国際ワークショップ

地理空間、企業間ネットワークと国際貿易(開催報告)

イベント概要

  • 日時:2016年3月7日(月)、8日(火)
  • 会場:RIETI国際セミナー室(東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)

RIETIにおいて、プロジェクト「組織間の経済活動における地理的空間ネットワークと波及効果」(リーダー:齊藤有希子上席研究員)のワークショップ「地理空間、企業間ネットワークと国際貿易」が2016年3月7日と8日に行われた。近年、活発に進められている企業間ネットワークの分析を中心に、海外からの招待研究者4名の研究に加え、合計9本の論文が発表された。

コータム氏の論文では、企業間の貿易における売り手と買い手のマッチングを考慮に入れた一般均衡モデルを構築し、定量的分析を行った。これまでの集計レベルのデータによる観察事実に加えて、企業レベルのデータによる観察事実とも整合的なモデルの構築が行われた。企業が生産に必要なタスクを遂行するにあたり、労働者を雇うか、あるいは他企業から購入するかを選択され、売り手と買い手がランダムにマッチングされるモデルを用いて数値的にシミュレーションを行い、売り手から見た平均的な買い手の数、買い手から見た売り手の平均的な数などミクロ的側面とGDPや賃金などのマクロ的側面について定量的に示した。

バーナード氏の論文では、企業間の貿易において、買い手と売り手がどのようにマッチングされるのか、ノルウェーのデータを用いて新たな事実を示し、これらと整合的な多国間一般均衡モデルを構築した。モデルから、1)買い手の生産性の散らばりが小さいほど、変動する貿易コストに対する企業レベルでの貿易弾力性が大きくなること、2)買い手の限界費用が市場へのアクセス性に反比例することが示され、これらの予測を検証した。売り手の異質性とともに、買い手の異質性を考慮することの重要性に加え、買い手にとって、売り手の外延が限界費用や生産性にとって重要であることが示された。

ディークル氏の論文では、2011年の東日本大震災のショックの日本の各地域への波及について、地域間の経済的近接性に着目し、時空間拡散モデルによるシミュレーション分析を行った。地域間の経済的近接性の指標として、産業構造の類似性、産業連関表による関係性、地域の地理的近接性を用いて各地域へのショックの影響を分析した。産業ごとの分析結果に加え、集計レベルの鉱工業指数への影響も分析した結果、マクロ指数への影響は震災の六カ月後が最も大きかったこと、中部地方への波及が最も大きかったことが分かった。取引とマクロの関係への示唆を得た。

カリエンド氏の論文では、動学的な一般均衡モデルを構築し、マクロの貿易ショックが地域や産業により異なる効果を持つことをカリブレーションにより示した。Eaton and Kortum (2002)を応用し、労働者の地域・産業間の移動を内生化したほか、産業連関、地域間貿易も考慮にいれたモデルを用いて、中国の急成長による輸入増加のショックの影響を、雇用量と厚生の変化について定量化した。新しい手法では、均衡条件を時系列による比に落とすことで、従来の手法では必要だったファンダメンタルズの推計をせずに定量的結果を示すことが可能であり、38の国、米国の50の地域、22の産業レベルの分析をした。

これらの海外からの招待研究者の発表に加え、5本の論文が発表された。
古沢氏論文では、オフショアリングが国内の生産ネットワークに与える影響について、商品の代替性の注目し、理論の構築と日本の企業間取引データを用いた実証的な分析を行った。
齊藤論文では、企業間ネットワークを決める要因、ネットワーク構築が企業パフォーマンスに与える影響について、理論の構築と日本の企業間取引データを用いた実証分析を行った。
大野氏論文では、卸売企業を介して輸出を行っているとされる間接輸出企業の特徴について、モデルから推測されるソーティング、固定費用、マージナル費用を実証的に確認した。
小倉氏論文では、銀行融資における金利設定行動のモデルを構築し、企業間取引ネットワークを通じた波及効果を考慮した金利設定を実証的に確認した。
近藤氏論文では、特許データを用いて、大卒者の地域間移動により知識の多様性が維持・促進され、イノベーションの質が向上していることを実証的に確かめた。