RIETI-JETROシンポジウム

貿易投資のグローバル・ガバナンス-自由貿易を守るために- (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2012年6月7日(木)10:00-17:30(受付開始9:30)
  • 会場:ジェトロ本部(東京) 5階 展示場ホール (港区赤坂1-12-32 アーク森ビル)
  • 議事概要

    WTOドーハ・ラウンドは、2001年の開始以来10 年を経過したが、2011年末のWTO閣僚会議でも終結の目処は立っていない。ヨーロッパを震源とする世界経済低迷が予想される中、自由貿易とグローバルな貿易システムを守るために何をなすべきか、真剣に議論し行動すべき時期にあるといえる。

    こうした中、RIETIとJETROは、WTOに体現されるマルチの貿易システム、バイ(FTA・RTA)、イッシューに着目したプルリ(複数国間)の合意について議論し、貿易投資のグローバル・ガバナンス実現の課題と処方箋を議論・提言することをめざし、シンポジウム「貿易投資のグローバル・ガバナンス」を開催した。

    来賓挨拶

    中根 康浩 (経済産業大臣政務官)

    国際貿易が転換期にあることを踏まえ、グローバルサプライチェーンの実態に即した貿易環境を実現すべきだ。ドーハ・ラウンドが難航し、FTA競争が加速化しても、世界的に効率的なサプライチェーンを築き、保護主義に対抗するルールに基づく貿易体制を構築する上でWTOの重要性は変わらないことから、ビジネスのニーズにシンクタンクの中長期的な視点を結合させ、今後の自由貿易の展望を見いだしていきたい。

    セッション1「WTOドーハ・ラウンドとWTO改革」

    報告1「WTOとラウンドの現状と見通し」

    アレハンドロ・ハラ (WTO事務次長)

    ドーハ・ラウンドは、2008年以降膠着し最終交渉の段階に進めない状況にある。その背景には、困難な決断を先送りさせる各国の国内政治事情があり、政治的な意志が求められている。ラウンド開始当時との大きな違いは、中国を初めとする新興国の台頭と、金融危機とそれによる保護主義の強化で、保護的措置の対象となる貿易の割合は、わずか1年の間に1%から3%に上昇している。

    ドーハ・ラウンドの問題は、加盟国の多さや、コンセンサスを必要とする意志決定プロセスにあるわけではない。パッケージを全て受け入れる一括受託方式は問題な点もあるが、今のところ代替策はない。ラウンドの必要性を認識し、グローバルサプライチェーンなどの新たな課題に対応できるよう、システムを進化させていくことが必要。よりよい政策に繋がるような意見を期待している。

    パネルディスカッション

    モデレータ:石毛 博行 (JETRO理事長 / RIETIコンサルティングフェロー)

    国際貿易の実態の変化に貿易交渉が対応できておらず、従来のやり方ではラウンド終結は望めない。変化の具体例としては、JETRO・アジア経済研究所とWTOの共同研究で発表した「付加価値貿易」の概念がある。付加価値貿易とは、商品の製造工程上の原産地国ではなく、その付加価値の源泉国に着目した概念である。

    現代の貿易構造は、こうした観点を考慮する必要があるにもかかわらず、貿易交渉は今でも原産地主義のみに依拠しているというズレが、通商交渉の問題点の1つになっている。具体的な論点としては、(1)WTOの従来の方式に代わるアプローチの可能性、(2)保護主義の動きをどう見るか、(3)産業界のWTOへの支持をどう確保するか、(4)RTA/FTAとWTOとの関係をどう見るか、を提示したい。

    金原 主幸 (日本経済団体連合会国際経済本部長)

    経団連としては、政府への提言や共同声明の発出を数多く行うなど、一貫してドーハ・ラウンドの推進を主張し活動し続けており、2006年6月の提言では、停滞を憂慮し、加盟各国の政府決断を求めている。しかし、交渉に進展が無い中、国内産業界のWTOに対する関心は薄れてきている。

    ジョアン・アギアル・マチャード (欧州委員会貿易総局次長)

    WTOの機能には、加盟国の政策の監視(モニタリング)、紛争の解決(司法)と交渉機能の3つがあり、ドーハ・ラウンドは3つめの交渉機能の問題。仮にドーハ・ラウンドが頓挫しても、WTOの存在意義が無くなるわけではない。交渉停滞の理由は中国、インドなど新興国の台頭。2001年には交渉の焦点は農業にあったが、今はサービスや鉱工業製品などの非農産品の市場アクセス(NAMA)の重要性が増し、ラウンドは当初の前提では解決できなくなっている。

    中富 道隆 (RIETI上席研究員 / 経済産業省通商政策局特別通商交渉官)

    基本的に、ラウンドの「遅さ」と「狭さ」が極めて問題となっており、それが産業界の興味を失わせる要因になっている。また、コンセンサス方式、一括受諾方式に基づく弱い意思決定メカニズムについても真剣に見直す時期にきている。なお、現在の紛争解決メカニズムは適切な立法機能なくして存続しえないことは明らかであり、ラウンドが死んでもWTOの紛争解決メカニズムが生き残るとは思えない。

    張 蘊嶺 (中国社会科学院 (CASS) 国際問題研究学部主任)

    世界情勢の変化に鑑みて交渉の焦点を農業から産業にシフトすべき。また、途上国の責任範囲を拡大する必要がある。中国はより大きな責任を負うよう圧力がかけられる一方、現実的には今なお発展途上の国であるというジレンマから明確な方向を示せないでいる。現状では、FTAやRTAがサプライチェーンの問題に対応しているが、付加価値貿易にはグローバルなシステムが必要である。

    黒田 淳一郎 (経済産業省通商政策局通商機構部総括参事官)

    FTAといった地域の取り組みも重要だが、WTOのグローバルなルールや司法機能、紛争解決メカニズムは他の協定で代替することはできない。一方で立法機能を改善する必要性について、保護主義が各国に及ぼすデメリットについて分析する必要がある。また貿易円滑化、情報技術協定(ITA)の拡大といった分野は、積極的に取り組んで成果を出すことが重要だ。中長期的には、産業界との連携強化が重要であり、それに関して現実と貿易交渉のギャップをいかに埋めるか、各国の政府が通商交渉を進める体制をどうすれば構築できるかといった議論を進めていく必要がある。

    * * * * *

    ハラ: 従来のやり方では通用しないことは明らかだが、モダリティーを全部変える必要はない。まずは、NAMAや農業はさておき、合意できる分野で合意を積み上げ、マルチ交渉に向けた政治決断を促す方法も考えられる。

    中富: 2011年の閣僚級会合において、一括受諾方式では成果が出ないという共通の認識に至っている。可能性のある分野はいろいろあり、連携して努力を進めるべき。

    張: 米国がドーハ・ラウンドに対する関心を失っているのは問題。米国はTPPに軸足を移しつつあるが、WTOの柔軟性を高めることで、そうした風向きを変えられるかもしれない。

    黒田: ITAは短期間に成果が出せる可能性がある。貿易円滑化も、利益をより具体的に示し、適切な財政的・技術的支援のあり方を議論すれば成果を出すことが可能。どこかでイッシューのリンケージの議論は出てくると思うので、産業界の支援も重要。

    石毛: WTOの停滞は誰の責任か。

    金原: 企業がルールづくりに関心がないのは、WTOは官の世界で民の世界ではないと認識されているため。経済界がWTOに関心を失っているのは不健全であり、企業側でもリーガルマインドを持つ必要がある。産業界の支援組織をつくるのも考慮に値する。

    セッション2「RTA・FTAの展望」

    報告1「アジア太平洋のRTA・FTAの展望」

    ジェフリー・J. ショット (ピーターソン国際経済研究所 (PIIE) シニアフェロー)

    ドーハ・ラウンドの停滞に伴い、貿易交渉の中心的な舞台がTPPに移っている。TPPは地域レベルの自由化に向けた主な推進力となると同時に、参加国同士の関係強化につながる戦略的価値がある。TPPはFTAAPの基礎であり、今後のアジア太平洋のFTAのコアになる。内容的には、ドーハ・ラウンドで落とされたものを拾っており、ラウンドの誤りを修正するもの。2012年中の合意を目指してはいるが、最短でも2013年になるのではないかとみている。

    TPPは日米の同盟関係を強化すると同時に、他の国との関係においても既存の2国間経済連携協定をアップグレードすることができる。米韓による貿易の反射的差別から逃れ、対等な競争環境での競争も可能となる。米国としても日本のTPP参加を強く歓迎したいが、日本国内における政治的支持が得られるか、その結果次第で日本が広範な例外措置を求める可能性を懸念している。たとえば郵政民営化法に関連した国有企業と民間企業の競争条件のルールや、農産品に関する広範な例外要求への懸念がある。

    報告2「欧州のアジア・太平洋のFTA戦略」

    ジョアン・アギアル・マチャード (欧州委員会貿易総局次長)

    EUの貿易政策は経済成長の加速に向けた2つのEU文書("Global Europe Communication 2006" および "Trade,Growth and World Affairs 2011")に基づいているが、それによると2015年には経済成長の90%がEU域外に由来するものとなり、EUの外需依存度はますます高まるとみられる。

    1995年から2010年にかけての貿易実績の推移をみると、EUは堅実に輸出シェアを維持している。EUはドーハ・ラウンドの成功を望んでいるが、交渉の停滞を受け、2006年を境にさまざまな枠組みでバイの交渉を立ち上げ、既に合意が締結されているものもある。また、中米との交渉も成功している。(図1)

    図1:Bilateral agreements-state of play
    図1:Bilateral agreements-state of play

    EU-韓国のFTAは非常に包括的なFTA合意の一例である。EUはこれまで地域単位での貿易協定に長年フォーカスしてきたが、こうしたアプローチには限界があるため、国単位での交渉も立ち上げている。現在は米国との高いレベルのFTA締結に向けて協議が進んでいる。インドとは進展あるが、まだ結果を予測するのは早計。ASEANについては、国毎の交渉に方針を転換し、ベトナムともまもなく交渉を開始する。しかし中国とは、FTAではなく投資協定を目指している。さらに日本とのスコーピング作業は先週成功裡に終了したので、交渉開始に向けて、加盟国から交渉マンデートを取り付けることとしており、マンデートが取れれば交渉に入れるとした。

    パネルディスカッション

    永田 理 (トヨタ自動車株式会社常務役員 (日本自動車工業会 国際委員長))

    日本の自動車市場が閉鎖的という指摘があるが、乗用車、トラックともに日本は無税だが米国は乗用車2.5%、トラックは25%の関税を課している。欧州メーカーは日本市場でシェアを獲得しており、むしろ商品開発、マーケティングといった総合的な企業努力が販売の結果につながっているのではないか。また、日本に自動車税体系が海外メーカーに対して非関税障壁となっているとして、欧州自動車工業会が改善を要望する日本の非関税措置6項目に軽自動車の税体系が含まれている。しかし、各国とも税体系はさまざまであり、内外無差別であるにもかかわらず、なぜ非関税障壁と主張するのかわからない。

    岡田 秀一 (経済産業省経済産業審議官)

    高いレベルの経済連携を目指すべく策定した「包括的経済連携に関する基本方針」に基づき、TPPについては、野田総理大臣の記者会見(2011年11月11日)の内容に沿って、日本は交渉参加に向けた関係国との協議を行っている。日本は既に過去のEPAで幅広い分野をカバーするルールを約束しており、TPPのルールの分野もほとんどが含まれている。TPP、日中韓FTA、日EU・EPAなどの取り組みが相互に刺激し合うことが期待されており、日本としては全方面で高いレベルの経済連携を目指している。

    山下 一仁 (RIETI上席研究員 / キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)

    日本と米国・EUとの農業政策の違いとして、欧米は直接支払いによる農業保護に政策を転換したのに対し、日本は相変わらず高関税により農業保護を図っており、直接支払いへの転換が必要だ。(図2)

    図2:フードセキュリティ
    図2:フードセキュリティ
    (注)○は採用、△は部分的に採用、×は不採用、●は日本のみ採用。

    輸出先の関税を撤廃するTPPは日本の輸出競争力を高めるもので、国内の食物の需要が高齢化や人口減少で縮小する中で、輸出需要を開拓できる自由貿易は、日本の農業資源の確保につながり、食料安全保障のカギになる。中小企業が広域の自由貿易圏から排除されるなど、TPPに参加しないことのデメリットを積極的に提示すべき時期に来ているのではないか。

    張 蘊嶺 (中国社会科学院 (CASS) 国際問題研究学部主任)

    東アジアは成長センターたるべきであり、生産ネットワークが重要。日中韓FTAは東アジアを包括する経済連携の推進力となるかもしれないが、これは政治的合意次第である。TPPはFTAAPに向けた1つの動きで、日中韓などと並行して動くことは歓迎しており、中国はその動きを細かく注視している、ただし、中国としては米国・EUとFTAを結ぶことは当面考えられないため、東アジアに期待をかけている。

    モデレータ:深川 由起子 (早稲田大学政治経済学部教授)

    米国がハブ・アンド・スポーク型の米国中心の考え方を変えることは可能か。

    ショット: 米国は世界の中心とは考えていないが、他方で国益を実現できる対外レジームの構築を目指していることは確かである。また、永田常務の見解については、ワシントンでは広く理解されているが、他方で排ガス規制のような論点は、議論して調和させる必要がある。

    マチャード: FTAは市場開放を目的としており、将来的にWTO合意を形成するための布石となり得る。米EU間のFTA交渉に関しては、マーケットアクセスの向上を目指すもので、調和作業に留まるであろうTPP以上の成果を期待している。

    岡田: TPP、日中韓FTA、日EU・EPAなどの各取組が相互に刺激しあうことが期待されており、日本としては全方面で高いレベルの経済連携を目指して取り組んでいく。

    山下: TPPに日本が入らない場合のデメリットについて議論するべき時期が来ている。たとえば、大企業がFTAの整備された外国に生産拠点を移転した場合、原産地規則の計算に組み込めない日本の中小企業は取引先が無くなる。

    セッション3「プルリ合意とグローバル・ガバナンス」

    報告1「プルリ合意とグローバル・ガバナンス」

    中富 道隆 (RIETI上席研究員 / 経済産業省通商政策局特別通商交渉官)

    1997年のITA、金融サービス合意、テレコミサービス合意に加えて、2011年に模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)が署名され、今後さまざまなイッシューベースのプルリ合意が動き出す可能性がある。(図3)WTOは各国あるいは産業界が抱える問題に正面から向き合う必要があるが、プルリ合意はメンバー国のvariable geometryに対応するための重要なツールとなる。FTAに関しても、ルールの「スパゲティ・ボウル現象」が起こる可能性があるため、プルリを「FTAと並ぶ自由化・ルールづくりの重要なツール」として使いこなしていくことが必要。

    図3:複数国間合意(プルリ合意)
    図3:複数国間合意(プルリ合意)
    *イッシューベースの複数国間合意について、本稿では、通商ルール作り・自由化への貢献という観点から、3か国以上のものを検討の対象とする。

    更に、プルリ合意の特質として、限界はあるものの、WTOにおける意思決定の困難を回避することができる、新しい産業界ニーズに早期に対応できる、将来のマルチルールに向けた準備ができる、といった点が挙げられる。内容的制約としては、クリティカルマスをどのようにつくるかが大切で、「目標水準」、「参加国メンバー」、「期限」の3つの軸を常に考える必要がある。WTO、FTA、イシューベースのプルリ合意の制度間競争の時代が始まっており、イシューベースのプルリ合意を使いこなす必要性が高まっている。投資、競争、電子商取引、基準認証等の様々な分野で、今後プルリ合意の可能性がある。

    報告2「ITAの拡大とIDEA構想」

    ホースク・リー・マキヤマ (欧州国際政治経済研究所 (ECIPE) ディレクター)

    WTOの情報技術協定(ITA)は、WTOの枠組みにおける貿易自由化の中で最も意義深いもの。中国とアセアン諸国の台頭によって、巨大な供給ネットワークが構築されつつあり、いまやIT産業において途上国が世界貿易の75%に関与するまでとなっている。ITAは富裕国と貧困国との格差を埋めることに一定の成功を収めているが、対象製品の拡大(ITA2)に関する交渉は難航し、ここ15年のプロダクトサイクルや技術革新に追いつけないでいる。

    具体的な政策的課題としては、製品の多機能化と情報サービス依存製品(情報サービスに接続しなければ使えない製品)への移行などがある。WTOのルールが及ばないところで新たな貿易障壁が生まれており、たとえばスマートフォンでは、リチウムイオン電池やスマートフォン関連サービス、また、ネットワークインフラへのアクセス、OS、アプリケーションがITAの対象外である。

    報告3「プルリ合意と途上国」

    押川 舞香 (WTO参事官)

    WTO協定は、annex4協定など一定の場合に加盟国の一部がプルリ合意を形成することを容認している。しかしながら、途上国グループのほとんどはプルリ合意に反対するか、慎重な対応をとっている。マルチ合意を迂回するようなやり方に対して警戒しているのだ。中富氏が指摘するプルリ合意を支持する理由は、そのままプルリ合意に対し途上国が懸念を持つ理由ともなる。一方でマルチに向けた別のアプローチの必要性を認識し、模索している国もある。たとえばISAに関しては、BRICs諸国がドーハ・ラウンドにおけるトレードオフの切り札がなくなることを懸念する一方、G-90は情報不足と蚊帳の外に置かれる可能性を危惧している。また、ACTAについては、プロセスが不透明で、マルチのプロセスを迂回するものだとの批判がある。

    プルリ合意に関する最近の議論がWTO協議を後押ししている面もあるが、前向きなのは主に先進国である。プルリ合意に正当性を持たせるには途上国の参加が不可欠であり、途上国自らの利益に合致するようにプルリ合意をつくり上げること、透明性やキャパシティービルディングを確保すること、将来のマルチルールの基礎をつくるとの方向性が重要。小国に対しては特例を設けることも考えられる。

    パネルディスカッション

    モデレータ:小寺 彰 (RIETIファカルティフェロー / 東京大学大学院総合文化研究科教授)

    国連や気候変動枠組み条約など、100カ国以上の多国間での合意形成が困難になるのは、WTOに限ったことではない。FTAでは、サプライチェーンのグローバル化に対応するようなグローバルなルールはつくれないので、WTOの重要性には変わりがない。その方策の1つとして、プルリの合意形成はどの程度有用なのか。

    ショット: ITAへの支持が強いのはそれが経済のインフラに関するものだからだ。こうしたプルリ合意では主要国が大きな制度変更を求められるケースは少なく、途上国側にとっては投資を呼び込み、経済活動を底上げする機会となる。このようにすでに各国が対応していることを上書きしていくプルリ合意は比較的容易だが、国有企業のガバナンス、貿易と為替レートの関連、気候変動などの経済インフラになっていない分野のプルリ合意は、より困難である。国際サービス協定(ISA)は、雇用創出効果が高く、他のセクターへの波及効果が大きいことから重要なので、WTOのアクションプランに盛り込むべき。

    岡田: ITAは製品が短期間に進歩するため、ビジネスに追いつくには広範な対応が必要。途上国の参加に関しては、途上国の利益に訴えることが重要。それぞれの国益に応じた分析を各国際機関等と連携して進め、議論していきたい。

    中富: できればWTO枠内での合意形成が望ましいが、動かない場合は枠外でやることも必要。広域FTAとイッシュー別のプルリ合意は、ともに世界貿易ルールの基礎づくりになるし、将来のマルチルールの基礎をつくるとの方向性が重要。

    押川: 交渉を前に進めるためには、途上国に魅力的な条件を出す必要がある。WTOとしても努力できる余地はあるが、途上国側でも考え方を改める必要がある、そのうちいくつかの国が交渉に参加するようになれば途上国の考え方も変わるかもしれない。