第12回RIETIハイライトセミナー

技術革新、新陳代謝、グローバル化により日本経済を活性化する-エコノミスト賞受賞者が語る (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2015年6月19日(金)14:00-16:00
  • 会場:RIETI国際セミナー室 (東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)

議事概要

日本経済の活性化に向けては、技術革新、企業の新陳代謝、グローバル化が大きな課題である。本セミナーでは、第55回エコノミスト賞を受賞した冨浦英一氏、後藤康雄氏を迎え、活性化へのカギについてお話しいただいた。冨浦氏は、海外へのアウトソーシングが日本企業に大きなプレミアムをもたらすとし、後藤氏は、中小企業に対しては保護的政策ではなく活力を生かす政策を取ることが必要であると説いた。ディスカッションでは、日本企業は国際競争におけるポテンシャルが大きいものの、海外直接投資をしているのは少数であることが指摘され、新陳代謝やグローバル化を加速するには、後藤氏は特に金融面で産業界の柔軟性を高めること、冨浦氏は企業や国の垣根を越えて仕事ができる人材の育成が重要だと語った。

理事長挨拶

中島 厚志 (RIETI理事長)

本セミナーは、タイムリーな経済課題について、RIETIでの研究成果を含め、幅広い分野を横断的に俯瞰するという趣旨で開始したものである。今回のテーマとなっている技術革新、中小企業を含む企業の新陳代謝、グローバル化は、いずれも日本経済の大きな課題である。

今回お迎えした冨浦氏と後藤氏はいずれも、経済論壇における芥川賞とも評され、多くの著名な研究者を輩出している第55回エコノミスト賞の受賞者である。

冨浦氏からは、著書『アウトソーシングの国際経済学―グローバル貿易の変貌と日本企業のミクロ・データ分析―』で述べられているポイントと、企業活動のグローバル化と日本経済の現状と展望について講演を頂く。また、後藤氏からは、著書『中小企業のマクロパフォーマンス―日本経済への寄与度を解明する―』のポイントと、日本経済や中小企業について講演を頂く。その後、日本経済が抱える課題や活性化の方策といったテーマについてディスカッションいただき、質疑応答で議論を深めたい。

講演1「グローバル化に関する論点」

冨浦 英一 (RIETIファカルティフェロー / 横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授)

1. 『アウトソーシングの国際経済学』のポイント

本著ではアウトソーシング、特に海外から業務や中間財を調達する企業行動について、国際経済学で最近発達しつつある新しい理論によって提供されるさまざまな仮説を、日本企業のミクロ・データを使って検証する作業が中心になっている。また、国際経済学の最近の展開や展望、各理論・仮説の持つ意味についても議論を展開している。

日本経済は、海外への依存度を高める一方で、交易条件は悪化している。国際競争はサービスなどの分野にも及んでいるが、グローバル展開している日本企業はごく一部である。今後、日本企業が活性化していくためには、海外の人材をも取り込んだグローバル展開が重要になる。

2. 最近の日本経済の動向

日本の貿易規模は、過去50年以上にわたり拡大を続けてきた。ただ、対名目GDPで見た貿易依存度は、高度成長期には非常に低かったが、石油ショックなどでいったん上昇し、1980年代後半から再び低下している。今世紀に入ってからは、日本経済全体が伸び悩む中、貿易だけが伸び、海外への依存度を高めている。また、1985年のプラザ合意以降の30年は、海外生産比率が高まり続け、貿易と直接投資の両面で国際化が大きく進んだ。そんな中、日本の交易条件は90年代後半からずるずると悪化している。最近の国際収支統計では貿易収支とサービス収支がともに赤字で、かろうじて投資収益が黒字を保っている状況であり、日本の国際収支構造は急速に変化しているといえる。

3. 海外アウトソーシングの変化

2000年問題が起こり、ソフトウエアのプログラミングなどを米国企業がインド企業に大量に発注した頃から、サービス的業務を海外サプライヤーから直接調達する動きが活発化した。Alan Blinder氏が示した各職種の海外アウトソーシングの可能性(Offshorability)を見ても、かなりの職種で高いことが分かる。しかも、途上国の低賃金の労働力と競合する単純労働の職種だけでなく、高度な職種も国際競争にさらされていることは注目すべきである。また、海外へアウトソーシングできる職種とロボットや人工知能(AI)で置き換えられる職種にはある程度共通性があることにも注意が必要である。

また、日本は中間投入に占める海外調達の割合が低い。つまり、安くて利用可能な海外の中間財を十分活用していない。輸出については、輸出される財に体化された業務量を試算してみると、製造業務が激減し、逆に財務・管理・社会的業務が増加していることから、日本の比較優位がそういった分野に変化していることが分かる。国際展開している日本企業はごく一部であるが、売上高や従業者数、資本集約度などのあらゆる指標において国際化プレミアムは大きい。

4. 今後の展望

人口趨勢を見ても、日本企業にとって海外の比重は今後も増大し、国際競争は社内業務を含めたサービスにまで及んでいくだろう。海外アウトソーシングは日本企業に大きなプレミアムをもたらすが、複雑な国際協業においては、制度的な安定性や透明性も環境要件として重要になる。

講演2「日本経済と中小企業―マクロ的視点から―」

後藤 康雄 (RIETI上席研究員)

1. 『中小企業のマクロパフォーマンス』のポイント

本著においては、中小企業は日本経済において大きなウエイトを占めることや、日本経済の長期停滞には中小企業の生産性(技術革新)の伸び悩みが大きく影響したことを指摘した。また、長く続いた中小企業の保護・支援策は、バランスシート調整(債務返済)の重しを与え、新陳代謝を阻害し、活力をそぐという負の側面を持った可能性がある。今後は、円滑な退出と活発な起業による新陳代謝の促進が重要になってくる。

2. 経済成長と中小企業

中小企業は日本企業の99.7%を占め、就業者数の7割近くが中小企業に属している。ただし、中小企業のウエイトは経済活動の分野によって異なってくる面もある。人件費や付加価値額などで40%以上とかなり高い一方、技術革新につながるイノベーション関連の指標でみると3%程度にすぎない。また、企業の生産性は「失われた20年」において、製造業の大企業で非常に伸びた一方、非製造業の中小企業が足を引っ張る形となった。

経済成長の3要素は、労働、資本、生産性(TFP)である。現状の日本経済において、労働力を増やすのは容易ではなく、設備もストックの蓄積が進んでいるので、一番期待がかかるのはTFPの向上である。日本経済が今後成長するには、特に非製造業を中心とする中小企業の生産性を向上させることが極めて重要であるといえる。

3. 中小企業のファイナンス

非製造業の中小企業の活力をそいだ大きな要因の1つは、長らく続いた中小企業に対する保護的政策と考えられる。中でも私が注目しているのは金融的支援、すなわち資金繰りの支援である。日本経済全体との兼ね合いで議論するために、ISバランス(貯蓄投資差額)について考えてみたい。ISバランスは、資金過不足(債権増加-債務増加)の値と概念的に一致する。

企業は、貯蓄よりも投資の方が多くて当たり前といえるが、1990年代半ば以降のISバランスを見ると、投資よりも貯蓄の方が多い状態になっている。近年も続くこの貯蓄超過、あるいは投資不足の多くは中小企業によるものである。バブル崩壊後、大企業部門では金融支援により債権放棄を行って不良債権処理をしたケースが多かったが、中小企業に対しては負債を維持しやすくする政策が取られた。そのため、中小企業は長期にわたり負債の返済を続けることになり、利益が出てもなかなか前向きな設備投資に回しにくい構図にあった。

また、既存の企業が温存されたことが、新規企業の参入障壁になった可能性が高い。このような中小企業向けの政策は、短期的には必要なものだったと考えられるが、出口への道筋が明確でなかったために、潜在的に中小企業の活力をそぐという大きな副作用を伴ったのではないか。私は中小企業が本来持っている活力を信頼しているので、長い目で見れば、その活力を生かすような政策に徐々に転じていくべきであると考えている。

パネルディスカッション

日本企業の海外展開を進めるには

中島: 両先生のご講演内容について質問させていただく。まず冨浦先生に、海外アウトソーシングのプレミアムは大きく、近年ますますグローバルバリューチェーンも構築されている割に、日本企業の国際展開が少ないのはなぜか。また、諸外国の状況はどうか。

冨浦: 海外への直接投資により子会社や関連会社をネットワーク化して取引を活発化させることと、資本関係のない法人へのアウトソーシングが得意であることは別であり、ここに日本企業のギャップがあるのかもしれない。ただ、ごく一部の企業が国際展開し、その中でも輸出より海外直接投資が少ない状況は国際的に共通している。諸外国のアウトソーシングについては、調査がフランスやスペインなど一部の国に限られるが、日本と同様に海外直接投資よりは多い傾向である。

中島: 日本企業がアウトソーシングや海外展開をさらに進めるには、どのような制度や企業努力が必要と考えられるか。

冨浦: 良質な制度を有する国の方が、取引関係の複雑な産業に比較優位がある。アウトソーシングの場合、とりわけ制度(司法、警察、法の執行など)の安定性が比較優位に影響を与える。日本企業としては、社内でどのように業務を遂行しているかをサプライヤーに標準化して示す能力が必要になる。国が定めている法制度だけでなく、企業レベルの対応も欠かせない。

日本の中小企業政策

中島: 次に、後藤さんに伺いたい。市場経済メカニズムをより効果的に機能させることで経済活性化を目指す政策と、中小企業向けの社会政策的な対応策は、効果を打ち消し合っているのではないか。

後藤: そのとおりである。規制緩和や技術革新は成果が出るまでに時間がかかる。他方で、資金繰りの支援は非常に即効性があるが、負の側面が強い。これが、日本経済が停滞に陥った一因を形成したといえる。

中小企業政策は世界的に見て、既存企業への保護的支援と、起業促進あるいはベンチャー企業支援という異質のものが二本立てになっている。主な先進国として、米国は業種や企業規模ごとに非常にきめ細やかな対策を取り、欧州ではイノベーション促進の色彩が強くなっている。日本はそのどちらでもなく、中小企業全体に対して一律の政策を取り、イノベーションよりも既存企業の保護に軸足を置く傾向にある。

技術革新、新陳代謝、グローバル化を促進するには

中島: ここからは、日本経済の課題についての両先生の見方を伺いたい。まず、日本企業の技術革新、新陳代謝、グローバル化の潜在力、すなわち国際競争力をどう評価するか。

冨浦: ある一定規模以下の中小企業で、海外直接投資を行っている企業はごく少数である。従来からいわれている中小企業の国際化は、今後も重要なテーマであると思う。

後藤: 日本のポテンシャルは大いにある。グローバル化が進展する中で、日本の企業や国民には、国際的にみると特定の国家・国民と大きく対立する要素が比較的少ないといえる。また、技術革新に関しても相当なアドバンテージを持っている。

中島: 日本企業の新陳代謝やグローバル化を加速するにはどうすればよいか。

後藤: 産業界の流動性(柔軟性)を高めることが重要である。そのためには、中小企業が資本市場から資金調達をしやすくするような金融面の対応が有効である。

冨浦: 社内業務を汎用的な概念で日本人以外に説明できる能力、企業や国の垣根を越えて仕事をこなせる能力を持つ人材の育成が重要である。

人材面における対応

中島: 人材の問題については、そもそも教育制度自体から練っていく必要があると思うが、日本企業の労働面の限界のようなものが大きく出ているのか。

冨浦: 汎用的スキルを持つ人材を育成するための標準的な教育方法が世界的に確立していないのが、人材育成政策の大きな課題である。労働市場が技術革新と国際競争にさらされ、海外へのアウトソースによって国内に残る業務が、非常に高度な技能が必要な業務と、低賃金の単純な業務の両極に分かれつつある。先進国では、コンサルタントやサービス、介護などについては労働需要が増えているが、製造業の工場労働者は減っている。今後どのような人材を育成していくか、国として考えていかなければならない。

中島: 中小企業は人材面の対応力がますます限られるが、今後できることはあるか。

後藤: 1つは、中小企業にイノベーションの担い手となる優秀な人材を導く道をつくることである。もう1つは、小中学校教育の段階から「中小企業は弱者」とすり込むようなことをするのではなく、中小企業の魅力的な面にスポットを当てて夢を持たせることである。

中島: 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)により、日本経済あるいは企業のグローバル化は大きく進むとみていいか。

冨浦: TPPによって制度の質が高まり、安定的に取引ができる経済圏になれば、非常に大きなメリットが出てくるし、日本企業がアジアで展開する場合にも大きなプラスとなる。

中島: 新陳代謝の点でいうと、日本における企業の参入と退出は企業数全体の4%台だが、アベノミクスでは欧米主要国並みの10%前後を目指している。これをどう評価するか。

後藤: 違和感のない数字であり、私としては評価する。新陳代謝により日本経済全体が成長すれば、さらなる起業のインセンティブとなり、好循環に入る。ただ、退出する者に対するセーフティネットの整備は忘れてはならない。

Q&A

Q1: シリコンバレーでイノベーターが数多く輩出されているのは、そのための環境が整っているからである。一方、日本人は非常にクリエイティブな国民であり、欧米の人材と比較して劣っていないにもかかわらず、日本ではなかなかイノベーターが出てこない。これは環境整備が決定的に足りないからだと思うが、失敗を許す社会になることも必要と感じる。今後どうすれば若いイノベーターが増えていくだろうか。

後藤: 画期的な妙案はないが、新興株式市場をもっと使いやすくしたり、ファンドなど資金の出し手を育成したりすることが必要だろう。ただ、経済は上向いているので、参入のモチベーションが高まりやすく、市場にお金が潤沢なことを鑑みると、素地はかなり整ってきていると思う。あとは太っ腹に大胆なリスクテイクするファンドが出現すれば、よい循環に入る可能性がある。

また、シリコンバレーを中心とした米国のベンチャー的カルチャーでは、10回失敗しても立ち直ってベンチャー企業を起こす人も珍しくないと聞く。日本でもそのぐらい懐が深く、長期的視野に立って投資するファンドをつくっていけば、1つのブレークスルーになるのではないか。

冨浦: 日本国内で起業を増やすだけでなく、日本企業がコラボレーションして、米国や中国など起業が盛んな国からイノベーティブな活力をうまく取り入れることが、間接的な1つの対応になるだろう。

中島: グローバル化している企業の方が生産性が高く、イノベーション力がある。国内で働く外国人の高度人材をどのように増やすかということも1つの課題である。

Q2: 各経済活動に占めるウエイトのボリューム指標に「人材育成費」を入れることは非常に有効である。中小企業でもOBやシニアの活用など、できることはたくさんある。それが今後数年の大変重要なポイントになるのではないか。

後藤: 重要な論点であることに異論はない。ただ、その重要性が高まったのはここ最近のことでもない。もともと大企業の方が中小企業よりも人材育成にコストを掛けており、その差が一段と開いていることが深く静かな形で日本の中小企業の体力をそぐ一因となっているように思う。ここに政策を手当てする余地があるかもしれない。