地域の経済再生に与える産学官連携活動の効果について

開催日 2001年5月18日
スピーカー 佐々木 信夫 (北海道TLO技術顧問/北海道大学先端科学技術共同研究センター客員教授)

議事録

北海道には理系の大学が多数存在します。また国公立の大学だけで4,000人程度の研究者がおり、研究、コンサルティングに従事しています。彼らは論文を発表し、自らの存在意義を示すという研究活動をしています。

私は開発のイニシアティブは「民」で進める必要があると考えています。現在、北海道には弁理士が10人程度しかいませんし、理系の弁理士にいたっては1人しかいません。事実上特許をとるのが厳しいといわざるを得ません。研究として完成していても、特許にするには時間がかかり、弁理士としても採算が採れないという問題があります。最短で2か月、最長では11か月でようやく特許申請の段階にたどりつくのが現状です。

研究開発の分野では、地域、国境は関係ありません。研究者はNature, Scienceなどの雑誌を視野に入れて研究開発しています。例えば帯広の山中に畜産研究所という所があり、そこではかなりハイテクな研究開発を行っています。しかし高い技術があっても、論文を発表するだけでは、知的創造サイクルが回りません。研究として完成していれば研究者は実用化にはあまり興味がないのです。しかし他者が評価できる特許にしなければ売れないし、ビジネスにつながりません。戦略的に特許を取得する必要があります。

日本だけで特許取得しても意味がありません。むしろ、海外にきちんと特許を申請する必要があります。しかし現在の仕組みでは外国出願経費が捻出できません。特許申請するだけの資金がなくなってしまうのが現状です。

白川博士の特許出願においては、かなり初期の段階から米国での特許出願が、ある企業によってなされていました。知的所有権のインフラ強化が必要です。

論文を発表してしまうとヨーロッパでは特許がとれなくなります。日本は6か月、アメリカは12か月の救済期間がありますが、戦略的な特許の取得が困難になってしまうのです。創造(発明)・権利設定(特許)・権利使用(収益)の知的創造サイクルがなければコストパフォーマンスが悪くなってしまいます。

産学官連携(TLO)事業は次のようなことを目指すべきです。1.研究成果に基づく特許を財産として活用する特許ライセンスビジネス、2.企業との共同研究のコーディネート、3.企業ニーズと大学などの研究とのマッチング。

そのためには次の三点の課題が考えられます。1.特許申請、特許取得手続き、外国出願経費など弁理士費用を含めた事業資金の調達(=会員制の限界)、2.サイエンスやハイテクエンジニアリングに詳しいスタッフの不足、3.サイエンスやハイテクエンジニアリングに詳しい戦略的特許を扱える弁理士の絶望的な不足。

若い博士号保持者が弁理士の資格をとれるように奨励していくべきです。地域に知的創造サイクルを根付かせるにはこのような人材をビルトインさせることが不可欠です。社会のインフラとしてどうしていけばいいのか、ジレンマを感じています。

今後、政策展開は中央のイニシアティブにたよらないで、地域自らのイニシアティブで中央との連携を図りながら自立化支援を図るべきです。具体的には1.特許関連経費の研究費内数化(0.5-1%)、2.内外国への特許ビジネスルートの開拓支援、知的財産取引市場の整備、3.地域に根ざしたビジネス・コーディネーターの育成、4.サイエンス、ハイテクエンジニアに詳しい弁理士、弁護士の増強、5.国内特許出願に代えて、PCT国際特許出願手続きの奨励(20-30万円費用を余計に支払っても当初から外国出願を奨励すべきです)、6.学術論文と特許出願とのリンケージ・システムの構築、7.産学連携促進のための規制緩和(大学のシステムとして評価、情報管理などの選任の人員を確保するべきです。単なるビジネス・コーディネーターとしてだけではなく、学問分野毎の棲み分けの橋渡しを行うサイエンス・コーディネーターが必要とされています)、8.TLO活動の評価と支援。営利事業としての自立化促進、9.その他地域の「知的創造サイクル」のインフラ整備、というような点が上げられます。

具体的事例としては、例えば三井物産と北海道経済産業局が計画中の「マリンコンビナート構想」が挙げられます。TLOを営利事業化すれば、ビジネスを展開させることができます。また、ビジネス化できてこそはじめて意味があるのではないでしょうか。

質疑応答

質問者A:

日本では原理をおさえた特許をとる必要がありますが、これを手助けできる弁理士がいません。特許構造の問題があるので、ある程度は研究者が書かなければなりません。特許法の問題もあるのではないでしょうか。

佐々木:

特許法という意味では日米、あまり違いはありません。それより、訴訟になったときに負けない特許を作るべきです。元来日本には「訴訟に負けない」という概念がありません。ナノテクでも、適切な特許申請できる弁理士がいないのです。

A:

日本では直接、弁護士に話しをしたほうがいいようですが。

佐々木:

研究者が直接手続きをするには限界があります。将来、訴訟になったらどうするかという視点を持っていないことが多いのです。若手の優秀な弁理士が増えてくればよいと思います。司法である程度、賠償額の相場を決める必要があります。すでに規範が出来始めています。100億円程度の賠償額の判例もでてきています。

相談者B:

TLOが取得した特許を他者にライセンスする場合、特定の第三者に限定する排他的実施権を与えるか、実施料さえ払えば広く認める非排他的とするか、どちらがよいのでしょうか。

佐々木:

排他的実施権を与えないとなかなか受け入れられないようです。

佐々木:

外国出願のための費用をいかに捻出するか問題です。TLOで支出できません。よい技術はあるのだが、うまく企業に売り込む必要があります。

質問者C:

弁理士を目指す講座などあるのですか?

佐々木:

東京には代ゼミなどがあります。地方にはそのような学校があまりありません。弁理士受験勉強のための本を購入し、佐々木ライブラリーを作ろうと思っています。仲間を募って支援できるシステム作るべきです。国際ライセンシング協会の中では紳士協定があり、その中だけで情報提供を行っています。国内ではそのような協会がないのです。

質問者D:

国際ライセンシング協会にでていく日本人は大企業の特許担当者なのですか?

佐々木:

そうです。

質問者E:

中小企業対策の一環として行ってはどうでしょう。

佐々木:

中小企業の研究者が大学に入って常に技術をソフィスティケートできるよう、大学の研究所に出入りできるようにすること、大企業、中堅企業と組んでマーケッティングのサポートを受けられるようにすること、この2点が必要でしょう。大学の使い方、大企業の使い方、この二つのバランスをとることが必要です。どうして大企業にはベンチャーを育てるという意識がないのか、義憤を感じています。

質問者F:

大学からでてくる発明や新技術を磨くことが必要だと思います。その場合、具体的に何が必要でしょうか。具体的にTLOの活動は?

佐々木:

そこまでいっていません。TLOにすべてさせるのも無理だと思います。ブローカー的なことを行ってビジネスにつなげるフィールドが必要です。商社などが行っていく可能性もあるのではないでしょうか。

質問者G:

コーディネーション、コンサルティング養成について伺います。例えば山形大学と地域なども非常に強い連携があります。かなり地域の連携はあるのではないでしょうか。

佐々木:

やっているのは事実です。その中から将来発展する段階になって、競合者がでてきたときにどうするのか、経済システムの中にリスク管理をビルドインする必要があると思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。