RIETI政策シンポジウム

日本の年金制度改革:16年度改正の評価と新たな改革の方向性

開催案内

2004年度の日本の年金制度の改正をめぐっては、一方で「年金の崩壊」が国内では叫ばれると同時に、他方で外国の学者や世銀など国際機関ではかなり高く評価しています。いったいこの二極化は何に由来するのでしょうか。これをきちんと整理して明らかにすることが本シンポジウムの最大の狙いです。

たとえば、年金制度は破綻状態だと断じるとき、どの様な具体的な尺度でそういえるのか、何か共通のものさしが必要です。そもそも、年金制度の持続可能性は何を基準にして測れば良いのでしょうか?

2004年の年金制度改正には、これまでの改正には見られなかった大きな特徴があります。第1に、これまで引き上げられ続け、また今後も上っていくと予想されていた保険料率の上限を定めました。第2に、マクロ経済スライド制(これは少子化による保険料支払い者数の減少と高齢者の平均余命の延びを勘案して自動的に給付の伸びを抑え、公的年金を「少子高齢化の下でも」持続可能な水準に調整する仕組みです)によって給付水準も抑制します。第3に、これまで積み立てられてきた積立金を取り崩したり、第4に基礎年金の国庫負担の割合も現在の1/3から1/2に引き上げることにしてあります。

以上の結果、少なくとも1980年生まれ以降の若いモデル世帯(夫・厚生40年加入/妻・専業主婦)に関していえば、割引率に賃金上昇率を用いる限り、払った保険料と受けられる年金受給額は等しくなっています。

ところが他方で、年金純債務(過去債務-積立金=年金純債務;過去債務とはこれまでに支払われた年金保険料に対して政府が約束した給付総額)は570兆円(GDPの105%)にのぼるともいわれ、これをめぐる議論が後を絶たず「年金崩壊」」論の根拠になっています。上述のように、給付/掛け金の比率が1を保ち、掛け金が給付として戻ってくる仕組みになっているとき、この膨大な年金純債務が「年金の崩壊」を招くという議論について、どう論理的に整理しておいたらよいのでしょうか。これも本シンポジウムで明らかにしたい論点です。

2004年度の改革をめぐって評価の二極分化が起こる理由の1つには、公的年金制度が持つべき原理・原則が国民の側から見てわかりにくくなっているという点もあるのではないでしょうか? 確かに、わが国の年金制度は設立当初の楽観的な社会経済想定に基づいた制度設計とその後の急速な高齢化など社会・経済の大きな変動に対応するための諸々の改正を繰り返した結果、制度の基本となる原理・原則、とりわけ保険原理(保険料に応じた給付を受けながら、長寿のリスクを世代間で分け合うという原理)と扶助原理(保険料負担の多寡に関わらず必要とされる低所得者への所得を再配分する目的で給付を行う福祉の原理)がわかりにくくなってしまっている面があります。年金制度の持続可能性は、国民が制度に寄せる信用に大きく依存しており、基本的な原理・原則の見えにくい制度設計が年金制度改正の議論を迷走させている点も見逃せない問題です。

そこで本シンポジウムでは、国内外の経済学・社会保障の専門家を招聘し、RIETIで行なわれてきた社会保障関連プロジェクトの中間研究成果をもとに、年金制度に求められる原理原則に立ち返って2004年の年金改正の評価を行いたいと考えています。それと共に、今後の更なる制度改正で向かうべき方向性とは何かを浮き彫りにし、そのための具体的な課題とは何かについても突っ込んで検討していきたいと期待しております。

イベント概要

  • 日時:2005年12月15日(木) 9:30-17:45
       2005年12月16日(金) 9:15-11:50
  • 会場:経団連会館 国際会議場 (東京都千代田区大手町1-9-4 経団連会館11階)
  • 開催言語:日本語⇔英語(同時通訳あり)
  • 参加費:2000円(交流会費を含む)[公印を捺印した領収書を発行いたします]
    (学生証提示の場合は、1000円)
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所
  • お問合せ:RIETI 加瀬知子 Tel:03-3501-8398

※シンポジウム終了後、インターネットにて当日の模様の一部をビデオ映像でご紹介(動画配信)する予定です。また資料も後日、本サイトからダウンロードしていただけます。

【シンポジウム映像の撮影と利用について】

プログラム 2005年12月15日(木)

総合司会:中田 大悟 (RIETI研究員)

9:30-9:40 開会挨拶

吉冨 勝 (RIETI所長・CRO)

9:40-11:05 セッション1:「2004年年金制度改正の評価と残された課題」

セッションチェア:野口 晴子 (RIETIファカルティフェロー/東洋英和女学院大学国際社会学部助教授)

9:40-10:20 プレゼンテーション:「2004年改正をめぐる大きな論点」

神代 和俊 (横浜国立大学名誉教授/前 厚生労働省社会保障審議会年金部会部会長代理)

コメント

Olivia S. MITCHELL (Professor of Insurance & Risk Management, The Wharton School of the University of Pennsylvania, U.S.)

Ole SETTERGREN (Director of the Department of Pensions, Swedish Social Insurance Agency, Sweden)

John PIGGOTT (Professor, University of New South Wales, Australia)

コメント答弁

神代 和俊 (横浜国立大学名誉教授/前 厚生労働省社会保障審議会年金部会部会長代理)

質疑応答

11:05-12:30 セッション2:「さらなる年金制度改正のための原理を探る」

セッションチェア:黒澤 昌子 (RIETIファカルティフェロー/政策研究大学院大学教授)

11:05-11:45 プレゼンテーション:「年金制度をより持続可能にするための原理・原則と課題」

深尾 光洋 (RIETIファカルティフェロー/慶應義塾大学商学部教授)

金子 能宏 (RIETIコンサルティングフェロー/厚生労働省国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析研究部部長)

コメント

Olivia S. MITCHELL (Professor of Insurance & Risk Management, The Wharton School of the University of Pennsylvania, U.S.)

Ole SETTERGREN (Director of the Department of Pensions, Swedish Social Insurance Agency, Sweden)

質疑応答

12:30-13:30 ランチブレイク

13:30-14:55 セッション3:「世界の年金改革」

セッションチェア:清水谷 諭 (RIETIファカルティフェロー/一橋大学経済研究所助教授)

13:30-14:10 プレゼンテーション:「海外の年金制度改革から学ぶ-スウェーデンの事例」

Ole SETTERGREN (Director of the Department of Pensions, Swedish Social Insurance Agency, Sweden)

コメント

山崎 伸彦 (RIETIコンサルティングフェロー/厚生労働省年金局数理課長)

John PIGGOTT (Professor, University of New South Wales, Australia)

質疑応答

14:55-15:10 コーヒーブレイク

15:10-17:45 セッション4:「年金制度が及ぼす雇用への影響と高齢者の実像」

セッションチェア:金子 能宏 (RIETIコンサルティングフェロー/厚生労働省国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析研究部部長)

15:10-15:50 プレゼンテーション:「高齢者就業を促進するための年金・雇用制度の在り方」

樋口 美雄 (RIETIファカルティフェロー/慶應義塾大学商学部教授)

黒澤 昌子 (RIETIファカルティフェロー/政策研究大学院大学教授)

コメント

大橋 勇雄 (一橋大学大学院経済学研究科教授)

質疑応答

16:20-17:00 プレゼンテーション:「データから見るわが国の高齢者の実像」

市村 英彦 (RIETIファカルティフェロー/東京大学大学院経済学研究科、公共政策大学院教授)

清水谷 諭 (RIETIファカルティフェロー/一橋大学経済研究所助教授)

野口 晴子 (RIETIファカルティフェロー/東洋英和女学院大学国際社会学部助教授)

コメント

武石 恵美子 (ニッセイ基礎研究所上席主任研究員)

Olivia S. MITCHELL (Professor of Insurance & Risk Management, The Wharton School of the University of Pennsylvania, U.S.)

質疑応答

18:00-19:30 交流会(於 経団連会館 パールルーム)

*上記プログラムの講演内容及び講演者は状況により変更することがありますのでご了承下さい。

プログラム 2005年12月16日(金)

9:15-11:45 総括パネルディスカッション:「年金制度の新たな原理の構築に向けて」

セッションチェア:吉冨 勝 (RIETI所長・CRO)

9:15-11:45 パネリスト

金子 能宏 (RIETIコンサルティングフェロー/厚生労働省国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析研究部部長)

橘木 俊詔 (RIETI研究主幹・ファカルティフェロー/京都大学大学院経済学研究科教授)

麻生 良文 (慶応義塾大学法学部教授)

Olivia S. MITCHELL (Professor of Insurance & Risk Management, The Wharton School of the University of Pennsylvania, U.S.)

山崎 伸彦 (RIETIコンサルティングフェロー/厚生労働省年金局数理課長)

11:45-11:50 閉会挨拶

及川 耕造 (RIETI理事長)

*上記プログラムの講演内容及び講演者は状況により変更することがありますのでご了承下さい。

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