DRC‐RIETIワークショップ

中国の経済成長とグローバル化 (議事概要)

イベント概要

議事概要

1. 冒頭

  • 藤田昌久経済産業研究所長より開会の挨拶。中国国務院発展研究中心陳小洪企業研究所長と許召元企業研究所助理研究員の訪日と、経済産業研究所(以下RIETI)と中国国務院発展研究中心(以下DRC)との共同研究協定に基づく最初の成果報告を歓迎し、両研究機関の今後の一層の交流、共同研究の深化のきっかけとなることを期待する。
  • 若杉隆平経済産業研究所研究主幹より、RIETIとDRCの共同研究の趣旨とその主なテーマを紹介。日中米を巡る近年の国際貿易の拡大には、日本企業の中国へのアウトソーシングの増加など企業行動が大きく寄与している。企業の直接投資・アウトソーシングを通じて日中間のミクロ面での経済統合が急速に進んでいる。中国の経済成長と国際貿易を分析する際には、企業レベルでの分析が不可欠である。DRCとの共同研究は、企業レベルデータを活用し、中国企業のイノベーションや国際化が、中国の経済産業の発展にどのように寄与しているのかを実証的に明らかにすることを主眼としている。

2. セッション1「世界不況下の中国経済と貿易」

(1)「中国の金融危機対応政策措置及び現下の経済情勢」

陳 小洪 (DRC企業研究所所長)

  • 中国の資本市場は対外的に依然規制されているため、結果的に中国の金融へのサブプライム・ローン問題による直接的被害は限定的。他方、中国の輸出への金融危機の影響は大きい。2008年の輸出は対前年比マイナス8.5%の大幅減となったが、機械製品の輸出が大幅に減少する一方で、衣類等の労働集約的な財輸出は増加を維持する等、産業毎に影響は一様ではない。こうした外的ショックに加え、中国経済は2004年から2006年までの景気過熱の調整局面にもある。
  • 金融危機への対策として、中国政府は過去に類を見ない規模の貸し出し増加と2年間で総額4兆元の政府支出を実施。支出内容は主に低所得者、農村対策やインフラ整備、環境対策等。また、年間5000億元の負担減が見込まれる構造的減税や、鉄鋼、自動車をはじめとする10の重点産業における中国企業のイノベーションと競争力強化を目的とする産業調整振興計画を制定。
  • 中国経済は回復の兆しも見えるが、輸出や企業収益の先行きは不明瞭であり、注視が必要。個人的には2009年の実質成長率目標8%の達成は可能と考える。その理由は、都市化の進展に伴う都市部の住宅やインフラへの巨大な需要や、中国政府が注力している社会保障制度の整備に伴う家計消費の拡大が見込まれること。

(2)「世界同時不況と中国・日本の貿易依存関係」

若杉 隆平 (RIETI研究主幹・ファカルティフェロー/京都大学経済研究所教授)

  • 金融危機後の米国の輸入は急減しており、各国とも多かれ少なかれその影響を受けているが、とりわけ日本からの輸入は大きく減少。この背景には、日本の米国向け輸出に大きな比重を占める自動車の顕著な輸入減少がある。日本の主要輸出産業であり、裾野も広い自動車産業における米国需要ショックは、日本の産業にも大きな影響を与えた。
  • 日本の米国向けの輸出を品目数と一品目当たりの輸出額に分けて観察すると、輸出品目が趨勢的に低下する一方で一品目当たり輸出額は上昇しており、日本の米国向け輸出が限られた高付加価値品目に集中していたことを示唆。こうした傾向は金融危機後の米国需要減退によって暗転し、負の影響を大きくした可能性がある。
  • 日中間では、比較優位構造が日米貿易のそれと異なる一方、垂直的な産業内貿易が拡大している。米国需要ショックがこうした産業内貿易を通じて日中間の貿易にも影響を及ぼしていると考えられる。日中間の貿易は企業レベルで高い統合化が進んでいる。
  • 金融危機とそれに続く世界貿易のショックの背景には、累積的な米国の経常収支赤字・過小貯蓄、中国の経常収支黒字、日本の所得収支黒字がある。東アジア地域は今後巨大な中産階級の出現により、世界の工場から世界の消費市場となることが予想される。日本の貿易収支の赤字化に留意が必要であるが、国際的に偏在するマクロ・インバランスの是正は世界貿易の不安定性を回避する上で重要である。
  • 日本・中国は東アジアの成長のための資本・技術・市場の提供において重要な役割を果たす国。ミクロ的統合が進む日中間での貿易・投資に関する研究課題は多い。

3. セッション2「中国国内産業の経済成長」

(1)「中国企業のイノベーション:メカニズム、能力及び戦略」

陳 小洪 (DRC企業研究所所長)

  • 1978年の企業改革以降、中国のイノベーションの担い手は民間企業となり、国家計画から市場における需要や競争圧力を受けた個々の経営者の発意に基づいて行われている。イノベーションを取り巻く市場環境は産業ごとに大きく異なり、代表的中国企業のイノベーション能力もばらつきがある。鉄鋼では技術開発力の高い宝鋼のような企業がいるが、IT分野はまだ未成熟。大規模な投資が必要となる産業では、資金不足がしばしばイノベーションを制約する問題となっている。
  • 中国企業のイノベーション能力には依然として外国企業との格差がある。代表的企業の研究開発費は外国の主要企業と比較して、規模、売上高比率ともに低い。90年代後期までは中国企業のイノベーションは製品開発を主とし、基礎研究は少なかった。90年代後期になると、中国企業の研究開発体制の整備が進み、応用研究が盛んになったほか、イノベーションのネットワークが海外にも展開。2006年以降、中国政府は企業を中心に据えた市場志向のイノベーション政策を展開。日本の政策を参考にしたものであり、今後数年にわたり多大な資金を投入する予定。
  • 中国企業のイノベーション戦略は集積型、改良型イノベーションが中心。市場志向、トップのイノベーションへの意思とガバナンスが成功の鍵であると考えられる。

(2)「Introduction of Chinese Enterprises' R&D Activity」

許 召元 (DRC企業研究所助理研究員)

  • 中国企業のR&D投資はここ数年、毎年20%近い成長率で増加しており、中国経済の成長への寄与は今後ますます強まる見通し。中国のR&D支出額の対GDP比は2006年時点で1.4%。OECD諸国と比較すると低いものの、他のBRICs諸国との対比では高い。中国のR&Dの57%が大中規模の民間企業によるもの。近年はR&D投資のみならず、これに関連する技術革新や技術吸収努力にかかる支出も顕著に増加。
  • 今回、RIETIとの共同研究で用いるデータはともに国家統計局が集計したもので、1つは売上高500万元以上の国有および非国有の大中規模企業に関するデータ(「規模以上工業企業統計」)。これらの企業は全中国企業の約20%程度だが、産業生産の9割近くを生産し、産業雇用の7割近くを占める。もう1つのデータは「大中型工業企業科学技術活動統計」で、大中規模企業のR&D投資や技術購入等の科学技術活動について、39産業、31地域に加え所有形態別に分けた毎年2500近い観測数を有する。これによると、外資企業のR&D投資の対売上高比率は総じて国内企業と近い水準。

(3)「中国の産業は知識のスピルオーバーから利益を得ているか?」

八代 尚光 (RIETIコンサルティングフェロー/京都大学経済研究所准教授)
伊藤 萬里 (RIETI研究員/専修大学経済学部専任講師)

  • 近年急増している中国のR&Dにおいては、その7割は国内企業によるものだが、外資系企業の比重が急速に増している。この共同研究では、中国企業の旺盛な研究開発投資が経済発展にどの程度寄与しているか、外資企業の研究開発活動が中国産業にどのような波及効果を持つのかを解明し、中国の今後の外資政策、R&D政策の形成に貢献することを目的としている。
  • 中国における外資企業からのスピルオーバーはこれまでも研究されてきたが、中国経済の特徴である香港・マカオ・台湾系の外資企業の大きな存在や、中国企業との合資・合弁企業と100%外資企業の間での波及効果の違いを勘案した研究は非常に少ない。この研究ではこうした要素に加え、外資企業の生産活動の内容をR&D活動と生産活動に分けて波及効果を検証することで、どのような外資企業のどのような活動からスピルオーバーがあるのかを識別する。
  • 推計結果からは、合資・合弁企業のR&D活動からは国内産業の生産性に対してスピルオーバーが観察され、とくに香港・台湾・マカオ系の合資・合弁企業のR&Dについてこの効果が顕著。その他地域(主にOECD諸国)系の外資企業は近年中国において、より活発なR&D投資を行っているが、国内産業にはR&Dよりも生産活動からのスピルオーバーが重要であることが分かった。

4. 出席者との議論

中国経済の労働市場や所得格差の現状とこれに対する中国政府の各種政策、中国経済の発展への日本の産業協力のあり方、中国企業の外国企業買収を通じた技術吸収の実情、中長期的に見たOECD系の外資企業の研究開発活動からのスピルオーバーの可能性、中国・アメリカ・日本のマクロ・インバランスのもたらす問題等について活発な議論が行われた。