からの輸入は、輸出に伴って必要な機械産品の輸入が多い状況です。韓国と中国の経済関係は対日関係と比べて補完的というより、むしろ競合的な側面も見られます。「中国は産業化を成し遂げた」といってもまだまだ日本とは補完的な関係にあります。

対日輸出に占める主要日系企業の商品の加工貿易比率についてお話します。平均して日本向けの輸出は50%以上が開発輸入です。付加価値が高いほど加工貿易率が高くなります。まず外国への輸出に際し、部品など大量の輸入を伴います。そしてこのような加工貿易の担い手の多くが外資系企業でその大半が日本企業です。中国の競争力も上昇してきていますが、中国が比較優位をもつものは相変わらず労働集約的なものばかりです。日本向けの輸出に占める外資系企業の割合は77%で中国企業の割合は23%に過ぎません。日本と中国とは補完的な関係にあり、中国に向けた一方的な貿易制限を設けていると自国(日本)の企業も損を被ることになります。WTOの厳しい条件を受け入れるに際してはもちろん自助努力も必要ですが、経済開放によって構造改革を進めることが重要だと思われます。

中国への直接投資ですが、アジアの10カ国と地域で見ますと、契約ベースが実施ベースを下回っています。一方でEU、北米との間では契約ベースが増えていますので、これからこの地域からの直接投資の増加が予想されます。EU、北米からの投資は金額が高いのが特徴です。

世界的にブロック経済化の流れがありますが、北東アジアは何もやっていないのが現状です。

北東アジア、東アジアの経済統合をやりましょう、という議論が学者や一部の政府関係者の中からも出始めています。先日も中国の国務院発展研究センター、韓国の対外政策研究院、日本のNIRAが集まって会議を開きました。最初から自由貿易地域(FTA)を目指すのは日本からの抵抗も強く難しいでしょうから、一つ一つ問題を解決していくべきだと思いました。東アジアの貿易パートナーとの貿易伸び率は低く、日本との貿易に占める割合が縮小しています。韓国との貿易は少し増加していますし、先の会議でも韓国側はかなり積極的であった印象を持っています。我々は北東アジア地域における経済協力の政策提言をまとめました。この中では次の4点を目標に挙げました。第1に中日韓の経済貿易担当閣僚による定期的な閣僚会議を開催することです。第2に2002年に3国産官学共同フォーラムを開始することです。そして第3に人的交流の拡大、第4が貿易上の手続き簡素化を目指した取り組みを行うことです。

質疑応答

質問者A:

東部、中部、西部の概念は伝統的区分ですか?

趙:

数年前から地域経済格差縮小という課題により、地域を自然の観点で区分しました。例えば東部は沿海地域です。西部は内モンゴルなどを含む12の地方自治区から成っています。

質問者B:

都市化率は成長の結果だと思うのですが、都市化率を目的とされている理由は何ですか?日本では過度集中を防ぐという目的で逆の政策を採っていました。

趙:

インフラ整備は都市部だけに限定されています。インフラ整備には投資も必要なので都市部の拡大が必要で、GDPの成長にもつながると思います。ご指摘のように、都市化は結果であるという理解では同じです。都市部では教育、サービスの面でもいろんなビジネスチャンスがあり、消費の拡大に繋がる機会も豊富です。都市部と農村部では教育の面でかなり差があります。中国の都市部の教育レベルは農村部と比べて進んでおり、農村部では文盲率も高く、格差があります。人材育成は大切で、都市化によって教育を推進できるのではないかと思います。都市化率が1%上昇するととGNPが1%押し上がるとの計算もあります。

質問者C:

加工貿易比率はどうやって計算したのですか? データはどこから入手されたのですか?

趙:

公表されているデータのうちには、このような詳細なデータがありません。必要に応じて特別に作成し、提供してもらったデータです。さらに計算の方法としては、保税で輸入加工して、成品を輸出する場合の輸出額を輸出総額で割るという方法です。

質問者D:

北東アジアの経済統合について日本は積極的ではないとおっしゃいましたが、中国側はFTAも視野に入れてらっしゃるのでしょうか? また、産業化が十分でない分野まで視野に入れているのでしょうか?

趙:

WTO加盟に際しても同様な議論を行いました。自由貿易地域といいましても、ASEANとの間でもこれから10年かかるのではまだ身近な問題ではないという認識です。比較優位でない産業の発展のためには積極的に外資を活かして共同でやるのが良い、という見方がかなり強まってきています。独自で戦っても負けるのは必至です。中国が持っているネットワーク、人材などを活かして戦略的同盟を作りましょう、そしてお互い利益を享受しましょう、という考えです。FTAですが、日本とASEANが先に実現化してはどうですか?

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。