RIETI-CASS-CESSA Joint-Workshop

Industry-level Exchange Rate and Asian Integration - Focus on the relation between China and Japan - (議事概要)

イベント概要

  • Date: November 18, 2013
  • Venue: RIETI, 1-3-1, Kasumigaseki Chiyoda-ku, Tokyo
  • Hosts: Research Institute of Economy, Trade and Industry (RIETI), Chinese Academy of Social Sciences (CASS), Center for Economic and Social Studies in Asia, Yokohama National University (CESSA)
  • 報告書

    清水順子(学習院大学)

    11月18日にRIETIにおいて第2回RIETI-CASS-CESSA Joint-Workshop が開催された。このワークショップは、RIETIバスケット通貨研究会(小川英治FF)が中国社会科学院(CASS)と横浜国立大学アジア経済社会研究センター(CESSA)の協賛で昨年より開始したプロジェクトである。昨年の2012年10月28日に北京のCASSにおいて行われた第1回ワークショップでは、RIETIで公表されているAMU乖離指標や産業別の実効為替相場というデータと、中国で研究されている産業別実効為替相場のデータについて、双方のデータ構築に関わる

    論文を報告しあい、活発なディスカッションが行われた。RIETIから報告された2つの論文は、中国の経済学術誌「世界経済」に中国語で掲載されており、RIETIの研究成果である2つのデータ(AMU乖離指標と産業別の実質実効為替相場)を中国研究者に広めるという点で大いに貢献している。

    第2回目となる本年のワークショップでは、上述のデータを用いてアジアの為替制度や日中貿易の動向に関する実証分析の論文がRIETIと中国双方からそれぞれ3つずつ選ばれ、論文報告と活発な討論が行われた。論文のテーマは、世界的な金融危機がアジアの為替制度に与えた影響に関する実証分析から、アジアにおけるProcessing Tradeや第三国との競争状態を加味した上で産業別の実効為替データや産業別のユニットレーバーコスト(ULC)を用いた貿易の実証分析など、どれも今後のアジア経済の動向を占ううえで重要なものであった。また、一般的には取得が難しい中国のULCのデータについては中国サイドから中国独自の情報をもとに算出されたULCデータの紹介などもあり、有意義かつ活発なディスカッションが行われた。最後に、当研究プロジェクトは次年度以降も継続することを約束し、閉会した。

    報告論文と討論の概要は、以下のとおりである。

    1. "East Asia Currencies: Moving towards Stable Basket Anchors" by Xu Qiyuan and Yang Panpan (1st Discussants: Kiyotaka Sato, 2nd Discussants: Zhiqian Wang)

    本論文は、アジアの通貨バスケットに占める中国人民元のウェイトが、近年の中国経済の成長と発展に伴い増加しているか否かを分析している。これはアジアの通貨制度を考える上で非常に興味深いテーマである。本論文はFrankel and Wei (1994) の分析手法を用いてバスケットのウェイトを推定しているが、操作変数法を用いることによって、中国人民元はアンカー通貨として扱われていると同時に、通貨バスケットにおける各通貨のウェイトは時変係数として計算されている。最大の貢献は時変パラメータモデルを用いて通貨バスケットのウェイトの変化を捉えようと試みている点にある。実証分析の結果としては、以下の3点が挙げられる。第1に、アジア通貨危機以降、東アジア諸国の通貨当局は、ドル・ペッグまたは変動相場制ではなく、通貨バスケット制を採用している傾向が見られる。第2に、中国通貨当局による人民元為替相場制度の改革以来、東アジア地域での人民元の影響力は、少しずつではあるが、確実に高まりつつある。第3に、米ドルは東アジア諸国にとって、依然重要なアンカー通貨である。

    ただし、時変パラメータの推定方法について、論文の中で十分な説明を行っていないため、適切な推定方法を採用しているか判断するのが難しい。この点を懸念する理由は、たとえばシンガポールの分析において、バスケット・ウェイトの初期値が一部の通貨でマイナスの値をとっているためである。また、韓国においては、人民元のバスケット・ウェイトの初期値が米ドルのそれを上回っているが、それに対する説明がない。時変パラメータモデルの推定では初期値を適切に設定することが重要であるが、ここで適切な推定の手順を踏んでいない可能性がある。さらに、一部の推定結果では、円などのバスケット・ウェイトが大きなマイナスの値をとっている。時変パラメータの推定値が統計的に有意であるか否かのチェックも必要である。これらの推定手法の問題点を解決すれば、本論文の分析結果はアジア域内における中国人民元の影響力の変化に関して貴重な情報を与えることができると考えられる。こういった問題点に対し、著者らの改善または補足説明を期待したい。

    2. "Industry-Level Competitiveness, Productivity, and Effective Exchange Rates in East Asia" by Keiko Ito and Junko Shimizu (1st Discussants: Xu Jianwei, 2nd Discussants: Li Xiaoqin)

    本論文の目的は、2000年代以降のULCの低下と為替相場の変動が日中韓3カ国の輸出競争力にどのような影響を与えているのかについて分析することである。産業別のULCと名目実効為替相場(NEER)を用いて、12産業別にパネル分析を行った結果は以下のとおりであった。第1に、中国の輸出は生産コストに最も敏感であるのに対して、日本の輸出は生産コストの変化に敏感に反応しなかった。第2に、日本の輸出は生産コストよりも為替レートの変動に対して大きな影響を受けるが、中国と韓国については為替の影響が有意でなかった。第3に、産業別では特に輸送機器産業において為替の影響が大きかった。これらの結果は、日本企業の輸出競争力を高めるためには、為替相場がこれ以上円高に進まないような為替相場の安定化政策を採ることが重要であることを意味する。また、日本において生産コスト低下が輸出競争力に結び付いていないという結果は、輸出を増やすためには、更なる生産コスト削減努力を企業に促すというよりは、価格以外の面での競争力をより高める方向での政策対応が望ましいことを示唆するものである。

    本論文は実証分析の中で日中韓の産業別のULCを算出しているが、この計算結果に対して中国からの討論では、中国独自のデータに基づいて算出されるULCと必ずしも一致していない業種があることが指摘された。本論文がULCを算出する際に利用したデータはWIODであるが、WIODのデータは中国での国内産業の15%しか把握していないという批判があり、中国の実情により即したデータに基づいて算出されたULCとの比較が出来たことはこのワークショップならではの研究成果である。今後中国側とデータの交換などを行い、推計結果の確認を行う必要があるとの認識がされた。

    3. "Changing Comparative Advantage, Real Exchange Rate Impact and Sino-Japanese Trade Fluctuations" by Qiu Bin, Tang Baoqing, Liu Xiuyan, and Sun Shaoqin (1st Discussants: Junko Shimizu, 2nd Discussants: Yuki Masujima)

    本論文は、産業別の実質実効為替相場(REER)を用いて日中間の貿易のボラティリティに影響を与えている要因を分析することを目的としている。実証分析の結果、REERのボラティリティが高まると日中間の貿易、特に中国から日本への輸出にマイナスの影響があることが確認された。また、本論文の特徴としては、貿易を説明する変数としてOECD-WTOが公表している産業別付加価値生産のシェア(value-added)のデータを用いて日中の比を両国の生産技術の比較を表す指標と捉えて用いている点にある。この説明変数により、日中間の生産技術格差が近年縮小しており、それが両国の貿易のボラティリティを下げているという興味深い結果を得ている。従って、日中の貿易統合を推進することにより、日中貿易をより安定させるという政策インプリケーションが示された。

    これに対して、討論者からは、貿易のボラティリティの算出方法について、頑健性チェックも兼ねてその他の手法で算出してみるべき、との意見が出された。また、なぜREERのボラティリティや生産技術格差が日中間の貿易を不安定にさせるか、という回帰モデルをサポートする理論的背景に言及すべきとの提案もなされた。ただし、Value-addedのデータを活用している点は高く評価されており、同様の分析を日中間だけではなく、中米貿易などに応用すればさらに興味深いという提案もなされた。

    4. "How Did the Global Financial Crisis Misalign East Asian Currencies?" by Eiji Ogawa and Zhiqian Wang (1st Discussants: Xu Qiyuan, 2nd Discussants: Tang Baoqing)

    本論文の目的は、世界的な金融危機により東アジア地域におけるどの国の通貨が金融危機に影響されたのか、または金融危機の前後に諸国通貨の間で発生したミスアライメントはどのように変化したのかを明らかにすることである。

    8つの分析期間について実証分析を行った結果、2005年の半ばまでの2つの分析期間、および世界金融危機が始まった2007年7月から2010年1月までの分析期間において、いくつかの通貨の組合せについて為替相場の間でのミスアライメントが収斂する傾向が見られる。一方、2005年の後半から2007年の半ばにかけての期間を含めた分析期間においては、ミスアライメントが収斂したと認められる組合せの数は大きく減少していたことがわかった。修正AMU乖離指標から見た東アジア諸国通貨の動きおよび実証分析から得た結果を踏まえて、東アジア諸国通貨の間発生したミスアライメントは世界金融危機の前後において大きな変化が生じた。一方、金利の安い諸国通貨におけるキャリー・トレード、特に円キャリー・トレードは諸国通貨の為替相場変動に大きな影響をもたらしており、こうした動きが東アジアの通貨間の動きをボラタイルにしていることが指摘される。

    これに対して、中国側からの討論者からは以下の指摘があった。まずAMUのバスケット・ウェイトについて、貿易シェアに基づいてバスケット・ウェイトを算出すると中国のウェイトが高まる傾向があるが、中国のProcessing tradeという面を考慮すればそれほどウェイトが高くないのではないか。例えば、付加価値という面からバスケット・ウェイトを算出するなどの工夫をする必要があるだろう。また、アジア通貨同士のミスアラインメントはアジア各国の相場制度の選択の違いから構造的に生じている可能性がある。昨今は中国もより柔軟な為替制度に移行しつつあることから、アジアへの影響力が大きい日本円と中国元の2大通貨に焦点を当てて、マクロ経済や国際貿易の観点も含めて為替の動向を分析することも重要ではないか、との提案もなされた。

    5. "Exchange Rate and Bilateral Export: The Role of Third Country Competition" by Xu Jianwei and Dai Mi (1st Discussants: Kentaro Kawasaki, 2nd Discussants: Nagendra Shrestha)

    本論文は為替相場の変動が、輸出に及ぼす影響を分析したものである。とりわけ2国間為替相場の変動が輸出に及ぼす影響を分析したこれまでの研究の多くは、結果が不安定であり、必ずしも両者の因果関係を証明できないものが多かった。本論文は、2国間為替相場の影響に、他の輸出競争相手国の為替相場の変動を考慮した「第三国効果」の大きさを図ろうとしたものである。為替相場と輸出へ及ぼす影響を図る研究では、為替相場や輸出の競争相手国との、輸出先市場における競合を考慮する際には、二国間為替相場ではなく、実効為替相場が用いられる。これによって、自国の輸出競争力の大小を分析の中に考慮することが出来るが、本論文は自国と輸出先の2国間為替相場、および競争相手国と輸出先の2国間為替相場の加重平均値を用いて、「第三国効果」の大きさを直接図ろうとしている。

    これに対して、日本側の討論者からなされたコメントは以下の3点にまとめられる。第1に、実効為替相場を用いた従来の研究に対して、本研究のもつアドバンテージや第三国効果の定義は何であり、それを直接図ることの経済学的意味を明らかにすべきである。第2に、パネル分析によってHS二桁の産業をつかって「第三国効果」を一国レベルに集計して測定しているが、これを産業毎、製品毎、また製品価格帯毎に効果を測定すべきではないか。第3に、著者の関心は、中国の為替相場制度が固定為替相場制度であった時期に、中国の輸出が何故大きく伸びたのかに関心があるようだが、「第三国効果」だけで、この問題を解説することはできない。たとえば、中国にとって主要な貿易相手国である日本の製品と、中国の製品が米国市場においては殆ど競合していない。その理由は、為替相場に有るのではなく、欧州などの「第四国」となる競争相手との価格競争に於いて、製造コストを引き下げるために、製造拠点を日本から中国に移し、中国で製造した最終財を米国に輸出するようになったからである。そのため、人民元とドル為替相場、人民元と円為替相場の変動が問題になるのではなく、円とユーロといったように、第三国と第四国の直接の為替相場が問題となる。このような「第四国効果」についても今後補足する必要があるだろう。

    6. "Industry-specific Exchange Rate Volatility and Intermediate Goods Trade in Asia" by Kiyotaka Sato, Junko Shimizu, Nagendra Shrestha and Shajuan Zhang (1st Discussants: Xu Qiyuan, 2nd Discussants: Dai Mi)

    世界の工場として発展するアジアの最終財輸出は世界需要に大きく依存しているが、アジア域内に展開するフラグメンテーションや工程間貿易は、世界的な最終財需要に加えてアジア域内の為替レートの変動によっても大きな影響を受けており、さらにその影響は産業ごとで異なると考えられる。本論文は、世界的な最終財貿易の変動を考慮した上で、産業別実質為替レートのボラティリティが日本を含むアジア10カ国の中間財貿易にどのような影響を与えるかについて実証分析を行った結果、以下の2点が明らかになった。第1に、産業別実質為替レートのボラティリティは一般機械および一部の電気機械産業における中間財貿易においてのみ有意に負の影響を与えているが、その他の電気機械産業と輸送機器産業での影響は確認されなかった。第2に、最終財輸出に対する世界需要はすべての産業においてアジア域内の中間財貿易に有意に正の影響を与えている。産業毎に為替レートが与える影響が異なるという結果は、今後のアジア域内貿易の深化と工程内分業戦略を考える上で重要なインプリケーションをもたらすだろう。

    これに対して、討論者からは、アジアの中間財貿易は6つの産業分類のうち2つしか為替のボラティリティの影響を受けていないという結果はむしろ驚くべき結果であるとした上で、中間財貿易に影響を与えている変数として、為替のボラティリティを用いているが、為替の水準も加えたらより有意な結果が得られるのではないかとの提案があった。また、本論文ではグラビティモデルを用いた回帰式に従って実証分析が行われているが、アジア域内において共通の言語や国境のあるなし、という変数はどのように解釈されるかという質問もあった。


    尚、参加者は以下のとおりである。

    Participants:

    From Japan:
    • OGAWA Eiji (Faculty Fellow, RIETI / Hitotsubashi University)
    • SATO Kiyotaka (Yokohama National University and CESSA)
    • ITO Keiko (Senshu University)
    • KAWASAKI Kentaro (Toyo University)
    • SHIMIZU Junko (Gakushuin University)
    • Nagendra SHRESTHA (Yokohama National University and CESSA)
    • MASUJIMA Yuki (Japan Center for Economic Research)
    • WANG Zhiqian (Hitotsubashi University and GCOE of Hitotsubashi University)
    • ZHANG Shajuan (Yokohama National University and CESSA)
    From China:
    • SUN Jie (Institute of World Economics and Politics, CASS)
    • XU Qiyuan (Institute of World Economics and Politics, CASS)
    • WANG Hui (Institute of World Economics and Politics, CASS)
    • LI Xiaoqin (The Conference Board, China Center for Economics and Business)
    • XU Jianwei (School of Economics and Management, Beijing Normal University)
    • DAI Mi (School of Economics and Management, Beijing Normal University)
    • QIU Bin (School of Economics and Management, Southeast University)
    • TANG Baoqing (School of Economics and Management, Nanjing University of Information Science and Technology)