RIETI政策シンポジウム

労働時間改革:日本の働き方をいかに変えるか

イベント概要

議事概要

開会挨拶

藤田 昌久 (RIETI所長・CRO/甲南大学教授/京都大学経済研究所特任教授)

  • 昨年秋以降の金融経済危機により、景気は予想以上のスピードで悪化している。特に、非正規雇用者に雇用調整のしわ寄せがきていることは深刻な社会問題となっている。
  • このような状況だからこそ、長期的な視点に立ち、働き方そのものを抜本的に見直そうとする機運が高まっている。今回の経済危機は、長時間労働問題の解決やワークライフバランスの推進を目指して新たな方策を議論するためのチャンスと捉えるべきである。
  • 本シンポジウムでは、働き方の根幹をなす労働時間問題に焦点を当てる。まず、日本人の労働時間の現状とワークライフバランス施策の効果について、経済学の視点から実証分析を紹介する(第1部)。次に、労働時間法制の再構築に向けた具体的な立法課題について、法学の視点から議論を行う(第2部)。また、学会・企業・労働者・政府の各方面の有識者をむかえたパネル・ディスカッションでは、今回の経済危機の特徴を踏まえた労働政策について議論を深めていく(第3部)。
  • 雇用労働問題は喫緊性の高い改革テーマである。これまでの日本の豊かさを形作った労働者の勤勉性や高い能力を次世代に引き継ぐためにも、働き方の改革は避けられない。本シンポジウムが、労働者、使用者、学者、政策担当者が立場を超えて議論を交わし、胸襟を開いて相互に学ぶ機会を提供する場となれば幸いある。

報告(総論)

「日本の働き方をいかに変えるか:本政策シンポジウムの鳥瞰図」の概要

鶴 光太郎 (RIETI上席研究員)

鶴氏より、各報告の前に本シンポジウムの全体像が示され、議論の概要について整理が行われた。

1. 本シンポジウムの目的と背景

  • 深刻な雇用危機の中では、楽観論が排除され、先延ばしが不可能になるため、抜本的な改革が前進する可能性が高い。
  • 現在の日本の雇用危機対策で求められることは、雇用の安定と創出という従来の要請に加えて、いかにして労働市場の二極化現象に対応していくか、という点がある。
  • そのためには長時間労働の解消とワークライフバランスの実現が必要だ(第1部、第2部のテーマ)。また、均衡処遇をはかりながら、どのようにして労働調整のバッファーを確保するのかも重要な論題である(第3部のテーマ)。

2. 労働市場の二極化にどう対応するか―日本版フレシキュリティ・アプローチ

  • これまで日本の政治・経済・社会の安定性に貢献してきたが、労働市場の二極化で大きく揺らぐ「社会的一体性」を再構築するためにはどのような政策が必要か。
  • そのために、「安心」「育成」「柔軟」という3つのキーワードに基づく日本版フレシキュリティ・アプローチを提案したい。
  • 「安心」とは、セイフティネットの拡充であり、特に、モラルハザードを防止した上で、雇用期間の見込みにかかわらず、すべての雇用者に雇用保険が適用されるべき。また、補正予算に盛り込まれた失業扶助制度も重要。
  • 「育成」とは、教育や訓練を通じて質の高い人的資本を蓄積することを意味する。ただし、欧米の経験から積極的労働政策や教育訓練に過大な期待をかけるのは禁物。失業者に就労意欲を与えるようなアクティベーションを重視すべき。
  • 「柔軟」とは、働き方や労働市場の柔軟性を高めていくことを意味する。働き方の柔軟性のためには労働時間改革が必要であるし、労働市場の柔軟化のためには非正規労働者が正規労働者に円滑に移行できるような制度的基盤を整えなくてはならない。

3. 労働時間改革

  • では、働き方の改革を行うためには、どのような問題意識で臨めばよいか。多様化した社会の中で、政府による強制的な労働時間短縮は機能するとは思えない。
  • 以下の報告で示されるように、長時間労働の実体に関してのデータによる検証、健康問題を重視した労働時間規制、残業代支払い停止の労働時間への影響、ワークシェアリングの雇用への影響、について詳細に検討することが重要である。

4. 正規・非正規問題の解決に向けて

  • まず、非正規雇用問題の根本は派遣や請負の形態ではなく有期雇用契約自体にある。また、家計における主たる働き手が有期雇用に就くことにより、生活は不安定化。有期雇用と住宅の提供がセットで提供されることにも問題がある。非自発的な有期雇用の割合は現在よりも低下させるべき。
  • そのためには、有期雇用者に対する「プレミアム」の支払いや正規と現在の有期雇用の中間的雇用形態(5~10年への原則上限の引き上げ)などを考えるべきだ。また、正規雇用の側からも、福利厚生等の優遇措置是正に始まり、解雇規制についても金銭解決導入、手続きや説明義務要件の明確化・重視といった法制度の視点からも、正規と非正規労働者の扱いについて望ましいバランスが議論されるべきである。