経済産業研究所・慶應義塾大学産業研究所合同ワークショップ

日本企業の生産性をめぐる現状と課題 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2014年10月3日(金)
  • 会場:経済産業研究所 経済産業省別館11F 1119会議室

議事録(開催報告)

第1セッション

第1報告 "Does export enhance price, product quality and markup?: Evidence from Japanese plant-product-level data"

松浦 寿幸 (慶應義塾大学)

国際貿易において、輸出企業の生産性と並んで、企業レベルの製品品質の違いが近年注目を集めている。多くの先行研究では品質の指標として、単価やISO9000の取得状況などが用いられているが、本研究では、Kandelwal (2010, RES)、ならびにSmeets, Traiberman and Warzynski (2014, Working Paper)に倣って、工業統計・品目編の個票データを用い、Berryタイプの需要関数を計測し、工場・品目レベルの製品品質指標を構築し、企業の輸出行動との関係を分析するものである。分析の結果、輸出事業所が高質な財を生産していることが明らかとなった。

参加者からのコメント・意見
  • 国内と海外の需要関数が同一と仮定されているということは、「ガラパゴス化」のような現象は説明できないのではないか。
  • マークアップの変動に関して、需要側の要因だけでなく生産者側の要因を考慮することはできるか。
  • 事業所が輸出を行っていることはわかるが、どの財を輸出しているかまではわからない。他の財を輸出していても、輸出をしていない財の価格や品質が上昇することが含まれているため、慎重な解釈が必要ではないか。
  • 回帰分析の係数の大小に経済的な意味付けを与えることはできるか。
  • ここで言う品質の変動は市場の拡大の影響を受けてしまうのではないか。
  • この分析の結果から得られる政策的なインプリケーションは何か。
  • 相関係数で品質と価格が負の相関を持っていることはどのように理解すればよいか。

    第2報告 "Export-Platform Foreign Direct Investment: The Impact of Japan-Mexico Economic Partnership Agreement"

    近藤 恵介 (RIETI研究員)

    本研究では、1994年に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効後の日系現地法人の生産ネットワークを分析する。NAFTA第303条に伴うメキシコにおけるマキラドーラ制度の廃止や原産地規則によって、メキシコ日系現地法人は大きな対応を求められることになった。本研究では、日系現地法人の個票データを利用し、どこから中間財を調達しどこへ最終財を販売しているのかに着目する。本研究の結果、メキシコの日系現地法人は日本からの中間財輸入よりは、北米(米・加)との生産ネットワークにより比重を大きくしつつあることが明らかになった。

    参加者からのコメント・意見
    • 企業は実際にFTAを活用しているとは限らないので企業(あるいは海外子会社)のheterogeneityを考慮した方がよいのではないか。ASEANの例だが、JETRO-アジア経済研究所の早川氏や早稲田大学の浦田先生はFTAの利用が少ないことを指摘していた。
    • 分析の結果で海外子会社の従業員規模が現地売上比率にマイナスで北米への売上比率にプラスに影響しているのはどのように解釈すればよいか。
    • 従属変数はなぜ金額ではなく比率なのか。
    • 従属変数の多くがゼロの値を取っているということはないか。
    • メキシコに対する輸出と直接投資が同時に上昇しているのはなぜか。
    • NAFTA以降に進出した企業とそれ以前に進出した企業の違いに注目してはどうか。
    • NAFTAの影響を考慮するため、関税率を考慮してはどうか。
    • モデルとの関連性をもう少し考えてみてはどうか。たとえばKiyota, Matsuura, Urata, and Wei (2008, WD)の費用関数を推定するアプローチが参考になるかもしれない。
    • Local Contents RequirementとRules of Originの違いを混同している説明箇所があるので注意した方がよい。
    • 日墨EPAの影響の識別はどのような方法で行っているのか。
    • 地域別シェアの推定結果で係数の和がゼロになるように符号が調整されているように見えるのは偶然か必然か。
    • 第3国輸出の北米以外のその他の地域(アジアやEUなど)は考えていないのか。

      第2セッション

      第3報告 "The Impact of Foreign Firms on Industrial Productivity: A Bayesian Model Averaging Approach"

      田中 清泰 (日本貿易振興機構アジア経済研究所)

      本研究は、経済産業省「外資系企業動向調査」および東洋経済新報社「外資系企業総覧」の個票データを用いて、在日外資系企業の活動が産業生産性に与える効果を検証している。外資の活動が産業内・間や地域内・間の多様な経路で産業生産性に影響する可能性をBayesian Model Averagingの手法により推定した。主要な結果は次の2点にまとめられる。第1に、外資企業自体の比較的高い生産性と近距離の川上産業へのスピルオーバー効果で、産業生産性を高める可能性があることである。一方、他地域の川上産業や近距離の川下産業に対しては産業生産性を減少させる可能性があることである。

      参加者からのコメント・意見
      • 産業や都道府県の外資系企業の分布図を付けてもらうと分析対象となる企業のイメージがわくのではないか。
      • 物理的な距離ではなく、企業レベルでの取引関係の有無が重要ではないか。
      • 最近のliteratureを押さえて、competition effectとvertical linkage effectの識別をすべきではないか。
      • 地域の定義は本社ではなく事業所で捉えるべきではないか。
      • スピルオーバーは同時点で見るべきか。
      • 経済全体への影響は分析できるか。係数や限界効果を見ると、マイナスが大きく見える。
      • 従属変数は国内と外資系企業のアウトプット(付加価値)の両方が含まれているのではないか。
      • コントロール変数として1人当たり所得を含めているのはなぜか。
      • 大企業が本社を移転する場合、実質的な活動が同じでも、影響が出てしまうのではないか。
      • スピルオーバーの効果は産業別で異なるのではないか。
      • 空間計量経済学では、距離の効果にウェイト付けするのが一般的となっている。そのような手法を取り入れてはどうか。
      • 日本の外資系企業のスピルオーバーに関する研究は伊藤(2013,経済分析)や岩崎(2013,日銀WP)がある。これらの研究には触れた方がよいのではないか。

        第4報告 "Misallocation and Establishment Dynamics"

        細野 薫 (学習院大学)・滝澤 美帆 (東洋大学)

        本論文では、日本の工業統計に含まれる事業所レベルのデータを用い、事業所レベルの「歪み」(限界収益と限界費用にかい離)を計測するとともに、その影響と原因を分析した。この結果、仮に日本の製造業が米国同様の配分効率性を実現できれば、集計された全要素生産性は、6.2%上昇すること、「歪み」は事業所の規模分布、参入・退出、全要素生産性上昇率に有意な影響を及ぼしていること、および、金融市場の摩擦と労働者の高齢化は、「歪み」の要因となっていることを見出した。

        参加者からのコメント・意見
        • コブ=ダグラス型生産関数の係数は日本のデータを利用されているとのことだが、Hsieh and Klenow (2009, QJE)との比較を行うなら、米国のシェアを利用する手もあるかもしれない。
        • 代替の弾力性はBroda and Weinstein (2006, QJE)を参考にしているが、彼らの分析は輸入品ではないか。
        • Actual TFPとefficient TFPの分布を見る限りではほとんど同じに見えるが、両者に統計的に有意な差は見られるか。
        • 2008年のTFPGAPの上昇にはどのような理由が考えられるのか。
        • 分析期間は1980-2008だが、輸出事業所かどうかを特定できるのは2001年以降ではないか。
        • Entry/Exitの回帰式のTFPRはdistortionだけでなく要素価格も賃金(や弾力性の違い)も反映しているのではないか。
        • 回帰分析の歪みの影響はlog(1+tau)で捉えられているが、これは大きければ歪みが大きく小さければ歪みが小さいと言う解釈になるのか。歪みは1と離れているかどうかが問題ではないか。
        • 代替の弾力性の違いで結果は大きく変わるのか。
        • External finance dependenceはどのように捉えられているのか。

          第3セッション

          第5報告 "Access to Export Markets and Firm Performance: Do Transaction Partners Matter?"

          細野 薫 (学習院大学)・宮川 大介 (日本大学)・滝澤 美帆 (東洋大学)

          企業活動基本調査を用いて、輸出開始前後の企業パフォーマンス変化を分析した。この際、関係会社への輸出の有無、取引金融機関の破綻といった、取引先の要因を考慮した分析も行った。主要な結果は大きく次の3点にまとめられる。第1に、輸出を開始した企業が、輸出後にTFPや賃金の改善を経験していることである。第2に、関係会社以外の企業へ輸出を行っている場合において、こうした傾向がより強まることである。そして第3に、輸出後に取引金融機関が破綻した場合において、こうした傾向が弱まることである。これらの結果は、輸出前後における企業パフォーマンス変化を生み出すメカニズムへ取引相手が重要な影響を及ぼす可能性を示唆している。

          参加者からのコメント・意見
          • 関係会社との取引を見るということは、直接投資を行っている企業とそうでない企業の比較を行っていることか。 - 仮説とメカニズムについてもう少し説明が欲しい。
          • 企業内貿易とそれ以外の貿易を並列的に扱ってもよいか。
          • Transaction partnerという表現より、関係会社の取引の集中度(intensity)と言う方が誤解を生まないかもしれない。
          • 輸出をした後に関係会社を設立するということは考慮されているか。
          • 実際に銀行の破綻はどのくらい起こっているのか。
          • 銀行の破綻の定義は。合併のケースはどのように扱われているのか。
          • 輸出地域によってlearningの効果は違うのではないか。
          • なぜ輸出はTFPと賃金に正の影響を及ぼしているのに、労働生産性には正の影響を及ぼしていないのか。
          • 銀行の海外支店が撤退している場合はどのように処理されているのか。
          • Propensity Score Matchingは第一段階の推定結果に依存するため、第一段階のコントロール変数を増やすなど、もう少し検討の余地があるのではないか。
          • 長い期間を分析しているので、輸出をしているかどうかというstatusの変化の影響が気になる。ロバストネス・チェックとして短い期間で分析してみてはどうか。
          • 輸出と生産性の研究に関する最近のサーベイにHayakawa, Machikita, and Kimura (2012, JES)がある。また、日本企業について、輸出企業の方が生産性の成長が早いということはKimura and Kiyota (2006, RWE)が、輸出をしているほど直接投資をしやすいということはKiyota and Urata (2012, JWE)が確認している。

            第6報告 "Export Duration: How to Foster Always Exporters?"

            伊藤 恵子 (専修大学)・乾 友彦 (RIETIファカルティフェロー / 学習院大学)・宮川 大介 (日本大学)

            「企業活動基本調査」を用いて、輸出市場における企業の生存確率を決定する要因を分析した。主要な結果は大きく次の3点にまとめられる。第1に、研究開発へ積極的に取り組んでおり、金融面での制約が小さく、海外市場に関する知見を蓄積している企業ほど輸出市場における生存確率が高いことである。第2に、輸出市場における生存確率は、関係会社への輸出割合と概ね負の相関を有していることである。そして第3に、海外市場関連情報のアベイラビリティが生存確率の向上に寄与していることである。これらの結果は、海外市場での経験を通じて「輸出による学習」を実現するために、海外市場での幅広い顧客層の確立を含むいくつかの重要な要因が存在することを示唆している。

            参加者からのコメント・意見
            • 関係会社への輸出の方が(関係会社ではない会社への輸出と比べて)固定費用は低いのではないか。輸出のdurationは短くなるのではないか。
            • 輸出のstatusを頻繁に変更している企業はどのように扱われているのか。
            • Exporterとimporterのmatchingに関する研究がITAMの手島氏らの研究で行われており、今回の研究に参考になるかもしれない。
            • 情報チャネルはどのように解釈すればよいか。需要側(輸入側)の情報収集と関連しているのではないか。
            • 産業要因はどのようにコントロールしているのか。たとえば、取引慣行は産業(取引される財)によって異なるのではないか。
            • 輸出地域別のハザードの推定は行われているか。
            • Related firmとのtradeについては、intra-firm tradeのliteratureと関連させてはどうか。最近の研究にBernard, Jensen, Redding, and Schott (2010, AER)がある。
            • 結局、輸出の期間は輸出の固定費用と関連しているのではないか。
            • 今回の分析の結果と企業が輸出をやめるという意思決定の関係をもう少し明確に説明できないか。
            • 生産性の系列相関を考慮してはどうか。
            • 為替レートの影響は考慮する必要はないか。