第6回RIETIハイライトセミナー

2014年に向けての日本経済の課題―アベノミクス三本の矢はどこまで飛んでいるか (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2013年12月5日(木)16:00-18:00
  • 会場:RIETI国際セミナー室 (東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)
  • 議事概要

    講演1

    藤原 一平 (RIETI客員研究員/オーストラリア国立大学教授)

    1. 2014年に向けての論点

    来年に向けた論点は大きく3つある。第1点は海外経済動向である。近年、日本の景気循環は海外経済動向に最も大きく左右される傾向にある。中でも金融面では、日本は世界最大の債権国ということもあり、国際金融資本市場がリスクに敏感になっているリスクオンの時期には円高が進み、リスクオフの時期には円安が進む傾向がある。したがって、米国の経済情勢や欧州の財政危機など、海外の動向いかんによっては現状の円安方向も大きく変わる可能性がある。

    図1:消費税引き上げの影響:消費税と異時点間代替
    図1:消費税引き上げの影響:消費税と異時点間代替
    出所:国民経済計算

    第2点は、消費税引き上げの影響である。1997年の引き上げ時には、それまで2%ほどあった消費の成長率がマイナスになり、その後も元のレベルに戻ることはなかった。今回の増税に際しても、これまでの比較的堅調な消費が2014年以降も維持されるかどうか、注意して見なくてはいけない。

    第3点として、私が最も注目しているのが貿易収支の動向である。従来の日本では、製造業の輸出による貿易黒字がGDPを引っ張ってきた。他方で、高齢化とグローバル化が高度に進展した経済においては、交易条件を改善し、輸入品を安価に買えるようにした方が、経済厚生は高まるという議論もある。日本は今や、そのような時期にさしかかっているのかもしれない。そうなると、輸出主導型でGDPを増やすより、内需中心で消費を維持する方が良いということになる。円安が望ましくなくなるかもしれない。このことは、TPPの在り方や構造改革の方向性にも関わる問題だといえる。

    2. 三本の矢

    三本の矢とは、構造改革による短中期的な負のインパクトを景気循環政策(金融緩和、財政拡張)で軽減しようというものである。

    日本経済にとって、構造改革は必要不可欠なものである。多くの経済問題は、成長率が高まることで解消できることが多いからだ。しかし、構造改革は往々にして痛みを伴うものであり、誰もが幸せになるとは限らない。また、成長率とはさまざまな政策や外部環境が集約された形であり、コントロールできるものではないため、今の政策の結果がいつ出るかを推測することは非常に困難である。

    財政拡張に関しては、財政破綻の可能性が懸念材料である。財政破綻は国債の価値を大きく下落させる。日本国債は日本人保有が大部分であるため、さほど心配はないという見方もあるが、日本人の中にも国債を保有している人と、そうでない人がいる。財政破綻によって国債価格が大きく下落した場合、所得移転が起こり、多大な影響が出てくる可能性がある。特に国債を多く保有する金融機関への影響が気になる。

    財政破綻とは、現在の借金を将来の税金で賄えなくなることで、そうなると、現在の実質の借金を減らすしかない。そのためには、インフレ率を大きく上昇させるという方法が有力だが、財政の持続可能性に疑問がある中、今のような金融政策の下でインフレ期待をコントロールすることが可能なのかどうかは、若干疑問が残る。

    現在の金融政策の目的は、期待インフレ率を上げることにより実際のインフレ率を上昇させることにある。ただ、期待そのものはコントロールできるものではなく、時々の政策を通じて変化していくものだ。したがって、政策の波及経路が明確でない場合、期待を明確に方向付けることができない。いったんインフレのムードになると、インフレがコントロールできなくなる危険性がある。インフレ期待を醸成することは有効な政策ではあるが、将来、インフレがコントロールできず、それによって為替もコントロールできなくなるリスクも、可能性は小さいながらはらんでいる。可能性は小さくとも大きなリスクに備えることが政策の大きな役割である。

    3. まとめ

    2014年を展望するにあたっては、短期的には海外経済情勢や消費税引き上げの反動減の度合いを見極める必要がある。中長期的には、構造改革が潜在成長率を引き上げることができれば、多くの問題は解決する。ただ、その達成手段は明確ではない。景気循環周りの政策(金融政策、財政政策)については、長期的に見た日本の望ましい姿をサポートする政策にいつでもシフトできるように準備しておく必要がある。

    講演2

    宮川 努 (RIETIファカルティフェロー/学習院大学経済学部教授)

    1. 日本経済の長期停滞とその要因

    「失われた20年」の要因については、経済学者の間でもさまざまな議論がなされており、生産性の低下が大きな要因だと主張する論者は、グローバリゼーション、技術革新へのキャッチアップの遅れ、企業の新陳代謝の不足、規制改革の不足などをあげている。最大の要因は需要不足であり、マクロ経済の問題だとする論者は、金融政策の緩和不足、あるいは緊縮的な財政政策を取ったからだと指摘する。さらには、人口減少がすべてだという運命論的な議論まで、さまざまな事柄が要因といわれている。

    2. アベノミクスの特徴

    アベノミクスは、この長期停滞から回復するために、生産性の問題とマクロ経済政策の問題を同時に克服しようする総合的な政策だと捉えている。第一の矢(拡張的な金融政策)は金融政策の緩和不足に、第二の矢(機動的な財政政策)は緊縮的な財政政策に対応し、第三の矢(日本再興戦略)は、主に生産性低下と規制改革不足、一部は企業の新陳代謝不足に対応する政策である。

    短期的政策手段(財政・金融政策)と長期的な政策手段(成長戦略)をミックスして経済を回復させようという試みは、今までにはなかった政策的チャレンジである。第一、第二の矢で全体として経済を引き上げ、それで支持を得てから第三の矢に進むという経済政策の手順は、政治的な観点からは正しかったといえる。

    ただし、円安になり株価が上がったとはいえ、リーマンショック以前の水準に戻っただけである。ようやく少し将来を見通せる経済環境になったので、今後のことを考えなくてはいけない。消費者物価指数はプラスに転じたといってもほぼ0%で、期待インフレ率も同じような状況にある。政権が交代してからGDPは3.3%増えたが、その内容は公共投資主導であり、民間設備投資にはまだ火がついていない。為替レート、株式市場など、金融市場の環境は戻ったが、実体経済への波及という意味では、金融緩和派が当初言っていたシナリオとは少し違ってきているのではないかと思う。

    図2:円/ドルレートの推移
    図2:円/ドルレートの推移
    図3:日経平均株価指数の推移
    図3:日経平均株価指数の推移
    図4:物質、賃金と生産性変化率
    図4:物質、賃金と生産性変化率
    (出所)JPデータベース2012
    3. 成長戦略実行の重要性

    加えて、成長戦略の実行可能性が不安視されてきている。問題点の1つは、産業構造のビジョンが不透明なことである。設備投資を増やし、新規企業を支援するのは良いが、長期的にどのような産業構造へとつなげていくのかが明確になっていない。

    さらに、安倍政権は企業に対し、設備投資の増加とともに賃金の上昇も求めている。確かに円安によって輸出産業は一時的に設備投資や賃金を上昇させることができるが、今のところ設備投資の増加効果は見られない。生産性の継続的な上昇がなければ、賃金の持続的上昇(好循環経済の実現)はない。賃金も設備投資もということで、民間への要求が非常に大きくなっているが、民間よりも、政府規制が多い非営利部門の効率化を通した賃金上昇を考えるべきだ。規制緩和が労働生産性の上昇につながれば、賃金上昇も見込める。もちろん法人税減税も、資本コストの低下を通して賃金上昇に役立つだろう。

    4. アベノミクスは成功するか。

    ただ、私は、今後の行方については楽観的な見方をしている。成長戦略の進み方の遅れはあるが、今は先進諸国、中国、韓国が、それぞれ自国の構造改革の必要性に直面している。その中で成長戦略を打ち出してきた日本は、もう少し明確なビジョンを築き、問題点を絞って実行していくだけの時間は残されている。2014年度は、消費税の引き上げで景気が若干落ち込むと思うが、その中でも財政の健全性と社会保障改革に配慮しつつ、今回の国会で決まった成長戦略プラスアルファを着実に実行していく年であるべきだと考えている。

    講演3

    武田 晴人 (RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー/東京大学大学院経済学研究科教授)

    1. アベノミクスによるデフレ脱却、経済成長路線への復帰は何を目指すのか?

    私からは、歴史という視点で3つほどお話ししたい。まずは、デフレスパイラルからの脱却と経済成長路線への復帰という政策の考え方自体が、どのような歴史的文脈の中で評価されるかということである。

    「経済成長」という言葉が政策用語として登場した1950年代半ばには、経済成長は目標ではなく、成長を通して何かを実現したいという文脈で使われていた。たとえば国民所得倍増計画は、所得階層間の格差是正を目的として、そのための手段として経済成長が位置付けられていた。つまり、経済成長とは的ではなく矢だったのである。そうだとすると、アベノミクスの成長路線が、何を解決するために推進されている政策体系なのかを明確にする必要があるだろう。その将来ビジョンが語られず、成長しさえすれば結果オーライになるという議論の渋りが問題を生んでいるのである。

    2. 歴史の経験としての長期不況からの脱出

    次に、長期不況からの脱出を果たした歴史的経験を振り返ってみたい。ここでは、1930年代の高橋是清大蔵大臣の財政政策を取り上げる。高橋財政では、管理通貨制への移行に基づいて赤字国債を発行し、財政面からの需要創出政策を展開した。これは同時に、低金利に誘導して円安を放任するという、財政金融政策からの景気対策であったと考えられている。その評価については4つほど留意すべき点がある。

    図5:1928年-1940年の産業別設備投資動向(1,000円)
    図5:1928年-1940年の産業別設備投資動向(1,000円)
    三菱経済研究所『本邦事業成績分析』各年より作成。
    図6:高度成長前半期の設備資金需要の業種別構成比(%)
    図6:高度成長前半期の設備資金需要の業種別構成比(%)
    宮崎忠恒「設備資金調達と都市銀行」武田晴人編著『高度成長期の日本経済-高成長実現の条件は何か』有斐閣、2011年より。

    1つ目は、高橋の行った財政刺激策(呼び水政策)は1932年の1回限りで、その後は、為替の影響による輸出の伸びと、内需の伸びで回復に至っている。また、設備投資の拡大が見られたのは1934年以降、本格的に機械工業で設備投資が発生するのは1937年以降であった。機械工業を中心に投資循環が起きれば、投資が投資を呼ぶ内部循環的な景気拡大が発生するだろうが、その意味では、高橋の財政の効果はかなり限定的だったと考えられる。しかも、それ以前の長期の不況過程で操業率が低下しているために需要が追加されても投資に向かわない、あるいは景気回復過程で企業利益が好転しても長期債務の返済に自己資金が使われてしまい投資に向かわないという格好で、時間的な遅れが生じる。したがって、成長路線による設備投資を期待するならば、そのルートを考える必要がある。

    2つ目に、高橋の政策は、分配面では農村の貧困という問題はほとんど改善されなかった。したがって、アベノミクスがそういった分配面での格差是正などの政策の視野に入れるならば、高橋財政のスキームでは議論できない。

    3つ目に、高橋は先行する井上財政期の経済政策のほとんどを継承している。金融面・財政面での運営の仕方は否定したものの、産業合理化という、井上財政の基礎ともいえる産業政策はそのまま推進した。そのことは、需要が追加されたときに企業側の投資や合理化努力を引き出すという意味で、景気回復において重要な意味を持っていたと考えられる。

    4つ目に、高橋の成功はブロック経済という、かなりクローズドな世界経済の中での例外的な成功であった。したがって、国際化・グローバル化が進んだ現代との比較は難しい。さらに、日本銀行自身が金融統制力を失って困っている中で、有効な金融手段を得るために国債保有量を増加させようとしていたという特殊な状況もあったのである。

    3. 世界恐慌とビジネス・コンフィデンス(事業信認)

    最後は世界大恐慌との関係である。1930年代の米国の大不況の後、米国ではニューディール政策により順調に景気が回復したと思われているが、現実にはそれほどではない。米国経済は1937年にかけて回復したといわれているが、実際に生産指数、国民所得、失業者数を見ると、いずれも1937年には1929年のピークを越えることができていない。

    これについて、ハインツ・アーントは『世界大不況の教訓』の中で、1930年代の先進工業国の景気回復過程に関する政策史的な比較研究を行い、なぜ米国はニューディール政策という新しい政策手段を展開したにもかかわらず景気回復が遅れたのかということを論じている。アーントによれば、1937年にかけての景気回復過程は、消費財需要の増加に基礎づけられていたが、設備投資が出てこなかった。それは、ニューディールに対して実業界が敵意を抱いていたためであり、民間の信認を維持・回復することが、政策効果の発現の基礎的な条件だったのではないかと強調している。

    翻って今の日本を見ると、安倍政権は民間部門からの信認を得ているのかという形で問い掛けることができる。少なくとも2012年12月から現在までの1年ほどの変化は、そういう意味での信認の回復に依存している面があるのではないかと感じている。

    パネルディスカッション

    モデレータ:中島 厚志 (RIETI理事長)

    アベノミクスの効果

    中島: 日本経済が回復している現状について、アベノミクスの効果をどう見るか。現時点で、アベノミクスは正解だったといえるだろうか。

    藤原: 行き過ぎた円高をある程度まで戻したという点では、海外経済などの要因はあるにしても、アベノミクスの効果はあったと思う。問題は、その効果が持続するか、副作用が顕現化しないかということと、設備投資へのつながりが見えていないことである。初期の段階で消費が引っ張っていたが、これが消費税増税をにらんだ駆け込み需要であれば、実体としてはそれほど影響が出ていなかったことになる。

    宮川: :マクロの政策から入ったことは、政治的に正しかったと思う。ただ、実体経済への波及が思ったほどではない。公的支出に頼り、物価の方に反応が表れていないことが気掛かりだ。

    武田: 国際金融環境の安定という外部条件にも恵まれ、これまでの強い閉塞感を払拭することはできたといえる。ただし、消費も投資も期待するほどの効果は出ていないと思う。

    これからの日本経済の展開

    中島: 今、日本経済を見る際のポイントは何か。また、来年にかけてさらに堅調な経済成長は続き得るのだろうか。

    藤原: 最も注目すべきは、消費税引き上げ後の消費動向である。また、海外経済動向も気になるところで、米国経済がどれだけ堅調にシフトするのかがキーになる。

    宮川: 今のところ、金融政策の効果にややシナリオどおりでないところがある。その中で、2014年度、消費が落ち込んだ場合、これを消費税率引き上げの結果とみて補正予算でサポートし、しかも金融の出口戦略が見えないということになると、金融市場は大胆な金融政策を財政ファイナンスだと思ってしまうだろう。そうなると、為替市場や国債金利市場などに不測の事態が起きる可能性がある。ここが我慢のしどころだ。

    武田: 消費税増税が消費に与える一時的なショックよりも、増税がアベノミクスに対する支持を裏切らないかどうかの方が大事だ。増税分は財政再建に使われることになっているが、実は景気対策名目の公共事業の方に行って財政のプライマリーバランスがいつまでも改善しないことの方が、リスクが大きいのではないか。

    中島: 米国が金融緩和の縮小を強く打ち出しているが、日銀の金融政策の出口はどう考えればいいのだろうか。

    宮川: 出口戦略はいずれ取らなくてはいけないが、2014年は、まずは米国がどのような動きをするか、それがどう成功するかを見極める1 年になるだろう。

    武田: 国債を随分買ったが、結果的には日銀の当座預金残高が非常に大きくなっている。それをコントロールするために、金利を引き上げることを想定すると、財政上の負担が数年のラグを持ってかなり大きく国債費に跳ね返ってきて、それが実現し得る成長を食ってしまう可能性もある。その辺が心配ではある。

    藤原: 今の傾向がそのまま続くと、2019年ごろに日本の国債は貯蓄で吸収できなくなる。そのときに出口戦略が終わりに達していればいいが、そうでなければ、財政の危機につながる可能性がある。

    アベノミクスの次の一手

    中島: 消費税引き上げの影響については悩ましいところだが、2014年をうまく乗り越えるために、アベノミクスの次の一手として何が考えられるか。

    宮川: 日銀がいくら金融を緩和しても、企業と金融機関の信頼関係が壊れていると、なかなか設備投資ができない。賃上げの問題も、労働側と経営者側の問題だが、同様に信頼関係が必要だ。政府と民間の各部門の補完関係・信認関係を再構築しなければいけない。そういう制度づくりをしていかないと、産業構造の転換や労働市場の改革は円滑に進まないだろう。

    武田: 目の前の金利が下がっても、中期的に見て期待する収益率と予測できる金利の中で差益が発生しない限り、設備投資はしない。設備を更新する場合でも、その生産が輸出向けであれば、海外工場に置き換えるという選択も起きる。企業に対して国内で投資が拡大できるようなシナリオを説得できる何かがあることが必要だと思う。

    藤原: 成長戦略のビジョンを明らかにすることは、第三の矢を推進するだけではなく、設備投資を促す意味でも重要だろう。その過程で、財政については我慢が必要だ。あまり結果が出なかったからといって追加するよりも、第三の矢でできる方向を探っていく方がいい。その意味で、第四の矢は「我慢」かもしれない。

    アベノミクスの総合評価と今後

    中島: アベノミクスの総括的な評価をどう見るか、また、今後アベノミクスがさらに飛ぶためには何が必要だろうか。

    武田: 安倍政権は、経済の気分を変えたという点で、初期段階の成功は収めている。問題は政権に対する信認の度合いがどれだけ維持できるかだ。

    宮川: スタートダッシュは良かったと思う。産業競争力強化法案にはフォローアップ条項も付いているようなので、2014度はそれを着実に実行していく。加えて、社会保障改革や消費の将来見通し、規制緩和などのプラスアルファをやっていくことが課題になる。

    藤原: これまでのところはプラスの影響の方が大きかった。ただ、これからも第一と第二の矢に頼るのは難しく我慢が必要だ。あとは、第三の矢について覚悟と具体的政策を示していかなくてはいけない。

    Q&A

    Q1: 今後、無形資産投資が設備投資よりも大きくなる可能性はあるか。

    宮川: 生産性向上に無形資産投資の方が有効だということは、経済協力開発機構(OECD)の報告書でも出ている。無形資産の中で、ソフトウエア投資やR&D投資には既にかなり税制上の恩典が与えられている。人材は税制上の恩典が捉えにくい分野だが、たとえば企業が手当を別掲し、それに対して減税するという方法もあり得るのではないか。また、大学の教育内容も変えていく必要があるだろう。

    Q2: 構造改革、規制緩和は本当にできるのか。

    藤原: 実際に破綻が起きたら、何かしなければいけなくなる。既得権益が構造変化の進展を阻止するかもしれないが、ケインズも言うように、既得権益ではなく、斬新なアイデアや技術進歩こそが、将来のあり方を大きく規定する。

    宮川: 労働市場改革などをさらに推進するべきだ。雇用特区を考えてもいいと思うが、暗礁に乗り上げている。野田政権のときに出された「長期雇用を壊さない形で、10~15年勤めた時点での労働市場を流動化しよう」という提言すら実現されていない。いろいろなタイプの労働が市場で選択できない状況は、あまり望ましくない。それをどうしても反対だという根拠がよく分からない。

    武田: 成長戦略の処方箋が規制緩和であるという議論の仕方自身に既に問題がある。規制を掛けた方がいい場合もあり得る。宮川先生が言われたことはそのとおりだが、起きていることすべてが労働市場に対する規制の結果ではない。