ワークショップ

「人的資本・人材改革」ワークショップ (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2013年7月18日(木)14:00-17:30
  • 会場:経済産業研究所1121&1119会議室(〒100-8901 東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階)
  • ライフ・サイクル全体の視点からの人的資本・人材力強化の方策について多面的、総合的な検討を行う。具体的には、幼少年期の教育とパーソナリティの関係、中高教育の在り方、教育から就業への架け橋の在り方、就業以降の人材力、人的資本構築の在り方について議論する。

    開催報告

    RIETIにおいて、「労働市場制度改革 」プロジェクト(リーダー:鶴 光太郎ファカルティフェロー)のワークショップ「人的資本・人材改革ワークショップ」が開催された。就学前教育の重要性から大学教育の質、企業の人材育成まで、日本の人的資本を高めるために必要な要素について報告者のプレゼンをもとに議論した。ワークショップにおける報告の概要と成果は、以下のとおりである。

    奈須野 太氏(経済産業省)は、前政権下の成長戦略の人材・雇用関連の施策は、高齢者雇用、格差社会、民間への移管などがキーワードとなったが、現政権下では、女性の活躍推進や職務限定正社員の導入促進を通じた労働投入の拡大、大学改革やグローバル人材育成などによる労働生産性の向上、ハローワークの持つ情報をアウトソーシング会社などに開放する施策などの3点を重要施策として挙げ、従来の成長戦略との違いを説明した。また、今後成長戦略として議論されるべき論点として、外国人技能実習制度の改善、賃金支払の労働時間との切り離し、解雇に関するルール作り、最低賃金制度の4つを挙げた。

    鶴 光太郎氏(RIETI / 慶應義塾大学)は、2013年1月にRIETIが実施した調査の分析結果を紹介した。学歴、初職の雇用形態、現職の雇用形態、調査前月の賃金の規定要因を分析した結果、小学生や高校生の時の生活環境や、中学生の頃の部活動などの経験との間に相関を見出した。また、同調査はアンケートの回答者の現在の業務について、新入社員が当該業務を一通りこなせるまでの期間、新入社員が回答者と同レベルになるまでに要する期間を尋ね、スキルの幅と質を測る指標を作成した。最後に、多様な正社員(業務限定、短時間、残業無、転勤や配転無)の存在を同調査を用いて示し、無限定の正社員との業務範囲などの比較を行った。また幸福度関数を推定すると、業務範囲が広く、残業が無く、スキルを高める機会があることが幸福度を高めることがわかった。

    大竹 文雄氏(大阪大学)はIQなどの認知能力のみならず、我慢強さなどの非認知能力が学歴や所得に与える影響の重要性を指摘し、実証分析の結果を紹介した。具体的には、大阪大学G-COEの行った2012年の調査を用いて、Big5因子(外向性、情緒安定性、経験の開放性、勤勉性、協調性)という性格特性と学歴、所得、管理職昇進との関係について日米比較を行った。情緒的安定性、経験への開放性は日米共通で学歴にプラスの影響を与えるが、日本では協調性が学歴を高めるのに対し、アメリカでは勤勉性が学歴と関係するという違いがあった。また所得に対しては勤勉性が、昇進に対しては外向性が日米共通でプラスの影響を与えていた。さらに、インターネット調査を用いて、義務教育時の教育内容の違い(徒競走の有無、同和教育の授業の有無、グループ学習の経験)が、将来の競争主義、再分配政策などへの選好、利他心などの形成に影響を与えているかについて検証した。

    川口 大司氏(RIETI / 一橋大学)は、日本で大卒・高卒間賃金格差が縮小し、アメリカでは拡大した事実を、両国の大卒供給量の増加の違いによって説明した。日本では1947年から3年間のベビーブームの後、人口は急激に減少した。しかし、その後大学の定員はゆるやかにしか減少しなかったために、大学進学率は上昇し、大卒・高卒賃金格差の拡大を抑制した。一方、アメリカでは、1946年から64年と長期にわたってベビーブームが続いた結果、大学進学率は伸び悩み、大卒者の需要の増加に供給が追いつかず、学歴間の賃金格差が拡大したと指摘した。

    海老原 嗣生氏(株式会社リクルートキャリア / 株式会社ニッチモ)は、日本型の人事管理制度は年次管理によって新卒採用者全員を効率的に育成する利点を持つが、モチベーションの維持のため大半を昇進させ、生産性の低い管理職に対しても高給を支払っている現状の問題点を指摘した。一方で欧米では昇進しないノンエリート労働者が大半を占めており、彼らは生涯に渡って実務を続けるので技能は高く、低賃金でかつ教育訓練費用も節約できるため、企業は彼らを長期に雇い続けるインセンティブを持つ。労働者にとっては、残業が無く、子育ての時間が確保できるというメリットがある。海老原氏は、日本型と欧米型の良さを併せて、若年期は日本型で10年程度の育成・選抜を行い、その後昇進せずに実務を継続する「マイスター・エグゼンプション」としての働き方の導入を提唱した。

    佐藤 博樹氏(東京大学)は、日本の女性管理職は国際的に見ても少なく、大企業において女性管理職が1人もいない企業が45%に及ぶことを示した上で、女性管理職を増やすためには、個別企業で置かれた状況が異なるため、それに応じた取り組みが必要であると指摘した。女性の就業年数は長いものの管理職が少ない場合(均等を阻害)と、管理職はいるが女性の大多数は継続就業できない場合(両立を阻害)では、その課題は異なる。均等要因が阻害されている場合には、初期キャリアにおいて、育成計画などに反映される上司から部下への期待に男女差を無くすことや、経験の幅に男女差が出ないよう人事部が管理するなどの取り組みが有効である。両立要因が阻害されている場合には、両立支援制度を充実させるのではなく、男性も含めた企業内の通常の働き方をワークライフバランスが実現できる働き方に変更する必要があると述べた。