ワークショップ

Workshop on the Use of FTAs in East Asia (議事概要)

イベント概要

  • Time and Date: 10:00 - 17:15, Friday, March 26, 2010
  • Venue: Room 1121/1119, RIETI , Tokyo, Japan
  • Moderator: URATA Shujiro (RIETI and Waseda University)
  • 自由貿易協定(FTA)の貿易への効果を分析することを目的とするRIETIの「FTAの効果に関する研究プロジェクト」(プロジェクトリーダー:浦田秀次郎FF(早稲田大学))は、2010年3月26日"Workshop on the Use of FTA in East Asia"を開催した。中国、韓国、タイ、豪州、日本それぞれの国から研究者の参加を得て、各国のFTA利用度に関する分析に基づいた活発な意見交換が行われた本ワークショップの概要を、浦田FFにご紹介いただく。

    議事概要

    特定の国との貿易における障壁を撤廃する自由貿易協定(FTA)は近年急増している。世界貿易機関(WTO)の下での多角的貿易交渉が暗礁に乗り上げている状況のなかで、貿易自由化で輸出市場の拡大を目指す国々はFTAを積極的に進めている。東アジアでは、他の地域と比べるとFTAへの関心の高まりは遅かったが、21世紀に入ってから、多くの国々が活発にFTAを設立するようになった。FTAが発効したからといって、FTA相手国との貿易が自動的に自由(無税)になるわけではない。当該商品がFTA相手国で生産されたことを証明する原産地証明を取得しなければ自由貿易にはならない。原産地証明がなければFTA相手国以外で生産された商品がFTA相手国を経由して無税で輸入されてしまうので、FTAの目的である特定の国(FTA相手国)を優遇することができなくなってしまう。

    FTA急増の状況を踏まえて、本ワークショップでは東アジア諸国におけるFTAの利用度を検証した。FTA利用度については、FTAを利用した貿易についての公式統計が存在するタイ、韓国、豪州についての分析と企業に対するアンケート調査を実施することでFTAの利用についての情報を収集した韓国、日本、中国についての分析が発表された。

    韓国での利用 "Business Use of FTAs in Korea"

    CHEONG Inkyo (Inha University)
    KIM Hansung and CHO Jungran (共著)

    韓国の通関統計から入手した原産地証明書の使用有無を調査することでFTA純利用度を推計した。韓国の輸入に関する分析結果からはチリとのFTAの利用度は90%以上と高いが、シンガポールは30%、欧州自由貿易連合(EFTA)とASEANは双方とも43%とそれほど高くないことが分かった。また、韓国のチリへの輸出については純利用度97%と極めて高い値であった。

    タイでの利用 "Exporters' Response to FTA Tariff Preferences: Evidence from Thailand"

    Archanun KOHPAIBOON (Thammasat University)

    タイの特恵貿易統計を用いて、工業製品輸出におけるFTAの利用度およびその決定要因について分析した。分析対象はAFTA(ASEAN自由貿易地域)、日本および豪州とのFTAである。AFTAに関しては、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムへの輸出を分析した。FTA利用度については、豪州とのFTAが63%と最も高く、日本とのFTAは23%と最も低い。日本とのFTAでの利用度が低い理由としては発効後の期間が短かったことが挙げられている。FTA利用度については一部の商品に集中していることが、すべてのFTAについて観察されている。

    FTAの利用度の決定因に関する統計的分析からは、興味深い結果が得られた。第1に、原産地証明を取得する費用は関税率に換算すると5~8%に相当するという分析結果である。これはFTAによる関税削減率が5~8%なければFTA利用によるメリットは発生しないということを意味している。第2に、FTA利用度は、FTA発効前にある程度の輸出が行われていた商品において高いという関係が認められた。第3に、FTA利用度はタイ国内の大企業で高いこと、また世界生産システムに組み入れられているような商品(部品)で低いことが示された。これらの観察結果は、原産地証明取得にかかる費用を中小企業は負担しづらいこと、また、外国企業は関税率が近年引き下げられている部品などを中心に世界生産システムの下で貿易を行っており、FTAを利用することによるメリットがないことを示唆している。

    筆者は分析結果からFTA利用度を引き上げるための政策的含意を導出している。第1は、貿易額が大きな国とFTAを結ぶこと、第2には、原産地証明取得費用を引き下げる必要があるということ、第3には、企業の属性にあった対応が必要なことである。

    中国での利用 "China's FTA Strategy and Impact on Trade"

    ZHANG Yunling (Chinese Academy of Social Sciences)

    中国企業に対して聞き取り調査およびアンケート調査を行い、その結果を用いて、FTA利用度を計測するとともにFTA利用における問題点などを明らかにした。聞き取り調査は232の企業を対象として2008年に行われた。一方、アンケート調査は436企業を対象として2009年に行われた。FTA利用度については、同じFTAに関して08年よりも09年に高い利用度が観察されている。たとえば、ASEAN・中国FTAの利用度は08年には29%であったが、09年には36%へと上昇している。香港、マカオ、チリ、ニュージーランドなどとのFTAについても、利用度はASEANとのFTAほど高くはないが上昇傾向がみられた。FTAに関する情報が浸透するには時間がかかるということを示している。

    オーストラリアでの利用 "Utilization of Australia's Free Trade Agreements"

    Richard POMFRET (The University of Adelaide)
    Uwe KAUFMANN and Christopher FINDLAY (共著)

    ニュージーランド(NZ)、太平洋島嶼国、シンガポール、タイ、米国、チリとのFTAについて豪州税関により収集された統計を用いてFTA利用度を計測した。FTA利用度の計測に当たっては2種類の指標を用いた。2指標とも分子はFTA優遇措置を受けた輸入品の金額であるが、分母が異なっている。1つの指標(粗利用度)は全輸入額を分母として計測するのに対して、もう一方の指標(純利用度)は全輸入額からゼロ関税による輸入金額を除いた有税品のみについての輸入金額を用いた。粗利用度については、3%(シンガポール)から50%(NZ)と大きな幅があるが、純利用度は72%(米国)から99%(太平洋島嶼諸国)とかなり高い数字になっている。これらの分析結果はFTA利用度を計測する際に、計測方法に注意する必要があることを示している。

    日本での利用 "The Impacts of Japan-Mexico FTA on Bilateral Trade"

    浦田秀次郎 (ファカルティフェロー/早稲田大学)
    安藤光代 (慶應義塾大学)

    日本・メキシコ(墨)FTAを取り上げ、日本企業によるFTA利用度を測定するとともに、利用における問題点を分析した。分析にはメキシコとの貿易があった日本企業(輸出では189企業、輸入では50企業)を対象として2008年に行われたアンケート調査の結果を用いた。FTA利用度は輸出については28%、輸入については58%であった。商品別に見ると、輸出では輸送機械、一般機械、電子機械、鉄鋼製品などメキシコでの高関税製品の割合が高い。輸入については高い最恵国待遇輸入関税が課されている食料品の割合が高い。この分析結果は、予想されるようにFTAはFTA優遇率が高い商品において利用されていることを示しており、Kohpaiboonのタイに関する分析結果と整合的である。

    日本、中国、韓国のFTAに関するアンケート調査を用いた分析では、FTA利用の問題点についての情報を得た。回答からは共通する問題が明らかになった。具体的には、FTAについての情報不足、特に原産地規則・証明についての情報不足、高い原産地証明取得費用、低いFTA優遇率などが指摘された。また、輸入でのFTA利用の問題点としては、輸出業者との調整の問題が挙げられている。

    FTAの目的である貿易拡大の実現のためには、FTA利用度を引き上げる必要があるが、そのためには、上記の分析から明らかになったような原産地規則に関する問題などを政府と民間が協力する形で解消しなければならない。