RIETIイノベーションセミナー

韓国と中国におけるビジネス・グループの動態と日本への含意 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:5月16日(木)15:30~17:30
  • 場所:経済産業研究所(経済産業省別館11階)1119/1121会議室
  • 講師:ソウル国立大学 Keun Lee教授
  • 討論者:一橋大学 名誉教授 小田切 宏之 (司会:一橋大学 長岡貞男教授)
  • 1. Keun Lee教授の基調講演の概要

    韓国においてはサムスングループ、LGグループなど企業グループ(チェボール)に所属する企業の数が2000年代の後半から増大しており、韓国経済におけるその重要性は近年高まっており、また中国でも企業グループの重要性は高まっている。

    企業グループを説明する理論としては、市場の失敗仮説(市場機能未整備・取引コストへの対応)、エージェンシー・コスト仮説、企業の技術能力構築仮説の3つがある。韓国では企業グループの収益パフォーマンスは、それ以外の企業と比較して、マクロ経済危機に至る1990年代の前半には悪かったが、2000年代には逆に良くなっている。この間に、雇用のあり方など企業グループ経営の改革はあったが、ガバナンスの基本的な仕組み(家族所有、子会社を通した多角化戦略)には変更はない。チェボールとそれ以外の企業を比較すると、研究開発への取り組みで非常に大きな差がある。チェボールは企業の技術能力構築を有効に進める組織として進化を遂げてきたといえる。1990年代の前半にはトービンのQが低い分野に投資をしていた割合が高く、そのためにトービンのQが低かったチェボールは、10年後の株式市場のデータでは逆に高い結果となっており、チェボールは株式市場よりも長期的な収益性を考えて投資をしてきたことを示唆している。日本の企業グループと比較すると、オーナー支配が強く、また各企業の経営者には強い権限とインセンティブを付与しており、トップダウンの経営である点が異なる。

    中国の企業グループは、国家所有であることで韓国と大きく異なる。また中国の場合はグループ内の企業間の関係は主として垂直的な関係にある。中国の企業グループの経営状況は悪くなっており、エージェンシー・コスト仮説が成立している可能性がある。ただ、中国の場合も企業グループが韓国のように再生する可能性もある。

    2. 小田切 宏之名誉教授のコメントと議論

    企業グループの存在を説明する3つの理論の共通点として、情報の非対称性と市場の取引費用がある。企業グループにも、少数株主保護の問題や情報の非対称性による企業間の内部補助の問題があり、事業部制企業の大規模化という選択と比較してどのような優劣があるのかが重要な点である。また企業グループは、衰退産業への対処における優位性はあるのかどうか、更に韓国における競争政策上の課題があるかどうか等の問題が提起され、議論を行った。企業グループは、オーナーによる経営者の選択と経営者による長期的なインセンティブによる経営という韓国における二段階のガバナンスにフィットしており、また、資金調達上のメリットが大きいのではないかという点が指摘された。(文責:長岡)