RIETIイノベーションセミナー

エコノミクスと米国新特許法 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:10月17日(水曜) 午前10時半から12時半
  • 講師:米国特許庁チーフ・エコノミスト スチュワート・グラハム博士
  • 司会:一橋大学教授及び経済産業研究所プログラム・ディレクター 長岡貞男
  • コメント1:中屋裕一郎 特許庁 国際課補佐
  • コメント2:青木玲子 一橋大学 経済研究所教授、総合科学技術会議議員

講演の主要なポイント

スチュワート・グラハム博士は米国特許庁の初代のチーフ・エコノミストである。チーフ・エコノミスト・オフィスの主要な目的は、エビデンス・ベースの政策決定に貢献することであり、そのために知的財産制度の機能についての理解を深める研究を行うこと、および、この分野の経済分析・統計分析を支えるインフラ構築を進めることである。

特許制度の役割は、イノベーションへの誘因、技術アントレプレナーの保護、競争の促進、技術市場のインフラの提供である。こうした機能を果たすには、イノベーションを行う者に質の良い情報を早期に提供することが重要であり、特許権が高い質であり、またその成立が良いタイミングであることが求められている ("Patent timeliness and quality"の実現)。

米国の新特許法(AIA= the American Invents Act)は、こうした目的に即したものである。第1に特許交付前の情報提供制度(preissuance submissions)が導入されることとなり、今年の9月から実施されている。また、付与後異議申し立て制度など付与された権利の早期明確化を促す制度が導入された。更に、同法によって、米国特許庁は特許料金を決定する権限を獲得し、これを活用して、特許出願人が特許審査のタイミングを選択できるオプションを拡大するとともに、審査の遅れをもたらす行動には高い費用を課すなど、特許の料金制度の再設計も行っている。

コメントと質疑

中屋裕一郎課長補佐

米国の新特許法(AIA)によって、先発明主義から先願主義への移行、先行文献に世界公知の導入、ヒルマー・ドクトリンの廃止、先使用権の拡大などが実現されることとなり、特許制度の国際調和への新たなモーメンタムをもたらす点からも画期的である。また、特許料収入の一般財源への繰り入れの禁止、料金設定権限の米国特許庁への付与など、特許庁が特許行政を行う上で高い柔軟性を得た点にも注目している。

青木玲子教授

知的財産はイノベーション制度の柱の1つであり、財産権の設定、情報の普及、技術経営の評価において重要な役割を果たしている。米国の特許制度が、より良い財産、特許制度への多様な需要への対応、審査や訴訟における不確実性の減少、経済研究を活用した制度改善に取り組んでいることは、こうした観点から非常に意義の高い取り組みであると評価している。今年のノーベル経済学賞(ShapleyとRoth)の業績が示すように、経済分析は、制度設計に重要な役割を果たすことができ、アップルとサムソンの紛争の背景にある複雑な製品における「特許の藪」の問題、パテント・トロールと市場の効率性などが今後の研究課題として重要である。

セミナーの質疑では、米国特許制度においてユニークな点の評価(特に先発明者出願主義(First inventor to file)あるいは「先発表主義」、および継続的な出願制度)、米国特許庁における経済分析課題の設定方針、米国特許庁への特許交付前の情報提供への誘因(特に有効性の推定規定の影響) 等の点について、質疑を行った。

文責は司会を務めた長岡貞男にある。