RIETI-京都大学共催公開政策シンポジウム

多様性、国際化、イノベーション:中小企業政策の新しい視点 (議事概要)

イベント概要

議事概要

趣旨説明

八代 尚光 (京都大学経済研究所先端政策分析研究センター准教授/RIETIコンサルティングフェロー)

日本企業にとっての国際化の意味

国際化は日本企業にとって単なる追加需要の獲得以上の意味を持っている。海外市場との接触は、新製品の開発や技術・品質の向上、さらには現地消費者の嗜好・ニーズを汲んだブランド戦略の開発といった広い意味でのイノベーションをもたらす可能性がある。

国際化とイノベーションの好循環

海外進出している中小企業の割合は大企業より低いが、同時に輸出企業数に占める中小企業の割合は高い。高い可能性を有する中小企業が国際化し、これを機会にイノベーションを活性化させること、これにより海外市場をさらに取り込み国際化企業としての地位を確立するような、「国際化とイノベーションの好循環」の実現が重要ではないか。本日はこのような、中小企業政策をめぐる議論においてこれまであまり注目されてこなかったテーマについて議論を深めていきたい。

基調講演

「国際化・イノベーションと中小企業-企業の異質性を重視せよ-」

若杉 隆平 (京都大学経済研究所教授/RIETI研究主幹兼ファカルティフェロー)

国際化する企業の異質性

近年は国際経済学を中心に企業の異質性を重視する研究が増えている。異質性という観点から中小企業の国際化とイノベーションを見る場合、企業レベルの生産性の差異が重要な要素となる。主要な輸出企業は大企業であるが、大企業であることが国際化の要件なのではなく、生産性が高い企業は安価な製品が供給できるため企業規模が拡大すると考えるべき。また、国際化には参入費用がかかるため、これをカバーできる生産性が高い企業が国際化する。

イノベーションと企業の異質性

他方、企業の生産性は一定ではない。現時点で生産性が低い企業は、今日の資源を一部犠牲にして新しい技術を導入する機会費用が生産性の高い企業よりも小さいため、積極的な技術革新により来期はリーダーに躍り出る可能性がある。中小企業は大企業より身軽な分、そのイノベーションの可能性は大きい。RIETIによる『産学官連携の実態調査』によれば、20人以下の中小企業による研究開発密度は非常に高い。

迅速なグローバル市場への展開を

購買力平価(PPP)で変換した日本のGDPは、中国の半分、アメリカの3分の1。1人当たりGDPは世界で24位である。日本の市場規模はもはや国際的に見てそれほど大きくない。技術の陳腐化のスピードが速い現在、国内市場である程度成功してから海外進出するという従来の考え方ではなく、迅速な新技術の導入とグローバル市場への参入をはたすことが企業の成長にとって重要。日本経済の活性化にも、古い技術の維持より異質性の高い企業による新しい技術の事業化、迅速な国際展開が重要になる。政策的には、現在の利潤を犠牲にしてでも新しい技術にチャレンジすることを促進することに意義がある。

講演

(1)「中小企業の海外進出とイノベーションの実態」

丸屋 豊二郎 (JETRO理事)

中小企業の海外進出の傾向と進出支援の意義

中小企業の生産性は一般的に大企業より低いため、中小企業の海外進出を進める上では、海外市場への参入費用を政策的に低下させることが必要である。中小企業基盤機構の『中小企業海外事業活動実態調査』によれば、海外に現地進出している中小企業のうち67%が中国に進出しており、これにASEANを加えたアジアへの進出企業は約8割を占める。ほとんどの現地拠点には生産もしくは販売機能があるが、R&D拠点としての機能は少ない。

海外進出の実態と課題

中小企業の海外進出の実態を、衣料・繊維、食品、金型と自動車部品の4つの産業について解説する。衣料・繊維は安価な労働力を求めて中国等に進出した経緯があるが、最近ではデザインから素材までワンセットとなった製品提案を商社等に行う企業が現れている。今後は技術力の高いメーカーと企画力のあるパートナーが組んだ進出が見込まれる。食の安心・安全に対する要求が中国でも高まる中で、食品系の企業による進出は増加しているが、現地の商慣行等により大きな初期費用を要する。金型はもともと電機メーカーの中国等への進出に伴う形で2000年代に現地進出したが、現地における金型の基盤が脆弱であるため、日系のみならず現地販路も拡大している。中国における自動車部品の進出は今のところ日系メーカーへの納入が主だが、今後ローカル企業の調達への食い込みが期待され、より幅広い部品メーカーの進出も見込まれる。

海外進出支援の今後

日本貿易振興機構(JETRO)は、中小企業の海外支援を海外展開のプロセスに沿ってきめ細かく支援している。他方、現時点では海外進出後の支援施策の層が薄く、進出先での事業拡大、あるいは第三国への展開支援といった分野を今後拡充する必要があると考えている。

(2)「臥龍企業の海外進出に向けて」

戸堂 康之 (東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻准教授/RIETIファカルティフェロー)

国際化と日本経済

日本経済が輸出依存経済であるとして国際化の意義を疑問視する向きもあるが、日本の過去数十年の停滞は、対内直接投資やR&D活動の海外展開を含む、広い意味の国際化の不足によるものだ。

「臥龍企業」の存在

企業の国際化においては生産性だけではなく、情報の収集力とか資金調達力等の色々な要因が重要となる。現実には生産性が高いにもかかわらず、輸出も直接投資もしていない企業(「臥龍企業」)が非常に多く存在する。アンケート調査(「国際化と企業活動に関するアンケート調査」三菱UFJリサーチ&コンサルティング)の結果から、国際化した企業と国際化していない企業を比較すると、従業員の大卒割合や海外における個人的つての有無といった要素に差が見られた。他方、国際化しない理由としては、実は資金不足や人材不足ではなく、「必要性を感じない」という回答がとびぬけて多かった。

国際化支援策

ある企業の国際化は、海外進出の情報の伝搬により他の企業の国際化障壁を下げる外部性をもつ。他方、アンケート結果によれば、ほとんどの非国際化企業は国際化支援策を利用しておらず、国際化企業も一連の支援策について情報が入手しにくい等の問題をなげかけている。既存の国際化支援施策の効果を科学的手法で検証することが必要と考えられる。また、インターネットに過度に依存しない情報提供や、情報が企業間でシェアされるネットワークの形成支援が重要だ。

フロアとの質疑応答

フロアからは、中小企業が迅速な新技術の導入やグローバル市場への参入を果たすことは既存のリーダーシップの下では容易ではなく体質転換が必要ではないか、生産性の高い企業が国際化するだけでなく、国際化により国内市場の制約を超えた生産規模を実現することにより生産性を高めた企業も多いのではないかという指摘があった。また、現地進出企業における留学生および現地の高度外国人人材の活用を支援する施策等について質問が寄せられたほか、日本の中小企業の国際化だけではなく、海外の優秀な中小企業を日本に呼び込み日本化させることも重要であるとの問題提議もなされた。

パネルディスカッション「国際化とイノベーションの好循環を支援する中小企業政策とは」

議題1.国際化企業として高い可能性を有する中小企業が海外進出に成功するため、また海外進出をイノベーションにつなげるためには、中小企業によるどのような要素や取り組みが必要なのか?

戸堂 康之 (東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻准教授/RIETIファカルティフェロー)

生産性が高いにもかかわらず国際化しない中小企業の中には、そもそも国際化は必要ないと考えている企業が多く、こうした企業をいかにして国際化させるのかが日本経済の再生にとってかぎとなる。

丸屋 豊二郎 (JETRO理事)

中小企業が海外進出し、成功するための条件は次の4点である。(1)日本の商品をそのまま持っていくのではなく、現地市場のニーズに合わせた機能や仕様の調整を行うこと、(2)日本と海外におけるビジネスの違いをよく認識し、信頼できる人材への権限の移譲等、現地の意向をよく汲める組織づくりをすること、(3)現地人を上手に活用し、現地人の特性を見抜いてそれを生かすこと、(4)経営者のトップがよく練られた海外進出のビジョンと戦略を持つこと。

松浦 正則 ((株)松浦機械製作所会長)

松浦機械の経験では、米国への輸出できる有力製品であった縦型マシニングセンタの開発に3年半かけたほか、6年かけて急激な市況の変動に耐えられる財務体質を作った。海外進出を成功させるためには正確な情報が不可欠であり、これを持っているトップへのアクセスが重要である。「ノウハウ」ではなく、「ノウフー」(誰を知っているか)が決め手になる。当社の場合、メソッド社という良きパートナーに恵まれたことが、米国市場に合わせた製品開発において重要な役割を果たした。時代の変化に迅速に適応できるためのネットワーク、人材、人脈を持つことが大切である。

伊藤 恵子 (専修大学経済学部准教授)

国際化とイノベーションは企業の成長において補完的な効果を有する。R&D投資を行っている企業はそうでない企業に対し、輸出を開始した後の生産性の成長率が高い。技術知識の蓄積のある企業は海外進出に成功する可能性が高いだけでなく、海外市場との接触をイノベーションにつなげやすい。他方、大企業と比較し中小企業はR&D投資と国際化の両方を行う負担が大きいため、技術知識の蓄積のある中小企業の海外進出を支援することは政策的に意義がある。

佐藤 樹一郎 (中小企業庁次長)

新興国あるいは欧米諸国等の市場を取り込んでいくことや、世界規模の生産ネットワークを活用する観点から、中小企業の海外展開は非常に重要であると認識している。中小企業の海外展開においては、海外情報の獲得、販路開拓、国際競争に対応できるブランド戦略、人材の育成の4点が重要な課題である。これに対応する主要な施策として、成功事例や各国の制度・手続の情報提供や進出候補地に対するミッション派遣等の情報収集支援、パリやニューヨーク等の現地企業と日本企業の提携を支援するマッチング等の販路開拓支援、新商品、デザインの開発とブランド化の支援、海外人材への生産管理や品質管理等に関する研修等を行っている。

議題2.中小企業の国際化とイノベーションの好循環の形成を支援するためには、どのような政策が必要なのか

戸堂 康之 (東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻准教授/RIETIファカルティフェロー)

企業の国際化にはネットワークの構築が大事だが、中小企業にとってこれは容易ではなく、政策的支援が望まれる。国際化支援策として行われていることは多いが、それでも国際化の必要性を感じない臥龍企業が存在することは革新的なアプローチの必要性を示唆する。FTAや規制緩和の推進等、企業が国際化に目を向ける経済環境を作るマクロ経済政策も重要だ。国際化とイノベーションの好循環により企業の生産性が上昇し、他の企業への波及により日本全体の生産性も上昇すると考えられ、生産性が高い国内企業の国際化を促進する政策的意義は高い。

丸屋 豊二郎 (JETRO理事)

中小企業の国際化に関する支援策の今後の課題は、(1)海外進出後の事業拡大支援の拡充、(2)FTAを背景に増加が見込まれる外‐外の第三国間事業展開の支援、すなわち現地から第三国への輸出、進出促進の支援だと考えている。また、(3)経営資源に限りある中小企業が、マーケティングやデザインを行うパートナーとアライアンスを形成し海外進出することを支援できないか。実際に台湾企業のミッション団から、技術を持ちながら海外アクセスのない日本の中小企業とのマッチングを強く要望された。

松浦 正則 ((株)松浦機械製作所会長)

中小企業が国際化を成功させる上でやはり一番大事なのは、トップが外向きの感性を磨くことだ。とりわけ、現地に行って観察することが重要だ。また、良いものを作るだけでは不十分であり、それを海外で売れるマーケティング能力が必要。グローバル化とIT化により、工業製品は今や生鮮食品並みの速度で陳腐化する。高いコストをかけても世界市場に常に最新モデルを送り込むことをたとえば韓国は行っている。こうした中で、ナンバー1であることよりオンリー1であること、また、分野の拡大よりは深掘りが重要であると考えている。さらに独自のブランド確立や人材育成ももちろん大事であり、海外で喧嘩できるだけのコミュニケーション能力を持つ後継者を育てなければならない。

伊藤 恵子 (専修大学経済学部准教授)

国際化のリスクをとる中小企業が失敗した場合の、セーフティネットや再チャレンジ支援が十分でないのではないか。複数の中小企業がアライアンスやファンド等を組み、どれか1つの企業が成功した場合にアライアンスに参加している他の企業もリターンを得る一方、失敗した場合のリスクをうまくヘッジし、再チャレンジができるような仕組みを政策的に支援していくことが重要だと考えられる。

佐藤 樹一郎 (中小企業庁次長)

JETROをはじめさまざまな機関が中小企業の海外進出を支援しているが、支援機関の間の連携強化がより高い政策効果にとって重要だと考えられる。なお、国内には中小企業が信頼できる技術や情報を得られる集積拠点がいくつかあり、こうした拠点に留まる利点と海外展開のメリットを比較考慮しているのではないか。その意味で、企業の海外移転に伴いこうした集積の密度が低下している現状は重要な論点である。

八代 尚光 (京都大学経済研究所先端政策分析研究センター准教授/RIETIコンサルティングフェロー) モデレータ

国際化を志向する中小企業にとって本質的な課題でありながら、既存の施策が届いていない要素があると考えられる。たとえば、国際化には情報収集のみならず、国際市況の変動に耐えうる頑健な財務体質の整備といった地道で時間のかかる取り組みが必要である場合、海外進出自体のかなり前の段階まで支援の範囲を広げる必要があるのではないか。また、海外進出をイノベーションにつなげる上では、海外進出した後の事業支援の強化こそが重要な役割を果たすと考えられる。

フロアとの質疑応答

フロアからは、松浦機械製作所の米国への輸出開始時期における米国との相対的技術水準について質問が寄せられ、松浦会長から、機械の性能自体は入り口レベルであった一方、エレクトロニクスとの融合により自動化したマシニングセンタを供給できたことが成功に寄与したとの経験が披露された。また、日本企業の国際化の経路として海外企業による買収の可能性が指摘され、パネリストからは、外資参入の活性化は新しい知識と雇用機会および技術の多様性に寄与するため基本的に望ましいとの見解が示された。また、海外企業による中小企業の買収に対し日本企業が危機感を持つと、中小企業の持っている技術力をしっかり評価しようという動きが高まる可能性も言及された。