北陸AJEC・経済産業研究所・アジア経済研究所・福井県立大学 共同シンポジウム

北陸地方創生と国際化・イノベーション
~世界経済の成長をいかにして地域経済に取り込むか~(議事概要)

イベント概要

  • 日時:2017年11月30日(木)13:20-18:20
  • 会場:金沢ニューグランドホテル4F 金扇(金沢市南町4-1)
  • 主催:北陸環日本海経済交流促進協議会(北陸AJEC)、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所、福井県立大学
  • 後援:富山県、石川県、福井県、ジェトロ富山・金沢・福井貿易情報センター、北陸経済連合会

RIETI、ジェトロ・アジア経済研究所、福井県立大、北陸AJECは2015年から、「北陸地方創生と国際化・イノベーション」に関する共同研究を実施してきた。それによると、北陸の企業は地方の中でも国際化率が高いにもかかわらず、そのメリットが比較的享受されていないことが分かった。本シンポジウムでは、世界経済の成長を北陸経済に取り込むために、地方の現状と課題を明らかにした上で、国際化とイノベーションの推進に向けてとるべきアクションについて、多方面から探った。

議事概要

基調講演

基調講演で浜口伸明RIETIプログラムディレクターは、地域経済にとってグローバル化と人口減少は避けて通れないものであるとした上で、地方は革新を生み出すことと人口減を恐れないことが重要であると指摘。東京一極集中の要因は、移動費用の減少、日本全体の人口減少、そして経済がサービス中心になるという産業構造の変化の中で集積の経済の重要性が増していることであり、東京が勝者の戦略を取って、地方の戦略が悪かったというわけではなく、むしろ地方には革新の芽が豊富にあるとした。

また、北陸企業は、大都市であれば輸出企業であるはずのレベルの企業が輸出していない傾向にある一方、グローバル企業のサプライヤーとして間接輸出をしている企業の生産性が高いという分析を紹介。これからは国際化とイノベーションが鍵になることを強調した。

地方では18歳人口の流出が顕著であり、都市部も若者の流入が減って高齢化が一気に進むとみられる。日本は江戸後期にも人口停滞の時代があったが、それを乗り越えられたのは、藩が特産品奨励などで多様性のある経営を行った結果だという。このことからも、地方の安定的成長のためにはグローバル化と革新が重要であり、高齢化で1人当たりの時間が増え、人口減で1人当たりの資源も増えるので、地方は両者をうまく使って豊かに生活することが求められると結論づけた。

研究報告

研究報告では、本共同研究の成果の一端を4氏が紹介した。北陸AJECの白又秀治企画部長兼調査部長は、北陸の製造企業の国際化率が地方の中で高く、輸出額の伸びしろは大きいと分析。輸出が一部上位企業に集中していることに着目した「新々貿易理論」を取り上げ、企業の国際化には高い生産性が必要であり、生産性の高い企業が貿易を進めることでさらに利益を生んでいる状況にあると指摘した。その上で、北陸企業が成長を遂げるには国際化が不可欠であること、さらには、地方創生の観点から国際化は地域の雇用創出、所得水準の向上を達成する有効な手段であるとして、地域の国際化環境整備の重要性を説いた。その1つとして北陸港湾の利便性改善を挙げ、企業が輸出を開始するハードルを下げるとともに、既に輸出している企業にとっても生産性向上につながるとした。

ジェトロ・アジア経済研究所開発研究センターの後閑利隆氏は、産業集積による外部効果に焦点を当てて分析した。産業集積を進めることで、企業の全要素生産性が高められ、雇用者数や資本投入量に対してより多くの生産が可能となる。北陸企業の外部効果を調べた結果、ある企業について、同じ県、同じ産業に属する他社の雇用者数が増えると、その企業の全要素生産性は上昇することが分かり、その影響は輸出企業において顕著であることを紹介した。ただ、産業集積は、規模が成長しても、外部効果の増加は小さい状況にあり、自律的な成長経路にあるとはいえないと指摘した。

佐賀大学経済学部の亀山嘉大教授は、1990年代以降、知識創造型の先進国と大量生産型の途上国という二項対立が崩壊した影響で、先進国の地方都市は知識創造型の生産活動に苦戦していると指摘。経済の成熟期を迎えた今、新技術の産業化は当たり前となり、大企業を核とした系列取引も限界を迎えており、今後は産学官連携を推進し、技術・製品開発を図ることが必要と述べた。そのようにして固有技術の領域を拡大し、イノベーションを起こして、新たな販路開拓や売り上げ向上に結び付けることを課題に挙げ、そのためには地域の実態に合わせたマーケティング支援が重要であると説いた。

ジェトロ・アジア経済研究所開発研究センターの熊谷聡グループ長は、北陸地域の輸出インフラが整っていないという観点から、北陸港湾の利便性改善について分析した。北陸3県相互の北陸3港湾(伏木富山、金沢、敦賀)の利用率が極めて低いことを指摘し、3港湾が一体的に運用され、利便性が改善されれば、メリットは大きいことをシミュレーションから導いた。とくに、ハブ港湾の釜山と、欧州・ロシア・中国北部とのパイプを持つウラジオストクの航路における経済効果が大きいとし、日本全体への波及効果も大きいので、国策として利便性改善を推進する合理性があると主張した。

進行役を務めた浜口氏は、グローバル化は単に輸出を増やすだけでなく、サプライチェーンをより効率的に使えることによって生産性を向上させ、企業や消費者がメリットを享受する効果もあるので、双方の視点からの取り組みが必要であると締めくくった。

ディスカッション

パネルディスカッションでは、北陸企業の中でも先進的に国際展開を図っている3社が登壇し、丸屋豊二郎福井県立大名誉教授・北陸AJEC理事の進行で、それぞれの取り組みを紹介した。

YKKの井上孝副社長・黒部事業所長は、ファスニング市場におけるさらなる量的成長を目指して、ファストファッションに代表されるスタンダード向けの商品づくりを強化していることを紹介した。YKKでは、そのための施策として商品開発力や生産技術力の強化を進め、グローバルバイヤーのみならず、量販店の受注獲得に向けたリソース投入に注力している。これまでは日本から技術者が世界各地に赴任していたが、今後は各海外拠点の技術者人材を「技術の総本山」である黒部事業所で育成し、世界の顧客要望に対応した「One to One開発」の強化を図ることを強調。YKKの重点施策は、黒部市の総合戦略とも共通しており、実現に向けて地域との連携を強化していきたいと語った。

津田駒工業の山田茂生取締役は、繊維機械業界における競争軸として鍵となるのは生産性であり、それを支えるためにコンポジット機械(炭素繊維複合素材加工機)をはじめとする新素材に対する取り組みを加速していることを紹介した。もう1つの競争軸として、世界で納入される織機の4割を占めるようになったレピアルームを挙げ、今後はこの分野を攻略して汎用性を高めていくために、イノベーションが重要であることを強調した。また、産官の連携でスマートファクトリーの取り組みを進めるとともに、新素材開発や航空機部品など新分野にも手を伸ばしており、積極的なR&Dを進めていきたいと意欲を語った。

日華化学の稲継崇宏執行役員は、新興国の経済成長と高付加価値化粧品市場の拡大が海外における成長の鍵になると考えており、そのため中期経営計画には、アジアを中心としたさらなるグローバルネットワークの強化と、オープンイノベーションの推進を大目標として掲げていることを紹介。オープンイノベーションの取り組みとしては今年11月、「NICCAイノベーションセンター」を開所し、「製品を売るにあらずして技術を売る」をモットーに、産官学連携をさらに推進し、世界中のビジネスパートナーとの距離を縮めながら、新しい価値の創造を目指していると語った。

生産性向上については、井上氏は設備総合効率や受注の内容も分析する必要性を指摘。稲継氏は工場の近代化・省力化、IT技術の導入を図っていきたいとし、山田氏はスマート化によって生産効率をどれだけ上げるかという目標値を明確にしながら全社で取り組んでいきたいと述べた。