第9回RIETIハイライトセミナー

新たな成長戦略―地域活性化と攻めの農業 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2014年9月5日(金)16:00-18:00
  • 会場:RIETI国際セミナー室 (東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)

議事概要

講演1 地域活性化について考える

浜口 伸明 (RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー/神戸大学経済経営研究所教授)

1. 地域活性化の必要性

イギリスの経済学者カルドアは、30年以上前に「都市が過剰集積になると地方に経済活動を誘致する政策が必要となるが、その際には投資補助ではなく賃金補助で分散させるべきである。頑張る地域は補助を多くしてよい」と言っている。

日本では、これまで何度も地域分散化政策を行ってきている。戦前は、空襲等のリスクに備えて軍需物資と生活必需品を地方に分散させた。それが現在の地方工業都市の発展基盤になっている。70年代、80年代は、特に東京地域における公害や混雑緩和のために、再配置やテクノポリス等の産業政策が打たれた。これにより、ある程度は資源集約的産業や加工組立型産業が地方に分散した。しかし、90年代にバブルの影響で地価高騰の問題が生じたときには、東京周辺のサテライト都市への一部機能の移転にとどまった。

現在は、都市への過剰集積が少子化を招いているのではないかとの問題意識が高まっている。その中で注目を浴びているのが日本創成会議の「ストップ少子化・地方元気戦略」(増田レポート)で、地方は単に人口減少にとどまらず、人口再生産力そのものを大都市に大幅に流出させていると述べている。東京は、今は地方から人を吸収して子ども人口も維持できているが、近い将来それができなくなり、高齢化が急速に進むと予測している。

2. 今、重要な決断を迫られている

少子化が一極集中の弊害であるとすれば、都市における子育て支援やワークライフバランスの変化が必要であると同時に、東京一極集中に歯止めを掛け、人の流れを変える必要がある。そして、若者に魅力のある地域拠点都市をつくり、地域資源を有効に使って選択と集中を図らなければならない。

その方策として、東京におけるワークライフバランスを改善し、子育て支援をしっかり行って、東京の機能をさらに強化して日本の経済競争力を高めていくという考え方がある。一方、それと対立するものとして、人の移動の流れを変え、地方の再活性化を図るべきだという考え方がある。集積が固定化されるとイノベーション力が落ちるし、東京に集中しているサービスや本社機能の一部を地方に移した方が、企業の生産性やコスト削減という点で効率化され、事業継続計画(BCP)上も有効だというのである。

つまり、地方活性化は東京の構造改革と一体的に考えていかなければならないということであり、今、われわれは選択を迫られている。

3. 地域活性化の方向性

地域活性化の方向は、4つのパターンが考えられる。1つ目は、工場を誘致して国内回帰(リショアリング)を促進するというものである。しかし、海外から工場が戻ってきても、労働節約的になっており、雇用拡大という点では大きな成果がないともいわれている。

2つ目は、地方企業がグローバルサプライチェーンに参入していくよう、グローバル化を奨励するというものである。工場誘致は海外から雇用を取り戻すというゼロサムの発想だが、こちらは海外の需要を取り込むプラスサムの発想といえる。

3つ目は、本社サービス機能の地方分散である。この機能は本当に東京にあるべきなのか、地方に分散させてつないでやることが効率化につながるのではないかという発想がもっと生まれてきてもよい。生産分野ではすでに工程間分業が進んでいる。サービス分野でも真剣に考えてみる価値がある。

最後は地域資源の活性化である。これには、今までばらばらに使われていたものを集約化するやり方と、今までとは別の使い方をする方法がある。林業やミカン栽培に使われていた山を葉っぱビジネスに使うことで成功した徳島県上勝町の例が有名だが、そうしたイノベーションを地方で起こしていくことが考えられる。

4.地域活性化のための政策

そのためにどのような政策を打つか。工場やオフィスの誘致、企業の国際化支援には、税制上の優遇措置や雇用補助金が有効かもしれない。雇用情勢が厳しいところほど人件費が安くなるべきだが、国際間の為替レート調整と違い、給与は下方硬直性があるため、何らかの補助金を使う必要があるということが、ある程度正当化される。財源に関しては、これで少子化問題が改善すれば、受益者は将来生まれてくる子どもたちなので、彼らから税金を取る、つまり借金で補うということも考えられる。

地域資源の活性化については、参入障壁を下げるという点からは、特区のアプローチが考えられる。イノベーションの促進に必要な「ばかもの」「わかもの」「よそもの」は突然変異で生まれてくるもので、直接的な養成ノウハウはない。できることがあるとすれば、空き家の利用促進、若者のキャリアパスや雇用助成、地域住民の積極的関与と変化への寛容性醸成等だろう。ただし、いずれも必要条件で、これらがそろえば成功するというものではないところに地域活性化の難しさがある。

現在、さまざまな政策が考えられ、かなり体系的になりつつあるが、地方の役人が出張費を使って成功事例の視察に行っているうちは奇跡は起きない。いかに地域で突然変異を起こしていく土壌をつくり上げるか。そこに期待するしかない。

講演2 農業立国を目指そう

山下 一仁 (RIETI上席研究員/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

1. 日本農業の衰退

今、日本の農業は高い関税で守られてきたにもかかわらず衰退している。これは、衰退の原因が日本国内にあることを意味する。

日本の農業界は、「日本の農業は、規模が小さく競争力がないので、関税が必要だ」と主張する。しかし、アメリカは、農家1戸当たりの経営面積はオーストラリアの18分の1だが、世界最大の農産物輸出国である。

図1:農家1戸あたりの経営面積
図1:農家1戸あたりの経営面積

また、オーストラリアは、ほとんどが草しか生えない牧草地に牛を放牧し、安い牛肉をアメリカに輸出している。一方、アメリカは、一番肥沃な土地でトウモロコシや大豆を作り、それを牛の飼料にして高級な牛肉を日本に輸出している。したがって、アメリカは世界第3位の牛肉輸出国であると同時に、第1位の牛肉輸入国なのである。

つまり、国によって品質や需要は異なり、日本とドイツ、日本とアメリカの間で自動車が貿易されるのと同じように、農業の世界でも産業内貿易が起きているのだ。

2. 日本農業のポテンシャル

農業は自然を相手にするので、繁閑期がある。これをいかに平準化するかが、農業経営の成功のポイントになる。

たとえば、日本は南北に長く、標高差もある。この特性を利用して、あるアメリカの企業は九州から北海道まで7つの農場で作期をずらしてブロッコリーを作っている。あるいは、平らな土地で稲作をすると10日から1週間で田植えを済まさなくてはならないが、標高差を利用すれば田植えと収穫にそれぞれ2~3カ月かけることができ、大規模な米作が可能になる。4月前から11月まで農作業をし、冬場はスーパーにマーケティングするというかたちで周年稼働できる。日本の農業は、必ずしも悪条件ばかりではない。

グローバル化をうまく利用した例もある。日本では小玉のリンゴはジュース用にしかならないが、小玉が好まれるイギリスで売れば価格が上がる。労働を多く必要とする苗づくりを海外に委託し、国内でキクの花に仕上げて大変な所得を上げている花農家もある。

農業界は、「自然に影響される農業は工業とは違う。だから保護が必要だ」とよくいうが、現在は肥料、農薬、農業機械等、農業に必要とされるもののほとんどが工業生産物で、逆に工業に近い生産を行う経営が成功している。

3. 農業を衰退させた農政

日本の農業衰退の原因は、大きく3つある。1つは、減反補助金を出して米の生産量を減少させ、高い米価を維持する政策である。零細の兼業農家が滞留するため、主業農家は規模が拡大できず、収量を上げてコストを下げる道も閉ざされている。

2つ目は農協制度である。今の農協は、戦後、統制団体を衣替えしたもので、全国連合会によるトップダウン、ノルマ強制という上意下達の組織になっている。

3つ目は農地制度である。農地法は「耕作者=所有者」が大原則なので、耕作者が従業員、所有者が株主となる株式会社を認めない。そのため、若い人がベンチャーの株式会社を作って農業をやろうとしても、農地を買うことができない。

規模が1ha未満だと、米の農業所得はほとんどゼロである。ゼロの農家が20戸集まろうが30戸集まろうが、ゼロにしかならない。しかし、それを1戸に集中させて20haにすれば、1400万円の所得が生まれる。残りの人たちは、それを地代で返してもらう。こういうやり方をしないと、日本の農業は再生できない。

兼業農家は米価が下がれば農地を出してくるので、農地の集約は減反をやめれば実現する。さらに、主業農家に直接支払いをすれば、主業農家の地代負担能力が上がり、農地が集積する。規模が拡大するのでコストが下がる。そうすると、農地を出した兼業農家に支払える地代も上昇するという良い循環が生まれてくる。

これまで農協は、農業の構造改革を妨害し、独禁法の適用除外を受けて高い農業資材価格を押し付けてきた。農協の政治力を排除し、高コスト体質を改善する規制改革会議の提案は、政権を奪還した自民党と農協によって骨抜きにされたが、安倍総理は「農協法に基づく現行の中央会制度は存続しない」と発言している。また、この秋には米価の暴落が予想される。この2つの波乱要因は政府に有利な交渉ポジションを与えるだろう。

4. 食料安全保障のために

食料安全保障は、これまで高い米価や高い関税を維持するための口実に使われていた。しかし、高齢化・人口減少の時代に日本の農業が生き残るには、海外の市場を開拓するしかない。そのためには、自由貿易協定に積極的に参加して相手国の関税を下げる必要があるし、減反をやめて価格を下げ、価格維持ではなく直接支払いで農家を保護する方向に向かわざるを得ない。それを妨げてきた農協を改革することができれば、日本の農業はうまく転換することができるのではないか。

農業再生の方策はある。実現への道のりは長いだろうが、私の主張に賛同する人がマスコミだけでなく政治家の中にも増えてきたことに期待したい。

パネルディスカッション

モデレータ:中島 厚志 (RIETI理事長)

農業の活性化、地方の活性化について

中島: 足元の農業改革は山下上席研究員が主張する方向に動いているように見えるが、どう評価されるか。

山下: 確かにそのベクトルは出てきている。農協改革が政治のアジェンダに乗ったことは大いに評価するが、ベクトルの長さがまだ十分ではない。一番の岩盤は減反政策である。高い米価で手数料収入を維持し、兼業所得を獲得することで農協は発展してきた。TPP、関税の問題は、農業問題ではなく農協問題ともいえる。そこにメスが入れられれば、農政は大きく転換すると考えている。

中島: 成長戦略では、6次産業化が農業や地域経済にとって大きなポイントだとされているが、どうご覧になっているか。

山下: プロの加工業者や外食産業がやって成功しないところで、アマの農家が成功するのか。こぢんまりとした規模ではできても、さらなる展開をするには大変な難しさがある。日本の農産物は確かに高品質だが、価格競争力がない。根本的なところに手をつけないので、提案が全て絵に描いたもちになってしまうのである。

中島: 農業は、ポテンシャルを伸ばしていけば地域経済を支えるほどの産業の核になれるのか。

山下: 農業がGDPに占める割合は、農業県でも5%を下回っている。今の農業生産額は非常に縮小しているので、それを戻し、価格競争力をつけて輸出すれば、5%が7~8%にはなる可能性はある。農業も地域も、構造を抜本的に変えない限り活性化できないだろう。

中島: 成長戦略では、各地域で魅力ある産業をいかに作っていくか、さらには、中核都市の連携による経済的な効果にまで言及しているが、これらの言及をどう評価されるか。

浜口: 地方の活性化には、何を根付かせて、何で雇用を支えていくのかという発想が重要だ。地方の中核都市であれば、東京に集中しているサービス機能の一部を担うことも可能だろう。また、規制緩和や奨励策を用意して、地域資源を活用しやすい環境を整えていくべきである。

TPPについて

中島: まさに規制緩和を促すという面から、TPPには具体的にどのようなことが期待されるのか。5品目の農業関税は堅持する姿勢だが、どうお考えか。

山下: 一番望ましいシナリオは、関税を撤廃し、直接支払いによって農家を保護し、生産を増やして国際競争力をつけることである。特に、米の関税が撤廃されれば、国内価格を国際価格よりも高めている逆進的な減反政策が自動的に廃止になる。今、日本が一生懸命にやろうとしていることはむしろ逆で、日本の国益からすると最も愚かな交渉をしている。関税を撤廃して自由な競争をすることによって、農業でも工業と同じように産業内貿易が発展していくだろう。

中島: TPPは、地域経済にどのようなインパクトをもたらすとお考えか。

浜口: 原産地規則の問題を考えると、バイラテラルのFTAしかない場合、地方にある工場の海外流出がさらに進むと予想される。地方の雇用を守るためにも、TPPは有用なのではないかと考える。

地域経済活性化、農業再生のために優先されるべきことについて

中島: 地域経済活性化や農業再生のためには、何が最優先されるべきか。

山下: 今の農業政策、特に農地政策は、農家の子どものみを後継者と考えている。農地法を改正して外からの血をどんどん入れることで、農業の活性化が図られるに違いない。

浜口: 参入障壁をできるだけ低くして、外からお金を持ってやってきてくれる人を歓迎できる環境を整え、失敗しても立ち直れるようなやり方にしなければいけない。地方が丸抱えでいくというやり方では、あとに禍根を残すことになる。それは避けなければならないし、地方においても流動性を高めるという考え方が重要だと思う。

Q&A

Q: 日本でも、法制面や農協の問題さえクリアすれば、オランダのような工業化された農業ができるのか。また、そこで米の生産は可能か。

山下: ハウス栽培や植物工場は、農地法の規制がおよばないためフリーにできる。ただ、特に植物工場は大変なランニングコストがかかるので、作ったものが全部食べられる高付加価値な野菜しかペイしない。米はロスが多いので、コスト的に不可能である。ただ、農業政策の転換によって相当な可能性が生まれると思う。特に米は唯一減反するほど供給能力があり、品質も高いので、適切な政策さえ取れば輸出することで日本の農業は活性化できる。

Q: 「よそもの」を引き込む、もしくは中核都市を育てるために、新たなタイプの公共投資がまだ何か必要と思われているのか。また、農業の大規模化には、ほ場整備がある一定の規模で必要なのか。

浜口: 本社機能を地方に分散し、ワークライフバランスを整えるには、通信技術が地方においてもさらに整備されることが重要である。

山下: 農業を発展させる新たな農業公共投資として、IT面のインフラ整備が必要だと考えている。ほ場整備も必要だ。地権者はたくさんいてもよい。1つの田んぼの面積を拡大することでコストが飛躍的に減少する。公共事業をもっとそういう方向で活用すべきだと思う。

Q: 今年、埼玉米は7000円台の値が付いた。これで改革が進めばと考えているが、勝算のほどを聞かせていただきたい。

山下: 昨年、一昨年と豊作だったにもかかわらず米価が上がったのは、全農が供給を絞ったからだ。従って、全農に在庫がたまっている。いずれこの在庫を吐き出さざるを得ないと見て、10月の先物の価格は昨年より3割も下がっている。この秋、米価は相当下がるだろう。米価が下がって主業農家が困るのであれば、主業農家に限って直接支払いをすればよい。減反は、なし崩し的になくなるかもしれない。その意味で、この秋には極めて良い環境ができるのではないかと考えている。