RIETI国際セミナー

SOXの教訓とJSOXの展望:法制度が企業活動に与える影響 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2008年6月25日(水) 15:00~18:40
  • 会場:RIETI 国際セミナー室 (経済産業省別館11階1121)
  • 開催言語:日本語⇔英語(同時通訳あり)

議事概要

エンロン・ワールドコム事件を受けて、2002年に成立したSOX法は、アメリカの歴史上過去70年間で最も重要なコーポレート・ガバナンスおよび証券取引規制の改革と言われているが、これまでの施行実績を踏まえて、既に、さまざまな角度から立法論的な評価が行われている。わが国でも、SOX法に学んだ法改正が行われ(いわゆるJSOX)、来年3月の決算期から、新法に基づいた内部統制報告制度の適用が開始される。

本セミナーでは、SOX法をめぐる議論のアメリカにおける代表的な3人の論者が、それぞれの立場から、SOX法が企業活動に与える影響について論じ、大崎貞和 (野村総合研究所研究創発センター主席研究員)が、SOXとJSOXの比較と問題点の指摘をした後、八田進二 (青山学院大学教授)をはじめとするラウンドテーブル参加者を交えた議論が行われた。

はじめに、宍戸善一 (RIETIファカルティフェロー/成蹊大学法科大学院教授)より、本セミナーの意義として、アメリカはSOX法が施行されて既に約6年の経験があり、その見直しも議論されている時期にあり、わが国は、いわゆるJSOXの施行初年度に当たるこの時期に、相互に意見交換することが重要であるとともに、本セミナーは、RIETIで昨年度より行われている「インセンティブ構造としての『企業法』」 プロジェクトの一環でもあるとの説明があった。

すなわち、同プロジェクトは、企業を、株主・債権者(物的資本の拠出者)および経営者・従業員(人的資本の拠出者)の4当事者間の動機付け交渉の場として捉え、そのような動機付け交渉に影響を与える法制度を「企業法」として分析するものであるが、SOX・JSOXは、株主と経営者の交渉、債権者と経営者の交渉に影響を与えるだけでなく、従業員と経営者の交渉にも影響する格好の企業法の一例である。

次に、ドナルド・ランゲブールト (ジョージタウン大学ローセンター教授)は、SOX法の中でも最も議論の多い、内部統制報告制度を歴史的に概観した。すなわち、302条は、CEOとCFOが自ら内部統制の有効性と年次報告書の記載内容の適正性を確認しなければならないことを求めている。

404条は、さらに、経営者が財務報告に関する内部統制が有効に機能していることを確認し、監査人がその経営者の評価の妥当性を証明しなければならないとしている。経営者および監査人は「重大な欠陥」が存在する場合には報告しなければならないが、それは、財務報告に重要な虚偽記載がなされることを時宜に応じて防げない合理的な可能性があることを指す。

内部統制コストがかかりすぎるとの批判に対応して、いわゆる「トップダウン・リスクベースアプローチ」をとることにしたが、内部統制の適正性に争いが生じた場合には、経営者と監査人との交渉となり、以前は存在しなかった規制当局(PCAOB)の存在によって、監査人の交渉力は大幅に強化され、結果的に過大なコストがかかるようになり、経営者もリスク回避的になっている。同教授は、さらに、SOX法は単に株主保護のための立法ではなく、公共機関としての上場会社の透明性・説明可能性という観点を含む、多面性を有していることを指摘した。

情報開示規制のインセンティブ効果に注意

続いて、ベンジャミン・ハーマリン (カリフォルニア大学バークレー校ビジネススクール教授)は、多くの人々は、より正確な情報が開示され、透明性が増すことは常に良いことであると考えていると思われるが、ガバナンスの観点からは、それは必ずしも望ましいとは言えないことを、モデル分析によって示した。

CEOは、現在の地位を守る観点からも、転職市場における評判を高めたいという観点からも、いかなる事後的な評価がなされるかに関してリスク回避的になる。より正確な情報が発信されるとすれば、人々が当該CEOに対する事前の評価を事後的に変更する可能性がより高くなる。

それゆえ、情報の正確性が増せば、株主の期待利得は増えるが、CEOの利得は減少する。それを穴埋めするよう、CEOはより高額の報酬を要求することになる。より正確な情報開示をCEOに要求すると、CEOの報酬が増大するだけでなく、CEOに情報を操作するインセンティブを与え、また、高リスク低リターンのプロジェクトを選択するインセンティブを与えることになる。

外生的に情報開示を進めようとすることは有害であり、社会的厚生を低下させる危険性がある。各企業がそれぞれ異なったレベルの情報開示を行っているのは、各企業が直面する条件に応じて最適なレベルの情報開示を選択していると見るべきである。

アメリカ側パネリストの最後に、ロベルタ・ロマーノ (イェール大学ロースクール教授)は、SOX法制定後のアメリカにおける批判の状況を、4つの委員会レポート、新聞の論調、上院・下院に上程された修正案の取り扱われ方に焦点を当てて、分析し、SOX法の将来を予測した。

SOX法の制定以来、4つの委員会がその問題点を検討してレポートを公表しているが、そのうち、SECの諮問委員会は、小規模な上場企業に過大な内部統制コストを課しているのではないかという問題に焦点を当て、他の3つの委員会は、SOX法がアメリカの資本市場の国際競争力を阻害しているのではないかという問題に焦点を当てている。

当初のSECは一社あたりの年間コストを9万1000ドルと試算したが、実際には初年度の平均は90万ドルであった。また、SOX法の施行以来、アメリカの株式市場において外国企業が新たに上場する数は減少しており、全体としても新規上場(IPO)の数が減っている。逆に、上場を廃止するための取引が増えている。

これら4つのレポートに対するメディアの反応も増加傾向にあるが、全国紙は証券市場の国際競争力の問題を比較的多く取り上げ、地方紙は小規模上場会社の過大コストの問題を比較的多く取り上げる傾向が見られる。全国紙よりも地方紙の方が選挙結果に大きな影響を与えるため、議会に上程された修正案も小規模上場企業の問題が中心である。未だ成立した修正案はないが、議員の投票行動を見ると、修正案提出の母体となっている共和党議員だけでなく、民主党議員の中にも修正案を支持する動きが見られる。現状において、上場会社の44%に当たる時価総額7500万ドル未満の企業には、404条の適用が延期されている。

SOX法の将来予測としては、アメリカのような非中央集権的政治体制においては、メディアや学会、社会全般が法制度の重大な問題点を認識するにいたっても、それを改廃するには長い年月を要するのが一般であり、政治の現状を見ても、SOX法を改廃することは難しく、最もありうるのが、小規模企業に対する404条の全部ないし一部の適用を免除することであろう。

SOX批判を立法過程で取り込んだJSOX

休憩の後、大崎貞和 (野村総合研究所研究創発センター主席研究員)より、米SOXとの比較におけるJSOXの特色・問題点に関する報告があった。すべての上場会社は、財務諸表に関する内部統制システムを評価する報告書を提出しなければならず、その報告書は会計監査人の監査を受けなければならないという制度は、基本的にSOX法によってアメリカに導入された制度にきわめて類似している。

ただし、JSOXの議論は、西武鉄道の株主情報虚偽記載事件の後、2005年に始まったものであり、米SOXに対する批判を考慮に入れて、より簡素で効率的なシステムを目指した点に特色がある。また、ガイドラインが施行以前に作成されたこともアメリカと違う点である。

実施の現場においては、監査法人から、いわゆる「3点セット」と呼ばれる文書(業務マニュアル、フローチャート、リスクコントロールマトリックス)を各業務プロセスごとに作成することを求められるなど、必要以上のコストをかける動きも見られ、それが、わが国においてもIPO数の減少の1つの原因になっていると思われる。実施初年度において、内部統制システムに「重大な欠陥」があると報告した企業に対して市場がどう反応するかが興味深い。日本においては、小規模上場企業に対して同情的な意見は少なく、この数年間の粉飾事例の多くはいわゆるベンチャー企業によるものであることに鑑み、トヨタやソニーよりも、むしろ新興市場に上場している企業に対する監督を厳しくする必要があるとの声が強い。

4人のパネリストの報告の後、パネリストとラウンドテーブル参加者との間でディスカッションが行われ、(1)米SOXでは、モニターとして、また、経営者と監査人との間の仲介者としての独立取締役の役割が重視されているが、独立取締役の制度が定着していない日本で、こうした内部統制システムは機能するか、監査役制度はそれを補完できるか、(2)米国では「重要な欠陥」を報告した会社の株価はどのように推移したか、(3)内部統制システムのコスト・ベネフィットのバランスを取るにはどのような方法が考えられるか、それに関連して、コスト負担者としての株主、なかんずく機関投資家はこの問題をどのように考え、ガイドラインはどのように機能するか、等のポイントが議論された。