RIETIセミナー

アメリカの生産ネットワーク:Vertical Integration and Input Flows

  • 開催案内・資料

イベント概要

  • 日時:2014年8月18日(月)13:30-14:30
  • 会場:RIETI国際セミナー室(東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)
  • 講師:アリ・ホータクス(Ali Hortacsu)(シカゴ大学 教授)
    資料:[PDF:630KB]
    参考:Atalay, Enghin, Ali Hortacsu, and Chad Syverson. 2014. "Vertical Integration and Input Flows. " American Economic Review , 104(4): 1120-48.
  • 司会:藤井大輔(RIETI ヴィジティングスカラー)
  • 開催言語:英語

目的

製造業などにおいて、1つの企業が複数の事業所を持つ事例はよく見受けられる。今日の経済では多くの事業所が仕入れや販売などを通じて複雑なネットワークを形成しており、このサプライチェーンにおける垂直統合は生産性やリスクに対する頑強性などに重要な示唆を与える。本セミナーは産業組織論で数多くの業績を持つ、シカゴ大学のアリ・ホータクス教授をお招きし、同教授の最近の論文に基づいて、アメリカにおける垂直統合の理由と結果について報告して頂いた。

概要

企業がサプライチェーンにおける上流と下流両方の事業所を同時に持つ垂直統合の事例はよく見受けられる。この垂直統合の理由については、効率的な中間財の移動やマーケットパワーの上昇などが議論されてきたが、データの制約上、実証研究はほとんどなされてこなかった。本研究では、アメリカの非農業部門の全事業所をカバーするEconomic Census(EC)と事業所間の取引データを記録するCommodity Flow Survey(CFS)を用い、企業が垂直統合をする理由や、それらの企業の特徴について分析を行った。

まずEC(1977、82、87、92、97年)から、各事業所がどの企業に属するかを決定する。事業所レベルでは労働や資本投入量、中間財消費などのデータがある。CFS(1993、97年)はランダムに抽出した事業所に関して、他の事業所との取引データを記録している。このデータをECの事業所のデータと接続し、垂直統合と中間財移動の関係を分析した。

実証分析の結果、垂直統合の主要因は効率的な中間財の移動ではないことがわかった。たとえば、同一企業内において約半分の上流の事業所は下流の事業所に対して、一切の中間財取引をしていなかった。同一企業内の事業所間取引のシェアの中央値は3%であり、非常に小さいものである。この特徴は全てのセクターで見受けられ、さまざまな指標を使っても同様の結果が得られた。また事業所間の距離と取引の有無にも強い相関が観察され、距離が遠いほど取引の確率は低くなっている。これらの結果から垂直統合の大きな理由として同一企業内の事業所間で無形資産(経営能力、マーケティングノウハウ、知的財産など)の効率的移動が示唆される。企業が垂直統合によって上流と下流両方の事業所を獲得する場合、たとえそこに中間財の流れがなくても、さまざまな無形資産を共有することにより高い効率性を達成することができる。また地理的に遠い事業所の獲得も、無形資産の移動の低コストを考えれば説明がつく。

また垂直統合されている事業所は他の事業所に比べて、生産性や資本集約度が高い事がわかった。事業所が垂直統合される前と後で比較したところ、これらの違いは垂直統合の影響ではなく、元々の事業所の異質性によるものが大きいという結果であった。次に、垂直統合前後で事業所の行動を比較したところ、統合された事業所は親企業の性質に出荷先と商品の2つの面で似てくる事がわかった。これらの統合された事業所は、親企業が元々出荷していた取引先に出荷するようになり、また開発する商品も親企業の物と同じになる傾向がある。これらの結果も垂直統合の理由としての無形資産の移動を示唆している。

本講演の結論は以下の通りである。
1) 既存の説明に反して、垂直統合された事業所間ではほとんど物理的な財の取引はなされておらず、効率的な中間財の移動は垂直統合の説明にはならない。
2) 垂直統合の理由としては効率的な無形資産(経営能力やマーケティングノウハウなど)である可能性が高い。これは統合された事業所が物理的財の取引がなくとも、親企業の性質に似てくる事からも示唆される。
3) 上記の結果から、垂直統合と水平統合にはあまり違いが無い事がわかる。企業組織を分析する際は、サプライチェーンからくる垂直の概念ではなく、無形資産の移動が重要な要素になってくる。