MFJ-RIETI-WASEDA国際コンファレンス

組織とパフォ-マンス:企業の多様化をいかに理解するか (議事概要)

オープンセッション概要

  • 日時:2008年11月14日 (金) 14:00-17:35
  • 会場:日仏会館1階ホール(東京都渋谷区恵比寿3-9-25)
  • 開催言語:日本語・英語

オープンセッション議事概要

RIETIは2006年度より「企業統治分析のフロンティア:状態依存型ガバナンスの革新と企業間競争の役割」研究会において、企業のパフォーマンスとコーポレート・ガバナンス、競争の関係に関する研究を続けてきた。その中で近年の日本におけるパフォーマンスと企業組織の多様化をいかに理解すればよいのかは最も大きな研究課題であり続けた。そこで、本課題への理解を深めるために2008年11月14日に「組織とパフォーマンス:企業の多様化をいかに理解するか」と題する国際セミナーを開催した。なお、本国際セミナーは日仏会館ならびに早稲田大学 (グローバルCOE 企業法制と法創造総合研究所・早稲田大学高等研究所 (WIAS))との共同開催であり、フランス大使館からの協賛を得た。

本セミナーの問題意識は以下の通りである。グローバル化、IT化が急速に進展する環境のもとで、銀行危機以降の日本企業の間では、緩慢ながらも、新規参入と退出をともなう創造的破壊が進展する一方、M&A、カンパニー制、持ち株会社の設立など一連の組織改革が行われてきた。その結果、かつて同質的であった日本企業は、いまや大きな多様化を示している。近年の研究は、ほぼ同様の経営環境(セクター)にあり、ほぼ同一の規模をもつ企業の間でも異なった内部組織・企業統治構造が選択されていること、また組織の多様化と並行して企業パフォーマンスの分散も拡大傾向にあることを示している。では、このような企業組織の多様化とパフォーマンスの関係(パフォーマンスの収束/拡散と企業組織の多様化の相互関係、経営戦略、雇用政策などの戦略的要因の役割)はいかに捉えられるのだろうか。本オープンセッションでは、イノベーション、企業の参入と退出、組織・経営革新をめぐる議論を通じて、この問題の理解を深めることに取り組む。

セミナーではまず、Richard NELSON名誉教授(コロンビア大学)による、「企業間の違いは何故生じるのか、また、その違いはなぜ問題なのか」と題された基調講演が行われた。この中でNELSON教授はまずガラパゴス島の同一種の小鳥の中にも多様性があることを例にあげながら、企業も同様に多様であることを示した。そして、現実の企業データも同一産業内においても企業の生産性、利益、成長率に大きな多様性があることを示し、にも関わらず多くのこれまでの研究がこのような違いを過度に単純化した理論、実証研究を行ってきた点を指摘した。そして今後は、同一産業内においてもそれぞれの企業が直面している市場は異なっている点、企業同士は競争を行っている点、新規参入、イノベーションなどにも充分な注意を払う必要があり、同一産業内においても企業は単一なものではなく多様であるという前提の下、産業ごとにさまざまな要因の効果が異なっている点を考慮した詳細な研究が必要であるという提言がなされた。またNELSON名誉教授は企業の多様性、違いを理解するためには産業ならびに企業の進化についても考える必要があることも併せて指摘した。

次に、組織とパフォーマンスの多様性をどのように理解すれば良いのかについて討論がなされた。討論に先立ち宮島英昭教授(RIETIファカルティフェロー/早稲田大学商学部)とSebastien LECHEVALIER准教授(フランス国立社会科学高等研究院)から日本企業の組織とパフォーマンスをとりあげたプレゼンテーションがなされた。その中で両氏はまず日本企業の組織構造、生産性が90年代以降に大きく多様化したことを示し、これまでの研究で明らかにされてきたこと、イノベーション、国際化、規制緩和、ビジネスサイクル、経営者、コーポレート・ガバナンスなど多様化の引き金、原因と考えられる事象についての説明がなされた。

次に深尾京司教授 (RIETIファカルティフェロー/一橋大学経済研究所)より日本企業の生産性の動向が示された。深尾教授は日本全体の生産性は上昇しているが、企業間の生産性のギャップは拡大傾向にある点、生産性向上の主たる原因は新規参入・退出に伴う競争を通じたものではなく、個々の企業、工場内での内部効果である点、内部効果を引き起こしたのは、新規の投資ではなく、リストラである点を報告した。

続いて元橋一之教授 (RIETIファカルティフェロー/東京大学大学院工学系研究科)より近年、生産性に大きな影響を与えていると考えられているIT投資に関する動向が示された。元橋教授は日本のIT投資を、米国をはじめとする他の先進国と比較した場合、日本のIT投資は必ずしも少ないわけではないが、使い方に違いがあり、日本では日常業務の効率化にITが使われているのに対して、米国では新規顧客の獲得などにITが使われている点を指摘した。また、大企業と中小企業の間ではITの使い方に大きな差が見られる点も指摘した。

次にEric BARTELSMAN教授(アムステルダム自由大学)より企業の参入・撤退が全体の生産性、既存企業の生産性に与える影響について主に欧州と米国を比較した結果に基づいた報告がなされた。BARTELSMAN教授は新規参入企業の生産性は高いわけではなく、分散が大きく、新規参入企業のうち生産性の高い企業の生存可能性が高く、この傾向は米国において欧州よりも強い点、競争に伴う淘汰のメカニズムが現実には必ずしも適切に機能しているとはいえない点を指摘した。

次にGiovanni DOSI教授(聖アンナ高等研究院)より生産性に大きな影響を与えているとされている3つの要因(他の企業からの学習、淘汰のメカニズム、新規参入)についての議論がなされた。DOSI教授は3つの要因のうち淘汰のメカニズムは生産性の向上には寄与していない点を指摘した。

次にJohn VAN REENEN教授(London School of Economics)より経営が企業の業績、多様性に与える影響についての報告がなされた。REENEN教授は各国の企業経営者に対してインタビューを行い、それに基づいて経営に対する評価をした。その結果は米国、ドイツ、スウェーデン、日本の企業では望ましい経営が行われている企業が多い一方で、ギリシア、中国、インドの企業では劣った経営がなされている企業が多くあるというものであったことを報告した。REENEN教授は市場競争、市場の開放、経営の世襲がこのような各国間での経営の違いを生じさせた主要な原因であると指摘した。

最後に企業の多様性を前提とした場合、政策立案者はどのような対応をすべきなのか、今後どのような研究を行っていくべきなのかについて議論がなされた。

この議事概要はRIETI編集部の責任でまとめたものです。