RIETI国際セミナー

投資リスクと投資協定 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2008年7月25日(金) 13:30-17:55
  • 会場:RIETI 国際セミナー室 (東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121室)
  • 開催言語:日本語⇔英語(同時通訳あり)

議事概要

RIETIは、2006年末より「対外投資の法的保護の在り方」研究会において、投資協定に基づく仲裁判断について研究を続けてきた。その研究会で明確になった問題意識をもとに、投資協定および投資協定仲裁の意義および機能について、論点を提示し、議論を喚起するため、2008年7月25日「投資リスクと投資協定」と題する国際セミナーを開催した。なお、開催にあたり社団法人日本商事仲裁協会からの協賛を得た。

本セミナーの問題意識は次のとおりである。今日、投資協定は世界で2600を超え、投資協定仲裁の利用も増加(公表ベースで約290件)してきた。この現状を踏まえて、(1)企業は、投資先政府の行為に起因するリスクにどのように対応するべきか、および(2)今後の国際的な投資ルールはどうあるべきか、を検討する。その際、それぞれ経営上の視点およびルール形成上の視点からとりくむ。

第1セッションでは、まず小寺彰ファカルティフェロー (東京大学)より、投資協定の意義や機能について報告がなされた。企業(投資家)に対し、投資協定はリスクヘッジの手段であり、日本と投資先国との間に投資協定がなくても、投資先国と投資協定を締結している国を経由して投資を行うことも有効であるとの指摘があった。また、投資先政府との紛争の際には、仲裁による解決が適している場合と適していない場合とがあることに留意する必要があることも指摘された。また、政府に対し、仲裁廷がどのように投資協定の文言を解釈するかを念頭において、協定文言の起草をする必要があるとの提言がなされた。

次に、Anna Joubin-Bret氏(UNCTAD)より、世界各国の投資協定および自由貿易協定(投資章を有するもの)の締結状況や、投資協定仲裁の情勢について報告がなされた。増加する投資協定仲裁に対する最近の懸念として、時間や費用がかかりすぎること、仲裁判断の賠償額がしばしば多額となること、国家の規制権限への影響があること等が指摘された。

第2セッションでは、まずLouis T. Wells教授(ハーバードビジネススクール)より、投資協定および投資協定仲裁に対する企業および受入国政府の立場からの評価について報告がなされた。仲裁利用増加の背景や現行の投資協定仲裁の問題点について述べた後、Wells教授は、投資協定(仲裁)は、「一部」の投資家の保護には役立っていると結論づけた。それが「一部」に止まる理由は、(1)仲裁に伴う苦痛、(2)仲裁判断の一貫性の欠如、(3)仲裁に伴う費用の大きさを挙げた。最後に、Wells教授は、投資の最終的な安全性は、投資協定や投資保険によって担保されるのではなく、投資家が投資受入国にとって必要であり続けることが最も重要であると指摘した。つまり、受入国が必要とする技術や輸出市場へのアクセスを提供していれば、その投資家は弱い交渉ポジションにはたたないと述べた。

次に、今野秀洋氏(日本貿易保険)より、投資保険と投資協定の関係について報告がなされた。投資保険が損害の填補のみならず損害の防止のためにも機能していること、投資保険と投資協定は補完関係にあること等が指摘された。また、投資環境整備のための基礎的なインフラとして、投資協定に加えて、租税条約および社会保障協定も積極的に締結していくことが必要であるとの指摘があった。

次に、佐久間総一郎氏(新日本製鐵株式会社)より、投資協定の役割について日本の企業の立場から報告があった。具体的には、投資協定は投資先国の国内法上合法な行為であっても、企業から見れば「不当」である措置を「条約上、疑義あり」と投資先国に主張しうる点、投資母国に「条約違反」を根拠に支援を要請することができる点、投資先国との紛争解決のため、最終的には仲裁に訴えることができる点で重要との指摘があった。また、現時点で日本企業による仲裁の利用が極めて少ないことの一因として、投資協定の数の少なさがあると指摘された。投資協定は企業の海外進出のための当然のインフラであるとの見解が示された。

続いて浅川和宏ファカルティフェロー (慶応大学)より、Wells教授報告を踏まえ、企業戦略上の観点から投資リスクへの対応について報告がされた。まず、直接投資論への示唆として、直接投資をする際に考慮する事項として、所有(Ownership)の優位、立地(Location)の優位、内部化(Internalization)の優位の3つの要素に加え、安全(Security)の優位として投資協定や投資保険などのバックアップの有無を考慮する必要があると指摘された。また、投資先政府との紛争の際には、コミュニケーション等の重要性もさることながら、自社が何を守りたいのか-ビジネスの継続、企業イメージ、当該国又は地域における社会的な関係、コア技術、金銭等―を考えることが重要であり、それに応じてどの手段が適切か考えることが必要との指摘がなされた。

第3セッションでは、まず、三田紀之氏(経済産業省)より、日本政府の現在の投資協定政策およびその他の投資環境整備について報告があった。日本政府の政策の最近の動きとして、2000年代は包括的な経済関係の構築であるEPA(経済連携協定)を中心とする対外経済政策であったが、最近は投資ルールのみでも意味がある場合には投資協定を締結するように変わってきたこと等が挙げられた。また、投資保護スキームの持続性維持のためには相手国とwin-winの関係を築くことが大切であるとの考えが示された。さらに、投資協定が義務づける法的な義務の履行というかたちではなく、現地企業の要望を聞き、それに受入国政府が応えるというかたちで総合的な投資環境整備を進めるビジネス環境整備委員会の紹介がなされた。

次に、濵本正太郎教授(神戸大学)より、持続可能な投資法制度の構築に向けての提言が報告された。南米の複数の国がICSID(投資紛争解決国際センター)条約から脱退したことについて、それはパワーゲームとしてなされているのであり、投資法制度に問題があるためと理解するのは間違いであるとの見解が示された。また、現在、日本も含め各国が結んでいる投資協定は、環境や国家の規制権限についての配慮を反映する傾向を示しており、投資法は、国家の実行および仲裁廷の法理の両面において、政策的配慮を反映するようになりつつあるとの指摘がなされた。

続いてJoubin-Bret氏より論点として以下の点が提示された。(1)「整合性(consistency)」や何が「公正かつ衡平」かについて考えるときには、誰(どの国)の立場で考えるのか。(2)小国や小企業にとって投資協定はどのような意義を持つのか。(3)投資協定は国有化や収用が頻発していた時代にそれに対応するために考案されたものだが、同じような内容の協定がたとえば日本が他の先進国と締結するときに必要であるのか。

さらに、Wells教授は、投資協定仲裁制度の実現可能な改善方法を次のように提案した。(1)上訴の仕組みを作ること。(2)投資家は、原料価格の高騰等の場合には、事情変更を主張して受入国政府と再交渉するのが常である一方、仲裁廷は国家が契約違反したか否かを判断する際には、事情変更を一切考慮しないことが制度の不公正さという認識につながっていることから、より、当事者のおかれた環境の変化を考慮するように仲裁判断の方法を変えること。(3)単に賠償判断を出すのではなく可能な場合には和解を勧めること。

質疑応答セッションを経て、最後に小寺FFより総括コメントとして、(1)投資協定および投資仲裁は現地政府のgood governanceや企業のgood managementとの関わりを有する点、(2)さまざまなアクターの利害にかかわる問題である点、(3)今後改善が必要な部分がある点が指摘された。

質疑応答セッション(3つのセッションの質問のうち一部を掲載)

Q:

中国は120を超える投資協定を締結しているとのことたが、たとえば公正待遇義務など投資家の待遇に関する規定や、仲裁条項は入っているのか。もし、入っているとすると仲裁の相手国(上位)として中国が挙がっていないのはなぜか。

A:

中国は最近、完全なかたちでの仲裁条項を含む投資協定を締結するようになった。それまでは、収用の価額に関する紛争のみしか仲裁に付託することはできなかった。一方、公正待遇義務は、現代的なもの(限定的な、又は意味が明確化されたもの)ではなく、仲裁廷が解釈にあたり広範な裁量を有するものである。公開されたもののうち、投資協定仲裁で中国が訴えられた事例はない。また、今後は中国人投資家が投資協定を利用するであろう。

Q:

投資協定の数が増加し続けているのは事実だが、ここ5年を見るとペースとしては若干落ちている。また、南米の国が多く訴えられているという指摘もあった。過去5年ぐらいに国家側に出てきたと考えられる訴訟リスクについての考えについてお伺いしたい。

A:

投資協定仲裁と投資協定ネットワークに対する恐れの間にはリンクがあると思う。一方的に条約を終了させる国もあるが、通常二国間投資協定の場合は終了交渉が必要である。対応としては、投資協定について再考するという国と再交渉する国がある。また、その契機も、投資の方向が双方向になったことに対応するものもある。

Q:

一般に日本企業は仲裁には消極的という印象を持っているが、投資協定仲裁制度があるからといっても、実際にはなかなか利用しないのではないか。

A:

企業としては、いくつかの点を考えるべきである。まず、投資協定が適用されるか、勝てるかどうか、勝てる際にそれが問題解決につながるかどうか(タイミングの問題)、コストの問題。これらの条件が整ったときには、まず、利用するというのが最初の判断としてあるだろう。ただし、もちろん、他のビジネスへの影響を考えるという他の考慮要素もありうる。これらの条件が全て揃ったときに利用しないというのは、今の時代では難しいのではないか。また、過去の経験から、政府に対して条約違反の主張を行うことは交渉上、有利に働くと考えている。

Q:

過去にも投資協定仲裁に上訴の仕組みを設けるという提案がなされたことはあるが、実現していない。それは、上訴手続き自体に時間がかかることを企業も国家側も懸念したということにあると思われるが、それについてどう考えるべきか。また、仲裁において和解を促進するべきとのことであるが、現在においても、当事者が合意すれば責任の所在だけを明らかにする中間判断を出し、賠償の判断を敢えて後回しにするということは可能であり、そのことが和解を促進する面もあると思う。

A:

上訴手続きは、それによってある論点についての解釈が収斂することにより、最終的には仲裁そのものの数を減らすことにつながる。結果が明確であれば、裁判所を利用する者はいない。上訴手続きが実現するきっかけとなりうるのは、第1に、明らかに問題と考えられる仲裁判断がでること、第2に、主要OECD加盟国の支持があることである。